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17/28

夢 ?・?

お久しぶりです。閲覧ありがとうございます!!

白い家。白い壁紙。白い紙、白いペン、白い白衣に、白白白白。

黒メガネに黒いストッキングがよく目立つ。真っ白なこの空間の中で、妙な存在感がある。

「どうされました」

聞かれたので、僕は少し言葉に詰まる。思わず目を擦ってから、わざとらしかったかもと考えすぐ早口で告げた。

「最近、変な夢を見るんです」

彼女は微笑んだまま僕の説明を待ってくれているので、僕も深呼吸をして落ち着いてからゆっくりと話し出した。

こう言うのはどう言ったらいいのか初めてでわからなかったから、自分の感じたことをそのままに、分かりやすさを心がけて。

「変な夢、と言うのは、えっと。まず、おかしいなと思ったのは、初めは朝の眠気が増したことなんです」

カバンから日記を出して見せた。


2/1

今日は朝寝坊して初めて遅刻しそうになった。やけに眠かった。昨日は10時には寝たはずなのに。夜中に起きてたけど忘れたとか?とにかく会議には間に合ってよかった!


「それが、そう言うことが何度も続くようになりまして。」

ノートをめくってみせる。


2/4

また寝坊した。でもよかった、この前の一件以来いつもよりも早く目覚ましをかけておいたから遅刻はしなかった!でも、少し変かな?うーん。一応なぜか書くと、覚えてないけど夜中起きて睡眠時間が減ってて、目覚ましを1時間早くかけたからって起きる時刻は変わらないはずだし。睡眠時間が足りていないなら、目覚ましを掛けてから睡眠時間がたっぷり取れた2時間後に起きるはずだ。うーん、書いてて思ったけど、やっぱり変だ。だって、目覚ましは止めて二度寝してるんだから。


2/6 やれだ。凄くねむい。れっと、そう、そうらたしか、また寝坊した、めざましの1時間後に、よし、ねよう。おやすみなさい。


2/7 まただ。また起きた。やっぱり変だ。最近すごく眠い。しばしば眠くなる。なんと言うか、引きずり込まれる感じだ。しかも、相変わらず二度寝が始まってから1時間きっかりで起きることができる。明日はより早く目覚ましを掛けてみよう。睡眠時間が減ってもいつもどおり6時に起きていたら、睡眠時間が足りていないだけ。でも、それよりも早く起きたらちょっと変だぞ。


2/8 5時に起きてしまった。目覚ましを掛けてからきっかり、1時間後だ。ちょっと変だ。病気や何かの精神疾患を疑い出した。いや、何かの(仕事とか?)強迫観念や自覚のない酒癖の悪さかもしれない。



2/9 眠い。すごく眠いから、簡単に。今日も昨日と同じだった。


2/10 夜書くのが辛い。眠くて仕方ない。きのうと同じ。


2/11 同じ。ねむい、


2/12 〃


2/13 〃


2/14 〃


2/15 〃


2/16 〃


……




「しばらく同じことが続いて、1ヶ月ほど経ちました。問題は、ここからなんです」

僕はページをめくって見せた。

そこには、強い筆圧で書き殴られた文字があった。



3/4

全部思い出した!!

夢の女が僕を引き止めている!!眠いのはあいつのせいだ!!


「ここから、しばらく夢の女の話が続きます。僕は起き抜けにしかそいつのことを覚えていなくて、夜日記を書く習慣のために思い出せなかったんです。しばらくそいつのことを思い出せませんでしたが、一度この3月4日の朝に思い出したことを日記に書いてから、徐々に起きてもそいつのことを覚えていられるようになりました。ただ……」

僕は少し言い澱む。

「起きても夢を覚えていられるようになったと言うよりも、半分寝ているようになったと言う感覚に近いんです。とにかくいつも眠くて」

彼女は微笑みを崩さないままに、優しく尋ねた。

「なるほど。よく分かりました。その女の人のことをお聞かせ願えますか?」

「はい。ちょうどこの辺りから、詳しい話が書いてあります。」



4/6

夢の内容を記す。

目覚めると僕は戦士だった。戦いに傷つき、身も心も疲れ果てた戦士。なぜ戦っていたのか、なんのために戦っていたのかもわからないが気にならない。

「気にしないで。一緒に戦っていきましょう」

女がいた。髪は短くて、顔は綺麗に整っている。豊胸でウエストは引き締まっていて、やや筋肉質な女性らしい体つきの金髪の女性だった。

「お前に何がわかる。看病なんてやめて、どっか行けよ」

僕が投げやりに言うと、女性は僕を優しく介抱した。

次の瞬間、僕と彼女は結婚していた。幸せな生活をしていて、彼女と夫婦らしい愛を交わす。

笑い合いじゃれつきながら僕が彼女にベッドに押し倒される。

「愛してるわ。ずっとそばにいてね」

ベッドの上で抱きしめられながら、羽毛布が首を触る感触がやけに生々しい(・・・・)(そう、たしかにそう思ったんだ!!)。

「もちろんだ」

僕が少し疑問を抱き彼女に手を伸ばそうとすると、鐘の音が響く。

「いけない。早く寝ないと!」

彼女が僕を寝かしつけようとする。

「まずい敵襲だ!逃げよう!」

僕が慌てて立とうとするが、彼女はそれを止める。

「行かないで、お願いだから!!」

徐々に響いてくる鐘の音に、僕は外に飛び出して鐘の音の聞こえる方へ走る。

追いかけてくる彼女。

なぜだかわからないが、後ろにいる彼女の方に振り向けば、とても怖いものを見る気がして振り向けなかった(視点はゲームをしているみたいに僕を前から見てギリギリ彼女が見えないくらいの角度だったけれど)。

鐘がいよいよ近くにきたのを感じたところで、彼女が止まったのがわかった。僕の足は宙に浮いて、気づくと彼女が僕の目の前で静かに叫んだ。

「私より大事だって言うの」


目が覚めた時冷や汗でびっしょりだった。目覚ましから1時間経っている。急いでシャワーに入らないと。






4/7

夢の内容を記す。

「あっおかえりなさいあなた!」

僕を迎えたのは、セーターを着たエプロン姿の妻だった。

「……なんだ、また料理してたのか」

「またって何よ。頑張ったんだからね!期待してよ〜〜?」

「そんなことどうでもいいからお前は休んでなさい。僕が全部やるから」

甲斐甲斐しくかばんとコートを受け取ろうとする彼女にはかばんもコートも持たせず、全部片付けながら、それを不機嫌そうにくちびるを突き出して見てくる彼女。

「そんなことって何よ!……なんかお父さんみたいなこと言い出しちゃってさ。つまんないの。せっかくさらってきてくれたのに、これじゃまた鳥籠の美少女じゃない!」

「僕には責任があるんだ」

僕がさらにまくし立てる。

「歳を考えろ。もうすぐババ……婆さ、お婆さんじゃないか」

「まだ30手前ですけどーー?!もうっ失礼しちゃうなあ」

「はぁ。悪かったから機嫌直してくれないか。仕事の悩み話すから聞いてくれ」

いつも変だとは思うけど、彼女は僕の悩みが好物なのだ。聴くと幸せな気持ちになれるらしい。理由は本人にもよくわからない。はじめは他人の不幸が嬉しいのかと思ってそれが気楽で話していたが、それにしてはずいぶん気味の悪い反応をされると思って聞けば本人もよくわからないと言う。ならば、僕にはもっとわからない。

「美味しいね、これ作ったの?」

きんぴらえを箸でつまむ僕。

「ぶっぶー!それはお惣菜ですーー!!」

「えっそうなんだ。あー、どうりでこれはあんまり……」

僕がポテトサラダを口に運ぶ。

「それ私が作ったやつなんですけど。」

「えっ」

しばしの間。

「……わざとやってる?」

彼女が聞いたので、僕は笑って答える。

「正解!全部美味しいよ」

まぁ正直お世辞だが。彼女もそれをわかった上で喜んでいるはずだ。

「不味い」でお世辞が成り立つ時もあったのだから。

「もう」

「ごめんごめん」

食後、椅子に座った彼女は6粒の薬を飲んだ。

僕はその向かいの椅子に座り、神経質にならないよう注意しながら尋ねた。

「……身体どう?」

「いつも通り」

「買い物なんて。無茶するなよ」

僕がそう言うと、彼女は立ち上がって、僕を見て、無表情で言った。

「うちも外も変わらないよ。貴方がいない時間はいつもそう」

「えっ」

妻の雰囲気が変わり、なんだか怖くなってくる。

「貴方がいない間私はいつも1人!ずっと1人!!誰もいない!!どこにも誰もいない!!でも貴方がいればいいの!他の誰かじゃダメなの!!貴方だけ!貴方だけにいて欲しいの!!」

救急車のサイレンが鳴る。

行かなくちゃ。

僕は慌てて立ち上がる。背中に悪寒が走った。

「行かないで。お願い。行かないで」

「いっ」

いかなくちゃ。

と声に出したかったが出なかった。その時にはすでに彼女に背を向けて玄関のドアに向けて走っていた。振り向くと怖い彼女(・・・・)がいる気がしてやはり怖くて振り向けない。

走りまくる。空中に体が浮いていく。浮遊感。空を飛べる。

救急車のサイレンがジリリリリリリリリリリリリリリリリと鳴るのは変だ。

ここで目が覚めた。


僕はノートをめくる手を止めて話を進める。

「ネットの記事で、夢の内容を記した夢日記を書くと、自分の思い通りにできる夢、明晰夢が見られるようになると聞きます。僕はどうも、なんだかこの日記に夢の内容を書くことを始めてから、どんどん夢の内容が正確に精密により立体的に生々しく、えーと、そう、えーと、」

彼女が僕の言葉を補完してくれた。

「現実的に?」

「そう!それです。変ですよね、夢なのに」

僕が少し興奮しながら言うと、彼女は言った。

「それで、どのようなことにお困りですか?不眠?」

「えー、と。まぁ、はい。そうですね。ここはそう言うのに強いと聞いて。予約に2ヶ月も待つとは。ははは」

僕は言ってからしまったと思った。

「すみません」

苦笑する彼女は、話を元に戻した。

「悪夢というわけ、ではないんですよね?」

「え、ええ。まぁ形だけは。?」

「形だけは?怖いんですか?見たところ、ナースにもてなされたり、令嬢と付き合っていたり、幼馴染みのクラスメイトと青春を過ごしたり。全て楽しいことばかりではありませんか」

「でも、そこが不気味で。全部同じ顔なんです。髪とか服とか見た目も、体格も全然違うのに、顔だけはいつも同じなんです。でもいつも顔だけは思い出せない。いつも、見たらまずいと思って。ほら、視界には入っても見ないようにできるじゃないですか。あれですあれ。ぼんやりとしか見えてない感じ」

「なぜ、見ないんですか?」

「だって、見たら連れて行かれそうな気がして」

「連れて行かれる。夢に?」

「ええ。夢から覚めるために女から逃げる、その時間が目覚ましが鳴ってからの1時間なのはわかってもらえたと思うんですが」

一応目で確認する。

「ええ」

確認が取れたので安心して話を進める。

「毎回逃げる時に女がすごい顔をして追ってくる気がするんです。背中でわかるというか、まぁゲームの別視点見たく僕の体を前側から見てて、視界のぼやけたところに少し彼女が写ってる、みたいな感じなんですが」

彼女は一度穏やかに話を区切って、僕に質問した。

「目覚める時の話はしましたから、一度、寝る時の事を教えてください。普段どうやって眠りにつくんですか?」

「えっと、三杯水を飲んで、トイレに行って、明日の予定を確認して、えっと眠くて倒れるように寝て……意識がなくなっていく中で、水、あっ………水。水!」

引っ掛かった。思考の中に滝が浮かぶ。

「あっ思い出してきました」

一言言ってボールペンを借り、ノート内容を書く。

「話してみてくださいますか?」

言われるがまま、僕はノートに書きながら話し始めた。


4/9 病院にて思い出したので今朝のことを記述。

滝の音で目が覚めた。目が覚めてすぐそばにちらついたのは、滝行の修行服を水で濡らし、肌を透かした女性だった。

左右で丸く髪を纏め上げたその人は心配そうに僕を見下ろしていた。

「あっ」

僕が目覚めたことに気づくと、安堵したようで汗ーー水かもしれないがーーを落ち着いた様子で、腕を使い拭った。

その仕草で襟がずれ、胸元がはだける。

僕の視線でやっと自分の格好に気づいたその人は、顔を赤くして近くの上着を羽織ろうとした。

「やだ!はしたない」

が、僕を膝に乗せていることを思い出し、下半身に僕の頭を乗せたまま、床に這いつくばるようにして上着を取り羽織った。

「すみません。いくら婚約者とはいえ。失礼しました」

そう言われて、自分の体がやけに涼しい気がした。

見下ろすと、僕は裸だった。

服の感触がしたのは、彼女の服に触れている後頭部のみだった。

「服を、ください」

「えっ」

少し驚いたような顔をされたので、僕も驚いた。

「え?」

慌てて彼女は奥の部屋から服を取ってきてくれた。

どうやら慌てていて、僕が裸のことに気づいていなかったなかったらしい。

彼女に礼を言い、服を着せてもらい、食事ももらった。

「お世辞にもあまり美味しいとは言えないな。って顔してますよ」

「……すみません。やはり僕が作るべきでした」

「……否定しないんですね。して欲しかったです」

苦笑してごまかしたがそれでも美味しいとは言えなかった。

僕にはこの1時間の記憶がない。

答えても教えてもらえなかった。

「それにしても、なぜ滝行を?」

「本当に記憶ないんですか?フリじゃなくて?まぁあえて毒にも薬にもならないことを言うならば、健康増進ですかね」

「……殺し合ったとかでないのはいいんですけど、それで倒れて1時間記憶を失っては元も子もないのでは。むしろ、疑問が生まれました」

「ですから毒にも薬にもならないと」

その日は疲れたのですぐに寝た.食器の洗い物は彼女に任せたが、おそらく洗っていないだろう。“今日のものは今日のうちに”、が、この家のルールだが、平然と今日の洗い物を明日になって「今日の洗い物です。よって私の当番ではありませんやってください」と笑顔で言ってのけるはずだ。

僕は目を擦りながら欠伸あくびをした.

やけに眠い。

彼女に挨拶をしてから布団に入り込むと、30秒後に枕を持った彼女が現れた。

同じ布団で寝るなんて、どんな天変地異が起きたのだろうか。

「滝行は疲れたでしょう。よく眠れるよう子守唄を」

一体あの1時間に何があったんだ。眠たい頭で考える。

「貴方は、滝行中に頭を打って気絶していたんですよ」

だから空白なのか。

目蓋が閉じ開きして、視界を揺らめかせる。

「なぜ、だまっていたんですか」

彼女はゆっくりとした調子で子守唄を歌い始めた。

僕はどんどん眠くなって、眠りについていく感じをゆっくりと味わっていた。ただ、不思議なのは、二度寝する時のようなまどろんだ起きているのと寝ているのと半分つずつのあの不思議な感覚がいつまでもまとわりついていることだ。

子守唄が聞こえる。

「だって、頭を打ったのは」

子守唄が聞こえる。

僕は、眠りにつく。

「私が殴ったからですから」

すかすかの空気が神経を通るようなすうっとした悪寒がして、僕は眠りについた。



書き終えると、僕は夢を思い出して、2、3滴の汗を垂らした。

「お、恐ろしい夢でした。何がとは言えませんが、なんでしょうか、怖かったです。夢の女の人は妙にわざとらしくて」

うっかりすると忘れてしまいそうなので、僕はもう一度日記を読んでいた。反芻するように読んでいた。何か違和感を感じた。

その様子を見ながら、彼女が思いついたように話し出した。

「もしかしたら、日記によって自己催眠にかかっているのかもしれませんね」

「自己催眠。あぁ、なるほど。たしかに。自己暗示的な?」

「ええ」

それは考えなかった。確かに、常識的に考えればそっちの可能性の方がある。いや、むしろ事実上どちらも同じことだ。夢に呼ばれようと、夢に呼ばれてると思い込むことも。どちらにしろ朝寝坊も眠気も存在するのだから。解決したいのはそこだ。

「日頃のストレスなどは思い当たることありますか?」

「いえ、特には。全くないとは言いませんが……」

彼女は少し考えてから僕に言った。

「仕事の疲れから来ているというのがよくある例ですね」

彼女がタイツを履いた足を組み直して、白衣からライトを取りして光らせた.

「私と目を合わせてもらえますか?」

「えっ」

突然のことにびっくりして、僕は声を上げる。

「瞳孔を見るので」

「えっ、なんでですか」

先生を視野に入れつつ、日記を反芻はんすうする。

4月9日。4月9日。4月9日。4月9日。

何か嫌な予感がしてきた。

「瞳孔を見ないと判断できないんです。眠いのは嫌でしょう?」

「ええ。まぁ」

僕は控えめに頷く。ライトを構えて、先生は笑う。

「大丈夫、ちょっと見るだけです。瞳孔が開いてないか。興奮状態にあるなら、催眠と何か関係があるかもしれません」

先生の言葉は、理解できたが頭に入ってこなかった。

4月9日。


ーー

子守唄が聞こえる。

「だって、頭を打ったのは」

子守唄が聞こえる。

僕は、眠りにつく。

「私が殴ったからですから」

すかすかの空気が神経を通るようなすうっとした悪寒がして、僕は眠りについた。


なんだ?何か変だ。

「ちょっと、大丈夫ですか?ふふ、無視しないで〜〜」

笑う先生。何か変だ。いや、おかしいのは先生じゃない。先生じゃなくてこの日記。いや待てよ?本当に先生はおかしくないのか?

頭がどんどん混乱してくる。

それでも思考を動かすのは、何かの違和感。

引っかかる。

何かが。


4月9日。

「私が殴ったからですから」

すかすかの空気が神経を通るようなすうっとした悪寒がして、僕は眠りについた。


なんだ?引っかかる。


4月9日。

すかすかの空気が神経を通るようなすうっとした悪寒がして、僕は眠りについた。


反芻はんすうする。


4月9日。

すうっとした悪寒がして、僕は眠りについた。


反芻はんすう


4月9日。

悪寒がして、僕は眠りについた。


4月9日。

僕は眠りについた。




僕はノートを見て固まった。

あれ?

固まった僕に、心配そうに先生が声をかけてきてくれた。

僕の太腿に手を添えて、こちらを覗き込むようにして、かがんだ白衣から、素肌が見える。ストッキングが擦れる。

やけになれなれしい。


4月9日。

僕は眠りについた。(・・・・・・・・・)


「起きられませんよ」

彼女声が震えた。

「貴方は寝てしまったんですよ。夢の中で。だから目覚ましはかけてない。かからない。貴方は起きられません」

空気が震える。声で声の振動で。息遣いが伝わってくる。

「わかりますか?抜け出せないんですよもう」

声の一音一音が、空気を吸って吐いて行われているものとよくわかる。

「何が嫌なんです?楽しいでしょう?愛して愛されて。相思相愛。どんなシチュエーションも可能だし、ちょっとエッチなことだってできます。何が嫌なんです?」

耳の裏の皮膚を撫でられる。

「なんでも自由自在」

彼女は僕の髪の毛を一本一本弄いじる。

「寂しかったなぁ。何やっても帰っちゃうんだもん。せっかく私がいるのに。ね?」

彼女の首に手をあてがわれて、心臓の音が聞こえる。

とくんとくんと、これは彼女の心音か?それとも僕の?

「寂しかったなぁ、寂しかったなぁ、1日のうち6時間くらいしか会えない。私の1日は6時間。切ないよねぇ辛いよねぇ。そんなに寝るのって時間の無駄かなぁ?良いじゃんずっと寝てたって、どうせ誰も困らないよ」

震える僕の手の上から絡ませるようにして手が重ねられる。

「でもね!安心して!もうずっと一緒!!安心してね!もう逃げられないよ。起きられない!!ずっと一緒に2人で楽しいことしようね」

世界が歪む。

歪んでいって、目が回る。全てはぐにゃぐにゃの飴細工みたいに溶けて、水飴になり、液体のようにサラサラになり、なくなっていく。


女と目が合った。



ーー



僕は目が覚めて飛び起きた。

「はーっはーっはぁあ」

同じベッドから、女性の声がする。

「ど、どうしたの……大丈夫?怖い夢でも見た?」

大人しそうな女性が布団から出てきて、眠そうにアイマスクをつけたまま背中をさすってくれる。

「よっぽど怖かったんだねえ。よしよし」

頭まで撫でてくれる始末。

「どんな夢を見たの?話すと楽になるよ」

「いや、なんていうか、目が覚めない夢」

「変なの」

少し笑われたので、僕は不機嫌になった。

「本当に恐ろしい夢だったんだ」

「だからどんなの」

「女が僕を追ってくる」

「モテモテじゃん」

「本当にやばいやつなんだって!!なんか知らないけどいろんな顔して追ってきて、目が覚めないんだ!!」

「ふーんそりゃあ怖かったねえ」

彼女はポンポンと僕の背を撫でると「寝よう」と言ってそのまま眠そうに布団に潜った。

彼女と会話をして、少し落ち着いた僕も、つられて、まぁ夢か。と納得して布団に潜った。彼女は僕の隣で、アイマスクをそのままにして寝ている。

「その女の人って、」

彼女はアイマスクを外した。

「こんな顔?」

女と目が合った。

次はもっとちゃんとしたヤンデレになるよう頑張ります!

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