21 訓練のはじまり~セシリアのスキル実験
『初心者の森』は、元々、普通の森であり、入ろうと思えば、どこからでも入ることが出来る。
だが森には、安全面を考慮して、何か所の入り口が設定されており、通常であればそこから入る事になる。
そして、一番良く使われる入り口は、アルタインの街の北門から少し東に行ったところにあった。
『初心者のダンジョン アルタイン口』と呼ばれるその入り口には、管理棟があり、何かあった時の為に、神殿から派遣された管理人が常駐している。
俺とセシリアは、管理棟の入り口にある攻略者名簿に名前を書き、森へと進む。
この名簿に記載しておけば、俺たちが万が一行方不明になった場合、この森に入った事がわかる仕組みである。
ただ、この記入は強制ではないため、あくまでも、そうなった場合の参考程度のものである。
この『初心者の森』には、何度も来ていたが、雪の影響で、いつもと違う感じがして新鮮であった。
積雪は10センチほどで、さほど多くなかったが、白で彩られた森は、まるで別のダンジョンの様である。
既に、森の入り口には、何人かの足跡があった。
ここは、スキルを貰う前の学生に、人気のダンジョンである。
朝から学生達が入っていったのだろう。
「じゃあ。近くの広場で練習でもするか」
「そうね。確か、この先に小さな広場があったはずだからそこに行きましょう」
セシリアは、足跡が残る道を避け、足跡が無い別の道に入っていった。
彼女が言う通り、確か、この先には、少し開けた場所があったはずである。
「敵が出てくるかもしれないから、一応、気を付けなさいよ」
雪景色をなんとなく見ていた俺に、セシリアはそう言ってくる。
確かに通いなれた場所とはいえ、ダンジョンであるから油断は禁物である。
俺は、弓を担ぎ直してセシリアの後に続いた。
滑らないように、注意深く新雪を踏みしめながら進むと、しばらくして小さな広場に出る。
そこには、まだ踏み荒らされていない、まっさらな雪のキャンバスが広がっていた。
「ファイア・アロー!」
セシリアの火炎魔法が、雪を被っている樹木を直撃する。
すごい迫力である。
10センチメートルくらいの火球って、既にファイア・アローとは言えないだろ…。
≪ファイア・アロー≫――火の初級魔法。火の矢を放つ魔法である。主に威嚇に使う魔法であり威力はそんなにない。
そのはずであるが、あの大きさだと、サイズだけなら上位の魔法のファイア・ボールと同じくらいである。
「うーん。じゃあ…火よ」
今度は短くそう言って、セシリアは、右手を前に出す。左手には開かれた魔導書が握られている。
すると、先ほどより小さい普通の火の矢が、樹木にあたる。
「なかなか、調整が難しいな…」
そんな事を言って首を傾げている。
それにしても、的となった樹木さんはたまったもんじゃない。
弱い魔法と言っても、スキルで強化された魔法を受け表面が黒くなってしまっている。
「次は…エル。ここらへん触って」
彼女は、脇腹の後ろ…背中のあたりを指す。
「ん?」
俺は言われた通り、彼女の背中のあたりの肉をつまむように触った。
「ちょ。何すんのよ!軽く服を触るだけでいいのよ。まったく、スケベ!」
彼女は、身をよじりながら俺の手から逃れた。
ああ、守護者のスキルの特殊効果を試すのか…。俺は、今度は、服だけをつまむ。
「ファイア・アロー」
すると、最初と同じくらいの火球が木へと向かう。何度も火炎魔法をぶつけられて、樹木さんも厄日だな…。
「うーん。やっぱり、直接、接してないとダメなのかな…?」
「そうかもしれないな…」
「仕方ないなぁ…じゃあ…冷た!どこ触ってるのよ!」
俺は、冷たくなった手で、セシリアの素肌がむき出しになっている数少ない箇所―—首筋を軽く触った。
スケベと言われた仕返しである。
それだけでセシリアは、変な叫び声をあげて、回転しながら魔導書で殴り掛かってくる。
「他に直接、触れそうな場所がないんだから仕方ないだろう?」
俺は、彼女の攻撃を躱しながらそう言った。
「だったら、『触っていい』って言ってから、手を温めてから触りなさいよ!へんたい!」
へんたいに、格上げ?っされてしまいました。
「じゃあ、あらためて…」
今度は、温かい息を吹きかけたり、手を擦り合わせたりして、ちゃんと手を温めてから、彼女の首筋にを触る。
そして、軽く揉んでやる。
「…。ファイア・アロおおお」
今度は、40センチメートル級の火球が、轟音を上げ哀れな樹木を襲う…だが、寸前で、逸れて森の奥の方へ飛んでいく。
火球は、そのまま、奥の新雪に着弾して消える。
「おお…」
俺も思わず声を漏らす…これが100%アップの効果か…予想以上にすごい威力だ。
だが、その100%アップの効果は別のものを呼び起こした。
赤い目がこちらを見つめる…一角ウサギである…。
しかも大量に…7,8匹はいる。
「来るぞ!」
俺は、睨んでいるセシリアの首筋から手を放しすばやく弓矢を構える。
跳ねながら近づいてくる一角ウサギに向けて、俺は素早く矢を放つ。
…ミス…
矢は、むなしく雪の上に刺さった。
セシリアの方を見ると、彼女は剣を抜いて、飛び跳ねながら向かってくる一角ウサギを見事に串刺しにしていた。
更に、数に任せて迫ってくるウサギたち…セシリアの誤爆に、かなりお怒りの様である。
弓を諦めて置き、俺も剣を抜いた。
一角ウサギの攻撃は、その脚力に任せ前へ跳躍し、獲物をその角で突いてくるという単純なものである。
所詮、スキルを貰える前の人でも倒せる、楽な相手である。
俺達くらいになれば、多少数が多くても、無傷で倒せるはずである。
俺も難なく一角ウサギを斬り捨てる。
よくよく考えると、剣に持ち替えずに、弓だけで倒せるようにならなければ、合格は難しそうである。
「それにしても、すごい誤爆だったな…」
一通り一角ウサギを倒し終わり、米粒サイズの魔石を回収しながら俺は言った。
火炎魔法の熱と戦闘で踏み荒らされたせいで…せっかくの雪のキャンバスが、ぐちょぐちょである。
「…予想以上の大きさにびっくりしてコントロールミスしちゃっただけよ…」
「…ああ、今度から使う時は気を付けろよ…」
下手なところに命中してたら山火事になってるからな…。
「ところで、俺の弓の威力も上がるか試したいんだけど、いいか?」
「もちろん。いいわよ」
やけに素直に許可したセシリア。
「じゃあ。あの木に向けて弓を構えてみて」
セシリアは、自分が火を当てまくったかわいそうな樹木を指して言う。
ごめん…木さん…俺は、弓に矢を番えて構えた。
セシリアが、後ろから近づいてくる気配がする…
「おい!おま!」
バビューンっといった感じで俺の放った矢は木を超え、すごい勢いでどっかに飛んでいった…。
セシリアが、雪で冷やした冷たい手を、首の隙間から背中に入れてきたのである。
「あ、冷たかった?」
先ほどの仕返しのつもりであろう…
セシリアは、嬉しそうに俺の背中から手を出す。
なんか濡れた感じが背中の中に残っているんだが。
ついでに雪も入れられたようである。
溶けて流れる冷たいものが、服の中を下っていった。
「まったく…」
昔からいたずら好きの油断できない奴である…。
人の事は言えないが…。
それにしても矢の威力はすごかった。
あの威力なら、大イノシシでも一撃で仕留められそうである。
矢は回収不能な人が入っていけなそうなところまで飛んで行ってしまったが…。
その後も、俺達は、いろいろ試してみた。
何回も魔法の威力の変化を試したり、矢を放ったりした。
その結果、広場の地面の雪は全て溶け、ぬかるみだらけになっていた。
ターゲットになっていた木などは、真っ黒に焦げ、矢が何本も刺さっていて、ひどい有様である。
学園の教師とかに見られたら、怒られそうである。
それに、セシリアのスキルのお試しがメインなので、彼女が参加しない俺の受験には全く意味がないじゃないか…。
まあ、そんなこんなで、あれこれやっている内に二人とも何度か転び下着とかまで濡れてしまったので、一度街に戻ることとした。
「お、あれは…」
「初等部の訓練ね…懐かしいわね」
『初心者のダンジョン アルタイン口』まで戻ると、賑やかな声がした。
学園の初等部の制服を着た子供たちの声である。
引率の先生もいたが、顔見知りの先生ではなかった。
「こんにちは」
『こんにちは~!』
横を通るときに挨拶すると、子供たちが返事を返してくれた。
ダンジョンで会った時に、挨拶するのはマナーみたいなものである。
「それでは、みなさん。出発しますよ!今回は雪が降ったので滅多にできない雪の中での戦闘訓練を行います。森を少し行った先に小さな広場がありますから、みんなちゃんと着いて来てくださいね」
などと、引率の先生が子供たちに説明している。
「…」
俺とセシリアは、顔を見合わせて、静かにすばやくその場を立ち去るのであった。
評価ありがとうございます。
頑張りますのでよろしくですm(_ _)m




