知らない方がいい事 靖友・瑠姫
誤字脱字があったらすみません。その場合は、教えて頂けると助かります。もっとも、指摘できないレベルであるかもしれませんが。
僕は、昔から病気がちだった。
「ゴホッ、ゴホッ」
今も、それは変わらない。常に何かしらの病にかかっているため、学校には行けていない。月に一度は高熱を出す。
もちろん、友達はいない。彼女なんて、夢のまた夢だ。
僕は、やたらと広く豪華な模様があしらわれた、白一色の部屋を見渡す。
「……外に行けたらなぁ」
窓から見える外の景色は、大きな門と広い庭。その先には、道路があり、住宅街がある。
普通の人からすれば、当たり前の光景なのだろうか。いくら姉に、そんないい場所ではないと言われても、憧れが尽きる事はない。
僕の実家、篠目家は、名家だ。昔から続く由緒正しい家系らしく、お金持ち。本来ならば、僕もその手のエリート学校に通っていたらしい……が、学校なんて行ったことがないからわからない。一応高校生ではあるが、通信制の高校なので高校生らしい事でやった事のある事と言えば、勉強くらい。
逆に言うと、勉強をする事でしか高校生の気分を味わえないので、僕は縋るように勉強をする。
普通がわからないので僕にはなんとも言えないが、姉に言わせれば、そんな僕はとても変わっているらしい。
両親は他界済み。2人とも、事故だったそうだ。
以来、姉と僕は広い屋敷に2人暮らし。幸い、姉は僕と違って病弱では無いので高校に通っている。
「……今日はいつもより調子もいいし、掃除でもするかな」
姉が学校にいて家にいない間は、僕は勉強以外にすることが無い。そのため、調子がいい時は掃除や洗濯などの家事を行う。料理については、姉に僕は天災だから絶対に台所に入ってはいけないと言われている。
残念だ。僕だってやればできるはずなのに。
「まぁいいや、掃除をしよう」
純白のベッドから降りて、僕は部屋を出る。
だだっ広く何もない家の中で、掃除道具の入った物置に向かい、モップを取る。
まずはリビングルームから掃除をする。
姉と分けた僕のみの純財産だけでも、両親の遺産で信じられないほどお金があるため、使用人を雇えばいいとは思う。だが、姉がそれだけは嫌だと頑なに言うのだ。家事は全て自分でやりたいらしい。僕には、姉の考えがよくわからない。
「本当なら高校1年生……友達と仲良く喋ってたんだろうなぁ。いや、僕は内気だし、学校の中でも1人かな。友達とかいたら、夏とかはみんなで海とか行くのかな」
独り言が多くなるのは、1人の時間が多いから。喋ることで、途方もない寂しさが緩和される気がするのだ。
リビングのフローリングを掃除し終えて、僕は玄関に続く廊下の掃除に向かう。
無駄に長い廊下をモップで拭いていると、玄関の鍵が開く音がした。
僕は驚いて、時計を確認する。
すると、時刻はもう午後5時を過ぎていた。
「やばっ、もうこんな時間?!」
慌てて玄関からリビングへと引き返そうとして扉に背を向けた、その時。
「どうやばいのですか?言ってみてくださいませんか。靖友?」
部屋着の首元を後ろから掴まれて、僕は逃げられなくなる。
「姉様……こ、これはですね、その」
怖くて姉の顔を見ることが出来ない。
「私が怒るとわかっていてやっていますね?」
「も、申し訳ありません」
「こっちを向きなさい、靖友」
「……」
「いいから向きなさいっ!」
肩を回されて、僕は身体ごと、無理やり振り向かせられる。
僕は怒った姉が怖くて目を瞑る。
「目を開けなさい。私の顔を見なさい」
「……はい」
恐る恐る目を開くと、そこには、鬼の形相の姉ーーではなく、今にも泣きそうな、優しい姉の顔があった。
「姉、様」
「私が、なぜ怒るかわかりますか?心配なのです。あなたの身にもしもの事があったら、と思うと。私としては、あなたにはずっとベッドで寝ていてくれた方が安心できます」
「で、でも、さすがにそれは……」
「ええ。わかっています。調子のいい時くらいは軽く庭に出たり、動く事も大切でしょう。病は気からと言いますし、ずっと閉じこもっていては気が滅入ってしまいますから」
「じゃ、じゃあ!」
僕は笑って姉を見た。
「ですが!それとこれは話が別です。動いていいのは、私が見ている時だけ。そう約束しましたよね?」
「で、ですが、姉様には高校がありますし、そうなると僕の活動可能時間は朝の少しの時間と、夕方より後の寝るまでだけに」
「でしたら私が高校をやめれば済む話です」
さっぱり言い切る姉には、少しの迷いもない。
僕は慌てて訂正する。
「そういう意味で言ったわけでは……」
「しかし、私としてはあなたの面倒を常に見ていないと心配で心配で……ここでの面倒とは言葉の綾ですが、私は学校にいる間、あなたが倒れていないかと、歩き回っていないかと心配なのです。もしもあなたが、助けを呼ぶ事も出来ないほど辛い状況にあったら……と考えると、うかうか勉強もできません」
僕の両肩に手を置いて、2度ほど肩を叩いた姉は、僕を抱きしめた。
「私はあなたと2人きりでいられる時間が最も幸せです。あなたはよく、寂しいと言いますね?私がいれば多少はその寂しさも紛れるでしょう。友人や級友にはなれませんが、姉として接する事はできます」
「でも、姉様には姉様の生活があります」
「私の生活はあなた無しでは立ち行きません」
またまた言い切る彼女に、僕は苦笑いして言った。
「もう、いい加減弟離れしてください!姉様はもう18歳ですよ?!ご自身の生活に僕を巻き込まないで下さいませんか?」
「私の事をあなたに心配される筋合いはありません」
「しかし、弟として姉が心配です!」
「どう心配なのですか?そもそも弟が姉に心配など不敬以外の何物でもありませんが、言ってみてください」
少し機嫌を悪そうにする姉様。いつものパターンだ。
「僕が危惧しているのは、姉様が、僕にかまけている間にご自身の人生を生きられなくなる事です!!」
「あなた無しの人生などいりません」
ふと、僕を抱きしめる腕に力が入る姉様。
「で、す、か、ら!弟離れしてくださいと言っているんです!!」
それを無理やり振りほどき、姉の両肩を掴みながら僕は怒る。
「あのですね?僕だってもう16歳なんです!!子供じゃありません!」
「いいえ子供です」
「っ!!言いたいのは!ちょっとやそっと風邪をひくくらいでどうこうはならないという事です!!赤ん坊じゃないんですから!」
「年に5回は救急車で運ばれるくせに何を言っているんですか。あなたはまだまだ子供です。私からしてみれば、いつあなたが死んでしまわないか心配なのです」
「ですから!もう大丈夫ですから!!ぁあもう!いつも通り拉致が飽きませんねもう!!議論はやめます!そんなんだから彼氏の1つも出来ないんですよばーか!!」
「なっ、あ、姉に向かって馬鹿とはなんですか?!それに、彼氏ができていないとは一言も……いえつくる気はそもそも全くありませんが、皆無ですが、癪に触る言い方ですね、撤回してください」
「嫌ですよーだ!!」
僕は怒りながら姉に背を向けて部屋に戻ろうとする。
が、廊下の途中で急に咳がこみ上げてきた。
「ゴホッ、ゴホッゴホッ……」
「だ、大丈夫ですかっ?!喘息の薬を……今持ってきますから!い、いえその前にベッドに寝かさないと」
僕の背中をさすりながら、顔を青くする姉様。
「だ、大丈夫、ゴホッ、です。たくさん喋って、少しむせただけですから」
僕は少し無理して笑顔を見せる。
「もういいですから、ベッドに行きましょう」
僕は彼女に促されるままに、ベッドに行った。
そして、半ば無理やり喘息の薬を飲まされた後、僕は布団を掛けられる。
「掃除なんてしたからですね」
「で、でも、学校がある姉様には時間がなくて掃除なんてできないでしょう?だから、僕がやらないと……」
「ですから、高校はやめますと先程から言っているではありませんか」
「だ、ダメですよ!!せっかく行けてるのに!もったいない!!」
僕が叫ぶように言うと、彼女は少し俯いて言った。
「……弟の気持ちくらい、わからない姉ではありません。でしたら、通信制の高校に転入とすれば」
「ふざけてるんですか?!全然僕の言ってるとわかってないじゃないですか!!ゴホッ、ゴホッゴホッ」
「靖友!!」
ベッドの横に置かれた豪華な椅子に座っていた姉が、慌てて駆け寄ってくる。
それを手で制する僕。
「だ、大丈夫。大丈夫ですから!いいですか、僕は高校生卒業資格を取れと言ってるんじゃないんです。僕は、姉様に楽しい高校生活を送って欲しいんです!」
「あなたが家で寝込んでいる限り、楽しい学校生活など、無理難題です」
珍しく、姉が皮肉を言った。
「わかりました。でしたら、僕も学校に行きます」
「はぁっ?!何を言っているんですか!!そんな身体で!!学校に行くなど!!どうやら、病気で頭がうまく動いていないようですね……寝かしつけます。胸を優しく叩きながら、子守唄を歌いましょう」
「姉様、僕は決してふざけてはいません。大真面目です」
僕が真っ直ぐ姉を見つめると、彼女は少しうろたえた。
「む、無理です!できるわけがありません!!すぐに保健室に運ばれて不登校になるのがオチです!!」
「夏休み明けから、姉様の通う学校に転校する事はできますか」
「そ、それは!!無理、では、無いのでしょうが……」
僕は固く決意した。これ以上姉を心配させてはいけない。姉の人生を、僕が奪っていい理由などないのだ。
「わかりました。では、書類などの手続きをお願いします。僕は転入試験に向けた勉強をするので」
僕が起き上がって勉強の用意を始めると、姉様は悔しそうに言う。
「高校に行くにあたり、条件があります。これから、夏休みの間に一度も体調を崩さない事。今日はもう大人しく寝る事。無理をして家事をしない事。それから、これが一番大事ですが……」
その真剣な表情を見て、僕はゴクリと唾を飲み込んだ。
「高校に行っても、恋人や好きな人を作らない事、です」
「姉様、僕は真剣な話をしているんです。冗談はやめてください」
これまた珍しく冗談を言う姉様に、僕はため息をつく。冗談は別の時に言ってほしいものだ。
「…………真剣なのですが。まぁいいです。いえ、決して全く良くはありませんが。まぁ今はいいです。今からこんな有様なのです。どうせ、すぐに体調を崩すのでしょうから」
どうやら、姉様は僕の決意を甘く見ているようだった。
夏明けまであと2ヶ月と少し。僕は、勉強時間がそれなりに取れそうな事を喜んだ。
そして、姉様と2人だけの夏が過ぎていき、やがて試験当日に。
「……本当に一度も体調を崩さないとは思いませんでした。私としましてはあまり嬉しくない結果ですね」
「姉として弟の健康を素直に喜んでください。少しひねてますよ?姉様」
「いえ、それはそうなんですが、そうではなくてですね……このままでは靖友が他の女に…………」
「すみません、このままではの後が聞き取れませんでした。もう一度お願いします」
「いえ、なんでもありません」
姉様の案内で試験会場、つまり学校に到着。
「姉としては弟の合格を祈りたいところですが……複雑な心境です」
「では、行ってきます」
僕は微妙な表情の姉を置いて、教室に入った。
久しぶりだな……小学1年生の頃に一度だけ入った事はあるけど、それ以来は学校の教室とかの施設に関しては関わる機会がなかったからなぁ。
やがて、5教科の試験を終えて、僕は姉様と合流した。
「……どうだったか、聞かないんですか?」
「うるさいですね、聞かなくてもわかりますよその顔を見れば。いえ、見なくてもわかります。私の弟は優秀ですから」
ため息をつく姉様は、僕の頭を優しく撫でた。
「なにせ、優秀な姉を持っていますから!」
「はぁ、よく言いますよ。一人で勉強してた癖に。一度くらい私に勉強を教えてもらおうとか思わないんですか?まったく……」
少し乱暴に僕の髪を撫でた彼女は、少し冷たい声で言った。
「学校に通っている間は、私が用意した伊達眼鏡とマスクを絶対に外さないでください」
「マスクは、まぁ慢性的に風邪なので他の人に移さないようにという意図はわかりますが。なんで伊達眼鏡なんですか?」
「高校生活では、伊達眼鏡をしていると友達ができやすいんですよ」
「え、そうなんですか?!さすが姉様です!!ありがとうございます、僕全然知りませんでしたそんな事!」
「そんな事あるわけないじゃないですか。冗談ですよ」
「ええっ?!」
「なぜ眼鏡をかけたら友達ができやすくなるんですか?意味不明です。大丈夫ですかね、こんなに騙されやすくて……クラスメイトに変な事を吹き込まれなければいいですけど」
そんなこんなで、僕は試験に合格。無事、姉様と同じ学校の1年生になる運びとなった。
新品である高校の制服を身に纏い、僕は鏡を見て言う。
「うん、かっこいい!!姉様、どう思いますか?!変じゃないですか?!」
初めての高校への登校に、僕は朝からハイテンションだった。
「…………え、ええ、かっこいいですよ」
僕が笑うと、姉様は少したじろいだ。
「え、どこか変ですか?」
「そ、そういうわけでは…………」
少し俯く姉様は、小声で何かを言っていた。
「まさか、ここまでとは思いませんでした。これは、マスクと眼鏡で隠しきれるでしょうか。これだから、学校には行かせたくなかったのに……私としか異性との関わりが無かったのに…………これじゃいつ靖友がたぶらかされてもおかしくないです……私が姉として見張らなければ」
「姉様?」
「い、いえ。なんでもありませんよ。さぁ、行きましょうか」
「はい!!」
そして、僕と姉様は電車に乗って通学をする。
高校の最寄駅で降りると、そこには同じ制服を着た人達が。
こ、この中にクラスメイトがいるかも……!!
僕は胸を高鳴らせながら歩く。
「お、おいあれ見ろ!篠目先輩だ!!」
「本当だ……って、う、嘘だろ?!あの篠目先輩が男と歩いてる?!」
「ちょ、ちょっとこれ大ニュースじゃない!」
「だれ、あの隣の子?なんかかっこいい感じだけど……」
なんだか、噂されている気がした。
まぁ、僕は転校生だし。そういうものなのかな?
「……」
「姉様?どうかされました?」
「いいえ。なんでもありません」
姉様は、次第に機嫌が悪くなっているようだった。
「あの、この眼鏡とってもいいですか?」
「ダメです。絶っっっっ対にダメですから!!」
僕は伊達眼鏡を取り外そうとしたが、それを断念。
「それじゃあ、姉様また後で」
「はい。クラスメイトには気をつけてください。何かあったらすぐに私のところへ」
「そんな心配しなくても大丈夫ですって」
「あと、当然ではありますが、通学中に倒れる等の危険性があるため、登下校は今後も私と共に。昼食も同様の理由で一緒にとります」
「わかりました。では、次は昼休みですね」
「はい」
僕は職員室の前で姉と別れる。やたらと心配しているみたいで、5回くらい振り向いていた。
僕が職員室に行くと、先生に廊下の前のイスで待つように指示される。
やる事が無いので、自己紹介の文でも考えておく。
「おい、聞いたか?!あの篠目先輩が男連れて歩いてたって!」
「聞いた聞いた。しかも、なんかイケメンらしいぜ。どこのやつなんだろうなぁ。あの篠目先輩と……うらやまけしからん!」
ふと、目の前を通りすがって行く男子二人組に声に耳を傾けて、僕は驚いた。どうやら、姉様はこの学校で有名らしい。
「っと、もう眼鏡も外していいかな。風邪じゃないし、マスクも。後で姉様と会うときにまた付けよう」
僕はいつもの癖で独り言を言いつつ、マスクと眼鏡を外す。
「ふうっ」
マスクと伊達眼鏡をポケットにしまうと、僕は軽く深呼吸をした。
「……うそ、誰あの美少年」
「え、なに?美少年?どこどこ……」
「美少年〜?いやいや、いないいない。この学校の男子は調べ尽くしたわ〜〜。まぁ佐倉先輩とかはイケメンだけど……って、あ」
「佐倉先輩?あぁ、篠目さんにフラれたっていう……」
目の前を見ると、4人の女子高生が僕を見て立ち止まっていた。
え、え?な、何?!僕何か変?!何かした?!え、えっと〜〜、と、とりあえず挨拶をしよう!
「こ、こんにちは?あっ、今はおはようございますか……お、おはようございます?」
僕が一人で慌てていると、突然4人が僕に近づいてくる。
「き、君、何年生?何組?!もしかして転校生?!」
「彼女、彼女いる?!」
「友達からでもいいよっ?!」
「名前教えて!!名前!!」
突然の事に驚く僕。
び、びっくりしたぁ。
「篠目、篠目靖友です。転入しました、1年2組です。彼女はいません」
「篠目……君、瑠姫さんと同じ名字なんだ〜〜!同じ名字で2人とも美人なんて凄い偶然!」
「あ、篠目瑠姫は僕の姉です」
「そうなの?!篠目さん、本当に弟いたんだ〜〜!!」
目を合わせあう4人。
「本当にって……疑ってたんですか?」
「そうそう、あの子、凄くモテるんだけどさ、いつもいつも病弱な弟がいて、看病にかかりきりだから誰とも付き合う気は無いって言ってたの」
「病弱だからいつも寝てるから、人に見せられるような写真はないし、外出もしないから会わせられもしないし、何より学校に行っていないから瑠姫さんと同じ小学校でも、弟くんの事知ってる子がいないわけ。そりゃ嘘ついてると思うよね〜〜」
知らなかった……姉様はそんなにモテていたのか。流石姉様!!
「僕病弱で、姉が僕にかかりきりで可哀想なので、高校に行く事で少しは心配を減らそうと思ったんです」
「めっちゃいい子じゃん……」
「偉すぎるわ、泣ける」
な、泣ける?!そんな感動的な事言ったかな、僕。
「そ、そんな大層な人間じゃないですよ!!ちょっと前にも、僕にかかりきりだから彼氏の1つも出来ないんだばーかとか言っちゃって……うわぁ、姉様ってモテてたんだ……つくる気がないって言うのは強がりだとばかり」
僕は少し気まずさを感じた。
「ていうか、こうなると篠目さん……瑠姫さんてかなりのブラコンじゃない?」
「だね。なんかいつもいつも弟のはなしばっかりしてて、嘘を重ねる事で信憑性を出そうとしてるのかとばかり……」
「1日10回は弟の話してたよね?」
驚愕だ。そ、そんなに話す事あるのかなぁ。
「ね、よかったら今度私と遊ばない?!」
「あ、私とも!!」
「あ!遊ぶ!!何をして遊ぶんですか?!なんでしょう、じゃんけんとかしりとりとか、も、もしや伝説の、ち、沈没ゲームとかですか?!」
「え〜〜何々可愛い!」
「沈没ゲームって……小学生じゃないんだから」
「えっ、そうなんですか?!すいません、僕小学生の頃3回くらい学校に行ったきり、今日まで家で寝込んでたので……」
「可愛そう、私が癒してあげる!」
「遊ぶなら、カラオケかホテルだよね!」
「だね〜〜」
「ホテル……凄い!!泊まり込みで遊ぶんですね!!さすが高校生!!」
僕がワクワクしながら言うと、彼女達は一瞬顔を見合わせた後、クスクスと笑い始めた。
「う、嘘っ、今時絶滅危惧種でしょ、こんなピュアな子!」
「おまけにイケメンときた」
「やばいってこれ」
「私達で分け合おう!ね、靖友君?今度お姉さん達とホテルで泊まり込みで遊ぼう?」
「は、はい!!嬉しいです!!」
予鈴が鳴ったため、4人とはここで解散。
「では、また今度〜〜!ホテルで〜〜」
僕は4人と連絡先を交換した後、先生に連れられて教室へ向かう。
なんだか、去り際にあの4人が笑ってたのが引っかかるけど……まぁいっか。
教室の外で待たされる僕。
教室の中からは、騒がしい声が聞こえてくる。
「なぁ聞いたか?!篠目先輩が、男連れてたって!!」
「これだから男は、美少女のお尻追いかけ回して……ね、知ってる?!篠目先輩が連れてた人、凄くイケメンなんだって?!」
「お前らもイケメンの尻追っかけるんじゃねーか!」
「うるさいわね!」
「はいはいお前ら静かに〜〜、んじゃ転校生を紹介しま〜す。靖友君入って」
手で招かれるジェスチャーをされたので、扉を開いて教室に入る。
「なっ……?!」
「ちょ、イケメン?!やばいやばいイケメン!!」
「あいつまさか、篠目先輩が連れてたっていう……」
「くそっ、リア充爆ぜろ!!」
教室が一気にざわついたが、ここで先生が沈めた。
「はいはい静かに。靖友君自己紹介を」
「は、はいっ!!頑張りますっ!!」
僕は緊張しつつも黒板の前に立つ。
言われていた通り、黒板に名前を書く。
「篠目、靖友です!今までずっと病気がちで、小学生の頃に3回学校に行ったきりで、今日凄く久しぶりに、人がいる教室に来た気がします!!いつも1人で寂しかったので、これからの生活が凄く楽しみです!!友達100人作ります!!よ、よろしくお願いします!!」
僕が一礼すると、女子陣から大きな歓声が上がった。反対に、男子陣からはブーイングが。
な、なんでだろう。
「はい、少し時間あるから質問とかしていいぞー」
先生の言葉に、女子達が一斉に手をあげる。
「はい、宮戸」
「篠目瑠姫先輩と一緒に歩いていたって本当?!」
「本当です」
僕の言葉に、女子陣から悔しそうな声が。男子陣からはまたもブーイングが。
僕は、姉様が有名な事を改めて実感しつつ、笑って話す。
「あの、一緒に歩いていたっていうか、家から一緒に来てますから」
訂正のつもりで行ったのに、またもブーイングと悔しそうな声が教室に響く。
僕は慌てて、誰でもわかるように言った。
「すっ、すいませんわかりにくくて!篠目瑠姫は僕の姉です!!正真正銘血の繋がった姉弟ですから!!」
「あ、姉?」
「あ、本当だ。苗字同じだ」
「「て事は……?」」
「篠目先輩が彼女ではない?!」
どこからか聞こえてきた声に、返事をする。
「彼女はいません。というか、友達もいません。知り合いもほぼ、というか全くいません」
「フリーっ!!!」
女子陣から歓声が上がる。
「篠目先輩とぱいぷができたぁぁああっ!!!」
男子陣から歓声が上がる。
ここで本鈴が鳴り、ホームルームが終わる。
「はい、んじゃ1時間目に備えて準備しとけ〜〜」
先生が去って行き、僕は指定された席に座る。
「なぁなぁ!!篠目先輩紹介してよ!!」
「ねぇ篠目君友達からでいいから付き合わない?!」
「このみのたいぷは?!」
「連絡先交換しよ〜〜!!」
あっという間に、僕の周りにはクラスメイトで人だかりができた。
「あ、ぁあ…………」
その光景に、僕は思わず涙を零した。
「ぅ、ううっ」
「え、ど、どうしたの?!」
「おいおい大丈夫か?!」
心配してくれるクラスメイト。
「僕、ずっと1人だったから。家では姉様が帰ってくるまで1人だったし、いつもベッドの上で外を眺めてるか、机に向かって勉強してたから……誰かが近くにいる事が嬉しくって…………」
涙が止まらなくて、手で隠そうとすると、思わずにやける口元を隠せなくなる。
「篠目君……」
「靖友、お前、大変だったんだな!!友達になってやるよ!!これであと99人だな!!」
「なんで上から目線なのよあんたが!!1人目は私よね〜〜!」
「んだと?!」
僕の周りで響く話し声。
「あ、ありがとう!!」
僕は、その喜びを噛み締めた。
今日の朝は姉様1人だった連絡先も、気づけば35件まで増えた。
携帯の画面を見つめながら、僕は笑顔が止まらない。
「…………楽しそうですね、靖友」
ふと声の方に振り向くと、そこには姉様がいた。
「あ、姉様!どうしてここに?」
「どうしてって……今は昼休みですよ?」
「えっ、えっ?!ええっ?!もう?!」
言われて時計をみると、時刻は12時5分を過ぎていた。
いつもは午前中が凄く長いのにな。
楽しいと時間が過ぎるのが早いっていうのは、本当らしい。
「ちょ、なんで篠目先輩がいるんだ?!」
「わかんねー!が、チャンス!!」
近寄ってくる男子達。
「篠目先輩!俺らと食事しませんか?!」
「ごめんなさい。私は弟と食事をしに来たの」
「靖友くーん!一緒にご飯食べよ〜〜!」
「あ、うん!いいよ!!」
「ちょっと、靖友……何言ってるんですか?!お昼は私とって約束を…………」
「みんなで食べればいいと思いません?姉様!」
「…………はぁ、そんな笑顔で言われたらしょうがないですね」
「やった!」
僕と姉様は、クラスのみんなと一緒に解放されている屋上へ行く。
姉様は、なぜか僕を屋上の角に座らせて、自分はその前に座った。
「……姉様、前に立たれるとみんなと話せないんですが」
「それでいいんです」
「いや良くないですよ?!」
「では、お聞きしますが」
姉様は、僕に向かって聞いてきた。
「靖友?今日高校で学んだ事を、勉強以外で言ってみなさい」
「勉強以外で……?あ、そういえば朝、職員室の前で、先輩の女の人達と遊ぶ約束しましたけど?」
「うわ〜〜先輩はやっぱり手を出すのが早いなぁ」
お弁当の中身を口に運びながら、女子が言った。
「羨ましいぜ、逆ナンとか」
焼きそばパンを食べながら、男子が言った。
「どんな事をして遊ぶんですか?」
「どんな事って……あ、何するんでしょう?あの人達は、高校生はカラオケやホテルで、泊まり込みで遊ぶものだと言ってましたけど」
「「?!」」
急に吹き出す2人。
「ほらみた事か。間違った知識を植え付けられていますよ、靖友。いいですか?高校生でもホテルに泊まり込みで遊ぶ事はありません。また、カラオケやホテルというのは、いかがわしい事をするのによく使われる場所です。覚えておいてください」
「あの姉様。いかがわしい事って、なんですか?」
僕は姉様が言っている事がわからなくて、尋ねてみる。すると、彼女は笑って答えた。
「靖友はまだ知らなくていい事ですよ」
「そう言われると、気になります」
「いずれ近々私が身をもって教えてあげますから。我慢していなさい」
「わかりました。ありがとうございます、姉様」
「弟の貞操管理も姉の仕事ですから」
「てい……なんですか?」
「なんでもありません。いいですね?皆さん。見ての通り、弟は重度の箱入り状態です。下らない、余計な知識を吹き込んだら……わかりますね?」
姉様は、クラスのみんなに向かって、だし巻き卵の刺さったフォークを突きつけた。
「はい、あ〜ん」
「あ〜〜ん」
僕は、差し出されただし巻き卵を食べる。
「美味しいですか?」
「はい!いつも通り、とても美味しいです。僕も料理がしてみたいです」
「もぅ、ダメですよ?あんなものを食べたら死人が出ますから」
「え〜〜?!そんなにひどいですかぁっ?!」
僕は少し落ち込む。
が、姉様に、春巻きを差し出される。
「はい、好物ですよ〜〜」
「あ〜〜ん」
「美味しいですか?」
「はひ!おいひいれふ!」
「口に物を入れたま喋らない!」
「すみません」
僕は春巻きを飲み込んでから、みんなの方を見た。
みんな、僕と姉様の事を見て、口を大きく開けたり、固まったりしていた。
「な、なぁ靖友?恥ずかしく、ないのか?」
1人の男子が問いかけたきた。
「恥ずかしいって、何が?」
質問の意味がよくわからない。
「あ、あ〜ん、ってやつ。まるで恋人じゃ……」
「え、そうかな?」
僕は姉様の手料理が刺さったフォークを見ながら笑って話した。
「高校生の姉弟が食べ物を食べさせ合うのは、普通でしょ?」
「え、い、いや……」
たじろぐ男子に、ざわつくクラスメイト達。
「普通じゃないんですか?姉様」
「まさか!何を言っているんですか、靖友。普通ですよ。そうでしょう?」
姉様が、みんなに問いかけた。
その目は、どこか冷たく、物を言わさないものがあった。
「「「普通です」」」
「ほら、ね?同じベッドで寝るのも、一緒にお風呂に入るのも、夫婦みたいに過ごすのも、普通なんですよ。ね?」
「い、いやそれはさすがに……」
女子が小声で何かを言ったが、姉様の顔をみて、なぜか顔を青くし、慌てた。
「ね?」
「ふ、普通です」
僕は納得して、姉様の手から食べ物を受け取る。
「すいません、変な事を言ってしまって」
「いいんですよ。姉はそんな事くらい気にしません。こうして姉弟で一緒に食事をするのも、食べさせ合うのも、全部普通ですから。ついでに言えば、本当は姉弟は2人きりで食べるのが普通の高校生ですね。こうして大人数で食べる事は普通じゃないんですよ」
「へぇ、そうなんですね。あむ」
姉様から食事をもらいながら、今度は僕が姉様に食事をあげる。
「この子、何にも知らないんです。箱入りだから、ずっと家にいたから。本当に何にも」
「そういえば、高校には情報っていう教科があって、いんたーねっと?とか、めでぃあ?っていうのについて勉強するって聞いたんだけど、そうなの?」
「あ、うん。まぁそうだけど……しら、ない、の?」
「え?普通知らないでしょ?」
「ええ。普通は知りませんよ。みなさんは1学期に授業を受けていらっしゃるから知っているんです」
「ですよね!よかった、僕だけ知らないからどうしようかと思っちゃいました!」
「あなたが困ったら私が手取り足取り教えてあげますから、安心してくださいね」
姉様は、笑って僕の頭を撫でる。
「あ、そうだ。携帯を貸してください」
「いいですけど、なぜですか?」
僕は彼女に携帯を渡す。
「姉は、弟に悪い虫が付いていないかチェックする役目があるんですよ。よくない人の連絡先は消しますからね。これも普通です」
「そうなんですか……みんか優しい良い人ですから、消される事なんて無いと思いますけどね!でも、手間をわざわざありがとうございます、姉様」
「気にしないで下さい」
姉様はすごい速度で指を動かして携帯を操作していく。
「今夜うちに来ない?……消去。靖友君お姉さんに騙されてるよ……消去。気づけ!お前の姉はヤバイ!!……消去。一目惚れしました、付き合って欲しいです……消去」
小声で何かを言っている姉様の目は、少し怖かった。
「あっ?!」
姉様の手が滑り、携帯が地面に叩きつけられる。それを拾おうとした姉様だったが、偶然、それを踏んでしまう。
基盤が割れる音がして、携帯が壊れた。
「……いけない。手が滑りました」
「うわっ?!姉様何してるんですか!!せっかく入れたみんなの連絡先が……これじゃ何かあった時、姉様とも連絡がとれません!」
「仕方がないですね、これを使って下さい」
僕が訴えると、姉様はポケットからそれまで使っていたものと同じ携帯を出し、渡してくれる。
「いい姉とは、不測の事態に備えて、弟の予備の携帯を持っているのです」
「わ、姉様凄いです!!ありがとうございます……って壊したのは姉様ですけど」
「うるさいですよ」
みんなと再び連絡先を交換しようと、僕がみんなのところへ行ったその時だった。
「あ、そういえば。最近みなさんの携帯の調子が悪いそうですよ。連絡先の交換は、また後日にしたほうがいいかもしれませんね」
「何言ってるんですか、姉様?みんなの携帯が調子悪いなんて事」
1人ずつ訪ねた結果、全員携帯の調子が悪いとの事だった。そんな事って、あるんだ。
やがて昼を食べ終え、午後の授業を受ける。今日の帰りがけに遊ぼうかとクラスメイトのみんなに話しかけると、みんな姉様と一緒に帰ってあげた方がいい、と揃って言うので、そうする事にした。
姉様と家に帰還すると、急に疲れが押し寄せてきて、僕はベッドに倒れこんだ。
「これが、バタンキューというやつですか?」
「まったく、経験しなくてもいい事を……」
「うぅ、寒気がします」
「風邪ですね。ずっと気を張り詰めて頑張っていましたから。私が温めて上げましょう」
姉様が僕の布団に入り、僕を抱きしめながら温めてくれる。
「靖友……」
「何ですか?姉様」
「学校は、楽しかったですか?」
「はい!とても楽しかったです!!」
「女性に誘惑されて付いて行ってはダメですよ?自分には姉がいるから、と言えば大抵の人は諦めますから。それでダメな時は、携帯で私を呼んで下さい」
「わかりました」
僕の頭を撫でる姉様は、少し不機嫌そうだった。
「ずっとこうしていられればいいのですが」
「ずっとはダメです」
「なぜですか?」
「姉様に風邪が移ってしまいます。いえ、もう移ってしまっているかもしれません!やはり別のベッドで寝るべきでは……」
「嫌です」
僕を強く抱きしめる姉様は、少しだけ、ほんの少しだけ、涙声だった。
「私だけのものです。私だけの弟です。誰にも、誰にも渡しません。お父さんもお母さんは、私と靖友を置いていきました。許しません。私は、ずっと靖友と一緒にいます」
「はい。姉様に彼氏ができるまでは、僕が一緒にいます」
「余計なお世話です」
張り詰めていた空気が、少し和らいだ気がした。
「靖友」
「はい」
「愛しています。永遠に」
「僕も愛しています。永遠に」
「私達、相思相愛ですね」
「姉弟でなければ、の話ですけどね」
「うるさいですよ」
「ぐふっ?!」
どうやら僕は、彼女の気に触る事を言ってしまったらしい。脇腹を1発、肘で突かれた。
「おやすみなさい、靖友」
「おやすみなさい、瑠姫姉様」
やがて、僕は眠りについた。
中々ヤンデレ感を出すのが難しいですね。頑張ります!!
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これからも、よろしくお願いします!!