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17 B2パーティーの解散

 学園の前の通りは人通りが多い。特に、今日は寮から追い出される最終日ともあって、多くの学生が学園の門を出入りしていた。

 校門の横の『聖アルタイン学園』と書かれた表札の前で、パーティーメンバーの5人は待っていた。

 急いできたが、どうやら少し遅れてしまったようである。


「エルク。おそーい」

「ああ。すまない…」

 抗議をするモモカに対し、俺は謝る。

 普段なら、遅刻とかしないんだが、入学試験を受けないといけなくなり、やらないといけないことが一気に増えてしまった…。

 と言っても、遅刻したのは事実であり、下手に言い訳しても仕方がない。


「もう、デザート。奢ってもらうからね」

 そう、モモカは頬を膨らませた。彼女は、温かそうなセーターにスカート姿である。

「50メルクまででお願いします…」

「やったー。あたしも!」

「じゃあ…ボクも」

 と、ミーナやベルトが反応する…。周りを見てみると全員に奢らなくてはならない雰囲気である…10メルクにしておけば良かった…。


「ところで、何で、制服なんだ?」

「ああ…ちょっと、学園に用事があって、念のため制服で来たんだよ…」

 確かに、6人の中で俺だけが制服である…。

 制服を着てこなくても良い日に、間違って制服で着て来ちゃいました的な感じで何か恥ずかしい。


「そうか…いろいろ忙しいんだな…じゃあ。さっさと食事に行きますか」

 と、デビッドが言った。

 その時、カランカランと、学園の門の守衛が、ベルを鳴らし始める。

 これは、学園の門から馬車が出る合図である。

 俺たちは、慌てて道を開ける。

 学園の卒業生の中には、貴族などの金持ちもいる。彼らの中は、帰省に自家用の馬車を使う者もいるのだ。

 少し見ていると、学園の中から二頭の馬に引かれたひと際大きなボックス型の白い馬車が、出てくる。

 その馬車に掲げられた紋章は、カイトシールドの中で右向き女性が槍を構えたものである。

「あの紋章は、メルフェスト公爵家…リチャードだな」

 カーテンで窓が塞がれていて中は確認できなかったが、中等部の卒業生でメルフェスト家の関係者は彼だけである。

「…未来の勇者様ですね…」

 そう呟いたのは、モモカであった。

 そう言えば、セシリアが、言っていたな。

 リチャードがモモカを誘っていたって。セシリア風に言うなら「告白していた」だが…。彼女は、何と答えたのだろうか…?

 白い馬車は、一度、門の所で止まり、そして、ゆっくりと中央通りへと向けて出発した。

「俺もあんな馬車に乗りてー」

 と、デビッド。

「えー。私はあんな派手な馬車は嫌だな~。乗合馬車で十分だよ」

「でも、イスは柔らかくて、中には、きっと、おいしいお菓子とか常備だぞ」

 確かに、お尻が痛くなるからクッションは重要である…。

 グー…

 『おいしいお菓子』と言う言葉に反応したのか、ベルトのお腹が反応した。

「よし。英雄ベルト様が餓死する前に早く行こうぜ」

 そう、茶化すようにデビッドが言った。


 結局、『フォレストカフェ』という神殿近くの軽食屋を選び、俺達はテーブルを囲んでいた。『森の恵み食堂』でも良かったのだが、流石に昨日の今日である、女性陣が難色を示したのだ。

 既に料理を注文し終わり、飲み物が運ばれてきたところでデビッドがグラスを持ち上げた。

「それでは、B2パーティーメンバーの今後の活躍を祈って…」

「かんぱーい」

 そう言って、6人はグラスを掲げた。

 B2パーティーと言うのは、B組の2番パーティーという事であり、俺たちのパーティーをさした言葉である。2番と言うのは順位ではなく、ただ、2番目に出来たパーティーという事である。

 高等部に行けば、俺はセシリアとパーティーを組む予定である。このメンバーだけで集まるのも最後かもしれない…。


「ところでエルは、明日から姫と一緒に故郷へ帰るのか?」

 料理が運ばれてきて、落ち着いたころにそう聞いてきたのは、やはりデビッドである。

 ほら、そんなこと聞くから、女性陣が変な目てるじゃないか…。


「いや。俺は故郷へは帰れなくなったんだよ…」

 とうとう、俺が入学試験を受けなくてはならなくなった事を伝えるときが来た…。

 セシリアも一緒に故郷へは帰らなくなったんだが、それはあえて言う必要も無い。


「そうなのか?」

「ああ。昨日、学園長室に呼び出されただろう…」

「そうそう、なんだったの?私たちの名前の横に一緒に貼りだされていたから、びっくりしちゃって、一体、何をしでかしたのよ…」

 そう言えば、モモカは、心配してくれてたんだっけな…。


「悪かったな。モモカ。心配してくれてたんだってな。ありがとな」

「べ、別に…そんなには…」

 モモカは、顔を赤くしている。

 なんだかんだで可愛いやつである。

「聖女」のスキルを貰った事で、更に人気者になり、また、勘違いする奴が増えるんだろうな…。


「実を言うと、スキルがあまりにも悪すぎて、高等部の入学試験を受けて合格しなくちゃならなくなったんだ…」

 俺は、思い切って発表した。


「え?」


 5人が5人とも驚いて固まっている。


「スキルが悪いからって…そんな事があるのか?」

 最初に声を出したのがルミナス。


「ああ。普通は無いらしいが、俺のスキルが、かつて無いくらいスキルが悪かったらしいから仕方ない…」

 まあ正確には、レアガチャこと『聖なる祝福』を受けられなかったので、退学になったのだが…それを言うと、変な目で見られるに違いない…。

 それに、予想通り、雰囲気が暗くなってきたじゃないか…。


「おいおい。大丈夫だって、軽く試験なんて受かるから」

「…そ、そうよねエルクなら…」

 慌てて軽い口調で言う俺に、珍しくミーナが反応してくれた。


「それより、デビッドの方こそ明日から実家に帰るのか?」

 何とかして話題を変えなくては…。

「あ、俺か…俺は、今日の午後の乗合馬車で王都に向けて出発する予定だよ。対抗戦が王都であるからな。実家に帰ったついでに見てくるつもりだよ」

 デビッドは、なんか考えていたようだが、そう答えた。


 ちなみにパーティーメンバーの故郷は以下のとおりである。

 デビッドは王都レイナード出身で、親は商いをしているはずである。王都レイナードは、アルタインから南に30キロくらいである。平坦で街道が整備されているため、頑張れば1日で着く距離である。まあ。3日くらいかけて行くのが普通であるが。

 ベルトは、王都の南の小さな村の出身である。親は農家だったはずである。

 モモカは、アルタインの街の北側にある隣町デルセア。10キロ程しか離れていない。

 ルミナスは、南西の港町ポルトア。王都から更に南西方向に30キロくらいである。

 ミーナは、東にある国境の街だったはずである。

 モモカ以外は、安全に帰郷するには南にある王都経由で行くのがベストのはずである。


「そっか。対抗戦か…俺も機会があったら見に行きたかったよ」

「…」

 あ。普通にデビッドの言葉に感想を述べただけなのに、また変な雰囲気になってしまった…。


「モ、モモカはどうするんだ?」

「え、わたし…?わたしたちは前から言ってたように、明日からクラスの女の子たちで卒業温泉旅行だよ…ちなみにルミナスもミーナも一緒だからね…」

 そう言えば、前々からそんな計画を聞いていた気がする。女性陣は、何を今更聞いてるの?まさかスキルが悪かったショックで記憶が飛んじゃったの?みたいな感じになっている…。


「あ、そういえば。そうだったよな…ベ、ベルトはどうなんだ?明日、帰るのか?」

「うん。王都まではデビッドくん達と一緒に行く予定だよー。本当はエルク君も、『王都に対抗戦を見に行かないか』って誘おうと思って、話してたんだけどねー。セシリアさんと一緒だから悪いんじゃないかってなったんだよー」

「あ、あーー。エルクは帰る方向が違うしな。どうしようか悩んでたんだよ。わざわざ王都によるのも大変だろうしな。姫の予定も聞かないといけなかっただろうしな…」

 まあ、確かに帰郷の予定はセシリアに任せていた為、対抗戦を見に行くことは難しかっただろうな…例え、入学試験を受ける必要が無かったとしても…


「でも、エルクがセシリアさんとそんなに仲が良かったなんて知らなかった」

「そうだ。わたしも知らなかったぞ。モモカ知ってた?」

「…うんうん」

 再び、ミーナが話を戻し、女性陣が一気に食いついてくる。


「仲が良いって言っても、故郷の孤児院で一緒だったってだけだよ…こっちに来てからは。別のクラスだったしな。あんま会ってなかったよ」

「でも、二人っきりで故郷に帰る予定だったんでしょ?」

「…まあ、一人で帰るより、安全だからな…」

 そのはずである。ここ数日は、なんか親し気に接してくるが…。前帰省した2年前以降、話したのは数えるほどである。


「ふーん。本当は授業が終わったらこっそり会ってたんじゃないの?」

 疑惑の目で、発言したのはモモカ。


「そんなわけ無いだろ…。時々会ったら、世間話をする程度だったよ…」

 そう、その程度のはずだったのが、一緒に暮らすとかなっている状況のが、かなりおかしい…。


「まあ。そういう事にしておいてあげるか…。それにしても、入学試験を受けなおさないといけないくらい悪いスキルっていったいどんなスキルだったの?」

「…まあ、それは…」

「まあ。いいけど。話したくなったら話してね。何かあったら私がついてるからね」

 モモカは諦めたようにそう言った。


「じゃあ。私は、木苺とクリームのクレープで」

「僕は、チーズケーキで」

「じゃあ、あたしも、モモカと同じで」

 食事がひと段落したころで、みんなが勝手にデザートを注文し始める。まあ、仕方がない。そう言ってしまったのだから…。


「これでB2パーティーも解散かぁ…」

 食事も終わり、お茶を飲みながらミーナが呟いた。

「…高等部でも一緒にやれればいいのにね…」

 そればかりは高等部になってみないとわからない…。

 SSランクスキル持ちであるモモカとベルト…彼らが自由にパーティーを組ませてもらえるのか、それに、なによりも…

「まずは俺が無事に合格しないとな…」

「…」

 また、変な雰囲気にさせてしまった。

「まあ。軽く受かって、学園長とか見返してやるけどな」

 俺は、笑って言う。その為に、入学試験までの間、アルタインの街に留まって訓練するのである。

「じゃあ、今度会うのは高等部の入学式だな」

「ああ。高等部でもよろしく頼むよ」

「それで落ちたら笑ってやるからな。落ちても、一度は学園に顔を出せよ」

 と、不吉なことを言う…。


 その後は、それぞれ挨拶をして解散した。もちろん、デザート代はばっちり払わされた…。

 デビッドとベルトは、他にも王都方面に帰る人と待ち合わせをしているらしく、足早に去っていった。

 女性陣は、明日の為に買い物すると言って、商店街の方に向かおうとする。今日どこに泊まるか念のため聞いてみたら、街の南門近くの旅人宿『ブランヴェール』だそうだ…『森の泉亭』じゃなくて良かった…。

 それにしても…パーティー解散か…

 そう考えると、なんか熱いものがこみ上げてくるな…。

 パーティーを組んで2年間、いろいろあったがだが、楽しかったな。

 …。

 だが、冬の寒空の下である。ただ、立ち止まっているのは体が冷える。

 俺は歩き出す。

 そう、みんなとまた一緒に学ぶためにも、合格しないとな…そう思いながら、再び、孤児院に向けて歩き出す。



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