邂逅
「王女様…国の為に死んで下さい……」
そう言って連れ出されたのは騒がしい処刑場だった。多くの国民が窪んだ真ん中に居る私たちを見下ろすようにぐるりと座っている。私は周りの親族と同じように連れ出され赤の染み付いた拘束具で自由を奪われる。
国民の声が聞こえた。
散々褒めてくれたのに、本心ではなかった。
貴族の声が聞こえた。
楽しかった日々も全てが偽りだった。
耳を塞ぎたくても拘束具がそれを許さない。
騎士の声が聞こえた。
忠義の誓いなどなかったように。
神官の声が聞こえた。
私達は悪魔だと。
この世の全てが私達を迫害しているように思えた。次第に黒雲が立ち込め雨も降り出す、まるで私の心象風景のようだ。
周囲からは血の匂いが立ち込めていた。直ぐに自分の番が来るだろうと予期していたのにまさか最後になるとは……
一人一人と首が飛ぶたびに感情の発露は強くなっていった。猛烈な孤独と虚しさ、焦燥、鮮烈な感情が極彩色でパレットを塗り潰す。
「王国を衰退させた大罪人、その最後の1人エレノア・オルガシオンを処刑する。この刃により過去の王国と決別し我が国はオルガシオン共和国を名乗ることを宣誓する。」
革命の首謀者である王国宰相ルルド・マテネその人が端を発すとこの場の人間全てが湧き上がった。
このマテネという男は宰相としてのコネを活かし出処不明の金をばらまいて軍務大臣とそこに連なる武官達を買収したらしい。
マテネは私を一瞥し再度観覧席に目配せをした。気分が悪い、私を政治的なパフォーマンスに使っているのだ。
「王女、いや大罪人最後に言いたいことはあるか?」
「……国を金で買ったアンタに国を治める資格なんてない、死んでも死にきれないわ」
「ッふん、真理を心得ぬ愚か者め、この者の口を縛れ!!」
雑多な布で口を縛られる。
「これより処刑を開始する大罪人が少しでも国の為に成れるのだ、感謝しろッ!!」
「んっ……!!っん……」
「……最期まで見苦しい、死ねッ!」
上段から真っ直ぐに振り下ろされた剣は直視出来ない現実を表しているようだった。
この男は殺さなければならない。そう思っても現実がそれを阻む、家族を殺し国を乗っ取った巨悪が目の前にいると言うのに自分には何も出来ない。その無力さが何より辛くて、受け入れがたくて、心までは奪われたくないと、そう思って。
―――私はただ呪っていた。
この男を、人生を、国民を、この国を、未来を、運命を、そして自分を呪っていた。
剣が首を断とうとしたその時
「……待たせたな、エレノア」
影にも似たローブがヒラヒラと舞う、猛烈な風を纏ったソレは私の名前を呼んだ。