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転生して宿敵と義姉弟になるパターンのヤツ。  作者: 浅名ゆうな
本編

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陸vs大雅

 目的地は同じだが、大雅とはもちろん別行動だ。

 別れ際にユニフォームを返そうとしたが、逆に背番号を隠すためにとサッカー部のジャージまで渡されてしまった。このまま変装していれば審判をしても非難されないという配慮らしいが、ここまで優しいと逆に不気味さを覚える。普段の舌戦の末に態度が軟化したというのなら、彼はM気質に違いない。

 というわけで、円は引き続き変装をしたまま体育館に向かっていた。興味もないのに異様な盛り上がりを見せる試合会場に赴くというのは、気が重い。

 会場へのスマートフォンの持ち込みは禁止されているため、時間潰しさえままならない。試合開始まではまだ間があったので、円は未練がましく遠回りをしていた。通りがかった食堂は、既に生徒達で賑わっている。

 ――お腹空いたな……。

 人通りの少ない廊下でお腹をさすりながら、そういえばと中庭を眺める。初めて生徒会役員達を見かけた場所だ。

 円は、先ほど頭に浮かんだ疑問を思い浮かべた。前世と似たような容姿で生まれ変わる者ばかりではないかもしれない、というものだ。

 髪や瞳の色が変化しているのだから、顔立ちが変わっていてもおかしくない。むしろ平均的な日本人の特性から突出した役員達の容貌が異常なのだ。ハーフだとか様々な要因もあるだろうが、やたらと色素も薄いし整いすぎている。

 そんなふうに考え込んでいた円は、近付く人の気配に気付かなかった。

「――もしかして、円さん?」

 振り返ると、件の整いすぎた義弟が立っていた。見れば見るほど、ハーフでないことが信じられない美貌だ。

「陸。よく私って分かったわね」

 嘘みたいに明るい茶色の瞳は驚きに染められていたが、すぐに綺麗な笑みを浮かべた。

「円さんがどんな格好をしていても、僕は見つけ出す自信があるよ」

「……」

 それは、絶対に逃げられないぞという脅迫だろうか。笑顔に妙な圧を感じるのは被害妄想か。

「見つけたとしても、学校では話しかけないでほしいんだけど」

「ごめん。どんな事情でそんな格好をしてるのか気になりすぎて、話しかけずにいられなかった。すごく似合ってるけど、どうしたの?」

 改めて全身を見回す陸に居心地の悪さを感じて、円は少し身動ぎした。

「かんなの陰謀、じゃなくて気遣いよ。変装してればファンに目を付けられても大丈夫っていう」

 陰謀と言い切らなかったのは、ほんの僅かだろうと気遣いが込められているだろうと思ったからだ。

 大半が悪戯心だろうと、無下にした言い方はできなかった。サッカー部のジャージを手渡す大雅を、彼女がニヤニヤしながら見守っていたとしても。

 陸は理解したようだったが、どこか納得いかないといった様子で首を傾げた。

「理由は理解したけど……それって、大雅のジャージだよね?」

「そうね、彼ジャージね」

 かんなのくだらない発言を真似ると、陸はやや不満げに唇を曲げた。

「……似合ってるけど、大雅より僕を頼ってほしかったな。僕だって役に立てたかもしれないのに」

「何言ってんの? あんた部活してないじゃない」

「そうだけど。あとから言ったってしょうがないことは分かってるけど」

 学園指定ジャージしか持っていないのに何ができるというのか。そもそも円が直接大雅に頼んだわけではないし、警戒対象である義弟に相談するはずもない。指摘しても、彼はまだぼやき続けていた。

「そんなことより、もうすぐ試合が始まるんじゃない? さっさと行かないと遅れるわよ」

 ひと気がないとはいえ、一緒に歩くつもりはない。先に行くよう促すと、陸はなぜか照れくさそうにはにかんだ。

「円さん」

「何よ」

「頑張れって、言ってくれる?」

「…………はぁ?」

 まごつく義弟をイライラしながら待っていたら、何ともしょうもない言葉が飛び出す。円は拍子抜けしすぎて悪態も付けなかった。

「どうせ、試合中に応援してくれないことは分かってるから」

「そうね。審判だからね」

「だから、今の内に聞いておきたいんだ」

 陸は心なし、キリリとした表情で返事を待っている。彼の意図がどうしても読めず、円は眉間にシワをぎゅっと寄せた。

「それ、意味あるの?」

「ある。すごく、ある」

 まるで特別な使命を帯びているみたいに、どこか敬虔な表情。純粋に何かを乞い求める者だけができる、直向きな眼差しだった。

 前世でのルイスが、よくこんな表情をしていたことを思い出す。聖剣を手に魔王へ立ち向かっている時ではなく、何気ない日常の中で。

 ラティカの時からルイスが分からなかった。円になった今も、姉弟という近しい関係になったというのに彼が分からない。分からないから、不安で心が疼くのだろうか。

 陸はいつまでたっても動き出す気配がない。このまま待たれ続けるよりはと、円は渋々口を開いた。

「じゃあ…………まぁ、頑張れば」

 言わされただけの上っ面の言葉。

 なのにどこかむず痒い気持ちになったのは、彼が頬を上気させながら破顔したからかもしれない。



 一年A組と二年E組の試合が始まった。

 昼休憩の時間だというのに、第一体育館には噂を聞き付けた女生徒が詰めかけている。急遽時間が変更になったために少しは観客も少ないだろうと思ったが、円の期待は大きく外れた。

 ――この子達、ご飯いつ食べるつもりなんだろ。てゆーか変われるなら変わってほしい……。

 基礎知識のない円に主審は無理だろうと判断したバスケ部員が代わってくれたため、現在は記録係になっている。点数が入ったら得点ボードをめくるだけの簡単な仕事だ。

 目の前では、熱戦が繰り広げられていた。

 陸は持ち前の運動神経を発揮して、コート内を縦横無尽に駆け回る。隙を見てはボールを奪い、一気にゴールに繋げる素早さ。そしてゴール下でのせめぎ合いを制するフィジカルの強さを兼ね揃えていて、常人に止めることはもはや不可能に思われた。

 唯一対抗できるのが大雅だと目されていたのだが、試合開始から十五分、劣勢は明らかだった。

 彼もほとんどのシュートを外していない。けれど全体を俯瞰してゲームを支配する陸に、いくらか調子を崩されているようだった。

 大雅が連続シュートを決めて勢いに乗りかけた時、ファールを誘ったり時間稼ぎをしたり、小手先で流れを変えられてしまう。それに苛ついてミスも多くなっていた。

 ――ルイスの頃は、真面目を絵に書いたような男だったのに……。

 直情径行にあるメイズほどではないが、彼も搦め手というものを極端に苦手とする愚直な性格だった。だからこそ彼らは馬が合ったのだろう。

 それゆえ、今の陸には違和感がある。

 前世での彼らはよき仲間であり、よき友だった。

 だが今は大雅の弱点をチクチクつついて、明らかに集中攻撃をしているように思える。陸はあくまで笑顔なのに、暗黒オーラが漂っているように感じるのは気のせいだろうか。転生して悪い方へと成長を遂げたような。

 一対一になった時、なかなかシュートを打たせてもらえないことに焦れた大雅が、吐き捨てるように叫んだ。

「お前っ、何の恨みがあって……!」

 彼の恨み言を受け、陸が今日一番の笑顔を見せる。同時に、黒い何かが一気に噴出した。

「恨みならジャージ分、大量に募ってるけど?」

 氷を背中に押し付けられたようにヒヤリとしたのは、何も大雅だけではない。安全圏にいる円さえ、身の危険を感じて身震いした。直撃を受けた大雅の胸中は一体いかほどのものか。

 硬直した隙を狙ってボールを奪う陸。走り出しの速さに、大雅は振り向くことしかできなかった。

 二年E組の誰も、彼の勢いを止められない。鮮やかなごぼう抜きに、一応E組側の人間である円まで見惚れてしまった。

 陸がシュート体勢に入る。時間が止まっているようにさえ感じられる滞空時間。淡い茶髪がふわりとなびく。

 一瞬後には、ボールがネットを通過する音が鮮明に響いていた。

「――ねぇ、何のことだか聞かないの?」

 ゴールを決めた陸が意味深な笑みを浮かべる。凄まじい圧力を、しかし大雅は毅然とはね除けた。

「聞かん! 正直さっぱり意味分かんねぇが、本能が聞くなと言ってるんでな!」

 長年の付き合いの賜物か、この危機管理能力はさすがのものだ。

 感心していた円だったが、背後の観客席に控える女子の不穏な会話を聞き咎めた。

「もう、今どんな会話してたのかしら?」

「あと少し観覧席がコートに近ければ、聞こえるんでしょうけどね」

「あぁ、我慢できない! 私降りるわ!」

「ちょっとズルい! それなら私も!」

 ガタガタと席を立つ騒音に、円は嫌な予感がした。慌てて振り向くも、女生徒の波はすぐそこまで来ていた。

「困ります、席に戻ってください!」

 今は試合中だが、興奮している彼女達は何をしでかすか分からない。揉みくちゃになりながらも、円は審判としての仕事を果たそうとした。

 熱が暴走し出した彼女達には、それが気にくわなかったらしい。不満が一気に円へ集中する。

「何よあなた、邪魔しないで!」

「偉そうに、一体どういうつもりなの!?」

 乱暴に髪を引っ張られ、円は顔をしかめた。痛いし、ウィッグが外れる。女生徒達の強い圧力に、防波堤は今にも決壊寸前だ。このままでは持ちこたえることができない。

 ――まずい……!

 少しでも前に出ようとする勢いに、ついに屈した。踏ん張っていた足が負荷に耐えきれず、がくりと折れる。転びながら、圧死するかもしれないと頭の片隅で考えた、その瞬間。

「大丈夫!?」

「無事か!?」

 下敷きという、最悪の展開にはならなかった。

 今にものしかかろうとしていた女生徒の群れの下から、円は素早く引っ張り出される。腰や肩に回された腕は一組ではなかった。

「陸、大雅……」

 助けてくれた陸と大雅が、焦った顔で円を見下ろしている。冷静に考えてみれば、二人がかりだったために素早い救出が可能だったのだろう。

 だが協力し合ってということではないらしく、互いを気まずげに盗み見ている。こんなことにまで対抗意識を丸出しにして、まるで子どものようだ。

 ――助けてくれた時は二人共、ちょっとだけ男らしかったのにね。

 恐怖に強張っていた力が抜け、円は少し笑った。

「大丈夫、無事よ。ありがとね。陸、大雅」

 礼を告げると、彼らは安堵と共に表情を緩める。

「――ギィヤアァァァァァァァッ!!」

「!?」

 ……それを目の前で見せ付けられた女生徒達の狂乱ぶりは、ほとんど異様だった。ギラギラと輝く瞳は肉食獣のそれだ。

 円達は一拍の間顔を見合わせると、脱兎のごとく駆け出した。


 その後命からがら逃げおおせたが、試合を放棄したとして両チーム不戦敗という無慈悲な宣告を受ける羽目になったのは、言うまでもない。




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