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第七話『お部屋は牢屋しかないらしい』

 城の中に入ると多種多様の魔族や魔物たちが、せっせと働いている。よく見ると、人型に近い魔物や魔族が多い。さらに目を凝らすと、男女比は同じぐらいだということがわかる。


「あ、お帰りなさいませ」


「えっと、魔王様、そちらの方が例の人間でしょうか?」


 魔王が帰ってきたことに気がついたハーピィの少女とサキュバスの少女が近づいてきた。


(あの羽は……、危ないわね。羽毛布団みたいにふわふわじゃない。それに、コウモリっぽい羽を生やした女の子の胸……でかい)


 ザブリェットはサキュバスの少女の胸と自分の胸を交互に見比べる。大きい胸は女の子の憧れ。これだけ差があると、ちょっとショックである。だけど、ザブリェットはまだ十三歳。将来に期待することにして、今はグッと我慢することにした。でも、馬鹿なザブリェットは、すぐに忘れてしまう。


(あの胸は……抱き枕に使えないだろうか。あのたゆたゆ感が、寝るときに気持ちよさそうなのよね)


 ザブリェットは、どうやって二人を取り込むか考えていると、ヘルトが勝手に自己紹介を始め出す。


「こっちは人間領のお姫様で、ザブリェットちゅうんだっぺ。姫さん、こっちのサキュバスとハーピィは姫さんの世話をお願いしようと思っている二人なんだっぺ。ハーピィは……」


「一号、んで、そっちが二号ね」


 ザブリェットはハーピィの少女に一号、サキュバスの少女に二号という名前を勝手に付けた。当然、二人は激怒する。


「ちょっと待ってください。一号という名前はあんまりじゃないですか!」


 ハーピィの少女が、羽をパタつかせながら抗議する。その羽の動きを目で追って、36倍速のスピードで叩いた。


「ひゃう」


「お前なんて、一号で十分」


「ふぇ……、ふぇええぇぇぇぇええん」


 ハーピィの少女は、ザブリェットに泣かされてどこかに行ってしまった。

 後々面倒になりそうだったので、ザブリェットは天使の祝福の一つ『誘惑(テンタシオン)』を使っておくことにした。

 効果はよくわかっていないが、こちらに好意を持たせれば、なんか許してくれそう、そんな気分で使ったのだ。

 『誘惑(テンタシオン)』を発動したまま、ザブリェットはサキュバスの少女に振り向く。


「ひぃ……」


 手をワキワキとさせて、ジリジリと近づくザブリェットに恐怖を感じたのか、一方後ろに後ずさる。

 そして、目をつぶって怯えた表情をしたと思ったとたん、豹変したように、ザブリェットに抱きついてきた。


「あ、あ、あの、二号でいいですから、僕のお姉様になってください! ホント、お願いします、おねぇさま~」


「……はぃ!」


 甘いピンク色の声を出すサキュバスの少女の豹変っぷりに、ザブリェットは冷や汗を流した。

 もしかして、もしかすると、もしかしたら。

 ザブリェットは、便利な能力ガイドを取り出して、『誘惑(テンタシオン)』が書かれている場所を探す。ちゃんと36倍速で。

 そして……見つけてしまった。


『誘惑(テンタシオン)』

 相手の精神に自分という存在を刻みつけたとき発動することができる能力。その方法は、精神的いじめでも、恐怖でも、なんでも構わない。

 この能力は同性にしか意味を成さない能力であり、一度でも能力にかかれば、『誘惑(テンタシオン)』の使用者に対して愛を注ぐようになる。

 一度かかってしまうと、解呪することは不可能で、二度と元の生活には戻れない、とても恐ろしい能力。


(……、これって呪いじゃん)


 いや、ちょっと待て、と頭を悩ませるザブリェット。だが、どう見ても呪いにしか見えない。というよりも呪いと言っていた。

 堂々と、この能力が呪いだとは書いていないが、解呪する方法がないから戻れないと、能力ガイドに記載されている。つまり、解呪不可能な強力な呪い。それが『誘惑(テンタシオン)』だった。


 鬱陶しくもくっついてくる二号を蹴りつけながら、ヘルトに助けを求めりと、大きななにかが飛んできた。鳥のような爪と大きな翼。まっすぐ飛んできたそれは、ザブリェットのお腹に直撃する。


「ぐほぉぉぉ」


「ご主人様、二号だけずるいです。私も一号でいいので混ぜてくださいませ、ご主人様ぁぁぁぁぁ」


 少し大きな胸を顔に押し付けてくるハーピィの少女、一号。完全に『誘惑(テンタシオン)』の能力で呪われており、今では瞳がハートの形になっているようだ。


「ちょ、暑い!」


「「冷た!」」


 能力とは違う、この世界に存在する力、魔法を用いて、抱きついてくる馬鹿どもを引き離すザブリェット。

 使った魔法は、名前すらない、ただひんやりとして、飲み物を冷たくするだけの使えない魔法だが、思いもよらない活用方法を見つけられたザブリェットは歓喜する。


「まさか……、魔法にこんな使い方があったなんて」


「いや、それは違うような……」


 呆れかえるヘルトを無視して、ワナワナと震えながら、自分の手を見つめるザブリェット。

 ザブリェットに拒絶されてもめげない一号と二号は再び抱きつこうとした。


「待て!」


「「ワン!」」


 まるで犬のようにお座りをする一号と二号。

 あまりにも従順すぎる二人を見て『誘惑(テンタシオン)』の危険性に気がついたザブリェットは、密かに考えていた、ドキッ『誘惑(テンタシオン)』で世界征服しちゃいます、というくだらない計画をドブ水に捨てて、『誘惑(テンタシオン)』を二度と使わないと決めた。


「私はこれからヘルトに部屋を案内してもらわないといけないの。一号と二号は、私がいいと言うまで待機してなさい」


「分かりましたご主人様。いい子で待っていますのでお早いお帰りをお待ちしております」


「お姉さま、僕もいい子にしているからさ、早く、早く帰ってきてよ。寂しいのは嫌だからね!」


「あ、うん。ワカッタヨ……」


 最後の方はカタコトになっていたザブリェット。ぶっちゃけどうでもいいと思い始めていなので、うるさい二人を放っておいて、ヘルトと一緒にその場を後にする。


「姫さん、ちょと待っててくんねぇか。どこの部屋が空いでるか確認しねぇとオラにもようわからんっぺ」


「うん、確認ヨロ」


 ヘルトは、一人のメイドに声をかけた。そして何やら慌てている様子。オロオロと挙動不審になっていくヘルトを見て、ザブリェットはクスッと笑う。

 そして困り果てたヘルトがザブリェットのもとにやって来る。


「どうしたの? なんかあった?」


「それが……、口で説明するよりも、実際に来てもらったほうがはやいっぺ」


 ヘルトの意見に従い、後を追うザブリェット。薄暗い通路をとおり、階段を下りていくと、じめっとした空気が充満した、居心地の悪い牢屋にたどり着く。


「えっと……これは?」


「すっげぇ言いにくいんだが、ここしか部屋が空いていないんだべさ。オラの畑道具がいろんな部屋にちらがっているって訊いて、準備するのに時間がかかりそうなんだっぺ」


「……ファック」


 ザブリェットは無駄に良い頭をフル回転させて、この状況をどうにかしなければと考えた。

 目の前にあるのは、そこそこ広い牢屋。一人部屋だとしたら、ちょっと羨ましがれるんじゃないかと思えるほど広い。多分、複数のものを投獄するための牢屋に違いないとザブリェットは思う。一応窓はついていて、静かな風の流れがあるのはわかるが、部屋が湿っているのか、かび臭い。部屋にはベッドらしきモノが置いてあるが、無駄に目がいいザブリェットには見えてしまったのだ。

 若干黒ずんでいるカビの生えたベッドを。

 あんなもの、寝れたもんじゃない。他にも、腐った木材が転がっており、小さな骨のようなモノが散らばっている始末。

 これは、人が住める場所じゃないということだけは、はっきりとわかる。

 さて、どうすればいいかと考えたとき、あることを閃いた。


(別にここを自由に作り替えれば良くない?

 そうすれば、私好みの部屋が完成するじゃない!)


 そう思ったザブリェットは、すぐにヘルトに聞いてみた。


「私、ここでもいいから、私の自由に改装させてよ」


「ん、こげな汚い場所でもいいんか? ここなら改装ぐらい構わんけど、もっと綺麗な場所があるがやさ」


「でも、改装は難しいんじゃない?」


「んだ、他の部屋だと改装するのは勘弁して欲しいだべ」


「だったらここでいい。資材をどうにかできれば、私が勝手に改装して住みやすい場所を作るんだ!」


「ほか、まぁがんばれ」


「うん!」


 ザブリェットはニコリと笑い、元気よく返事をした。その笑顔が可愛らしく、ドキッとしたヘルトは、視線をちょっとだけ逸らす。

 ドキドキしているこの鼓動が伝わっていないだろうか、とゆっくり視線を戻すと、ザブリェットが震えていた。それはもう、ワナワナと震えていた。その表情には焦りがあった。何かしらの恐怖があった。瞳には涙を浮かばせ、今にも溢れそうな表情をしているザブリェットが心配になってきたヘルトは、小さく声をかける。でも、そんな声は聞こえないとばかりに、ザブリェットが叫びだした。


「やばい、やばい。あーもう。私、『強化(ブースト)』を使っちゃったじゃない。明日は筋肉痛。今日中に最低でも部屋の空気とベッドあたりをどうにかしないと、あのカビが生えたベッドで寝ることになっちゃう!

 そんなの絶対に嫌だ!」


 それで全てを察した。確かに、俺でもあんなベッドで一日横になるのは嫌だなと思うヘルトは、当然手伝わない。

 ザブリェット同様、ヘルトもまた自由人。

 仕事は完了したとばかりに、どこからともなくタオルを肩にかけ、桑を片手に持って麦わら帽子をかぶった。


「んじゃあ、オラは畑に行ってくんべ。あとは自由にやってくんりゃ」


「ちょ、資材!」


「布類なら、城内にいる布リアンっちゅう魔物を狩るとええ。あいつはいい生地してんださ。死体は、地下神殿の亡霊神父っちゅうもんが蘇生してくれっぺ。問題なか。

 あとは、木材。ウラウスの森に生息する、ギ・シリーズを狩ればええ。あいつらは自生してるから、なんもせんでええからな」


 ザブリェットのよくわからない質問もきっちり答えてくれるヘルトは、きっとザブリェットと同類なのだろう。

 ヘルトは言うことが終わると、すたこらとどこかに行ってしまった。

 一人残されるザブリェット。心の中では、ベッド、ベッド、と呪詛のように呟いている。


 手を牢屋の鉄格子に触れさせて、ザブリェットは能力を使った。使用したものは『創世(クリエイト)』。ぶっちゃけ錬金術じゃないのかと思わせる能力。鉄格子を鋏や剣等の武器に変えていく。


「ふふ、ふふふふふ、ふひひひひひひひ」


 不気味な笑い声が、城全体に響き渡り、この日、新たな怪談話が生まれたという。

読んでいただきありがとうございます!

次回もよろしくお願いします!

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