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無気力な悪魔の休日。

 

 夏の間、イシュとの組手は続いた。日に日にイシュは動きを素早くし、鋭く、時には魔法を使い攻撃するようになった。


 特に魔法攻撃は大変だった。威力が純粋に高いのだ。水に圧力をかけて作った球体を飛ばしたり、レーザーの様に噴射させたりするのだが、地面が深く抉れるほどの威力だった。恐らくこれでも本気ではないのだろう。イシュは平気な顔してこれらの魔法を使ってくる。まだ余裕があるのだろう。


 しかし、正直、俺にとって魔法攻撃は平気だった。なぜなら魔力感知の精度が上がっているのだ。威力が強い魔法は魔力も多い。感知するのは簡単で、発動のタイミングや位置がすぐ分かるのだ。それらが分かっていれば、この悪魔の身体にとって避けるのは簡単だった。


 そもそも、たとえ当たってもこの身体には関係ない。もともと魔法に対する耐性は高いようで、身体に当たっても平気であるし、傷ができたり抉れたりしてもすぐ身体が治ってしまう。だからか、イシュも魔法の威力を日毎に強めるようになっている。


 だが、魔法をイシュが使えば使うほど俺は魔法を理解できるのだ。理解すればするほどイシュがかける魔法とは反対の魔法を作り出すことができた。これをイシュの魔法にかければ相殺され打ち消せることができるのだ。


 魔法に関してはイシュに感謝している。言わば、俺の魔法に対する知識は無だったが、精霊の魔法、恐らくこの世界で最上級の魔法を毎日、その肌身で直接感じられるのだ。カラカラのスポンジが水をよく吸収する様に、魔法に関することを全部吸収出来ている。しかもそれが最上位の魔法なのだ。


 つまり俺は魔法については、天才で一番の高みにある存在に毎日、付きっきりで教えてもらっているようなもの。嫌でも成長する。イシュの魔法をその身に受ければ受けるほど自分の魔法も上達していった。だが、これは悪魔の身体のおかげだろう。これは人間の身体ではできない。


 なぜならイシュの魔法をその身に受けたら生身の人間は死んでしまうであろう。そのぐらいの威力だ。頑丈な悪魔の身体だからこその無理やりでめちゃくちゃなやり方だと思う。

 

 剣を上達させる為に、実際に剣豪と真剣で斬り合い、何度も何度も斬り刻まれるようなもの。その身をもって剣豪の技術や型を理解するのだ。めちゃくちゃだ。命がいくつあっても足りない。


 そうして夏の間はずっとイシュと修行していた。怠け者の俺がこんなに続けられたのは単に暇だったからだ。イシュに無理やり付き合わされたという面もあるが、やる事がなかったから付き合ったというのもある。


 暇な時間で怠ける事もできるが、異世界の暇は暇を超えている。何もやる事がないのだ。そりゃ、俺だってずっとごろごろ寝る事もできるが、暇は嫌いなのだ。


 とにかく、俺の中で暇と怠惰は別なのだ。怠惰は最高の時間だが、暇はつまらない。そのつまらない時間を埋め合わせる為にイシュとの修行はぴったりではないが、それしかやる事がない。だから続けられた。


 あと夏だからね。何となく夏はテンション上がるのだ。夏ってだけであがる。夏は何かしなければならない。それは俺の教訓だ。


 大学生の時に本当に寝てるだけで一ヵ月半ほどの夏休みを終えた事がある。寝ている時は幸せで最高だったが、夏休みの終わりには後悔があった。あまりにも何もしなさ過ぎて一瞬で夏休みが終わったという感覚だったのだ。     


 その時、もったいないと思ってしまった。あの幸せな日々が砂のようだったと思ってしまった。これは怠惰にも失礼だ。だから夏は何かしようと心に決めた。別に布団の上以外でも怠惰に過ごす方法はある。それを探るのもまた一興なのだ。つまり、怠惰の質を上げる為に夏は何かする事にしている。


 俺は高品質の怠惰を味わいたいのだ。イシュとの修行の後は最高の怠惰を味わえた。


 まあ、そんな感じに修行していたら夏が終わり、気温が下がってくる頃には俺は仕上がっていた。全力のイシュとの組手もいなせるようになり、攻撃も当てられる。イシュほどではないが魔法の精度も上達していた。これでより多くの魔力を込められる。


 ここまでの急激な成長は悪魔の身体の潜在的能力のおかげでもあるが、一番はイシュのおかげだ。


 具体的に何かをイシュが教えるという事は無かったが、目で見て盗め、考えるな感じろと言わんばかりにずっと付き合ってくれてその時その時の最高の動きや魔法を見せてくれた、感じさせてくれた。


 この世界において上位の存在である精霊がこんなよく分からない奴に付き合ってくれているのだ。イシュの優しさ、懐の深さを感じる。まあ、本人は身体を動かしたかっただけかもしれないが。それでもイシュには感謝している。 


 そしてイシュとの修行の後や、修行がない日にだらだらと惰眠を貪るのは最高に幸せだった。ここまで高品質の怠惰は中々ない。余は満足である。


 そう、たまにだがイシュが何処かに出かける日があるのだ。その時は修行がない。その時、ダラダラするのが最高なのだ。普通の休日より、仕事や予定が無くなって急な休みの方が何故か嬉しいだろう。俺はそんな幸せを満喫していた。


 あぁ〜〜〜寝ても寝足りないんじゃあぁ〜〜〜〜今日はもっと寝ちゃおっかなぁ〜〜〜。


「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!誰か助けてぇぇぇぇぇ!!!」


そんな幸せな時間の終わりを告げる鐘のような絶叫がそんな遠くない所から聞こえてきた。


あぁ、、、厄介ごとな気がする。行ったほうが良いのかな。。。面倒くさいなぁ。。。


助けに行った方が良いと思うが、面倒くさい。そんな気持ちだったが、俺は何となく、状況を判断しようと魔力を使った。正直、この時、この声の主を助ける事は頭に無かった。


 実はここ数ヶ月の間、この森の中に人間が入るのを何度か感知した。そして入って30分ほど経つと決まっていつも助けを求め叫ぶのだ。イシュに聞いてみたが、どうやら森の魔物を倒して素材を剥ぎ取ったり資源を採取しに森に入る人間がいるとの事だった。しかし、それは浅い森の周縁部。ここは結構奥なので、ここまで人間が来る事はない。


 今まで、俺が倒してきた魔物は人間にとっては全く歯が立たない恐ろしい強さの魔物らしい。しかし、そのクラスは森の奥にしか現れない。森の周縁部は比較的弱い魔物の生息地となっている。だから、人間は奥まで来ない。しかし、弱い魔物しかいない周縁部といっても人間にとって強敵もいるし、森という環境だ。人間にとって見れば敵地である。地の利はない。だから大抵の人間は襲われて死んでしまうか、森のからすぐ離れるかのどちらかだった。


 そして襲われる時、助けを求めて叫んだり、何かを絶叫したりしているが、別に助けた事は一度も無かった。何故なら、それも自然の営みの一部であると考えたからだ。魔物を殺そうとする者は魔物に殺されるても仕方ないのだ。それが自然で、人間と魔物の勝負なのだ。

 

 俺はそれに手を出す事は、言わば蜘蛛の巣に掛かった蝶を助けるのと同じことだ。蝶を助ける事という事は蜘蛛にとっては不条理だ。それは自然ではない。だから俺は特に助けることは無かった。

 

 この考えは俺が悪魔ということを表しているのか分からないが、この考えをしている時点で俺はやっぱり人間ではなくなったと感じた。


 今回もそのつもりだった。しかしそんなに遠くない場所からの声は珍しかったので、俺は魔力を使い、状況を把握しようとした。

 

「........ん?これは..........」


 だが、今回はいつもと違うようだった。関心がわき、声の主を助けることにした。


 蜘蛛の巣に掛かった蝶を助けるようなものだと言っていたのに、助けるのかいと思うかもしれないが俺には助ける助けないの選択をする事ができる。今回はその選択も自然の営みの一部という事にしてほしい。あと、俺は悪魔だから自然とかよく分かんない。


 そんな身勝手な考えをもって俺は起き上がり、ふあぁっと欠伸をして家を出た。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

時間がよく進んでしまいますが、主人公は悪魔なので時間の感覚が鈍いという事にして下さい。

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