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29 訓練~決着

 こちらを睨みつけているオーガ。


 その巨体に横から飛んできた火球と矢が、命中した。


 それらが、放たれた方を見てみると、先ほど逃げてきた男女2人の先輩が、片膝をついたオーガを見て好機と判断したのか、弓と杖を構えていた。


 俺も、一気に攻勢に出るチャンスかと思い、位置的には逆側にいるクレア先生の方を見てみた。


 が、先生は移動しながら、なにやら魔石銃を弄っている。何か銃にトラブルであろうか…?

 魔石銃は、新技術であるためトラブルを起こしやすいと聞いたことがある。


 俺は、先生の指示を諦めて、魔導矢の最後の一本『火の矢』を、矢筒から取り出す。

 これで、矢筒に入っているのは、普通の矢のみである。


「セシル。これが撃ち終わったら交代で」


 何気に接触状態でいるのは不便である…。

 二人で同時に何かをするのは、慣れたない俺とセシリアにとっては、不可能に思えた。

 今後、戦う時の体勢などを、二人で戦う方法を練習していけば出来なくはないのだろうが…。

 その証拠にセシリアも黙ったまま、俺の首筋をつねっていた。


 オーガは、こちらを睨みつけたまま立ち上がろうとしているが、『氷の矢』のダメージが大きいのか、なかなか起き上がれないでいる。


 それを見て俺は、三度、弓を構えて狙いを定めていく。

 そして、先ほどと同じように、ゆっくりと魔力を込めていく。

 それに合わせて、今度は、鏃が赤く光っていく。


 ビューーーン!


 俺が放った矢は、オーガの顔面に向かって真っすぐ飛んでいく。

 が、その巨体のわりに素早く振り上げられたオーガの腕により、顔面への直撃は阻まれてしまう。


 しかし、使用したのは『火の矢』である。


 次の瞬間、矢の刺さったオーガの腕は、炎に包まれた。

 オーガの体毛に火が燃え移った様である。


 そこへ、一つの人影が近づいていく。


「くそ魔族が!未来の英雄ダガード様の剣技を受けてみろ!」


 そう叫んでオーガに近づいた影の正体は、今朝、見かけたダガード先輩である。

 どこからともなく現れたダガード先輩は、大剣を振りかぶって殴りかかろうとする。


「ダメ!」


 先輩に気付いたクレア先生の、叫び声があたりに響き渡る。


 しかし間に合わず、炎にまかれて暴れ回るオーガの、カウンターパンチをもろにくらい、大きく弧を描くように吹き飛ばされる。

 ダガード先輩は、10メートルくらい離れた所にある木に叩きつけられ、通常ではありえない体勢で動かなくなってしまった。


「攻撃は遠くから、仕掛けなさい!」


 その簡単に人が死んだかもしれないというありえない光景にしばらく思考がとまっていた俺達を、クレア先生の叫び声が引き戻す。


 そのクレア先生は、移動しながら、まだ何やら魔石銃を弄っている。

 やはり、何か魔石銃に不具合が起きたのだろう。


「エル。じゃあ。わたしの番!」


 俺と同じ様に思考を停止させていた感じのセシリアも、思い出したように、俺の前へ出る。


 そして、彼女は持っていた魔導書を左手の親指を挟むように広げた。

 中等部を卒業したばかりの俺達は、まだ本格的に魔法文字を習っていない。

 そのため、頭の中に魔法文字をイメージするために、文字が書いてある魔導書を開きそれをそのまま頭に浮かべるという作業をするのだ。


 俺は、少し後ろに下がり、今セシリアのポニーテールの下のうなじのところに手を置いた。


「ファイア・ボール!」


 何やら呟いた後、セシリアは、中等部で使う魔導書の中では、最も強力な火属性の魔法の名前を叫ぶ。

≪ファイア・ボール≫――火の初級魔法。火の玉を放つ魔法である。玉は相手にあたると炸裂しダメージを与える。


「!」


 スキル持ちのセシリアのファイア・ボールは、予想通り、またデカイ。

 いやデカすぎるし熱すぎる…。

 それは、1メートルくらいの炎が大玉であった。

 痛いくらいの熱が俺の体を襲う。もっと近くにいるセシリアは更に熱かったに違いない…。


 しかし、助かった事に、次の瞬間には、その炎の大玉は、俺達の前から離れ、轟音を上げてオーガに向かっていき直撃していた。


 見事にオーガに命中し破裂する炎。

 俺が放った『火の矢』なんて比ではない…オーガの巨体は、大きな炎の塊となっていく。

 のたうち回る巨体…周りの落ち葉に火が燃え移り更に燃え広がる…。


 セシリアやりすぎである…。

 このままでは落ち葉や枯れ木に燃え移り、山火事になりそうである。


「え、どうしよう…」

 セシリアも、予想以上の炎上ぶりだったのだろう…青い顔をしてこちらを見てくる。


「…ウォーター・クリエイトとかアクア・ボムとかで火を消せばいいんじゃないか…?」


 やはり、火を消すには水が一番のはずである。というかそれしか思い浮かびません…。


「そ、そだね…」


 セシリアは、再び魔導書をめくりはじめる。

 水魔法のページを必死に探している様だ。 

 その間も、オーガは火だるまになったまま暴れまわり、クレア先生や周りに数名居る生徒はあっけにとられた様にその熱源から後退していく。


「アクア・ボーム!」


 セシリアは、今度はそう叫んで、手をかざす。

 いちいち魔法の名前を叫ばなくてもいいはずだが、中等部の授業では魔法名をいちいち言うのがお約束なので、セシリアも、その後遺症で魔法の名前を叫んでいる。


 《アクア・ボム》――水の初級魔法。水の玉を上空に出現させ落とす魔法。


 火だるまのオーガの上の方に、大きな水の塊が出現する。

 これまたデカイ直径3メートルくらいの大きな玉である…。


 それがそのまま落下し火だるまのオーガに直撃する。


 水は大きくはじけ、予想していた通り、オーガについた火や、落ち葉に燃え移っていた火もきれいに消してくれた。


 そして、最後には黒焦げになって動かなくなった黒い塊…オーガ?が、泥濘の中に転がっている。


「…」


 一瞬の沈黙…立て続けに起きた変な威力の初級魔法攻撃に、周りにいた先輩たちはおろか、クレア先生もあっけにとられたままでいる。


 そんな中ようやく思い出したように、クレア先生は、泥濘に足を取られないようにしながら、オーガに近づき、動かなくなった黒い塊の頭っぽいところにバーンと魔石銃を撃ちこんでいく。

 だが、黒い塊は、全く動かない。

 どうやら、オーガは、完全にこと切れている様である。


「…いくら。SSランクスキル持ちでも…ここまですごいとはね…」


 クレア先生は、つま先立ちで、泥濘を避けながら俺達の方に近づいてきた。


「は…はは…」


 セシリアは、微妙な笑みを浮かべている。

 クレア先生は、視線が低いためか、丁度、セシリアのうなじに触れている俺の手が目に入り、注視している様だった。

 俺は、慌ててセシリアから手を離した。


「それより、早く怪我人を助けないと…」

 俺はごまかすように言う。

 なにより、先ほど吹き飛ばされたなんとか先輩など、上下逆さまに木に立てかかった、まま、全く動かないので心配である。


「そうね。まだ居るかもしれないから、各自注意しつつ、動ける人は、動けない人の救助を。何人か学園に戻ったから、1時間もすれば救助が来るはずよ」

 いつもと違う感じで先輩たちに指示を出すクレア先生。

 いつものふわりとした感じは演技なのだろうか…?


「私が治療できるから、けが人は私の所に連れてきて」


 そう言いながら、クレア先生は、まずは吹き飛ばされた先輩のところまで移動していく。

 そして、その生徒の首筋をクレア先生は触っていたが、神妙な顔をして、「あなた達、彼を下ろしてあげて」と、近くにいた生徒に言った。


「セシリアとエルク君は、『帰還の水晶』で帰ってね。治療の邪魔だからね」


 俺達も、救助作業を手伝おうと思ったが、クレア先生に、そう釘を刺されて、大人しく戻る事にした。

 先生の様子から、先輩が死んだと判断して、セシリアはかなり動揺している様だ。

 俺の手を、強く握ってきていた。

 もちろん、他の生徒も動揺していたであろうが、そこが中等部と高等部の生徒の扱いの違いという事だろう。


 結局、オーガの襲撃により学生の死者が3名、ボイド先生を含め8名の人が重傷を負ったそうである…

 授業中の学園の生徒に死者が出たのは、数年ぶりとの事であり、アルタインの街は。再び警備を強化する事となり、俺の訓練はなかなかうまく進まないのであった…。

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