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伝達意識の迷い星  作者: ぴっく
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プロローグ 前編

 2020年、春――


 悲劇はそう、桜が既に散ってしまったあの日から始まったのだ。いや、もしかしたらそれ以前からかもしれない。直感でおそらく後者だと思われるが、そんなことはどうでもいい。 


 とにかくあの日は起点であり、また機転でもあったということは間違いない。


 ――春休みはあっという間に過ぎ、県立葉寺宮はじみや高校では早速課題テストなるものが行われた。課題テストというのはちゃんと春休みの宿題をやってきましたかねぇ、という教師の教師による教師のための嫌がらせ行為にすぎない。当然まじめにやってきたやつもいれば、そうでないやつもいる。


 さて、あまりの難しさにテスト中何度かため息さえ聞こえた今回のテストにおいて、目の前にある数学の解答用紙にびっしりと井然せいぜんとした数式やら図式やらをすべての解答欄に書き終え、暇そうにしている奴がいた。


 俺である。


 この程度の三角関数や微分方程式など朝飯前だ。例題どおり。この程度の問題が解けないとか、皆さんは春休み何をしてきたんでしょうかねえ。


 おそらく、友達と遊んだり、彼女とデートしたり、友達と……遊んだり……。

 ふん、死ねばいいのに。


 おっと、本心が出るところだった。いや、もう思いっきりでてたな。

 まあいいのだ、そんなこと。俺には関係ない。それに、ほら、今はこうやってお前たちを陰ながら見下せているではないか。いい気味だ。せいぜい数学の教科書でも音読するんだな。


 と、人知れず優越感に浸っていた俺の名前は青崎宙あおさき そら。高校3年生。

 「特徴がない」という最近では珍しい特徴をもっていること以外は特にこれといった特徴のないごく普通の高校生だ、と思う。


 勉強はできるほう。上の中くらいだろうか。運動は中の下。球技は特にアウト。球というのは不思議なもので、狙った場所へ飛んでいかない。サッカーも、テニスも、バスケットボールも。


 


 あのテストから一週間が過ぎ、テスト結果が返ってきた。先生に名を呼ばれ結果を取りに行く。3年生最初のテストはまずまずのようだった。ひとつ、「あれ」を除いてはの話だが。


 「よお、どうだった、テストのほうは?」


 このいかつい体をした、いかにも野球部所属ですが何か?っていうオーラを出しているのが俺の数少ない友、山田征治やまだ せいじである。メガネが似合わない。


 「うん、まあ、ぼちぼちかな。そういう山田はどうだったの?」

 「俺か?学識分野は壊滅してたぜ。残りの分野でカバーしたけどな。まあでも数学の追試は確定だな。」


 しょぼくれた山田の背中をさすった。筋肉しかない。どこをさすっても筋肉である。


 「……でさぁ、宙?」

 

 にやけた顔で山田は俺の顔を見た。やめろ、その顔。いやマジで。頼むから。


 「伝達分野の成績は、どうよ?」


 来たか、と思った。俺はまだ学識分野の成績しか見ていなかった。運動分野はまだしも、伝達分野は見る気が起らない。というか、見てたまるか。見たら俺の精神が灰になりそうな気がする。


 


 ――2017年、ある法案が可決された。

「教育方針法」

 中学校以上に在籍する生徒全員に「学識分野」「運動分野」「伝達分野」という3つの分野における基礎知識、応用力、興味関心などを定期考査として実施、それぞれの偏差値を平均したものが、いわゆる「総合偏差値」として算出される、というものだ。

 学識分野、運動分野は文字通りの分野だ。問題は、そう、


 「伝達分野」――主にコミュニケーション力を問われる分野だ。


 この分野のおかげで俺は総合偏差値が48。伝達分野の偏差値は……


 「おい、宙!?お前また下がったんじゃねえのか?」


 いつの間にか山田が俺の成績結果をガン見していた。見たくないが、後戻りはできない。こいつが見てしまった以上、俺も目を通すとしよう。


 ……え?……は?


 残念ながら、俺にはその先の記憶がない。おそらく心が灰と化したのだろう。気付いた時には昼食時間の保健室だった。無理もない。衝撃的な結果から身を守る最善の策だ。とにかく、今日は保健室でこのまま放課後を待とう。


そこに書かれていた「21」という数字はたぶん一生の思い出になるな、うん。


 


 

 


初めての投稿です。読んでいただきありがとうございました。

これからもよろしくお願いします。

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