友達気分
「僕らみたいな狂気の固まりが、仲良くお友達ってこと自体が無理なんじゃない?」
チェイサー片手にウィスキーを飲み干すこの男は、芸大を出てしばらく行方不明になったかと思えば、突然海外ブランドのデザイナーとして再び現れた。昔から何をやらせても器用で、その代わり何をするかわからない男だった。渾名はピカソ。そう言えば、娘のピカソはティファニーのデザイナーだった。当たらずとも遠からず。
「何の話? わたし、あなたとお友達になった覚えないけど」
「君と瑠衣ちゃんだよ」
「悪趣味ね。……どうにもならないからそのままにしたの。これで満足?」
「つまらないな。君なら、本気で行けば獲れただろう。僕が見る限り、目は確かにあった」
「賭け事は嫌いなの。あなたと違ってね」
にやっと嗤うこの男とはもう長い付き合いになるが、全く好きになれない。それなら何故一緒に飲んでいるかと言えば、彼の実家は大富豪でいくつも画廊を経営しているからであった。今も彼の母であるオーナーが席を外した途端、こうしてつついてくる。嫌な奴だ。
「欲しいか、欲しくないかだろ?」
首を傾げたこの男は、振られたことがないのかもしれない。まあ、男も女もよく引っ掛けていた。揉め事も多かったが、自分はするっと抜けてしまうタイプだ。本当に嫌な奴。
「それ以上突っ込むなら、今日全部奢りで」
「もち」
ウィンクが様になるとかどれだけ嫌味な男なんだ。睨み付けていると、シャンパンがボトルで来た。無論、本物の。
結局、遊び相手にはちょうどいいから、何だかんだ続いてしまうのだろう。
グラスを合わせて、その細やかな泡の中に沈んだ。