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伝達意識の迷い星  作者: ぴっく
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プロローグ 後編

 

 チャイムの音で俺は目を覚ました。


 どうやらひと眠りしてしまったようで保健室から窓の外を見れば、サッカー部の連中がシュート練習をしているのが見えた。とっくの昔に放課後になっていたというわけだ。隣にも人の寝ている気配があった。というか、保健室を見渡すと4つのベッドすべてが使われているようだ。保健室がこんなに繁盛していいものだろうか。


 その後やってきた保健室の女の先生にそのあと、いろいろ質問された。具合はどう?とか、頭痛はないか?とか、今日は家の人呼んだほうがいい?とか。

 俺は適当に首で返事した。こういうのは特に苦手だ。会話の主導権は常に相手にあるこのパターンは、俺がどう意思表示をしようとも会話の流れは変わらない。会話というのは両方面からの意思疎通と勘違いする奴がいるが、それは間違いだ。それもあるが、会話は半分押し付け。そう、一方通行な会話。相手の意思など確認もせず、ただ自分の赴くままに自分の意思を相手に押し付ける。そういう会話に俺は何度も何度も……。


 「あの、大丈夫?」

 「え……」

 すぐに「大丈夫です」と言えば良いものだが、いわゆるコミュ障である俺にその考えはなかった。


 俺に出来たことは一つ。パニクることである。


 「あ、え、その、ええっと、だ、だだ、大丈夫ですっ!」

 しかもでかい声。ますます恥ずかしくなってもうだれにも止められない。

 「あ、ごご、ごめ、ごめんなさい!」

 俺はその時思った。

 伝達分野偏差値21というのは、この学校では間違いなくワースト1を勝ち取れるレベルなのだと。


 保健室で醜態をさらした俺は階段をのぼりながら胸ポケットからあの成績表を取り出す。そして伝達分野の項目に書かれた偏差値をまじまじと見つめる。どうみても21。 21だった。

 

 ……たしか、その時だったと思う。そう、すべての元凶の始まりの日、俺はあの階段であいつに声をかけられたのだ。何の予兆もなく、何の連絡もなく、ただそれが一つの現象にすぎないと世界が断言してしまったのだろう。そうとなれば、俺があの階段に立ち寄ったことは必然であり、あいつが俺に「お前」と声をかけたのも必然ということになる。

 なんでもいい。いずれにせよ、俺はあの瞬間を忘れない。いや、忘れられない。


 「お前!」

 でかい声だった。知らない女の声。

 ただ、振り返ってみると、そこにはスポーツ系の肌の焼けた女子も、ボーイッシュな運動着を着た女子も、はたまた実は男……なんてことは無く、そこにいたのは長い黒髪のおとなしそうな女子だった。


 俺はびっくりしたが、どういうわけか口が勝手に動いた。

 「お、お前こそなんだよ?」

 「私は伝達部部長、阿坂茉衣あさかまい。」

 「阿坂……茉衣?」

 残念ながら俺の貧弱な脳内女子生徒名簿図鑑では検索結果は0件だった。

 「お前は『あおさきちゅう』だな?」

 「なっ、じ、自信満々に人の名前間違えてんじゃねぇ、俺の名前は『あおさきそら』だ!」

 あれ?どうした俺?

 「それは失礼、訂正する。チュウ。」

 「お前、さてはわざと?わざとだろ!?」

 「……そう、わざとよ。」

 何を言っているんだこのクソ女は?

 「あなた、伝達分野偏差値が21とお伺いしましたが、事実ですか?」

 「なっ、なんでそんなこと……」

 「いいから、質問にお答えください。そうなんですよね?」

 「あ、……はい。」

 

 しばらく沈黙が続いた。目の前にいる阿坂茉衣とか言うやつはメモ帳になにやら書いている。のぞき見をしてやろうかと思ったが、思っただけであって、そんなことコミュ障にできるはずがない。むしろ、さっきの言い争い、自分でも不思議だ。初対面の人にあんなことをいうなんて……。


 「なるほど、これは困りました。21はかなり……」


 なにかぶつぶつ言っている。俺がらみなのは確かだ。今、21という数字が聞こえたからな。しかし、何でこいつは俺のことを……?


 「まあ、でも今年はタフなのは承知ですから、たぶん……」

 「あの……」

 珍しすぎることに俺は阿坂に話しかけた。がんばれ、俺。

 「コミュ障は黙っててください。」

 泣くな、俺。なんだ、あのツンツンしまくったツンの塊は?初対面の人間にいきなりお前と言い放ったかと思えば、名前を間違えやがって。……とは口が裂けても言えない。


 「青崎さん。」

 阿坂は俺に一枚の紙を差し出した。何か書いてある。

 「な、何ですかこれ?」

 「入部届けです。」

 「はい?」

 「いや、だから入部届けです。これを明日の朝、担任の松井先生に提出してください。あなたは確か3年2組でしたから、担任は松井先生ですよね?」

 「あ、はい。……え、それで、入部って?」

 「ちなみに強制です。あなたの意思はミジンコも反映されません。ちゃんと印鑑を押してくるように。それでは、さようなら青崎君。また明日。」

 「お、おい!阿坂……さん!?」

 

 阿坂という女は本当にどこかへ行ってしまった。入部届けを俺に渡して。


 見ろ、これが会話だ。一方的な意思の押し付け。弱者は物申す事も出来ない。まさに洗練された完璧な押し付け。


 伝達部、ねぇ……。何をやる部活かくらいは教えていただきたかったものだ。というか、部室は?どこ集合なんだ?


 まあ、いっか……と、俺はまた歩き始める。


 伝達部に知り合ったことが俺の運命を変えるだなんて、まさかあの時の俺は夢にも思っていなかっただろう。

読んでいただきありがとうございました。

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