No.2 ホワイト・オブ・パーフェクト
出されたお題を元に、一週間で書き上げてみよう企画第二弾!
今回のお題は「看護師」「天然」「喧嘩」
8/30お題発表
8/31遊びに行く
9/1遊びほうけてサボル
9/3なんとかならんかと頭を捻る
9/4色々悩み事から筆が動かない
9/5プロット作成から書き上げるまで約12時間で済ます
二度とこんな強行軍はやらん
私は暗殺者だ。コードネームは「ヴァイツ」白を意味するこのコードネームを与えられたのには理由がある。それは私の暗殺スタイルにある。それは……
「ちょいと看護婦のお兄さん、お食事まだかいのう?」
「あ、もうちょっと待ってくださいね。あと看護婦じゃなく看護師の田中、って呼んでいただけますか~?」
このおばあさんは今回の暗殺対象、お早さん(102歳)今は病院で療養中のおばあさんだ。そう、なぜ私が「ヴァイツ」と呼ばれるか、すなわち、医療現場という人生の最後の現場に立ち会い、自然に、ごく当たり前に暗殺を成すからだ。ふふ、今回も完璧だ。食事に私が所属する暗殺者組織「アレナ」団体から与えられた薬を混ぜればすぐに任務は達成だ。
「そうかい? じゃ、外で食べてくるかねぇ」
そういってお早さんが立ち上がる。え゛!?
「い、いえ、まってください。食事は病院で用意したものでないと健康の管理ができません。もう少しで済みますから、待ってください」
こ、このおばあさん、まさか見切っているのか? 私が暗殺者であると……! あ、有り得ん。偶然だ偶然。
そんなことを思いながら、食事をお早さんの机の上に置こうと……した。だが置けなかった。
そう、置けなかった。なぜなら、すでに食事が用意されていたからだ。
お早さんの机の上には、肉の焼ける甘い香りに合わせて脂の下たる分厚いステーキが、ステーキソースを焦がす鉄板の上に置かれ、傍には芳醇な香りを発する金色のコンソメスープ。ほかほかと白い湯気を立ち昇らせ盛られた白米。付け合わせのサラダもある。誰だ! ステーキセットを頼んだ奴は!
それは他でもなく、お早さんの傍に佇む白衣のナース! こいつを、私は知っている!
白衣に身を包んだ天使とは名ばかりの死の天使、暗殺者組織「ソレナ」団体で有名な私と同じ暗殺スタイルのエージェント「ホワイト」その人だ! 今回の偽名は「山根」というらしい。おい、なんでそんな名前にした!
「はーい、ステーキセットをお持ちしましたよ~」
何食わぬ顔でホワイトはステーキを切り分ける。同じ手段を取ろうとしていた私には分かる。この女は、この暗殺者は何食わぬ顔でお早さんを殺そうとしている!
「はいはい、だめですよ、お早さんは食事制限ついてますからねぇ」
私はにこやかにホワイトへ詰め寄った。
「いえいえ、かの有名な「早々グループ」の大奥方様ならばこれぐらいの病院食を食べませんと」
ホワイトは私が誰なのか分かったようで、私の制止に真っ向から反対した。
「そうはいきませんよ。病気は地位を選びませんからね、山根」
「地位を選ばないからこそ、地位のある人は豪華な病院食が取れるんじゃないですかね、田中」
ギリギリとお互いに器に盛った白米を押し付け合っていると、どこからか咀嚼音が聞こえてくる。私とホワイトはハッとしてお早さんを見ると、お早さんは病院食の器を持って食べている! やったぞ! ……ん? 私が薬を入れた器は今私の手の中だ。
「お早さん、その食事どこから?」
「せ、せっかくのステーキセットが」
我々の呆けた顔を脇に、お早さんは口にご飯を運んでいく。そして何食わぬ顔で答えた。
「もうお腹すいたからワゴンから出してきたのよ」
な、ナンダッテー!?
案の定、この後二人とも食事が足りなくなりこっぴどく叱られた。
前回は失敗した。だが今度はうまくいくはずだ。病院に限らず自宅でも死亡事故一位のお風呂場! 水に鎮めるのか? 否、タイミングよく外から呼び出しがかかるようになっている。私の所属する暗殺者組織「アレナ」団体から電話をかけてもらうように頼んだのだ。しかも、他の看護師たちも忙しくてお早さんを気にかけられない。この計画ならうまくいくはずだ!
お早さんをお風呂に入れる為、湯船に寝かせる。お湯を本来は少量張り、あとはタオルで擦るのがデフォルトだが、わざと蛇口に細工をして湯船いっぱいになるまでお湯が出るように設定してある。これで良い!
と、お湯を張り始めたところで他の看護師の方が私を呼びに来た。来た、電話だ。ふふふ、これで私が帰って来た時には、暗殺者組織「アレナ」団体の「ヴァイツ」が事を成しているであろう! 私は笑いを抑えてナースステーションの電話に出た。
「はいもしもし、田中です」
「事はもうなったかね? 兄弟」
電話口に出たのは暗殺者組織「アレナ」団体の代表だ。相変わらずお渋い声でいらっしゃる。
「えぇ、そのことなんですが、今取り掛かっているところです」
さすがに我ながら手間取っている状態、これを代表に報告しなければならないことはさすがに苦しかった。それにまさか電話をかけてくるのが代表だったとは……。
そんなことを考えている私に代表は言う。
「そうか、お前にしてはずいぶんと手間取っているな。「早々グループ」からの前金は多額だった。成功報酬もかなりの額だ。何としても我が組織によい報告を持ってくるのだ。良いな」
「はい、お手を煩わせて申し訳ありせん。……」
「なんだ? なにか聞きたそうだな?」
私の沈黙から私の疑問を読み取る。さすが我が暗殺者組織「アレナ」団体の代表。
「はい……なぜご自身が電話をかけていらっしゃったのかと思いまして」
代表はしばしの沈黙の後口にした。
「今回の依頼人、ご子息だがな……」
「ああ、あの「早々グループ」の現会長ですね」
「その会長が、暗殺をしばし待ってくれと言い出した」
は!?
「……すまん。言うのが遅れた」
私は電話を投げ捨て風呂場に向かった。クライアントからの依頼は絶対優先。暗殺を待てと言われたら待たねばならん!
私は風呂場に駆け込むと、そこには如何わしい液体を手に持つホワイトが居た。いかん!
「山根! 貴様……君、入浴剤は必要ないだろう!」
「おや誰かと思えばえーと、田中。豪勢な「早々グループ」の大奥様ならばこれぐらい。そもそも、邪口が改造されて水が出っぱなしでしたけどあれじゃお早様が水没してしまうじゃないですか」
ぐっ、水はホワイトが止めたのか。悔しいようなナイスのような。
「そんなことより貸せ! その入浴剤!」
私はホワイトの手から如何わしい液体を奪おうとした。
「な、何をする! これは我が組織から……この!」
「よこせ! 今殺させるわけには……」
ともみ合っているうちに如何わしい液体は我々の手を離れ、浴槽へと飛び込んだ!
が、浴槽にはお早さんは居なかった。お早さんは早々に自力で上がり、自分の体を拭いていた。
「もうお風呂終わったから上がったわ」
「「えぇー!」」
このおばあちゃん……なんで入院してんだ?
あと二、三暗殺の手はある。だが、今は殺すなと言われた。なぜだ……私は個人的に「早々グループ」の会長へアポを取り付け、裏口から会いに行った。
“その手の者”であると分かるや否や、そのまま私室へと私は招かれた。黒を基調としたゴシックな薄暗い部屋に一人、老いた男がやつれた顔立ちで椅子に深く座っていた。この男が「早々グループ」の会長(85歳)なのだ。
会長は私を見るなり、バーボンを勧めたが私は丁重に断った。会長はグラスを煽りながら私に言った。
「母は、元気なようだな。それもそのはずだ。母を病院に入れているのは、他でもなくワシなのだからな」
会長が自然と話してくれそうなので、私はそのまま続けるのを待った。
「事の始まりは先代、父の急死だった。半端者だったワシに代わり、母は会社の経営権を掌握。会社は先代の頃より業績が良くなった。だがワシはそれが不満だった。ワシとて父の下で経営術を学んできた……つもりだった。ワシは会社で問題をお越し、その不始末を母に押し付け、つまらぬ女との遊びに呆け……遊びからその女『愛子』を愛人として家に入れるまでになった。そう、遊びが過ぎてワシの子ができていた。ワシは心底肝が冷えた。だが、その時も母はワシとそのを迎え入れ、その愛人のために別宅まで立てた。会社が冷え込むたびに母は帰って来て、まるで天啓でも受けたかのような一手で会社を立て直してきた。ワシはそれが……疎ましかった。いつまでも母を越えられない。母の幻影に付きまとわれていた。そんな時、あの愛人『愛子』から過去のスキャンダルを暴くぞと脅され、暴かれたくなければ相応の地位と金をよこせと言われた。もう十分に与えたというのに。仕方なく与えようとした時、母が反対した。母にすべて話したがそれでもと首を縦に振らなかった。だから、仕方なくワシは……」
「病院に入れて拘束。それでけじゃなく暗殺をしようとした、と」
会長は静かに頷いた。
「では、ご依頼はキャンセルですか?」
しばしの沈黙の後、会長は口を開いた。
「いや、こういう依頼は君たちにすべきではないと思うが……依頼内容の変更を願いたい」
翌日、私は全身黒の完全装備で病院の屋上に居た。平和な院内の庭が見えるこのお昼すぎ、洗濯物のシーツが大量に干され、大型エアコンの空調がデカい音を立てる病院の屋上で、私は人を待っている。他でもない、ホワイトを呼び出したのだ。ホワイトもそれに応じるように全身白の完全装備で私の前に現れた。
「皆まで言う必要はないようだな」
「そうだな。こちらからも呼び出そうと思っていたところだ」
私は袖口から小瓶を一つ落とす。中身は気化性の痺れ薬だ。効くとは思っていない。むしろこれは……。
私が落とした小瓶の割れる音に合わせ、ホワイトがメスを投擲してくる。眼前をかすめるまでも無くメスを回避。この時飛んできたメスを一本奪取。続いて次の小瓶をホワイトめがけアンダースローで投げつける。ホワイトは……無論避ける。だが、奪ったメスを小瓶へ投擲、小瓶内の強酸があたりにまき散らされる。この隙に我々はお互いに物陰へと隠れた。
「ははは! やはりできるな、さすが暗殺者組織『ソレナ』団体の『ホワイト』だ」
私は思わずホワイトに声をかけていた。
「そいつはどうも」
そう答えるホワイトの声は私のすぐ脇からした。何時の間に!
わたしの頭があった位置にメスが空を斬る。私は小瓶を一つ落として……しまった、割れてない! とにかくその場から離れて次の物陰へ。
「暗殺者組織『アレナ』団体の『ヴァイツ』……肉体能力もそれなりに優れている様じゃないか」
「褒められても危険薬物しか奢れんぞ」
困ったもんだ。私の獲物は主に薬品。使用場所を間違えば自身も被害に会う。だが、目に見えないこの獲物は優秀だ。とはいえ、こう場所をかき回されたのではうまくいかない。さらに奪われて使われる危険もある。
「気にするな。あたしは男から奢られる趣味は無い。むしろ……」
案の定、私の隠れている物陰に先ほど私が落とした小瓶が投げ込まれる。私は咄嗟にその場から出る。その時肩に痛みが走る。見ればメスが三本刺さっている。見事に肩の腱を狙う時点でホワイトがどれだけ優秀かがうかがい知れる。何とかして次の物陰に隠れる。
「あたしは男から奪い取る主義だ」
「それはご立派だな」
私は物陰で期を待った。あと少しのはずなのだが……
「Hey、田中、いつまであたしのまわりを回ってるつもりだい?」
あと少しで……
「なに、病室を爆破できるまであと少しでね」
無論ブラフだ。
「ウソだな。あたしがあんたから目線を外すのを待ってんだろ? 見え透いてて小学生ですら見抜けるぜ」
ああ、見破られるのも計算の内。だからこの問いかけが効くはずだ。
「そいつはすまなかった。じゃあ、最初に落とした小瓶の内容にそろそろ気づくんじゃないか?」
「……まさか! お前!」
そうあれもブラフだ。本来の仕込みはとうに終わっている。
「そろそろ効くころだろう? 空調の排出口そこに仕掛けた痺れ薬がな!」
勝負は有った。ホワイトは体を震わせながら膝をついた。
「あたしを殺すのか?」
「残念だがその依頼は受けていない」
私はホワイトに麻痺の中和剤を打った。
「あと10分もすれば効いてくる。……すまないな。だが、邪魔はさせられないと考えたのだよ」
疑問に思っているホワイトに私は言う。
「17歳……その時で子供を産み、子供へ愛情を惜しむことなく、遊びたい盛りに夫を支え、彼女は幸せだったのだろうか? いや、聞くまでも無いだろう。幸せだったから、彼女はその後息子を助け、夫の残した会社を大きくし、息子の起こした問題も解決させ、愛人に会社が取られるのを防ごうとした。自身が息子に暗殺者を送られていると知って居ながら、今息子と面会することを選んだ。これが愛と言わず何というのか……」
ホワイトは無言で私の話を聞いていたが、ふらふらと立ち上がり言う。
「ふん。そんなの他に生き方が無かった。ただそんだけだろう?」
「たとえそうであろうと、私はあの二人に時間をあげたかったのだよ」
「では、引き継ぎの者が来ますからちょっとお待ちくださいねぇ」
わたしは、お早さんの元から去ることになった。暗殺以来がキャンセルされたからだ。
「そうかい? 短い間だけどお世話になったね。看護婦さん」
「ははは、もうそれでいいですよ」
しかし、ホワイトが暗殺を断念したとはどういうことだろうか? まぁ、私には関係の無いことだ。
「お早さん……」
私は言うか悩んでから口にした。
「ご無礼を働きました。平にご容赦を」
「なんのことだい?」
「私があなたへ差し向けられた暗殺者だと気付いていたのでしょう? あとあの……山根もそうだと」
「なんのことだい?」
「え? あれ?」
も、もしかして……
「いえ、だってあの時もその時も毎回巧みに回避して……」
お早さんは首を傾げた。ま、まさかこの人は……
「良い看護婦さんに出会えてよかったよ。息子や孫も絶賛してたんだから」
言い知れぬ敗北感を胸に、私は病室を去った。ホワイトが暗殺をあきらめた理由が、今はっきりと分かった。
いやはや……
急いでかくものではございませんね……
一応構想自体はそれなりに決まってたので、もはや捻りも無くそのままで行きました。
どうしても某ナース忍者のヴァレンタインが出てくるのでホワイトさんが登場しました。
あとは「喧嘩」のお題があったのでバトルシーンも含みました。
もうちょい感動系に話を振りたかったなぁ、と思っちゃう作品だったりします。