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ひとくいおにのたたかい  作者: 八九素晴
Type1 世界最悪の街『ディストピア』
5/16

SCENE5 物質遮断

「おい…お前に用はねェよ茶坊主。オレたちがぶち殺してェのは奥に引っ込んでる怪物、クレバーだ。分かったら退け。二度は言わねェ。」


彼らは右往左往を埋めつくしている。クレバーたちが住んでいる家が建っている住宅街は、まるでゴーストタウンのように人気がない。

やがて彼らのひとりは、クレバーが居る家に侵入するため、良智(よしとも)に拳銃を向けた。


「茶坊主だ?誰に向けて口聞いてンだ?おめェら、ブラッドのゴミ野郎から送られてきた刺客だろ。オレとクレバーの居場所が本当に正しいか知るための役。そりゃつまり…。」


良智(よしとも)は人差し指を動かした。

その瞬間、少年に拳銃を構えた彼は、胴体の複数箇所に同時並行で発生した亀裂に耐えきれず崩壊した。


あまりにも鮮やかな朱色の液体が噴射する光景に、彼らは脱力したのか、構えた武器を地面に落とした。


「おめェら全員茶坊主以下の捨て駒ってことなンだよ。大方オレとクレバーの能力とその詳細も聞いてねェだろ?なら教えてやるよ。」


良智(よしとも)は両手の指を振る。人差し指が手のひらについた瞬間、また肉塊が出来上がる。そしてそれは他の指が同様の動作をした時も同じことが起きた。


「ウグァッ!」


「さて…クイズの時間だ。問題!このオレ、光良智(ひかるよしとも)はなんの力で君たちを血まみれにしているでしょォか?はい!反応早かったそこの人!」


「ふざけンじゃねェ!くそガキィ!」


良智(よしとも)は逆上して屍の上を走り抜けてきた彼に、容赦のない攻撃を与えた。彼は真っ二つに分断され、少年の独断場は続いていく。


「ほらァ…答えてよ。暇じゃねェか。なァなァ?」


哀歌は鳴り止まない。泣き叫ぶ彼らに向けて、良智(よしとも)は絶対的な暴力によって慰めを与える。

彼らの充足率は凄まじい勢いて薄れていく。たったひとりの少年によって。ひとりの少年が生み出した現象によって。


「さァ、ここでヒントです。ヒントは…かまいたち!皆さん一度ぐらいは聞いたことあるでしょ?では回答を…そこの人!」


良智(よしとも)は無造作に指を指した。当然答えは戻ってこない。少年は呆れたのか、それとも他の脅威を察知したのか、彼らの終焉を飾る大攻撃を繰り出した。


「つまンねェヤツらだな。誰も正解してねェから答えを言っちゃうけど、正解は…物質遮断(スプリットフィンガー)でした。指を振ることでオレ以外に見えねェ弾速を弾き出して、その力によってこの世の物質を遮断する。ま、ある程度しか操れねェから、こうやって大規模な攻撃すりゃ無差別攻撃になっちまうンだがな。」


もはや誰も口を開かない。煩わしい存在は文字通り消え去ったのだから。

だが良智(よしとも)は理解していた。この状態は長くは続かないことを。

まるで人間が考える死神だ。死神のような萎れた翼を靡かせながら、『怪物』はやってきた。


「なるへそ。よォく分かった。クレバー!こいつはオレが貰うぞ!」


最前から良智(よしとも)は一歩たりとも動いていない。ただ後ろを振り向いてクレバーに獲物を寄越すように告げただけだ。

クレバーは楽しい夢を見た子どものような笑顔で良智(よしとも)に答えを渡した。


「自由にやってやれ!」


死神のような生物との距離は数百メートルを切った。良智(よしとも)は右手を固く握りしめる。


「デコイを回収するために天夜叉を派遣してきやがったか…。あのゴミらしい豪快なやり方じゃねェか…!」


良智(よしとも)が『天夜叉』と称した『怪物』は、地上から二百メートルほどの距離で止まった。

『天夜叉』は、両手を空にかざした。それに呼応するかの如く、暗く深い夜は、より一層に暗さを増した。

その様子を見た良智(よしとも)は吐き捨てるように伝えた。


「何をしてェのか言ってみろ。なぜそれが無理なのか教えてやっからよ。」


良智(よしとも)は子気味よく指を弾いた。十発の弾丸が、『天夜叉』を空から引きずり下ろすかのように着弾した。


「………ガガガガガガガガガガァァァァァァ…!」


「日本語喋れよ。ここ日本だぞ?」


地上に弾き飛ばされた『天夜叉』に追い討ちをかけようと、良智(よしとも)はさらなる攻撃準備を始めた。


「さようなら。」


指が弾かれた。

瀕死に足掻いていた『天夜叉』は、全行動を停止した。


「さてと…この死体をどう処理するかが難点なンだよなァ…。」


良智(よしとも)に残されたのは山積みの仏。後処理を終えるまでが闘いというふたりの不文律がある以上、ひとくいおに(オウガ)であるクレバーに頼るわけにもいかない。


「グチャグチャにして海にでもばら撒くか…。あァ、とても面倒だ。」


出来ないことは口にもしない。良智(よしとも)は指が吊りそうなほどに指を振るった。目分量で五十名ほどの肉塊は、少し大きなバケツに入る程度のサイズに収まった。


「オレは今から()()を捨てに行く。ついでに薬物取引を潰してくる。特別大サービスだ。感謝しろよ?だから余った時間で、()()()()()をなんとかするンだな。」


人間はこの世のものとは思えない現象を目の当たりにすると、何も言わない置物と化す。希望(のぞみ)の反応を見た良智(よしとも)はクレバーに釘を指した。




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