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18 セシリアの告白

「だめだよ。明日は、荷物を運んだ後、色々買い出ししないといけないんだから」

 孤児院から『森の泉亭』に帰ってきた俺とセシリアは、食事を終えて部屋で明日の打ち合わせをしていた。

 そこで、俺は、荷物を新居に移した後、冒険者ギルドに行こうと提案したのだが、彼女に速攻で却下されたのだ。


 まあ、確かに明日からは新居生活である。宿とは違うので、家に帰れば食事が出てくるわけでも、ベッドの準備が出来ているわけでもない…。

 もちろん、セシリアだけに、家事を任せるわけにもいかない…。

 そもそも、素直に家事をやってくれるとも思えない。

「まあ、確かに…焦ってもしょうがないよな…1,2日訓練が遅れてもそんなに役に立つとも思えないしな…」

 なにより試験のための訓練って、何をすれば良いのかもわからない…。

 まあ、試験までに弓は人並みに使えるようにしたい。

 だが、それくらいしかする事が無い気がする…セシリアみたいに、色々、やることがありそうなスキルを貰ったならともかく、俺のスキルはシンプルである。


「それもそうだけど、まずはちゃんと訓練できる環境を作らないとね。布団や薪だって、ちゃんと用意しないと、せっかく部屋借りたのに凍死したらシャレにならないじゃない」

 ごもっともである。

「じゃあ。明日は色々買い出しだな」

「そうそう。今から必要なものを纏めるからちゃんとメモしてね」

 彼女は、そう、仕切り始める。昔から、セシリアは、仕切り魔である。

「…なんか、こうしてると、昔に戻ったみたいだな…」

「…そうだね。まあ、もともと約束だし。卒業後の予行練習だと思えばいいよ」

「…?ああ」

 時々、セシリアが意味の分からないことを言う。

 約束とは、おそらく、『大人になったら一緒に世界を旅しよう』みたいなやつだろう…。

 忘れていても文句を言えないくらい、幼い頃の何気ない約束だったはずだが…。

 彼女は忘れていないようである。



 昨日は、結局、遅くまで、生活に必要なものを纏めていた。

 案に上がったのは、寝具用の藁、薪、鍋、食器などから、できれば、棚や仕切り、更には湯浴みが出来るくらいのバスタブまで様々である。

 もちろん予算と優先順位があるので買えるものは限られ絞り込む必要がある。

 それを考えるのがなかなか楽しかったため、いつの間にか時間が過ぎていて、今日は寝不足である。

 当然、寝不足の理由には、セシリアが無防備に寝ていたからという理由もある。

 おそらく、俺は、セシリアに男だと認識されていないのではなかろうか…。


「明日からは、雪になるかもしれないから何かあったらうちにいらっしゃい」

 俺達が、食事や準備を終えて宿を出ようとした時、女将さんがそう話しかけてきた。

 彼女には、俺達が帰郷できなくなった事を伝えてある。

 女将さんは「それなら、うちに泊まれば良かったじゃない」と、言ってくれたが、セシリアは「お金があれば泊まりたかったんだけど、貧乏学生なので…」と断っていた。


「雪ですか…」

 アルタイルの街では、滅多に雪は降らない。3,4年に1回大雪で雪が積もることは、確かにあったが、それはレアケースである。

「お店も混むかもしれないし、品切れになるかもしれないから、必要なものがあったら、早めに買っといたほうが良いわよ」

「確かに…そうですね。エル。急ぎましょう」

「ああそうだな…女将さん。お世話になりました」

「いえいえ、また泊りに来てね。二人とも」

「はい。落ち着いたらまた来ますね」

 女将さんに見送られながら、挨拶を済ませた俺とセシリアは『森の泉亭』を後にした。


「このまま、買い物に行きましょう」

「ああ、その方が良さそうだな」

 セシリアは、そう言って新居とは別の方へと向かう。

 本当であったら多少遠回りになるが、一度、新居に行ってから、買い物に行く予定だった。

 その方が、大きさなどを確認し、買い物をしやすいと思っていたからである。

 だが、雪になりそうなら、街の人たちも雪に備える為、薪や藁、更には食料が品切れしてしまう場合もある。

 今日は、デートの様にゆっくり買い物できると思っていたのだが、女神さまはそうはさせてくれないようである。



 結局、早めに買い出しに出たおかげで、予定通りのものが購入できた。

 約6,000メルクというひと月分の家賃と同じくらいかかったが、布団、薪2束、桶、鍋、食器などの必需品から、パン、卵、ベーコンなどの食料品も購入できた。

 午後からは、部屋での作業である。


「これで良し」

 セシリアは、買ってきた藁布団をベッドにセッティングする。

 俺はと言うと、床を雑巾がけである。

 二人で話し合って寝室は土足厳禁とした。

 これで床で寝るのも全然問題ない。まあ、床で寝ると言っても、俺用の藁布団も買ってあるので直に寝るわけでは無い。

「それにしても、本当に雪が降るかもしれないな」

 窓から、外を見ると空は、厚い雲に覆われていた。

 そんな中でも孤児院の庭では、子供たちが、元気にはしゃいでいる。

「ほらほら、外を見ている暇なんてないよ。今度はリビングの方だから」

 彼女は、仕切り用の衝立の上から顔を出して言う。

 一応、部屋の真ん中に衝立を置こうと俺が提案したのである。

 こっから先は俺の領地だからなってな感じである。学園の寮でも、みんな衝立で区切っていたものである。


 リビングの方へ移動する。

 セシリアが、炎の魔法で火をつけた暖炉のおかげで部屋の中は暖かかった。

 黒い金属制暖炉は壁際に設置されており、煙はパイプにより外に出る仕組みである。

 また、暖炉の上には購入した鍋がのっており、お湯が沸いている。

 軽い料理などは暖炉の上で出来そうである。


「ちょっと、水汲んでくる」

 俺は、桶を持って外へ向かう。魔法で水を作るという方法もあるが、セシリアみたいに水魔法スキルがSランクならともかく、俺では効率が悪い。それに、雑巾を洗った水も捨てなければならないので丁度良い。


 外に出て階段を降りようと思っていたら、井戸で水を汲んでいる人が見えた。

 20歳くらいのお兄さんで、厚手のパーカーを着こんでいる。

 もしかしたら、同じアパートの冒険者かもしれない。

「こんにちは」

 俺は、階段を下りながらお兄さんに声を掛ける。

 お兄さんは、人がいると思ってなかったのだろう。驚いたようにこちらを見た。

 こちらを見たお兄さんの第一印象は細長いである。

 長身なのだが線が細い、何かの病気なのかと間違うくらい顔の色は青白かった。

「ああ…こんにちは…」

 お兄さんは、こちらを疑うような目つきで、面倒くさそに声を返してきた。

「今度、この上の部屋に引っ越してきたエルクと申します」

 俺は、お兄さんに近づいてそう挨拶した。

「ああ…大家さんから人がはいるってのは聞いている…小生はウェズリー、アルタインの街の冒険者ギルドに所属している魔術師である」

 彼は、警戒を解いたように、そう名乗った。ミシエラさんから情報がいってるようである。それにしても、小生って…それに、魔術師かー。なら線が細くても仕方ないか…?

「あのーウェズリーさんも、このアパートに住んでるんですよね?」

「ああ。小生の部屋は、その手前の部屋である」

 ウェズリーさんは、2階の手前の部屋を指さして言う。俺たちの部屋とは丁度逆の角部屋である。

「そうですか、学園の入学試験が2カ月ほどですが、よろしくお願いしますね」

「ああ…何かあれば、気軽に言ってくれ。では、小生は、やることがあるから…」

 そう言って、ウェズリーさんはゆっくりと階段を上がっていった。

 俺は、桶の中の水を捨てて、ポンプ式の井戸から水を汲んだ。


 部屋に戻ると、セシリアが横着をしていた。

 水魔法の『クリエイトウォーター』を使って大きな桶の中に水を貯めようとしている。

 しかも、魔道具を使わずにである。さすが、女神の何たら…湯を沸かしていて、湿度もあったためか、かなりのスピードで水を生成している。

 俺は、こっそり、セシリアの後ろに近づき『何を悪さをしてるんだ』と彼女の肩に触った。

「な!」

 その瞬間、生成していた水が大きく膨れ上がりそして一気に大きな桶から水が大量にあふれ出す。

 床も水びだしの大惨事である…。

「なっ、何するんだ!」

「ぐへ」

 彼女の回し蹴りが俺の脇腹に直撃したのはその直後だった。持っていた桶の水も盛大にぶちまけたのであった。


「全く、エルはやることがいつまでもコドモだ」

 俺は、雑巾で頑張って床を拭いていた。

 2階の床も煉瓦が敷かれていてセメントで固められているので下に漏れていないと思うが…俺は、雑巾で吸いきれない水を壁の所にわずかに開けられた隙間から外に出す。

 その穴は、排水の為に開けられた穴である。下水とかに繋がってるわけでは無く、外に流れるだけであるが…。

「ごめんな。あんなことになるとは思わなかったよ…」

 本当にそうである…あの水の量は異常である――魔法スキルSのスキル効果の威力であろうか。

「でも、やっぱ、スキルの力はすごいな…」

「…」

 俺の言葉に、セシリアは、目を泳がせる。

 ここ最近、セシリアの様子がおかしい事を追求した時に見せる仕草である…

「…もう…いつかは言わないといけないんだから…もう言っちゃうわ」

「…」

 彼女は、一瞬目を瞑り大きく頷いて、俺の目を見据えて言葉を吐き出した。


「私たち、結婚してることになってるの」

「は?」

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