13 セシル
パーティーはその後も大盛況であった。
結局、食事がひと段落した後、主賓が移動するという形で一回りさせ。終わったのが12時近くであった。寮の門限をゆうに超えている気がするが、何でもちゃんと届け出を出してきたそうで、なんとも用意周到な事である…。
ラフな姿で来たセシリアは主賓扱いに、チャットで文句をとばしてきたが、俺はなんとか耐えきった。
そのセシリアも『先に宿で待ってる』とチャットを残し先に帰っていった。
残ったのは俺とデビッド、ルミナス、ザックの4人である。
まあ後片づけというやつである。
パーティーを開くためにテーブルの配置を変えたため元に戻しているのである。
「そう言えばエル。校長先生に呼ばれてたみたいだけど何かあったのか?」
デビッドが、二人で机を持ち上げて移動しているときに聞いてくる。
セシリアが俺の事をエルと呼んでいたのを耳ざとく聞いたデビッドが、さっそく面白半分に使ってくる。
「ああ…大した話じゃなかったよ…」
なかなか入学試験を受けることになったとは言いにくい。
「そうなのか…掲示板に貼りだされていたから何かやらかしたのかと思ったよ」
な、それであんなに校長室に呼ばれていることをみんな知っていたのか…。
「そうそう。モモカも心配してたぞ。昨日から見ないし校長室に呼ばれてるし。何があったのかってね」
「そうか、なんか悪いことしたな…まあ、今度会ったら謝っておくよ」
「エルは、いつから帰るんだ?」
う。
「…一応、明後日の予定かな…」
「そっか、じゃあ明日の昼にでももう一度パーティーで集まるか、今日は結構バタバタしててメンバーで話す時間も少なかったしな」
「ああ、そうするかな…」
気持ちに整理がついてたら、試験を受けることになった事をメンバーに伝えておこう。
まあ、まずは、セシリアへの報告が先であるが…。
「ルミナス。モモカとミーナに伝えといてくれ。エルク…エルは、寮には戻るのか?」
「いや。宿をとってあるから、戻らない予定だよ」
わざわざ言い直さなくていいぞ。
「じゃあ。ベルトには俺から伝えておくよ」
「ああ頼む」
「今の寮で寝れるのも今日までだからな。俺は固いベッドを楽しむとするよ」
デビッドは、そう笑って言った。
「じゃあ。明日昼に正門前集合な。お疲れ様ー」
ルミナスとデビッド。そしてザックは学園の中に入っていった。別れた後、俺は一人で中心街の方に向かう。
さすがに冬の夜は寒く、俺は足早に宿屋の方に向かう。
「あら。お帰り」
丁度、宿の入り口を閉めようとしていた女将さんがそう声をかけてきた。
「すいません。遅くなりました」
「いいのよ。セシリアちゃんから、あと少しで戻ってくるって聞いてたからね。部屋の鍵はセシリアちゃんが持って行ってるから、直接部屋に行ってね。昨日と同じ201号室だからね」
「わかりました…」
やはり同じ部屋で泊まる様である…。
「じゃあ。ゆっくり休んでね。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
女将さんと別れて俺は2回へと向かった。
ノックするのも迷惑だと思い、俺は、部屋の前まで行くとパーティーチャットで、帰ってきたことを送る。
すると、すぐに部屋のドアが開いた。
「おそーい」
一応、ヒソヒソ声であるが、セシリアは頬を膨らます。見ると、先に帰った割には寝る準備を済ませた様子もなく、別れた時のままの格好であった。
「早く入って」
彼女は素早く俺を部屋に招き入れた。
「服とか全部、エルに預けてたの忘れたよ」
あ、確かに異空間袋に預かったままだった…それでお風呂にも入れずに待っていたのか。
俺は、開いたままのステータスボックスから『異空間袋』を選択して中から、下着が入ってると言っていた包みを出して渡す。
「…あと包みに入ったのが何個かあったと思うんだけど」
彼女がそう言ってきたので、それっぽいのを何個か出す。
「そう。これ」
そういって彼女は包みを解いて開ける。
中には、かわいらしい?赤いクマっぽい絵が描かれたパジャマが入っていた。それをセシリアが持ち上げると、その下にも、黒いクマっぽい絵が描かれたパジャマも入っている。
何着同じの買ってんだか…。
「ふふふ。これ王都ではやりのフロイデ君っていうクマのキャラクターなんだって」
彼女は、嬉しそうに言う。
セシリアに、そういう趣味があるとは…新しい発見である。
まあ、幼い頃より色々我慢して育ってきたセシリアである。同世代の女の子と生活して子供返りをしても仕方がない事である…?
「じゃあ。先にお風呂入ってくるねー」
「ああ…ゆっくり入ってきていいぞ」
「はーい」
なんか返事の仕方がいつもと違う為か、セシリアが女の子に見えてきてしまった。
セシリアが、浴室の方に行くと、さすがに眠くなってきた。
ベッドは、ダブルサイズのものが一個だが、さすがに昔のように一緒に寝るのもまずい気がする。
俺は、異空間袋から寝袋を取り出してベッドの横の床に敷いた。小さいころから硬い場所でも寝てきた俺は、別に床で寝るのも苦にはならない。
幸い安い宿と違い、ここは床もきれいに掃除してあった。
疲れた俺は服を緩めて寝袋の上に横になった。
―――――おーい
腹の横に痛みを感じる…
寝返ってその方向を見ると、セシリアがベッドに座って見下ろしていた。
既に、先ほどのパジャマを着て頭にタオルを巻いた状態である。
彼女は足先を俺の体へとくっつけている。足を使って突っついていた様である。
どれくらいかわからないが少しウトウトしてしまったようだ。
「セシル…少し…寝かせてくれ…」
俺は、眠気に負けてそう言った。
「それはいいけど…なんで床で寝てるの?そりゃ。お風呂入ってくれないと臭いから一緒に寝たくはないんだけど…」
などと、言っている。
「明日はお風呂入って一緒に寝てやるから…今日は…一人で寝てくれ」
「まあ、それはいいんだけど…風邪ひかないでね」
そう言って彼女は掛布団を1枚掛けてくれた。
「じゃあ。寝るけど。襲ってこないでね」
「襲わなねーよ」
と、言って俺はため息をついた。
―――――うーん。
「みなさん。セシル君は外国から来たばかりで友達もいないのでちゃんと見てあげてね。特にサヴァトくんたち4歳組は同い年だから、みんな仲良くしてあげるのよ」
院長先生が、丸刈りの男の子をそう紹介した。小柄で整った顔をした彼は、俺達より少し上等な生地の服を着ていた。
「へ。やなこった。おいみんなあっち行こうぜ」
サヴァトは、自分たちとは少し違うセシル君の雰囲気を感じ取ったようでそう答えた。サヴァトは4歳組のリーダー的な存在であったため、活発組の他の子はそれに従って着いていく。
残ったのは、俺ともう一人フィーナである。
「セシル君。よろしく」
俺は、そう言って右手をさし出した。だが、彼は、「ふん」と言って俺の手を叩いて奥の部屋へ走り去る。
「大丈夫?…エルくん…」
フィーナが心配そうにそう聞いてきた。
「エルクくん。彼。色々あって大変だったの、だから許してあげてね…ちゃんと言い聞かせておくから…」
院長先生は、セシルの走り去っていった方を見た後、そう言ってため息をついた。
―――――はぁ…。
「良さそうな。人たちで良かったね。きっとフィーナちゃんも幸せになれるはずだよ…」
建物の陰から、老夫婦に連れていかれるフィーナをこっそり見ていた俺とセシル。
セシルは、相変わらず丸刈りであったが、初めて会った時よりはだいぶ大きくなっていた。
「…」
孤児院なのだから、良くあることであるが、フィーナとは特に気が合い…幼心ながら将来は小さいながら家を買って二人で…みたいに思っていたので失望は大きかった。
「エル。仕方ないな」
?
「僕が女好きのエルのために、これからは女装してやるからな。ありがたく思え」
「は?」
「大丈夫だ。カツラでもかぶって髪を長くすれば女の子に見えるだろ」
「そういう問題じゃないだろ…」
そう言って、俺はため息をついた。
―――――むー。
「どうした。エル」
セシルの声で声をかけてきたのは、クマのキャラクターのフロイデ君…の着ぐるみ?である。
「セシルなのか?」
俺の問いかけにフロイデ君は首を縦に振った。
「僕、エルの為に頑張ったんだ」
?
「見てくれ、立派なクマになっただろ。お前はメスのクマが好きだからな。これで一緒にいられるな」
「は?」
「じゃあ。一緒に寝ようか」
フロイデ君が体当たりをしてくる。
そして、倒れた俺をそのまま押しつぶしてくる…
「く…」
苦しい…
目を開ける。
窓から差し込む光に最初に照らされて見えたのは、栗色の髪の毛であった。
「な…」
こいつの仕業か…
なぜかセシリアが俺の隣で寝ていた。
ダブルベッドがあるのに何が楽しくて二人で狭い床で寝なきゃならないんだろう…。
1メートルもない隙間に二人で寝ていたため苦しくなり変な夢を見てしまったのか…
セシリアを見てみると、ちゃんとクマのフロイデ君の服を着ている。
「セシル…」
俺は彼女の肩をゆする。
「はっ」
彼女はパッと目を開けた。
「なんでお前まで床で寝てるんだよ」
「…いやぁ…なんか懐かしくなって…ほらこういう狭いスペースで二人で寝てるとなんか昔に戻ったみたいで楽しいじゃないか…」
彼女は眼を泳がせながら言う。
確かに孤児院にいたときは、各々、部屋の好きなところで寝ていた。俺とセシリア、そして夢に出てきたフィーナは、いつも部屋の隅っこの隙間で三人で寝ていたのである。
彼女が二人でと言っているのは、フィーナが途中で里親に引き取られていったからである。
「全く…もう子供じゃないんだからそういう事は…」
セシリアは、出会った当初は、色々あったようで人間不信みたいなところがあったが、元々は人懐っこい性格なのである。
仲良くなるにつれ、事あるごとに、いたずらを仕掛けるようになってきたのだ。
最も、孤児院でセシリアと仲良くなったのは一緒によく行動していた俺とフィーナだろう。
他の人とは、最初程でないが、ある程度距離を保っていた気がする。学園に来てからも、初めのころはなかなか友達が作れずに結構一緒にいた気がする。
今ではだいぶ慣れて友達も多くなったようだが、二人の時は、油断すると今回のように何か仕掛けてくるのである。
「風呂に入ってくるよ…」
俺は立ち上がろうとする。
「そうだな、臭いからちゃんと風呂に入ったほうが良いぞ」
と、彼女は鼻をつまんだ。見るとカーテンの隙間から朝の光が差し込んでいる。
セシリアのせいでまだ眠いが、もう朝になってしまったようである…。




