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26 訓練~矢を買おう

 アルタインの街の南東部、大通りから一本中に入ったところにその武器屋はあった。

 『ネルソンの武具店』という古い看板、人が入るのを拒否するような雰囲気の暗さ、おそらく、俺達だけだったらなかなか入れなかっただろう。

 こういった店に入るのは、最初の一回目が大変なのである。


 先を行くクレア先生は、普通にドアを開けて入って行く。

 今日のクレア先生は、私服という事で特徴的な服を着ていた。

 上等なケープマントの下に、黒を基調とした華美な洋服とスカート、そして編み上げのブーツを履いていた。

 なんか、どこかの貴族のお嬢様みたいな姿である。


 俺たちも、彼女の後に続く。

 店の中は暗く、奥のカウンターには、眼鏡をかけたおじさんが座っていた。

「お、クレア先生。今日はどんな用かな」

 おじさんは、顔を上げ、カウンターにまっすぐ近づくクレア先生に声をかけてきた。


「おはようなのですよ。今日は、コレのメンテナンスをお願いしたいのと…矢を見たいという生徒を連れて来たのですよ」

 クレア先生は、マントをおじさんの方に広げて見せる。

 こちらからは見えなかったが、マントの内側にはなにやら武器を持っている様である。


「じゃあ、親父は上にいるから、先生はそのまま上に。生徒の方は俺が相手をしておこう」

「ええ。まだ中等部を卒業したてだから、丁寧に教えてあげてほしいのですよ」

 クレア先生は、おじさんにそうお願いして、こちらを振り返った。


「先生は、ちょっと上に行ってくるから、何かわからなかったら、あのおじさんに聞くと良いのですよ」

 クレア先生は、そう言って、そのまま店の奥へと入って行った。


 店の中は、様々な種類の武器が並んでいた。

 いつもは、あまり物怖じしないセシリアも緊張したように近くの武器を見ている。

 値札を見ると、どれも10,000メルク以上の品である…。

 というか見た事のない金額の武器も多い。

 魔装武器というやつであろうか…?


「今年卒業したてっていうと、スキル貰ったばっかりだよな?」

 矢を探す俺に、店主のおじさんが話しかけてきた。


「はい…それで弓のスキルを貰ったんですけど…先生から魔法式が刻まれた矢があるって聞いたもので…」

 弓のCランクスキルですけどね…。

「そっか…それなら、こっちにあるぞ。まあ、魔導矢は、魔法コントロールが苦手な人でも使えるから便利なんだが…」

 おじさんは、言葉を濁す。

 例の矢は、魔導矢と言うらしい。


「やっぱり結構するね…」

 セシリアは、ケースの中を覗き込みながら言った。

 確かに値段は高かった。

 矢が一本100メルクである…。

 100メルクと言えば…ちょっと高めの定食1食分である。

 『森の恵み食堂』のランチであれば2食分である…。


「ちなみに…この矢は再利用できるんですか?」

 俺は念のため、店主のおじさんに聞いてみた。

「いや…無理だな。例え矢を回収できたとしても、衝撃で魔法式が壊れてしまってるだろうからな」

「…やっぱ。そうですよね…」

「魔導矢の魔法式は、結構繊細でな。職人の手作業で一本ずつ作っているんだよ。そして、その分値段もはるわけだ」

 おじさんは、そう説明してくれる。


「エル。試しに、この3本セットの買ってみれば?」

 セシリアの指さした方を見ると、『火の魔導矢』『氷の魔導矢』『雷の魔導矢』の3本セットが、束になって置いてあった。270メルクで結構お得かもしれない。

 確かに、試しに使ってみるのには良いかもしれない。


「じゃあ。これに2セットください」

 俺は、念のため2セット買う事とした。

 貧乏な俺にとっては結構な出費である。

 それにしても、弓矢がこんなに金のかかる武器だとは思ってもみなかった。

 魔導矢と普通の矢を間違って使わない様に注意しなくては…。



「じゃあ。矢が必要になったら。また来てくれよな」

 おじさんは、笑顔でそう送り出してくれた。

 矢の威力と所持金と相談して、また来ます…。


「ところで、先生は、上で何をしてたんですか?」

 軽く跳ねながら前を歩くクレア先生に、セシリアが聞いた。


「先生は、武器のメンテナンスをしてもらっていたのですよ~」

 先生は、立ち止まって後ろを向いた。


「先生の武器って何なんですか?」

「へへん…これなのですよ」

 目を輝かせて聞くセシリアに、クレア先生は、マントをめくって見せてくれる。

 彼女の腰の後ろには、ホルダーに収まった武器っぽいのがチラッと見えた。


「…それ。魔石銃ですか?」

 セシリアが確認する。

「へぇ。よくわかったですね~」

 クレア先生は、感心したように言った。


「ええ…なんか昔、本で見たことがあったので…」

「そうなのですかぁ。先生。背が低いし、戦闘系スキルが無いから、こういう武器しか扱えないのですよ」

 いやいや…先生…それはおかしいです…。

 魔石銃の製造工程は、かつて東にあったアストリアの国家機密になっていたはずである。

 一般には出回っていないはずの武器で、アストリアが滅んだ後は生産されていないはずである。

 なんでも、アストリア地方でしか取れない特殊な素材を使っていたらしい。


 なので、「戦闘スキルが無いから…」とか言って軽く入手できる物ではないのである。

 そんなものを持っているなんて、クレア先生。実を言うと相当な金持ちなのかもしれない。

 特に、今日のクレア先生は、貴族っぽい格好だしな。


 何で、俺が魔石銃の事に詳しいのかと言うと、セシリアが壊れた魔石銃を持っていて、初等部に入学したての頃、学園の図書館で、一緒に調べたからである。


「弓矢と同じで、メンテナンスとか魔石の費用とかで、お金のかかる武器なのですよ…」


「そうなんですか…あの店は、魔石銃のメンテナンスとかやってるんですか?」

 セシリアは、そっちの方に興味があるようである。

 自分の壊れた魔石銃を直せるかも知らないとか、考えているのかもしれない。

「ええ。ネルソンのおじいさんが、軽いメンテナンスならやってくれるのですよ。もっとも銃のメンテなんて、先生くらいしか、頼んでないですけどね~」


「魔石銃は、珍しいですからね…クレア先生って、すごいんですね」

「えっへん。セシリアちゃん。今頃気付いたのですかぁ?先生は、こう見えてすごいんですよ」

 と言って、先生は、背が低いわりに意外とある胸を張る…。

 やっぱり掴みどころのない先生である。



「それで、セシリアちゃんたちは、今日はなにをするのですか~?」

「今日も『初心者の森』に行くつもりです。さっき買った矢も試してみたいですしね」

 セシリアがそう答えているが、矢を試すのは俺である…。

 しかも、定食一食分の値段の矢を、そう簡単に試したくないんだけど…。


「先生も一緒に行っていいですか~?先生も、ちょっと銃の動作を試したいのですよ」

「え。まあ。それはいいですけど…」

「邪魔はしないですよ~」

 いや。どちらからと言うと俺は、邪魔されても見てみたいんですけど…魔導銃の威力。

 あと、ついでに先生の戦う姿も…。


「いや。一緒に行くのがダメってわけじゃ無くて…その格好でいくんですか?」

 セシリアの言う通り、確かに、先生の格好は、ダンジョンに行く格好ではない気がする。

 まあ、いつもの長いスカートよりは歩きやすそうだが…。


「え~。でも、これ先生の戦闘用装備なのですよ~」

『え…?』

 セシリアとハモってしまった。

 ドレスっぽく見えて、実はすごい防御効果があるのか?


 色々な意味で規格外であるクレア先生…。

「わかりました…それなら。先生。パーティーに誘いますね。ステータスオープン」

 セシリアは、そう言って、操作を始める。

 そう言えば、リーダーはセシリアだった。

「え…?」

 セシリアは、そう呟いて、一瞬、操作していた手を止め、また、操作を始めた。


「ステータスオープン」

 ちょっと気になったので、一応、俺もステータスを開いてみる。

 パーティーメンバーの所に『クレア先生』と追加されていた…。

 俺もセシリアもそれ以上は突っ込まなかった。

 名前や真名と違って、表示名は、自由に変更できるのである…。


「じゃあ…行きましょ~」

 軽く跳ねながら歩くクレア先生を先頭に、俺達は、街の北門を目指して出発するのであった。


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