24 訓練~初心者の森
結局、警備隊や冒険者の南の森の捜索によっても、魔族の痕跡を発見できないまま、一週間過ぎていた。
マーニャさんによると、後2,3日で南の森の立ち入り禁止も解除されるのではないかという事だ。
そんな中、俺とセシリアは、雪がすっかり消えた『初心者の森』の奥の方まで来ていた。
一週間、一角ウサギなどの雑魚を相手に戦い、弓の扱いには慣れてきた。
一角ウサギなら攻撃を躱しながら、無傷で倒せるようになった。
そして、次のステップとして、もう少し強い魔物がでる場所まで移動中である。
「どっち行こうか?」
分かれ道の所で、セシリアが聞いてくる。
左に行くと『中央口方面』、まっすぐ行くと『北口方面』、右に行くと『レイガスのダンジョン方面』と、立て看板にある。
「『レイガスのダンジョン』の方に行ってみようか、あまり行ったことないしな」
『レイガスのダンジョン』は洞窟型のダンジョンで28階層まであるダンジョンである。
このダンジョンも、作成者は倒され、コアも発見されている。
ここも、学園の生徒の訓練のために壊さずに残されているのだ。
「そうね。『レイガスのダンジョン』までは、結構、遠いから今からだと辿り着けないだろうけど、気分転換にそっちの方に行ってみようか…敵も強くなるから気を付けて行ってね」
セシリアは、俺を先行させる。
彼女は、いざという時にしか手を出さないスタンスである。
しばらく進むと、かなり広い広場に出る。
広場にいたのは…ジャイアントクロウラーである…。
見つかると糸を吐いて攻撃してくる。
糸は粘着力があり、更に毒がある。
それで獲物を動けなくして、捕らえるのである。
「クロウラーの巣ね…私結構、苦手なのよね」
セシリアは、そんな事を言っている。
クロウラーの巣はダンジョンでクロウラーが定期的に発生する広場の事である。
確かに大量の芋虫は不気味である。
「リンクしないように気を付けてね」
セシリアにそう言われ、慎重に狙いを定める。
クロウラーは足が遅いため、弓矢とは相性が良いはずである。
リンクさえさせなければ…。
ビュン
命中。
ジャイアントクロウラーは、俺に気付き、ゆっくりと体をこちらに向ける…
俺は、次の矢を構える。
ビュン。
命中。
ジャイアントクロウラーが、口より白い水の様なものを飛ばしてくる。
その糸は10メートルくらい飛ぶが、俺のいる場所までは届かない。
俺は、糸が届かないうちに更に何度か矢を放つ。
結局、5本矢が命中したところで、ジャイアントクロウラーは、魔石になった。
「やっぱ、足が遅い敵には弓矢は効果的ね」
「ああ、楽勝だな」
「…エル~調子に乗るなよ!ここじゃあ、訓練にならないから…気付かれない様に先に移動するからね」
セシリアにそう言われ、俺は、他のジャイアントクロウラーに気付かれない様に、米粒より少し大きいサイズの魔石、そして、矢を拾う。
ジャイアントクロウラーの魔石は、一角ウサギの魔石より大きいので、弓使いにとってはお得な相手である。
なんとか、巨大芋虫達に気付かれないように、クロウラーの巣を過ぎると、少しきつい上りになっていた。
もともと、『アルタイン口』から北に行くにつれて少しずつ上りになっている。
それを考えると、だいぶ高いところに来ているはずだ。
場所によっては、遠くにアルタインの街の時計台、神殿、そして学園を見ることができるかもしれない。
さらに先に進むとだんだんと樹木が少なくなる。
ここら辺一帯は、昔、火事でもあったのか、折れた木やら白くなって倒れた木が多かった。
「敵居ないね」
低い木が多く、少し見渡しが良いので結構遠くまで見ることが出来た。
「ああ…」
足元で何かが光った。
1センチくらいある魔石である。
「セシル。これ」
俺は、魔石を拾って彼女に渡す。
「ん?結構大きな魔石ね…フォレストウルフの魔石かしら…」
「他にも落ちてるぞ」
「あ、ほんとだ…」
最初は、誰かの拾い忘れかと思ったが、どうやら違うようだ。
周りを良く見ると結構な数の魔石が落ちている。
近くに誰かが、いるのかもしれない。
良く見ると、少し先の所でも魔石がキラキラと落ちていた。
「近くに乱獲しているパーティーがいるのかも知れないわね」
そう、魔石を稼ぐために、弱めの魔物を乱獲するパーティーもいるのだ。
パーティーで乱獲狩りをする時は、敵を一気に殲滅してから、後から魔石などのドロップ品を回収することが多いのだ。
「そうかもしれないな…それか…途中でアクシデントが起きて『帰還の水晶』で帰ったか…」
「でも、どっちにしても、回収に戻ってくるかもしれないから、戻しておきましょ。横取りしたって言われるのも嫌だしね」
セシリアは、そう言って、俺が渡した魔石を捨てた。
「こっちには、高等部のパーティーがいるかもしれないから、少し戻って違う道を行ってみましょう」
「そうだな」
こんな場所で、乱獲できるのは高等部の連中である。
会うと少し気まずいので俺たちは、来た道を戻る事とした。
結局、他のパーティーには出会うことなく、ジャイアントクロウラーを数匹倒して『帰還の水晶』を使って帰還した。
帰還先は、いつも通り学園の広場である。
距離的な問題もあるので、付近のダンジョンに行く人は、学園の広場か、神殿の広場に帰還場所を設定している場合が多い。
あまりにも遠い場所に帰還場所を設定していると、『帰還の水晶』は反応しないという。
実際、試したことはないので学園の授業の受け売りであるが…。
「あ、セシリアちゃ~ん。エルクく~ん」
この声は…。
学園から、外に出ようと門の方に向かって歩いている時に、大きな声で呼ばれる。
走ってきたのは…クレア先生である。
いつも通り、長めのスカートな為、走って転びはしないかとハラハラしてしまう。
『帰還の水晶』を使って学園の庭に戻れば、誰かに会う可能性はあったが、まさか先生に会うとは…。
「こんにちは。先生」
「今。帰り~?」
「はい。『初心者の森』に行ってきました」
「そうなんだ~それで、エルク君~調子はどう~?」
「まあ、ボチボチです…ところで先生は、何でこんなところで走らされていたんですか?」
「それがさ~先生、ただでさえ忙しいのに、例の件の対策委員を任されちゃって~」
例の件とは、魔族の件であろう。
「毎日、学園と冒険者ギルドの間を走らされちゃってるのですよ」
「先生、対策委員なんて凄いですね」
感心するセシリア。
「それがですね~。対策委員といっても、ただの連絡係なのですよ。せっかく、みんなが卒業したから、ゆっくりできると思ってたのに…働かされすぎて、先生、悲しいでのですよ…」
クレア先生は、項垂れている…。
「そうなんですか…」
わざわざ自分で「連絡係」とか言わなくてもいいと思うが…。
それに「ゆっくりできる」とか…言っちゃってますけど…。
「…そ、そうだ。私たちもこれから冒険者ギルドに行く予定なんです。先生、一緒に行きましょ~その、魔族の話とか聞きたいしね」
「セシリアちゃん…先生、その話は出来ないのですよ」
「そうなんですか?」
「そうなのですよ…学生をあんまり怖がらせない様に、生徒の前ではその話をしちゃいけないと、怖い人たちに釘をさされているのですよ」
「そうだったんですか…」
「今は、ランキング上位の学生達が対抗戦で王都に行ってて、戦力的に手薄ですからね~。生徒は基本的に校外に出るのは禁止なのですよ」
「そんな事になってたんですか…」
いくらなんでも校外に出るの禁止はやりすぎの様な気もするが…。
まあ、確かに、今の時期、高等部の強い生徒は、学園対抗戦に出かけている。
対抗戦には出場しないが、応援に行ってる高等部の学生も多いはずである。
そして、今年、スキルを貰った俺達、中等部の卒業生もいない。
考えてみれば、学園に残っているほとんどの生徒が、スキルをもらってない生徒という事である。
…ん?
「とりあえず、先生。遅れるとまた怒られるのですよ」
そういって走り出すクレア先生を、俺とセシリアの二人は追いかける様に冒険者ギルドに向かうのであった。
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