緋の色
ただ、一度だけ叶うのならこれまでを見返すことも無効で終わらせられる。
これからを信仰するものは悉くを圧せられ、花もその養分にすら拒まれる。
苦に一切の際限はないが、代わりに確固とした結末を望むばかり。
さることながら渇望すら愚かしく偽称する様は
まさに衰退した思想故の末路。
部屋の四隅に珈琲が置いてある。鉄臭さに混じって苦さが鼻を通る。
それに気がついたのは脳が苦みの残り香にいつもの朝を感じた時だった。
確かに見える。聴こえる。だが、なんだ?この妙な容貌は。
人間じゃない。犬でもない。鹿でも、鯨でもない。ましてや葡萄のような瑞々しさや鯣のような干乾びた様子でもない。
モノではないのか。
人類の知りえるものではないのか。
もしや考えること自体、笑えるものではないのか?
何を感じ取った。何が見えた。なにを聴いた。
光の眩しさに気圧されながら箱を開いた。
ああ、やっぱり、今日も同じかな。
響く機械音に惚れながら蓋を閉じた。骨の軋む音がした。
暗闇の中で幾度となく聴こえてきたあのすり減るような笑い声。
終わる頃にはきっとそれは届いているのだろう。
これから、また、光を閉ざした。
書きたいことだけを書き、望むものだけを手に入れる。
最期の姿がどれほど悲壮で満ちていようと情を移すようなことだけはあってはならない。
凛として、更に楽観として、身に受ける馬鹿馬鹿しさを侮ってはいけない。
待つのは、ただ勘を外れたものだけでいい。