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無気力な悪魔、修行?する


 イシュと泉で出会ってから数ヶ月ほど経過している。


 日が長く木の葉の緑が強まり、森全体の活気が増している。おそらく季節が夏に移ったのだろう。日本ほど気温は高くなく乾燥しているが日差しが強い。あと、空の青さが一層鮮やかである。


 異世界にきて初めての夏と言った所か。今日も今日とて俺は家でだらだらと怠けている。


 あぁ〜〜〜暑くなってきたな。もう、ここまで暑いと外に出たくないが、科学による冷房がないこの家に居るのも辛い。クーラーが恋しいぜ。


 イシュと肉を一緒に食べた日から、週に1回ほどの頻度で化け物が現れていた。大きく牙が発達した虎や、白い毛並みのデカ狼、大所帯だった凶暴猿。果てや人間より大きな化け物カマカリなんてのもいた。あればキツかった。虫は嫌いなのだ。全て魔力にあてられて凶暴化した魔物だった。


 どれもこれも苦戦することなく倒せた。大体ぶん殴れば動かなくなる。倒した魔物からは使えそうな部位や食べれそうな肉を頂いて、亡骸は地面に埋葬している。成仏して下さい。


 肉は一人で食べてもつまらないのでイシュにお裾分けして二人で食べた。そうやって何度もお裾分けしていたら、なんとイシュが塩を持ってきたのだ。どうやら、水の精霊の力を使い海まで行き、海水から塩を作ってくれたようだ。肉自体は美味いが、流石に味気なくなってきた所にこの塩とイシュには圧倒的感謝であった。


 イシュが手に入れてくれた塩を使って気合いを入れて料理をして振る舞った。初めての調味料を使った料理にイシュは昇天しかけていた。ハマったのか、家に来ては料理を頼んでくるほどだった。


 そうやって魔物を肉を食べていると意識できるほどの力の強まりを感じていた。シンプルに力が以前より強くなっていたり、魔法の威力が増していた。一緒に食べていたイシュもそうであった。


 イシュは出会った当初、生まれたばっかりということもあり魔物を倒すことに苦戦する場面もあったが、今では力が戻ったのか。楽に倒すようになるほどの力を手に入れていた。イシュに話を聞くと魔物の肉を食うとその身に内包する魔力を得て魔法や胆力、力が強くなるという事だった。


 「ダーリー!今日も来たわよ〜!」


 家の外からイシュの呼ぶ声が聞こえた。

はぁ、今日もやるのか。1日休みの日を作っても良いのではないか。こう毎日やらなくても。イシュにだらだらする事の良さを語らなくてはならないようだ。


 「ダーリー!起きなさいよ!今日もやるわよ!ほら、行くわよ!」


 ドアが跳ねるように開かれ、イシュが勢いよく入ってきた。手を引きずられるように外に出される。


 う、日差しが眩しい。。。日陰で涼みたい。

 

「ほら、ダーリー!早く構えなさいよ!終わったら冷たい水を出してあげるから。」


 イシュが呆れたようにそう言った。


「分かったよ。終わったら冷たいやつ、頼むよ。」


 そういって構える。そう、この数ヶ月、毎日やっているのはイシュとの組手。戦いの訓練であった。イシュと肉を食べた次の日には叩き起こされ、こうして訓練を受けていた。イシュは体を動かすのが好きということと、さっさと力を取り戻したいらしく、俺との組手を毎日要求するようになったのだ。アグレッシブすぎる。


 俺は女であるイシュとの組手は初めはあまり気が進まなかった。女を殴るのは抵抗感がある。これは人間だった頃の感覚だ。女を殴る男は最低であると思っていたが、イシュとの組手はそんなこと言ってられなかった。


 イシュは再生したばっかりだったがこの世界でずっと戦ってきたのだ。一方、ぬくぬく戦争なんて経験せず、ろくに人を殴ったことなんてない俺。戦いの経験の差は天地ほどあった。 


 「それじゃ、いくわよ。」


 組手が始まると同時にイシュの姿が消える。どこいったか探すと死角からイシュが飛び出して一打を加える。反応して反撃しようとするとまた消える。


 そう、イシュは一瞬で移動できる。これは水の精霊としての能力らしい空気中の水分に飛び込み、そのまま移動して俺の死角から飛び出す。水だったらイシュは、海の中に潜るように潜ることができる。また自分との繋がりがある水だったらそこに移動もできる。この能力で海まで行っていたのだ。それを戦いに応用し、一瞬で姿を消しどこからでも攻撃を与えられる。


 てか、華奢な見た目反してインファイトかい!!!!正直、打撃の衝撃は全然だ。だが、姿を消されるとどうにもならない。


 組手を初めてばっかり時は俺はこのスピードに翻弄され、反撃はおろかろくに反応すらできなかった。無駄に腕を振るだけで当たらず、ただサンドバックになっていただけだった。正直、へこんだ。力では勝っているが、戦闘センスは無いと思い知られたのだ。


 だが、数ヶ月にわたる組手と悪魔の潜在的素質で俺は急成長を遂げていた。何とかイシュの死角からの突発的な攻撃を防ぐことができるようになったのだ。


 でも、ただ防いでいるだけじゃダメだ!ここから何とかイシュに一撃を与えなければ日が落ちるまで組手を続けることになっちまう!集中しろ!イシュの魔力の流れを感じろ!


 イシュが空気中の水に飛び込む際、必ず魔力を使うことがここ数ヶ月で気付いたことだ。とても微量な魔力だが、魔力との親和性が高い悪魔の身体だから気づけた。ということは出る時にも恐らく魔力を使う。それは消える時よりも微量だが、使うのだ。ならばそれを感知できれば、出る場所が分かるということだ。


 イシュは一瞬出てきて打撃を俺に与えたら、一瞬で消える。左、右、斜め、上、下と自由自在だ。何度も、出るタイミングや場所を変えて打ち込んでくる。イシュの打撃力は悪魔の身体にとって何でもない事だった。だが、イシュは的確にアゴやみぞおち、脇腹など身体の弱点をついてくる。悪魔の身体であっても弱点は弱点。若干だが、ダメージが通る。そしてそれが積み重なる。

 

 中々きついな。イシュどんだけ強いんだよ!人間だったら死んでるよ!!

 

 打撃を与えられるがいなせる攻撃はいなし、なんとかイシュが出てくるタイミングを感じようとする。微かだが出てくる時の魔力も感じ取れるようになっている。だが、捉えられない。


 攻撃をされ続けていると、また気づいた。イシュは俺の死角、隙を的確に狙ってきているのだ。そう、イシュの高すぎる戦闘センスは正確に俺の隙を狙え、攻撃を与えられる。

 

 なら、あえてこうする!!!!


 俺はわざと隙を作った。でも、故意すぎると見破られる。だから一瞬の隙だ。この隙をイシュは逃さない!


 予想通り隙を作った右斜め後ろの死角から魔力を感じられた。


 そこだ!


感知した魔力の集中に向かって身体を捻り、右手で裏拳を繰り出す。

 空気中の水分からイシュが飛び出す。ちょうど顔が出た時に俺の裏拳がイシュを捉えた。


 じっ!!!と掠った感触を感じる。

場所はドンピシャだったがイシュの凄まじい反応速度でかわされたのだ。


 だが、イシュは驚いているようだった。攻撃が掠った頬からは血が流れていた。


「ッ...!.....ダーリー!やるわね!まさか当てられるなんて思ってなかったわ!あなた、こんな短期間でここまで成長できるなんて!あなた、やっぱり才能の塊ね!凄いわ!」


 キラキラした目で褒められた。俺の成長を感じて感動しているようだった。よせやい、照れるぜ。まあ、これで今日の鍛錬も終われる。。。頑張ったから涼しい木陰で昼寝をしようっと。


「じゃあ、もっと反応できるようにもっと早く、鋭くするわね!いくわよーーッ!!!」


「えっ!!!待ってくれ!これで鍛錬終わる流れじゃなかったのか!!!!」


「あたし、燃えてきちゃった!さらに続けるわよ!今度は魔法攻撃も入れるわね!さあ!さっさと構えて!」


 そういって組手を続けようとするイシュ.......。こいつ...ちょっと、バトルジャンキーなんじゃないか...?テンションがむしろ上がっていノリノリだ。


 その日は結局、日が暮れるまで付き合わされた。イシュの攻撃はさらに激しくなり、過酷な組手だった。組手が終わってもイシュはテンションそのままで一人で鍛錬を続けていたようだった...。俺は身体を綺麗にした後、家で溶けるように寝た。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

イシュがバトルジャンキーになってしまいました。

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