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連邦帝国航空宇宙軍史  作者: zero
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中華世界の躍進と合衆国の宇宙軍備概況

 宇宙への拡大を推進する日本及び同盟国に対し、冷戦期より対抗者であったロシアや合衆国、中華連邦であった。

 その中でも当時、日本人たちに対抗できると有力視されていたのは(後世から見れば意外にも)中華連邦であった。中華民国主導で共産中華と統合し、約一世紀ぶりに誕生した中華世界における統一政体である中華連邦は、一九九〇年代に誕生し、第一次冷戦構造終結後その市場規模に目を付けた欧州諸国により(日系国家からは歴史的な対立故に忌避された)〇〇年代より宇宙進出が本格化するまでの約四半世紀にわたり資本が流入、結果とし三〇年代には経済的には世界でもトップクラスに躍り出ていた。冷戦期に合衆国が日本の戦力分散を意図して中華民国に、旧ソ連邦は盾としてしての役割を求めて共産中華に支援を行い、最低限の工業基盤を整えていたことが好影響をあたえていた。欧州からの資本がほぼ停止した後も、未だに経済的には不調であった合衆国企業は進出を続けていた。

 経済的な成長に伴い、なかば当然のごとく軍事的にも拡大していた。当時の中華連邦は中華民国から受け継いだ制度として、連邦大統領に対し権力が著しく集中しており、一種の独裁体制であったと言える。日本の総統制もほぼ変わらない制度であったが唯一、大統領が民主的な方法で選出されない点が異なっていた。この当時の中華連邦には形式的な意味合いを除き、民主体制は存在しなかった。そしてこの時の総統は順調な経済発展に裏打ちされた財政をもって二〇世紀中盤以降から大差のなかった軍備の近代化を図っていた。その中にはいまだに海軍軍備の象徴的な役割を担っていた反応動力航空母艦の調達をはじめとした外洋海軍の整備も含まれていた。これは明らかに大東洋(太平洋)を実質的な領域化している日本への挑戦であると国内では受け取られていた。

 また仮想敵国である旧太平洋連合参加諸国を中心とした『宇宙植民地の警備』を名目とした宇宙戦力の拡充に対抗するかたちで、中華における宇宙軍こと航天軍の整備も行われた。後発の優位を活かし各種諜報手段をもって得られた各国艦艇の設計をもととして設計された<遼寧>級巡洋艦は戦闘能力では日本連邦帝国の<たかちほ>級や独逸帝国の<ザラマンダー>級を上回るとされ、一部では””宇宙戦艦””とも称されるほどである。また航宙性能においても一万トンをこえる基準質量による余裕をもった艦体やそれに搭載された高出力融合炉により非常に優れていた。同級は六隻が計画され、名目上は地球周回軌道上に存在する中華の軌道基地警備を担うものとされていた。しかし一朝有事には日本などの地球、月、L5の各拠点を結ぶ航路を脅かすことができる戦力であった。また後続する改良型の計画も着々と進行しており、戦力はますます充実しようとしていた。

 中華連邦以外に、経済的は完全とはいかないながらも太平洋連合諸国への復仇を願う合衆国が宇宙空間における戦力を整えつつあった。この国は、いまだに建国時から存在した、ある種の賢明さを失わず、それゆえに日本をはじめとする各国に対抗できてしまっていた。経済的には落ちぶれながらも、ある程度の技術力を保持できているのもそのためと言われている。(そのような国が勝ち目の見えない戦争を起こしたのは、賢明さが必ずしも活かされることのないということの証明だろうか) 特に国策により、知識層を軍需産業に偏らせることによって、軍事技術の世界ではトップレベルを維持していた。全周囲を敵と呼びうる国に囲まれている状況では致し方ないのかもしれないかった。

 なにしろ合衆国は、北を英連邦に属するカナダと日本皇国の自治州の一つである荒須賀州、南を連邦帝国構成国である加州国及び日本の友好国であるメヒコ共和国と国境を接する形で存在していた。冷戦期は(軍事的合理性を伴わない、さりとて無視するわけにもいかない市民の要請から)常に陸軍を国境沿いに張り付けており、国防予算を圧迫していた。

 当初の合衆国の宇宙戦力は低軌道基地の守備を中心としたものであった。予算的な問題から、宇宙における植民地建設を見送った合衆国には宇宙において守るべき国益がほとんど存在していなかった。少ない予算の中から将来的な月面開発・植民地建設を目指した官民共同の低軌道基地兼宙港―――アトランティック・ステーション、通称A・Sを建設したが、それが限界であった。

 合衆国の宇宙における数少ない拠点として整備されたアトランティック・ステーション。それを拠点として整備されたのが合衆国唯一の宇宙艦隊、通称A・S艦隊である。正式には合衆国宇宙軍航宙艦隊という、形だけでも宇宙艦隊を欲した軍人と市民の声によって誕生したといってもよいこの艦隊は、当初は非常に脆弱であった。開隊時の戦力は中華連邦から<遼寧>の設計図を買い取って建造した<アラン・シェパード>級フリゲイトをはじめとする僅かな戦闘航宙艦と輸送艦、航宙機だけであった。

 軍事技術において世界のトップランカーであるはずの合衆国が、中華の巡洋艦をライセンス建造する羽目になっているのか?

 それは合衆国軍備の優先度からくる問題であった。合衆国の軍備は建国以降、一時期の例外を除き、常に陸軍を重視してきた。前述のとおり国境のすべてを潜在的な仮想敵国と接し、また合衆国自身が周辺領土を””未回収のアメリカ””と呼び、常に機会をうかがってきた。それに加えて第三次世界大戦後、準戦時体制を解けずにいたこと、勢力圏へと編入した中南米諸国への駐留、代理戦争への兵力・物資提供等で体力を徐々に奪われ、さらには冷戦崩壊のきっかけともなった(合衆国の仕掛けた)軍備拡張競争で完璧にとどめを刺された結果、経済的に崩壊した。これにより一時期、国防や宇宙開発の分野における予算が激減し、その少ない予算を直接的な軍事研究へと回したため、特に航空宇宙関連技術の研究を停止してしまったのである。この時期の技術的な停滞が、今の合衆国をじわじわと苦しめていた。この間の技術的停滞を埋め合わせるべく、合衆国はこの時期に技術を持つ国々とはどことでも交渉したとされている。その行動が結実したのが米中宇宙開発連携協定であり、<遼寧>級の設計図売却である。

 少し話を戻そう。

 旧連合諸国が主体となって組織した国際宇宙開発機構(ISDO)の手による月、L五への植民は合衆国にとって目障りでしかなかった。自分自身の手の届かぬ場所、そしていずれは行かねばならない場所へ仮想敵国に先に手をかけられるのだ。当然ともいえた。しかし合衆国市民の大半はそれを目障りと思いつつも、建国以来の悲願である””未回収のアメリカ””の方を優先すべきであると考えていた。もちろん一部の政治家や軍人は宇宙への歩みを早める方がより利益が大きいと考えていたが、建国当初の理念を忘れず世論に左右される合衆国の政治は最適な戦略を立てれずにいた。

 そうした状況下で合衆国軍が選択したのが、地球近傍宙域の制宙権の完璧な確保である。具体的には小型航宙艦および航宙機の多数配備により、各国の宇宙植民地と本国の連絡線を完璧に断つことを主眼としていた。宇宙植民地は未だに自立できているとはいいがたく、地球より運び込まれる高度科学技術品なしには成り立たなかった。本国もまた融合炉の燃料ともいうべきヘリウム3を常に欲しており、これを断つことは戦略的な優位性を引き寄せることができると考えられていた。

 その戦略下において建造された新鋭艦が、世界初ともいわれる航宙母艦、<ニール・A・アームストロング>である。全長三〇〇メートル以上、基準質量五万トン超、航宙機五〇機以上搭載etc…… 

 こう書き連ねるとあたかも優秀な軍艦のように見えるだろう。

 しかし実態は異なる。

 実際は、わずかに軌道遷移可能な、機能が限定された宙港でしかなかった。効率の良い推進システムを開発できず、それ故に採用された葉巻型の船体も欺瞞へと拍車をかけていた。第四次大戦前の緊急改装により、航宙性能は多少なりとも改善されたものの、それまでは地球近傍における作戦行動すら不自由をきたすほどであった。

 流石に<アームストロング>就役後、自らの技術力の低さを自覚。中華からの技術導入の動きは激化し、後の米中関係のさらなる深化―――米中蜜月とよばれる時代の、きっかけの一つとなったという意味では成功だったのかもしれない。

また次は大分期間あくかも。

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