細切れ
細切れのブレーキで電車が止まる。各駅停車だから、最寄り駅までずっとそうだった。止まろうとしても止まり切らない、下手くそなその運行の仕方は、不器用な俺によく似ている。
久しぶりのデートの帰りだが、俺は一人で最寄り駅についた。彼女は俺から離れていった。
茫然自失で改札を抜ける。階段を上り空を見上げたら、ぽつぽつ雨が降ってきた。よどんだ気分を整えるのに多少は役に立つかもしれない。
何も考えたくないはずなのに、気付けば彼女を思い出していた。
彼女は大学三年の時に付き合った。
「俺と、付き合ってください」
「……ふふ。よろしくね」
彼女の笑顔がまぶしかった。つり目で強面な俺と違ってまるで子供のようだった。
大学卒業とともに遠距離恋愛になった。彼女は専門学校で、俺は就職で、電車でいくらか離れた街に住んだ。
「学校は大丈夫か」
「君じゃないから大丈夫」
「バカにしてんのかよ」
最初は気遣いが出来ていた。気持ちに余裕があったから。けれども物理的な会いづらさってのは、心もどんどん引き離していくらしい。
最初は一か月、次は三か月、次第に会える日が合わなくなっていった。彼女のことは途切れ途切れに気にかけて、自分の生活のことを考える方が多くなった。
そうして付き合って四年が近づく今日、詰まんないことで喧嘩した。
「今朝からずーっとイライラして、何がそんなに気に入らないの!? ちゃんと言ってよ!」
「うるせぇな、お前は俺の親じゃねぇだろ!」
「君のことが心配なの!」
「どうせわかんねぇよ! 俺のことなんか!」
堰を切ってあふれてくる言葉。言い過ぎた。そう思ったけど遅かった。
気づけば彼女はそばにいなかった。
今日でもう会うことはないのかも。ほほに濡れた糸を当てたような、冷たい感触がある。
俺の後ろで玄関が閉じる。きぃ……きぃ……と不器用に閉まる。
閉まろうとしても閉まり切らない、そんなところは俺に似ている。
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