15 訓練中泊まれる場所探し
「な、なにそれ!ごほごほ」
セシリアが、過剰に反応し激しくむせた。
俺が、入学試験を受けなくてはならなくなり、一緒に帰省できない旨を伝えたからである。
現在、俺とセシリアは『森の泉亭』の1階で朝食をとっていた。
セシリアが朝食のサラダを口に加えたタイミングで報告したため、彼女はむせてしまったのである。全く、昨日といい、汚いやつである…。
「ど…どうするのよー。せっかく一緒に帰れると思ってばっちり計画練ってたのに…」
「仕方ないだろ。学園長との話でそうなっちゃったんだから…」
まあ、報告が少し遅れたけど…。
「なんで試験受ける事なんかになったのよ…だっておかしいじゃない。中等部の卒業者は自動的に高等部に入学できるはずじゃない…絶対、文句言った方がいいわ」
「いや…あの様子じゃ無理だと思うぞ…なんか最大限に譲歩した結果そうなりました的な感じで言われたからな」
「…じゃあ。私が文句言ってくるわ…SSランク保持者の私が文句を言ったらきっと」
「いや…ちょっと待てって、別に試験に受かればいいだけだからな」
不穏な事を言いだそうとする、セシリアを慌てて制した。
朝の平穏の中の食事中である店内、宿泊客はそれほど多くないが、それでも数名は食堂の中にいるのだ。あまり騒いだら追い出されてしまうかもしれない。
冒険者が泊まる安い宿とは違うのである。
「むー。でもそうなると…試験までの間どこか泊まれる場所を探さなくちゃいけないわね…」
現在いる場所を再確認しセシリアは少し小声になっていった。
「まあな…でも昨日、臨時収入が入ったから、『梟の巣』の相部屋なら2カ月くらいは泊まれそうだよ」
『梟の巣』とは、冒険者ギルドの近くにある宿である。
冒険者ギルドから近いという事もあり、お金の無い冒険者が雨露を凌げる場所として泊まっている安宿である。
相部屋雑魚寝で一泊100メルクくらいで泊まれたはずである。
「なっ何言ってるのよ。私は嫌よ。知らない人と雑魚寝なんて、ゆっくり寝れるわけないじゃない」
「?」
「宿屋に泊まるなら、せめて冒険者ギルドの2階の二人部屋以上がいいわ」
この街の冒険者ギルドには宿が常設されている。個室なら確か二人部屋で800メルク程で四人部屋で1,500メルク程である。
だが…
「なんでセシルも泊まることになってるんだよ」
「?」
「セシルは、明日になったらリステルに帰るだろ?」
「な。何言ってるんだ、のよ…エルが帰らないのに帰ってもしょうがないだ、でしょう?」
と、彼女は平然と言う。まあ、美少女にそう言われて嬉しく無いわけでは無いが…。
だが、そうなると本気で宿を探さなくてはならなくなる。
セシリアに詳しくは聞いていないが、ここ『森の泉亭』は、セシリア割引があったとしても、おそらく夕食無しでも2人で1,500メルクはするはずである。夕食があれば2,000メルク超である。そうなると、俺の軍資金は半月くらいで尽きてしまう。
セシリアも俺と同じくらい所持金があるとすれば一カ月くらいは持つかもしれないが、それでも厳しい事には変わりがない。
「やっぱり、そうなると…ギルドかな…」
部屋が空いていれば良いが…色々と便利な為とギルドで宿泊する冒険者は多く、宿泊客は固定化しており、部屋が空いていない可能性の方が多い。
「あ、部屋を借りるという手も有るかもしれないわ。ほら食堂のミシエラさん。あの人とか、卒業生とかに部屋を貸してるって聞いたわ」
セシリアの言っている食堂のミシエラさんの顔は、ぱっとは浮かばなかったが、確かに月単位で部屋を借りるという手もある。
「この後、学園に行ってみましょ。ミシエラさんいるかわからないけど…」
「ああ…そうだな」
「じゃあ、早く食事を済ませちゃいましょう」
彼女は、そう言って、ちぎったパンを口に放り込んだ。
その後、準備をして宿を出たのは9時ごろである。昼には、デビッドとかと会う予定なので、それまでに用事を済ませる必要があったが、目的地が学園なので丁度良いかもしれない。
「そう言えば、さっき臨時収入が入ったって言ってたけど、エルの所持金はいくらなの?」
制服姿のセシリアが聞いてきた。学園に行くならと2人とも制服姿である。
まあ、俺の異空間袋に二人の着替えは入れてあるので、着替える場所さえあれば、着替えられる。やっぱり、神官のお姉さんが言ってた通り、異空間袋は便利なスキルである。
「うーん。20,000メルクかな」
多少、少なめに言う。
「そう…私も同じくらいだから、節約すれば3カ月位すごせるかもね。でも、入試の日程って。2月中だったよね?」
そう、学園長に言われているのは、2月1日からの一次試験は免除してくれるという事、
俺が参加するのは2月11日からの二次試験からで良いらしい。二次試験は、最大で10日間行われ、結果発表は2月末との事である。
「ああ、2月末に結果発表らしい」
「そしたら発表終わったら、リステルに帰るから、お金ある程度は残しておきたいわね」
と、彼女は言う。
「そうそう、昨日やってみてわかったんだけど、冒険者ギルドで依頼を受ければ、弓の訓練しながら少しは稼げるぞ」
実際は依頼は受け忘れたのだが…。
「そっか、稼げばいいんだから、一月10,000メルクくらいで部屋を借りられれば良いかも」
と、セシリアは嬉しそうに言う。先ほどまで結構文句を言っていたが、既に頭を切り替えた様である。
学園に入ると、生徒が慌ただしくしていた。俺達、中等部の卒業生は寮の部屋を今日までに明け渡すことになっている。そこに、見送りに来た年末年始休み中の下級生達が加わって賑やかになっているのだ。
俺とセシリアは、なるべく目立たないように食堂の方に向かった。食堂には、ほとんど人がいなかったが、それでも遅い朝食を食べている人が数名いた。
「すいません。ミシエラさんはいらっしゃいますか?」
セシリアは、厨房内を覗き込んでそう聞いた。
「ミシエラなら今日は休みよ」
「そうですか…」
「ミシエラに何か用なの?」
「その…ミシエラさんて部屋を貸してるって聞いたんですけど…」
「ああ、そうね。そう言うよう用なら、北西にあるエルナス孤児院に行くといいわ。ミシエラは、今日は、そこで手伝いをしているはずだから」
「孤児院ですか?」
「そう。ミシエラはその孤児院の近くに住んでいて、正月は炊き出しを手伝うようなこと言ってたから」
「ああ、そういえば、そうですよねー。行ってみます。ありがとうございましたー」
セシリアは、そうお礼を言った。
しかし、孤児院の炊き出しとは、色々あったせいで、すっかり忘れていた…。
俺は孤児院育ちという事もあり、時々、そのエルナス孤児院に寄付をしたり手伝ったりしていたのだ。
で、考えてみれば、毎年、この時期は、炊き出しをしていた。今年は、自分の事で手いっぱいだったため、完全に抜けていた。
セシリアも、別口で寄付とかしてたようで、炊き出しの時に何回かあったことがある。
やはり、孤児院育ちの俺たちは、同じような境遇の人が気になるのである。
12時までに戻ってこなければならない為、さっそく、エルナス孤児院に向かう事とした。




