14 お風呂
部屋の左奥のドアに入るとそこはバスルームになっていた。
丁度、寝室を半分にした広さだが、窓際に浴槽があり浴槽から空が眺められるようになっている。俺は、奥まで行き浴槽のフタを開ける。
中には水が張ってあったが、流石に冷めていた。
浴槽の横には魔道具である魔石湯沸し器が設置してあった。
魔石湯沸し器は、実際に火を使わないので火事になりにくく安全である。
ただ、値段が高いので、あまり普及していない。流石、高級な宿といった所であろう。
もっともこの街では魔石が手に入りやすいので、他の街に比べて普及率は高いはずである。
俺が、スイッチを押し込むと湯沸し器が起動する。
これで15分くらい待てば適温になるはずである。
それにしても、バスルームだけでこの広さとはな…
採算は取れているのであろうか…?
まあ、ところどころに節約を求める文字が書いてあるのが、
例えば、『追加魔石50メルク。購入はフロントまで』とか、貼ってある。おそらく、湯沸し器に最初に一定量魔石がセットされており、それが無くなったら、購入してくださいね。という事であろう。もしくはチェックインの時にセシリアが魔石を貰っているのかもしれない。
年末に、俺が雑魚相手に大量に取ってきた最小の米粒魔石でもこの規模なら3,4回は沸かすことが出来るので、そう簡単に追加が必要になることはないはずである。
あとは、『水の追加は各自井戸からお願いします』と井戸までの案内図が書いてある。
もっとも、お風呂の水とは別に、大きな桶にも水が汲んであるため、お風呂の水を張り替えたりしない限り自分で水を汲むことも無いだろうが…
そうだ着替えを用意しないとな…。
俺は、異空間袋を起動して、中から替えの下着を出す。
上着は昨日パーティー行く前に着替えたから同じでいいか…洗濯もしないとな…。
今日は、試験までの期間滞在できる場所を探して、場合によっては落ち着いたら洗濯でもしよう…。あ、お昼にはデビッド達と会う約束もしてるから、時間調整が難しいな…。
トントン
「はいるよー」
そう言って普通にパジャマ姿のセシリアが入ってくる…。
クマ柄パジャマ姿のセシリアは新鮮であるが…返事してないのに入ってくるなよ…
「そうそう。エルにプレゼントしようと思って買ってたものがあったんだよ!」
手に持っているのは、パジャマ…そう黒いクマっぽい絵が描かれた例のパジャマである。
「…」
あれ俺のだったのか…
「ちょうどおそろいで良いのがあったからね」
そう言ってパジャマを渡される。
「…ありがたく。貰っとくよ…」
着る事は無いだろうけど。断るわけにもいかない。
「じゃあ。お風呂に入ったら着てみてねー。外で待ってるから」
そう言って彼女は出て行った。
…仕方ない…一回だけ着るしかないか…
それにしても、なんか、セシリアの行動がおかしい気がするな…
昨日もそうだが、なんか積極的な気がする…
2年前に帰郷した時は、対外的な事を気にして、「私たち姉弟なんです」とか旅で知り合った人達に言ってた気がするが…。
そうか…あれかもしれないな…後で聞いてみるか…。
俺は、今度はセシリアが勝手に入ってこれないように、ドアをロックして服を脱ぎ始めた。
「おー。おソロだねー」
風呂にはいりさっぱりした俺を待ち構えていたセシリアは近づいてきてそう言った。
セシリアは、ベッドの下に落ちていた布団とかを片付けていたところだったらしく、枕を持っている。
「…セシル。やけにテンション高いけど何かあったのか?」
一応、俺は聞いてみる。
「え?えーと…」
そう聞くとセシリアは目を泳がせた。やはり…
「お前。男にフラれただろ?」
俺も、覚えがあった。フラれたわけでは無いのだが幼馴染のフィーナちゃんが、いなくなった後、一人になるのが嫌で、ずーっと、セシリアにべったりしていたのである…。
もっとも、あの時は、子供だったし、セシリアの事を男だと思っていたから、別にべったりしてもおかしくないからな…!
だが、俺達はもう15歳で異性である。あまりべったりするのはよろしくない!
「…そんなわけあるかー!」
セシリアが、みるみる顔を赤くして、枕を投げつけてきた。
ばふ!
俺の顔面にクリーンヒットである…。
どうやら、予想を外したようである。
「私が男と付き合う気がないこと位、エルも知ってるだろ?」
呆れたように言う。
「私が、おかしいように見えたなら、それはきっと逆だよ」
「逆?」
「昨日、告白されたんだよ…まあ、速攻で断ったけどな」
ふふーん。と、胸を突き出し彼女は笑って言う。
「そうか…」
だが、やっぱいつもと違うんだけどな…何か隠してるのではないだろうか?
「で、セシルに告白した勇者は誰だ?」
「…ぷ」
何かが、溝に入ったのか彼女はふき出した。
「?」
「そう。勇者様だよ」
ああ。リチャードか…。SSランクスキルの勇者を得た貴族の次男坊である…。昨日の飲み会で結構話題になってたな…。彼は、中等部時代に色々やらかして、貴族出身じゃない生徒からの評判がすこぶる悪いのだ。
「昨日の午前中、Sランクスキル以上の生徒が集められたんだけど、その時に、『君は顔もスキルもいいから、付き合ってやってもいいぞ』みたいな事言われたんだよ…それで私が、丁重にお断りしたら、今度はモモカさんの方へ言って似た様な事言ってたわ…」
「…そりゃ残念な勇者様だな…」
昨日、高等部になったら、学園がSSランクスキル同士集めてパーティーを組ませるかもしれないと言ったが、彼がいたら無理そうだな…。
「でしょー」
と、盛り上がったついでに、学園を退学になった事を伝えちゃえ。と、思ったが、
「そうだ。朝食頼んであるから、早くしなきゃ」
と、セシリアは思い出したように言った。
「わたし、向こうで着替えとか準備してくるから、エルはこっちでフロイデ君脱いで準備しちゃってね。その格好で食事するならそれでいいけど…」
いや。着替えます。
彼女は、置いてあった包みをもってバスルームに入ってった。




