無気力な悪魔、戦う。
おはようございます。異世界の森で過ごして1カ月ほど経った。
前回は家を作った。家と言っても四角い小屋だ。目が覚めた俺は余った木材を使って家の改良をしていた。木を4、5本切って木材にした割に作ったのは豆腐。余った木材で平らな屋根に傾斜を付けたり、壁を頑丈に補強にしたり、家の周りを囲うように柵をつけたりした。意外かもしれないが少し俺は凝り性な所がある。怠けてばかりの中でも関心がある事にはちょこちょこ動けるのだ。
まだ木材は余っているが薪にするのも良いだろう。簡単にだが雨が当たらないように屋根と壁を付けた薪置場も作ったのだ。余った木材はそこに保存しておく。
手直しした家は豆腐から薪置き場も相まって小さいログハウスに見えないこともない小屋に進化した。十分だ。一気によくここまで見栄え良くできたものだ。
家を手直しした俺は怠けたくなっていた。ここの場所を見つけるのに3日。家を作り、寝たが起きて手直しをする。流石に頑張りすぎた。怠けたい。頑張るためには同じかそれ以上の充電という名のごろごろが必要になのだ。
そう思い、俺は床に寝転がり数日にわたって家でごろごろと惰眠を貪った。
あー、気持ちが良い。外の天気が良ければ良いほど昼寝というのは比例して心地よくなる。そしてここ数日、外は快晴が続いている。気温も暖かい20度はありそうだ。この世界の季節がどうなっているか分からないが、今はちょうど春かもしれない。
今度、外に日向ぼっこができるようなテラスなんかを作るのも良いかもしれないな。あー、でもそろそろ布団の代わりになる敷物が欲しい。流石に床に直接寝るのは休まらないなぁ。
なんてこれからの怠惰計画を寝転がりながら考えていると、空気の振動が胸に響くほどの爆音が鳴り響いた。
「うおぉぉい!!!びっくりした。何だ?!」
あまりにも唐突だったから驚いて声を上げてしまった。音の正体を確かめるために俺は浮き足立った心で外に出た。辺りを見回すと森の方から黒い毛皮をした熊のような怪物がこっちに来るのが分かった。
熊のような怪物と言ったのは俺が知っていた熊とは違ったからだ。熊にしてはあまりにも大きい。立ったら5mはありそうな程の巨大。毛が身を覆っているはずなのに目に見えてしまうほどの隆起した筋肉。丸太のような手足。そして極め付けは普通の熊は手足合わせてが4本なのに対してその怪物は6本ある。その姿は人間だった頃にすれ違った装甲車を思い出させた。
怪物は二つある黒い目でこちらを睨みつけ、一歩一歩こちらに向かってくる。
その凶悪な顔が良く見えるほどの距離まで化け物が近づくと人間の子供を丸呑みするのではないかと思うほどの口を開く。その暗闇の中にはどんな骨でも砕けてしまうような牙が整然と並び、異様なほど白く輝いていた。
グオォォォォォォォォオオオッッッッッ!!!!
先ほど聞いた爆音はこいつの威嚇だったようだ。殆どの生物はこんな化け物の爆音な威嚇を真っ正面で受けてしまったら、恐怖で頭が真っ白になり動けないだろう。
こいつのプレッシャーは死を予感させる。そんな威嚇だった。そして俺もそのプレッシャーにあてられてしまった。
「バッ.........バッ......バッ...バケモノだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
思わず絶叫していた。
俺が叫んだと同時に化け物熊は俺のほうに向かって突進してきた。その巨大から出せるとは思えないほど速かった。轢き殺されると思った。もう化け物熊はそこまで来ている。俺は身構えた。
さよなら、異世界。短い間でしたが、怠けられて最高でした。さよならっ...........。あれ、体が吹き飛ばない...?外したのか?いや、そんなはずはない。目を瞑る前に熊は完全に目の前まで迫っていた。
だが、衝撃はこない。いや、衝撃はあった。ぽふっとぬいぐるみを投げられて当たったような感じだ。そして、これは不思議な事なのだが、身体中にモフモフしたものを押し付けられている感じがする。
俺は恐る恐る目を開けた。するとトラックのような突進をしていた熊は確かに俺の身体に接触していた。
何だこいつ。俺にその巨大をなすりつけているのか?いや、そうではない。6本の足は必死に前々にと漕いでもがき、地面を抉っていた。化け物熊の筋肉の強張りと焦っているような唸り声を感じた。そうか、こいつ、押しているんだ。突進してきてまだ押しているんだ。
..............え、俺、吹っ飛ばなかったの?こいつの突進を身体一つで受け止めたの?それで俺にはダメージないの?屈強すぎるだろこの悪魔の身体。
そのまま俺は手を伸ばして化け物熊の肩あたりを掴んだ。グッと力を込めた。力を込めれば込めるほど熊の巨大が持ち上がっていくのを感じた。そのまま力を込め、ぶんと手を上げてクマを後ろに投げ飛ばした。
ドゴオォォォォォォォォォンン!!バキバキバキバキ!!!
鈍い音がして地面が揺れた。後ろを振り向くと木が何本か折れて倒れていた。熊は木にぶつかった所が悪かったのか、ぶつかった衝撃が強かったのか、動かない。近付いて触ってみると絶命しているようだった。
俺は化け物熊相手に一本相撲をして投げ飛ばし命を取る形で勝ったのだった。この身体の頑丈さと腕力の評価を見直す必要があるだろう。
俺は手のひら同士を合わせて合掌した。化け物熊の命を取ったのだ。安らかに眠って欲しい。南無阿弥陀仏。
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力 is パワー。