25 訓練~クレア先生に相談
「ぷは~。それで、セシリアちゃん。相談ってなんですかぁ?」
一気に大ジョッキのエール酒を半分くらいまで空けて、クレア先生は聞いてきた。
いつもなら、混んでいてもいい時間だが、『森の恵み食堂』は、すいていた。
学園の学生に、校外への外出禁止令が出されているのが大きな理由と言えるだろう。
店には、俺たちの他には、冒険者風のグループが一組いるだけある。
で、なぜ、俺たちが『森の恵み食堂』で、クレア先生のお酒の相手をしているかと言うと…。
冒険者ギルドでの、連絡係の仕事を終えたクレア先生に対して、セシリアが「相談したいことがある」と言って誘ったのが発端である。
クレア先生は、最初は渋っていたのだが…
セシリアの「食事でもしながら」と言う言葉を聞いた途端、クレア先生は、気が変わった様で…。
「大事な生徒の相談を聞くのも先生の役目ですよね。これも仕事の内ですよね」とか言って、なぜか、今に至る。
テーブルには、既に何品かおつまみも並んでいた。
「相談っていうのは…エルクの事なんですけど…」
え?…俺の事だったのか!?
俺も、セシリアの相談内容については、聞かされてはいなかった。
「え、何?浮気した~?」
なんか嬉しそうに言うクレア先生…。
本人の前でそんな話はしないでしょう…。
「いや…エルと私はそういうの気にする関係じゃありませんから…」
「あら…そうなのです?」
「そうなのです!…それより先生…今、エルの弓の訓練しているんですけど…」
セシリアは、目をキラキラさせているクレア先生を無視して、相談内容に話を持っていく。
俺も、セシリアの相談の内容が、弓の事だと聞いて、一安心である。
セシリアが、俺の事を相談したいと言ったので…内心、ドキドキしてたのである。
「なんというか弓って…地味というか…ちまちましているというか…」
おい…。セシリアよ…狩人の皆さんに謝りなさい…。
「言いたいことは、なんとなく、わかったですよ。弓がショボいから、なんか派手な必殺技とかないか。先生に聞きたいのですね?」
クレア先生も、弓に謝りなさい…。
「です。です。何かエルでも使える技とかのないですか?」
「…」
エルでも…って。まあCランクだし、気持ちはわかるけど…。
「う~ん。セシリアちゃんも知っての通り、先生。実技担当じゃないから、あまり詳しくないですよ」
「そうですか…」
落胆するセシリア。
「でも、有名な技だと、フリーズシュートとかファイアシュートとかがあるかもです」
お、なんかカッコ良さそうな技名が…。
「それ。俺でも使えるんですか?」
「う~ん…たぶん…?」
頼りないクレア先生。そう言って、エール酒を一口飲む。
「確か、魔法式が刻まれた矢を使えば、慣れてない人でもフリーズシュートとか撃てるはずなのですよ」
「え、そうなんですか?」
「そうそう。いわゆる。魔法剣とかの弓矢バージョンなのですよ」
お、それ良いかも…!
「どこで売っているんですか?」
セシリアが聞く、確かに学園の購買部では売ってなかった気がする。
「う~ん…街の武器屋なら売ってるのですよ~。ほら、裏通りに主に魔武具を扱っているお店あるじゃないですかぁ」
「魔武具ですか…」
「そうそう…高等部の生徒は結構、お世話になってる店なのですよ。一度いってみるとよいのですよ」
クレア先生は、エール酒を飲み干した。
初等部の学生みたいな体をして、よく飲む先生である。
「ミネア~もう一杯!」
店員さんの方を振り返り、クレア先生が、手を振りながら、そう叫んだ。
店員さんの名前はミネアさんと言い、クレア先生とは昔からの知り合いらしい。
「オイオイ。この店では、そんなガキにまで酒を飲ませてるのかよ!」
突然、野太い男の声が店に響く。
声の方を見ると、冒険者の男が近づいてくる。
俺より年上の17、8歳の男だったが、顔が赤くで、完全に酔っている様である。
「先生は、立派な大人なのですよ」
クレア先生は、いつも通りの口調で言った。
確かに知らない人が見ると、子供みたいだから…こういう事は良くあることなのだろうか…。
先生は、援護しようとする俺とセシリアを制して、携帯していた、学園の職員証を男に見せるように出した。
「そうですよ。お客様。クレア先生はこう見えて、立派な大人だからお酒を飲んでも大丈夫なんですよ」
と、大ジョッキのエール酒を持ってきたミネアさんも、男の冒険者に説明する。
だが…男は、先生の出した職員証を見る素振りもなく…
「ああん。そんなわけねーだろ。こんなガキみたいな大人がいるかよ!」
と、大声を出して更に絡んでくる。
男の仲間の冒険者たちを見ると、男を止める気はないらしくニヤニヤしている。
「すいません。お客様。他のお客様のご迷惑になりますので…お静かにお願いできますか?」
ミネアさんは、そう男を注意した。
「ああん?なめてんのか?このアマ!ほかに客なんていねえだろー!?」
男は、ミネアさんをにらみつける。
俺は、ミネアさんと男の間に入ろうと立ち上がった。
が、それより早くクレア先生が、ミネアさんと男の間に入った。
「ボクちゃん。少し飲みすぎなのですよ…」
クレア先生が、男を見上げてそう言う。
次の瞬間、男は後ろに大きくふらついて倒れそうになって、慌ててイスにしがみついた。
「な…」
男は、一人で勝手によろめいて倒れたにも関わらず、また立ち上がって文句を言おうとしているように見えた…。
が、次の瞬間、ガクンと首を落として、いびきをかきだす。
どうやら眠ってしまったようである。
「おーい。なんか、お仲間君が、寝ちゃったみたいだから運んで貰ってもよいですかぁ?」
クレア先生は、男の仲間たちに向けて叫んだ。
「なんだよ。だらしないな」
とか言いながら、男の仲間たちは、男に肩を貸して自分の席の方に戻っていった。
「先生何かしたんですか?」
「う~ん。飲みすぎて自分で転んだだけじゃないかなぁ?」
不思議そうに聞くセシリアに、クレア先生はそう答えた。
確かに、俺も先生が何か特別な事をしたようには見えなかったが…。
まだ、日が沈んだばかりである。
あの冒険者たちがいつからどれくらい飲んでいるのかは知らないが、眠ってしまうのは不自然な気がした。
「じゃあ。飲みなおすわよ!クレア料理もジャンジャン持って来て!セシリアちゃんたちも先生が奢ってあげるからガンガン飲んで食べてね」
「いや…私たちは、そんな飲めませんから…」
そもそも、別に飲みに来たわけじゃ無いから…。
説明をしておくが、スキルを貰い立派に大人扱いになった俺たちは、お酒を飲める。
だが、先日、2人でお酒を試しに少し飲んでみたのだが…。
まだ、飲まなくてもいいかなって結論に落ち着いたのである。
「あ、そうそう~ミネア~。明日には生徒も外出できるようになるから、期待しててねぇ」
クレア先生は、ミネアさんにそう言う。
そう、結局、一週間たっても、魔族の存在を確認できなかったため、学園の校外への外出禁止令は明日、解かれることになったのだ。
「本当?じゃあ明日は、仕入れを増やさないとね」
「だから。今日はサービスしてねぇ」
「はいよー。サービスはするけ、値引きはしないからね!」
ミネアさんは、そう笑って言って戻っていった。
「…で、もう相談っていいんだっけぇ?」
先生のお酒も進み、俺たちもおなかがいっぱいになってきた頃に、思い出したようにクレア先生が、聞いてきた。
「はい。明日、エルと武器屋に行って矢を探してみます」
「そう…明日だったら、一緒にいってあげようかぁ?きっと、警戒態勢もとけたから大丈夫だと思うから…」
「え…いいんですか?正直、その魔武具売ってる武器屋の場所がわからなかったんで…お願いします」
「…もちろんですよ~。で、これからが本題なのですけど、セシリアちゃん。この書類に記載お願いよ~今日と明日の分書いてねぇ」
その書類には『生徒相談受付書』と書いてあった。
「これ出してもらえれば…業務として認めてもらえる…じゃなかった…生徒の相談を受けるにはこの書類が必要なのよ~」
先生は酔っているせいか、生徒に聞かせてはいけなそうなことも言ってしまっている。
「はい。わかりました。この書類を書けばいいんですね?」
「そうなのですよ。セシリアちゃんの相談なら鬼教頭も認めてくれるはずなのですよ…」
その後、俺たち二人は、箍が外れたように上司に対する愚痴を吐く先生に、遅くまで付き合ったのだった。




