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爬虫類系女子  作者: 傘影 儚
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第2話 白蛇

 第二走者は暴走の『左傘 蕨』です。

「カオスと暴走を一緒にするなんて、イモリとヤモリを一緒にするのと同じですのよ?……ふふふ」

 あなたも、左傘ワールドへ――――

 ――――いざ参らん。

 危うく握りつぶされて死ぬところだった。

 それを助けてくれたのは一人の少女。

 自分がやったことでもないのにわざわざ謝ってくれて、そしてもう捕まるんじゃないよ、と言って助けてくれた。

 だから、彼は恩返しをしなくてはならないのだ!


 ーー・ーー・ーー


「……で、あんたはあたしにどうしろっていうのよ。面倒臭いのとかはごめんだからね」

 目の前には『イモリ』。図書室で本を読んでたら邪魔してきやがった。

 喧嘩売ってるのかこの野郎とか思ったところ人に捕まって人に助けられて〜みたいなことを熱く語られて、だから恩返ししなきゃ!みたいなことを言われた。


 …………………………………………………………………………………………………………………で?

 で、何?て言うかだから何?それ別にあたし関係ないよね?あたしは確かに蛇から人になったっていう珍しい経歴を持った白蛇だけど。ていうか

 なんであたしに熱く語ってるわけ?誰かに聞いて欲しいだけなら別の人に話せよ。ぶっちゃけ面倒臭いしうざい。




「………………は?」

 恩返ししたいから人にしてくれ?わけわからん。あたし両生類の神様じゃないんだけど。あたし爬虫類の神様(一応)なんだけど。両生類の神様に頼めよ。


「え、やだ。両生類の神様に頼んでよ。第一あたし神様の使いだよ。神様って言ったって下っ端よ。そんなのに頼むなよ」

 ……う。すっごいキラキラした目で見られた。いや、うるうる?ダンボールに詰められた仔犬のような……。


 ……ざ、罪悪感?

 いや、あたし何もしてないけど。

 恩返しの手助けをしないのは悪いことなのか?く、くそう。

 でもこいつ両生類だしなぁ。爬虫類じゃないし……。


 ……あぁ。考えるのも面倒臭い……が。もしこれでこいつが私の読書の邪魔をしなくなるというのなら……考えるのもあり、かしら。

 うん。一度そう思うとそうとしか思えなくなってきた。よし。


「仕方ないから人間にしてあげるわ」

 イモリのつぶらな目がキラリと輝いたのが見えた。

 うん。こいつ爬虫類っぽいし。いいよね。

「えとー。んー。人間になれー?」


 するとあら不思議。目の前にはただのイケメンが‼︎‼︎


 彼は自分の肌色の指をまじまじと眺めたりつまんだりしている。そんなに珍しいの?

「おお!本当に人間に!ありがとうございます!」

「うん、それはいいから。お礼、言いに行ってきたらどうかしら。そのためにあんたは人になったんでしょう?」

 さっさと散れ。

 あたしは続きが読みたいんだから。


「あ、そうだ。僕、なんて名乗ればいいでしょうか」

 聞かれた。

 え。知らない。普通に名前言えばいいんじゃないの?そう思ったら

「僕らは蛇礼(みれい)様みたいな神様と違って個体識別の名前は持ってませんからね」

 と、言われた。

 ていうかお前私の名前知っていたのか。



 ふむ。これ以上ここにいられてもうざいだけだしなぁ。早く行って欲しいし……。

「よし、あたしがあんたに名前つけてあげるわ。……んとー、そうね。あんた爬虫類に間違われたって話じゃない?だからー、井守葉(いもりは) 涼世(りょうせい)(類)(っぽいもの)でどうよ」

「ちょっと待ってください!(類)(っぽいもの)ってなんですか⁉︎」

「五月蝿いわねぇ。そんなことネチネチ気にするんじゃないわよ」

 ほら、散れ。

 と言って図書室から蹴り出してみた。

 だって邪魔なんだもん。


 さて、やっと読書に戻れる。









 あ。そういえば。

「変身のやつ、一日くらいで溶けちゃうのよねぇ」

 ま、いっか。


 ーー・ーー・ーー


「聞いて下さいさっきちょっと目があって!」

「あーハイハイ五月蝿いわー図書室では静かになさいねー」

 十分ほどして彼は帰ってきた。

 問おう。……馬鹿なのか?


 え、なに?目があった?何それ。あんたお礼言いに行ったんじゃなかったの?あんたの話聞いてると目があっただけで帰ってきちゃったように聞こえるんだけど……。気のせいよね?

「え?そうですよ。ほら、いきなりお礼言っても変じゃないですか。だからちょっとずつ友人関係になりまして……

「おばかー!」

 え、何こいつ馬鹿なの?馬鹿なのね……‼︎

 思わず本ではたいてしまった。いかんいかん本が痛む。


 いや、ていうか馬鹿でしょう。

「あんたの変身の魔法?は明日には溶けるって言ったじゃない!今日中にお礼言わないともう言えないっての!」

「そんなこと言われてませんよ⁉︎」

 あれ、そうだっけ。


 それはともかく、

「ほら!さっさとお礼言いに行ってきなさい!」

「無理ですよ!彼女もう帰りました!帰るところ見届けましたもん」

 この役立たず!あたしに変身の術までかけさせといて何もできなかったのか……‼︎



「しかしこまりましたねぇ」

 主にお前のせいでな。あたし悪くないし、元々あたし関係ないし。

 ぐったりと机に伏せてしまう。

 くそ。こんな時は鳥とか丸呑みしたくなっちゃう。でも鳥可愛いしな。

 ……イモリで我慢するか……。


 じとりとどうやって食おうか……何て思いながらイモリ(人型)を眺めていると少し怯えたように一歩下がられた。

 えぇ〜冗談よぅ。



「えっと、明日になったら僕はイモリに戻ってしまうと」

「そうね」

「じゃあ明日もう一度人にしてもらって……

「あ、それ無理よ」

「何故⁉︎」


 正規のルート無しで、しかも眷属(爬虫類)以外を人にするなんて普通無理だし。怒られるし。怒られるのやじゃん。

 一回なら多分目こぼししてもらえると思ったから一回はやったけど……多分二回目は無い。姉様に怒られる。あたしは末っ子だから結構姉様甘いが……うん。まじ怖い。八神(ねりがみ)さんちの一番上の姉様は……怒るとやばいんだ。


「よって却下」

「自己完結しないで僕にも説明してください!」


 あー。もう。五月蝿いなぁ。これ静かにする方法ってないかなぁ。


「あんたねぇ……ただのイモリの分際で一瞬でも人型にしてもらったことを感謝なさいよ」

「何ですかその人の方が尊いと言わんばかりの言い草は」

「別にそういうわけじゃないわ。イモリが人に劣るだなんて言ってないでしょうが。……もとより、自分の決められた姿以外になることはとても可笑しい(・・・・)ことなの。そのくらい理解できるでしょう」

 いくらそのすっからかんな頭でもね。


 お、黙った。

 やったね。このまま黙ってればいいのに。




「なら」

 くそ、黙ったままではいてくれなかったか……。

「せめて、お礼くらい……したいんです」

 わからなくもないけどさぁ。



「だから!代わりに蛇礼様がお礼言うとかお礼の品渡すとかやって下さい!」

「やだ」

「即答⁉︎」

 だって面倒じゃん。ていうかあんたを助けてくれたのが誰かもわかってないしどんな子かも知らないのに。



「……酷いです……彼女は爬虫類が大好きで……

「ちょっと待ってその話詳しく聞かせなさい」

 女子で、爬虫類が好きですって……⁉︎そんな素晴らしい子がいるならぜひともお友達に……‼︎寧ろ親友に!


 がっ、と彼の手を握り締める。

 きっとあたしの目ギラギラしてる。


「ちょ、手痛いです!力入れすぎ!ていうか目!目が蛇に戻ってますよ⁉︎」

 おっといけない。興奮したりなんだかんだで目が蛇の目に戻る癖なんとかしなくては。


「だから、僕を助けてくれた人です。どうやら爬虫類が大好きなようで……

「よし、私がお友達に……ゲフンゲフン、お礼を代わりに言ってきてあげるわ。楽しみにしてなさい。……で、その子の名前はなんていうの?」

「……」

 じとり、と呆れるように見られた。なんだよ。いいじゃん。


 はぁ、と彼は溜息を吐いた。


「いいですか?彼女の名前は……」


 ーー・ーー・ーー


「亀亀子、って子はいるかしら」

 必死で声が弾まないように押さえつける。


 今日は珍しく朝すぐに起きれた。いつもならなんかの熱で体温めないと動けないのにがんばった。廊下ですれ違う人がこちらを見てヒソヒソいう声も全く気にならなかった。

 それほどまでに楽しみだったのだ。


「……はい」

 小さな声を上げて訝しげにこちらに視線を向けてきたのは一人の少女。

 これと言って取り立てたところもない。可もなく不可もなくってところかしら。


 けれど(・・・)

 あたしの目にはもうその子しか映らない!

 あたしを見てざわざわと俄かに色めき立つ連中がいつもならうざくて、絞め殺してやりたくなるのにそんなこと気にならない。

 あの子はあたしのこと見ても何も言わないし!素敵!


「ちょっと話があるの。来てもらってもいいかしら」


 いきなりすぎるかしら。けどお礼っていう大事な仕事があるし!うん。きっと平気。



「……それで、えっと何のご用です?」

 彼女があたしに聞いてきた。なんだかさっさと終わらせたい、みたいな感じが滲み出てる。……あれ、私何か彼女の気に障ることでもしたのかしら。

 もし気づかないうちに何か嫌われるようなことしてたら……泣ける。


「えっと、この前?私の知り合いがあなたに助けられたみたいでね。そのお礼よ」

「八神先輩の、知り合いですか?」

 凄く訝しげな顔をされてしまった。でもあいつはあくまで知り合いだしなぁ。


 ていうかこの子、私の名前知ってたんだ。そっちの方が驚きだわ。


「ええそう。本人曰く命の危機を救われたそうよ。詳しいことは知らないけれど。……まぁそれはどうでもいいわ」

 どうでもいいのかよ、みたいな顔でこっちを見ないでよ。ぶっちゃけそんなのただの建前だし。



「というわけで、これがお礼よ」

 彼女にあたしが渡したのは……


 ーーー蛇の抜け殻


 一瞬彼女の目が大きく見開かれる。

 喜んでくれるかなー。



「え、と……これ、は?」

 ふふふ。よくぞ聞いてくれました!なんとこれは……

あたし(白蛇)の抜け殻よ。……ほら、蛇の抜け殻は縁起が良いっていうじゃない?それに加えてそれ、白蛇の抜け殻なのよ。白蛇は神様の使いだって言うしね。とっても珍しいんじゃないかしら」


 ついでにあたしの最初の脱皮のものです。

 人間で言うところの初めて抜けた歯ってところかしら。



「……ありがとう、ございます?」

 何故疑問系なのか気になるところだけど、まぁその辺はいいわ。

 よし、目的は果たしたし帰るか。つかみはバッチリね。


「それじゃ、またね」

 次はもっといろんな話がしたいわ。



 目的を達成して満足な私は踵を返して自分の教室に戻った。


 ーー・ーー・ーー


 満足そうにこちらに背を向けて歩いていくこの学校で有名な先輩。

 何人も有能な人間を輩出してきた八神家の一人で、成績優秀な大和撫子。無口で話しかけにくいことから高嶺の花とも呼ばれている。


 彼女は何がしたかったのだろう?


 手の中の、彼女に渡された蛇の抜け殻を見る。いじめの一環?とも疑ったけれど見る限り何処か自慢げだったし……。

 でもあの先輩の知り合い?というか誰かを助けた記憶なんてないし……。






 ところで……この蛇の抜け殻、どうしよう。






 白蛇【albino Japanese rat snake】

 白蛇(しろへび、はくじゃ、びゃくだ)とは、白化現象を起こした蛇である。その希少性により日本各地で縁起のいい動物として信仰の対象となっている。

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