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爬虫類系女子  作者: 傘影 儚
3/14

第3話 アオダイショウ

 第三走者は癒しの『星影』です。

「最近癒しが足りないなぁ~」と思ったあなた、是非こちらに。

 爬虫類だけでは満足できないのなら――――

 ――――Let's come on.

 大和撫子で美しい先輩からもらった白蛇の脱け殻を手のひらに載せ、呆然と眺める。


ーー捨ててしまおうか。


 一瞬そういう考えが頭をよぎり、教室の端にひっそりと佇んでいるゴミ箱の前まで歩いてみたが、ふと先ほどの先輩の言葉が蘇った。


『神様の使い』


 神様の使いの脱け殻を捨てたりなんかしたら、末代まで祟られそうだ。

 祟られたらきっと、蛇陀(へびだ)萌恵(もえ)さんに、ピラミッドの傾斜角並に鋭い目で睨まれてしまう回数が増えたりするんだ。


 ぶるぶるっと小さく身震いをした。やっぱり捨てるのはよそう……。

 どう扱ったら良いのかわからない脱け殻を、結局持ち帰ることに決めた。


 スカスカで重さのない脱け殻とは違って、厄介なものを押し付けられた私の気持ちはイリエワニよりも重い。


 はぁ……。紙ゴミや消しくずであふれたゴミ箱を前にし、手のひらに乗った脱け殻を眺めて大きくため息をついた。



ーー・ーー・ーー



 その一部始終を窓に張り付いて眺めていたのは、昨日亀子に救われたイモリ。


 しゅるしゅると悶えるように教室の窓ガラスを這いずり回っている。


「蛇礼様ぁぁぁぁ! あなたのお礼、なんか逆効果だよ! あの子、すごく迷惑そうな顔してるよ!」


 激しく動いていたイモリはぴたりと動きを止め、決心する。


「やっぱり僕がやるしかない。人(というより蛇)任せじゃなくて僕が直接お礼をしなきゃ。僕なりのやり方で!」



ーー・ーー・ーー



 とぼとぼと私は、学校からの帰り道を歩く。

 さらさらと木々は揺れて、風は気持ちいいし、小鳥も軽やかに唄う。


 こんな素晴らしい日なのに、元気が出ない理由は一つ。手提げの中のブツ。

 どこの世界に脱け殻もらって喜ぶ女子がいるというのか。


 確かに爬虫類は好きだ。蛇もヤモリも爬虫類は全てもれなく大好きだ。


 でも、脱け殻なんてものには興味ない。生きているからこそじゃないか。

 生きている爬虫類をくれれば、飛び上がって喜んだのに。


 そう思って顔を上げると、そこにはどんな憂鬱をも吹き飛ばしてくれる愛しの……!


ーー爬虫類。アオダイショウだぁっ!!!!


 道路脇の草むらから飛び出したのは、愛しの愛しの爬虫類。しかも、幼蛇。


 左右に体をくねらせ、獲物を必死に追いかけるアオダイショウ。

 アオダイショウの幼蛇は、大人の成蛇とは違い、クリーム色をしていて暗褐色の横斑が並んでいる。なんて可愛らしい!


 あぁ……、子どもの蛇にしてあの美しいフォルム。

 アオダイショウは大人になることで、青みがかった緑色の体になるのだ。この子の成長が楽しみ過ぎる。


 うっとりと眺めていたが、このままでは獲物を追いかけ蛇はどんどん遠くに行ってしまう。


「追いかけなきゃ!」


 体育祭の短距離走ではビリを飾る私だけど、この時の足の早さは尋常じゃなかった。

 陸上部の地井たあ子さんよりも、絶対早い自信がある。


「待ってて、私の爬虫類!!」



ーー・ーー・ーー



「あばばばばばばば……!!」

 イモリは走る。猛ダッシュする。


 なぜかって? それは後ろにオリーブ色で黒褐色の瞳をぎらんぎらんさせて、追っかけてくる恐ろしいヤツがいるからさ。


 きっとヤツは腹ペコなんだろう。僕を見つけた瞬間にヨダレがつつつと垂れてるのが見えた。


 僕は今、ヤツの一番のディナー候補。アオダイショウとかいう恐ろしい蛇のね。


 できれば、あんな恐ろしいヤツのターゲットになんてなりたくないし、丸飲みにされるのなんてもっと御免だ。


 でも僕は今、体を張って君に恩返ししようとしてる。



ーー亀子ちゃん。君、爬虫類のこと大好きだろ? 君の大好きな蛇を見せる。これが僕の、僕なりの恩返し。


 振り返って彼女の方を見上げると、そこには亀子ちゃんの満面の笑顔があった。


 しかも相当喜んでいるのか、彼女は夢中になってアオダイショウを追いかけている。


 命を張ったかいがあった、と安堵すると共に、しゅるると二股に分かれた舌をちらつかせるアオダイショウの恐ろしい顔が視界に入り、僕はまた猛ダッシュを続けたのだった。

 アオダイショウ【Elaphe climacophora】

 全長100~250cm。虹彩の色は黄褐色~赤褐色であることが多い。

 全身が淡青灰色~暗茶褐色。淡黄緑色~暗緑色の個体もいる。色域は幅広い。

 北海道では色の薄い個体が見られることも少なくない。

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