27 訓練~笛の音
『初心者の森 アルタイン口』まで、行ってみると、いつになく賑わっていた。
今朝、学園の外出禁止令が解除されたことにより、高等部の学生たちが集まっている様である。
「おや。クレア先生じゃないですか?」
攻略者名簿に名前を記載していると、そう声を掛けてくる男がいた。
振り返ると、そこには40代くらいの金髪の男である。
「あら。ボイド先生。お疲れ様です~」
クレア先生は、そう言ってスカートの裾を持ち上げて挨拶をする。
ボイド先生は、高等部の先生である。
彼は、生活指導とかも担当しているので、中等部の俺達からも恐れられている有名講師である。
「クレア先生は、何ていうか…暇そうで何よりですな」
ボイド先生は、クレア先生の格好や俺たちの様子を見てそんな事を言った。
特にクレア先生の黒いドレス姿を見て呆れている感じである。
「いえいえ。暇だなんて。そんな~」
クレア先生は、そう言って頭をかいている。
「ボイド先生は、高等部の補習ですか~?」
「そうですよ。魔族騒ぎのせいで、遅れ遅れになってしまって、大きく予定が狂ってしまったのでね。本当だったら、今頃は対抗戦の方に合流していたはずだったんですがね…」
ボイド先生は、苛立ったように言った。
高等部の先輩達の多くは、対抗戦に参加しているか、その応援の為に王都に行っている。
今ここにいる高等部の先輩達は、補習で参加できなかった者たちなのだろう。
「おい。中坊!邪魔だからどけ!」
先生たちのやり取りを聞いていると、大剣を背負った強面の先輩がそう言ってきた。
「あ。すいません」
俺とセシリアは、先輩たちに謝って道を開ける。
流石に補習組…なんて言うか…色んな意味で、強そうである。
「先生。オレら、準備できたんで、先に『レイガスのダンジョン』まで行ってますから」
「おい。ダガード。他のパーティーの準備が終わるのを待たないか!」
そう言って、他の生徒を置いて、先に行こうとする生徒たちを止めようとするボイド先生。
「先生。オレらは、こんな補習、早く終わらせて街に行きたいんですよ。先生だって、早く終わらせたいなら、とろい奴らにあわせてないで、オレらの課題を先に終わらせてくださいよ」
ダガードと呼ばれた先輩は、先生を無視して、仲間たちと共に『初心者の森』に入って行ってしまった。
「おい!ダガード!」
先生が呼び止めるが、そのまま行ってしまう。
あの、ボイド先生を無視するなんて、すごい先輩もいたものである…。
「まったく。これだから、補習組は…おい、お前ら、とろとろしてないで、準備が出来たパーティーから、ダガードたちを追いかけろ」
ボイド先生は、座って準備をしている他の先輩たちに叫んだ。
「はい!」
背負い袋を下ろしていた先輩たちは、慌てて荷物を纏め始める。
結局、4、5分後には先輩たちは、いなくなり、『初心者のダンジョン アルタイン口』は静かになった。
「それではクレア先生。先に行きますんで、暇なら、クレア先生に代わってもらいたいところですよ」
ボイド先生は、そう、ぶつくさ言いながら、先輩たちを追いかけていった。
「がんばってくださぁ~い」
クレア先生はにこやかに手を振って、初心者の森に入っていくボイド先生を見送っていた。
一瞬、遠くからボイド先生が鋭い視線をこちらに向けたが、クレア先生はおかまいなしである。
「それでは私たちも行きましょうかぁ?」
ボイド先生が、完全に見えなくなると、クレア先生は、そう言った
「でも、今、先輩たちの後を追いかけても敵が、いないんじゃないですか?」
俺は疑問を投げかける。
「きっと、大丈夫ですよ~。『初心者の森』は広いですし~。彼らの目的地は『レイガスのダンジョン』ですから、そっち方面を避ければいいんですよ~。それに、魔石狙いの乱獲パーティーじゃないから、絡まれない限り途中の雑魚は、無視していくと思いますよ~」
「なるほど…」
確かにそうである。
「そういえば、昨日、『レイガスのダンジョン』に行く途中のところに、魔石がいっぱい落ちてたんですよ。たぶん、小銭稼ぎで乱獲されたんだと思うんですけど…」
セシリアが、昨日のことを先生に伝える。
「そんなことがあったんですかぁ~。『初心者のダンジョン』って、広範囲のモンスターが散らばってるから、乱獲にはあまりむいてないんですけどね~」
「そうなんですか?」
「乱獲するなら、絶対、迷宮型のダンジョンがお勧めなのですよ!狭いところに敵がギュッと集まってますからね」
「なるほど…」
「でも、敵がギュッと集まっている分、迷宮型のダンジョンは難易度高めですからね~。いくら、セシリアちゃんでも、軽い気持ちで行ったら死んじゃいますからダメですよ~」
確かに、迷宮型のダンジョンはスキル持ちでないと入れない事になっている。
まあ、今の俺は一応スキル持ちだから入れるが…
「高等部でパーティー組むまで行く気はないですよ」
セシリアは、そう答える。
パン!
俺が弓を構えるより早く、一角ウサギは魔石になった。
「先生!エルの訓練にならないじゃないですか!」
セシリアが、クレア先生を叱る。
「ごめんなさいですの~。魔物が現れると、つい体が動いちゃって~」
クレア先生は、てへっとベロを出す。
さっきから、この繰り返しである。
木が、カサって動くと、クレア先生は銃を構え、魔物だとわかると瞬殺してしまうのである。
「まあ。大丈夫ですよ。一角ウサギは、卒業しましたから」
昨日まで、散々、一角ウサギは倒してきたのである。
俺の今日の標的は、フォレストウルフである。
「それにしても、魔石銃ってすごいですね…どのくらいの威力があるんですか?」
一角ウサギは、とりあえず一撃で倒せるようである。
では、フォレストウルフはどうなのだろうか?
「う~ん。かなり痛いですよ~」
「…」
クレア先生は、首を傾げながらそう答えた。
『アルタイン口』から1時間以上歩き、昨日も来た分かれ道の所まで来た。
補習組の先輩たちは、『レイガスのダンジョン』に向かった筈である。
ピーーーーーーーー
どっちに行くか相談していると…遠くで笛が鳴る様な音がしてきた。
何の音だろう?鳥の鳴き声だろうか?
「何かあったみたいですね…」
クレア先生は、素早く反応し。魔石銃を構えて、目を瞑っている。
ピーーーーー
また、笛の様な音が鳴る。
そうか、これは非常事態を知らせる笛の音だ…。
「あっちの方ですね」
セシリアも、音の正体に気付き戦闘態勢に入る。
クレア先生は、いつものと違って厳しい表情をしていた。
「先に行った先輩たちですかね?」
「おそらくね。普通の冒険者だったら笛なんて持ち歩いてないだろうからね…」
クレア先生の受け答えは、いつもと違ってはっきりしていた。
これが先生の本来の姿なのだろうか?
学園では、探索する際には、リーダーが笛を持つことになっている。
それは、授業中にダンジョンで不測の事態が起きた時に先生に知らせる為である。
俺も、ちゃんと『異空間袋』の中に、笛をしまってある。
ピッピーーーーー
「ちょっと、先生。先に行って様子を見てくるから。二人は『帰還の水晶』をいつでも使えるようにして、この先の広場で待機していてちょうだい。状況を確認したら、チャットで支持するから」
先生は、そう言って、『レイガスのダンジョン』の方に走って行った。
この先の広場と言えば、昨日のジャイアントクロウラーの巣である。
俺とセシリアは、『帰還の水晶』の場所を再確認して、クレア先生の後を追いかけるのであった。




