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9 VS.育児放棄

9  VS.育児放棄(ネグレクト)




 今の状況はかなり致命的で、この身体の持ち主や家族にとってはすでに最悪だった。


 ‘ 魔 ’も滅びるように‘ 命気 ’も絶対ではない。


 ‘ 命気 ’がある限り、傷つき病んで死を迎える事はないが、飢えや渇きによる衰弱死はある。


 毒も病も瘴気すら相殺する‘ 命気 ’でも、肉体を維持するための材料切れだけはどうしようもない。


 この幼子の身体は、飢えと渇きで生命力が尽きかけていた。


 残った‘ 精霊力 ’はわずかだが、それで水を得れば、寝たままで一日程度は生命(いのち)を繋げるだろう。


 だが、その‘ 精霊力 ’を残しておけば、浅位の妖魔程度なら滅ぼせる。

 ‘ 魔 ’を相手に篭城している可能性がある以上、そうしなければならない。


 ‘ 魔 ’を一つでも多く滅ぼすために、生命(いのち)を使う。

 討魔者であるとは、そういう事だ。

 

 とは言っても、それで無駄に生命(いのち)を落としては意味がない。

 だから、とりあえずは水や食料になるものを探す事から始めるべきだろう。


 周囲を見回すと、鉄の扉が備え付けられた一室には、天井からぶら下がった器具だけではなく、部屋自体も奇妙なものであふれていた。


 薄い黒い板のような器具。

 壁から突き出た器具とその下に据え付けられた金属の桶。

 その横には見慣れない器具が置かれ、その上に鍋が一つ。

 

 ここは錬金術師の実験室か何かなのか?


 だが、それにしては引き戸で隔てられた部屋にはベッドがあり、その上には、女物の下着なのか薄い布の貫頭衣めいた見慣れない衣服が散らばっている。


 下着にしては色を何色も重ねた複雑な柄で、富裕な上位官吏や‘ 上位武族 ’などでもなければ買えないような品だ。


 だが、そんな高価な品が無造作に扱われているのは何故だろう?


 どうにも奇妙で違和感を覚える部屋だった。


 感覚を研ぎ澄まし周囲の気配を探しても、生命(いのち)の気配や‘ 魔 ’の気配はこの部屋にはまったくない。


 少なくとも数日は、この部屋には誰も訪れてはいないようだ。


 気配察知のスキルや精霊術を使えば、部屋の外を覗えるだろうが、そうすれば死に瀕したこの幼子の身体を無理に動かすだけの力も尽きる。


 討魔者の魂で一時的に甦っただけで、人が生命(いのち)を保つための限界はとうに越えているのだ。


 一歩を踏み出すたびに、残り少ない‘ 命気 ’が費やされていくのが判る。


 この部屋を出て、水がある場所にたどり着くか、誰かに会うまで、()つかどうか。


 《身体活性》の発動レベルを落として‘ 命気 ’を節約すると、途端に息切れと眩暈が襲ってくる。


 倒れそうになるギリギリまでレベルを落とし続け、もう一歩を踏み出す。


 扉までのほんの十数歩が限りなく遠い。


 生命活動が危険なレベルにまで《身体活性》を絞ったのだから当然だ。

 

 だが、これが一番長く動いていられる方法だ。


 苦しさを無視できれば最良の手段と言っていいだろう。


 訓練で鍛えた弟子や生徒達に、そう告げた時は、極めて不評だったが。


 それで、いざというときに生き延びる可能性が増すのなら、甘えた事は言ってられない。


 討魔者の役割とは、生命(いのち)を賭けて、生命(いのち)を護るために、‘ 魔 ’を滅ぼす事だ。


 だから、自分の生命(いのち)も、護る対象の一つだ。


 無為に生きる事も無駄に死ぬ事も許されない。


 遠い昔、‘ 魔 ’に奪われた多くの生命(いのち)を背負ってから、ずっと‘ 魔 ’を滅ぼすために、この生命(いのち)を使ってきた。


 では、背負わされたこの幼子の生命(いのち)のためには、どう生命(いのち)を使うべきなのか。


 もし、‘ 魔 ’が原因でこの幼子の生命(いのち)が消えたのなら、‘ 魔 ’を滅ぼし続けるしかない。


 既にこの魂は、‘ 魔 ’を滅ぼす‘ 魔 ’。

 人ではないのだから。





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