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爬虫類系女子  作者: 傘影 儚
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第12話 ニホンイシガメ

 ふんふんと高らかに鼻唄を歌って、帰宅する。

 今日は、帰ってすぐに泣きべそをかいて、悩み相談をはじめるような私じゃない。


 今日の私はいつもとは違うんだから!


 大好きなモモ次郎に頑張ったことを早く伝えたい。



 タンタンとテンポ良く階段をかけあがり、扉をあけてすぐに水槽へと向かった。


「ねぇねぇ、モモ次郎っ! 今日はね、モモ次郎の声が聞こえたから、蛇陀さんと話せ……た…………」



 どたんと音をたてて、スクールバックを床に落とした。

 目の前にある、信じられないその光景。

 一体、何が起こったのかがわからない。


 だって、学校に行くまではこんなじゃなかった。

 元気に泳いで、エサを美味しそうに食べて、目もきらきらしてた。




 私が部屋を出る時に「蛇陀ちゃんと仲良くなるのを諦めないで」って、話しかけてくれたモモ次郎。


 学校でもテレパシーを使って、私を応援してくれたモモ次郎。


 そんなモモ次郎は……虚ろな目をしたまま動かなくなっていた。




「モモ次郎、何で!? 朝まで元気だったのに、どうして!?」

 うろたえた私は、水槽の中に手を突っ込んで彼女を手のひらの上にすくい上げる。


 モモ次郎の返答は……ない。



「やだ……やだよ、モモ次郎……まだ一緒にいてよ……」

 小さな命が消えゆくのを目の当たりにして、しゃくりあげながら声を出して泣く。



――亀……子ちゃん……?


「モモ次郎、よかったぁっ……生きてたんだね」


 モモ次郎の声が微かに聴こえて、悲しみの涙は安心の涙へと変わる。



――だめ……はや、く……に、げ……て……!


 息も絶え絶えに話すモモ次郎。



「逃げる……?」

 なんで、逃げなきゃいけないの?


 そう思っていると、手のひらに乗ったモモ次郎が黒く光り出し――


「えっ、何これ! モモ次郎どうしちゃったの……!?」


 モモ次郎から発せられる黒は、だんだんと大きくなっていき、私の部屋の空間を吸い込んでいく。それはまるで、小さなブラックホールのよう。


「やだっ、吸い込まれる……ッ!」


 逃げる間もなく私も、モモ次郎の作り出したブラックホールの中に吸い込まれてしまった。



 ――・――・――



「う……、あれ。無事?」


――ごめんね、亀子ちゃん。間に合わなかった……


 頭の中で声が聞こえていく。


「モモ次郎! モモ次郎も無事だったんだね!?」


――うん、でも本当にごめん。亀子ちゃんは…………になっちゃった。



 モモ次郎の言葉を疑う。

 だって、そんなの起こるわけがない!


 ゆっくりとまぶたを開いていく私の目。

 ありえない現実を突きつけられた。




 富士山のように高い木の幹。

 自分の体の何十倍もあるであろう、へびのモンスター。

 お腹くらいの高さの真っ白な草原。



 違う。



 木の幹じゃなくて、勉強机の足。

 へびのモンスターじゃなくて、お気に入りのぬいぐるみ。

 白い草じゃなくて、絨毯の毛……。


 ここは私の部屋の中。


 あぁ、モモ次郎の話は本当だった。

 やっぱり私……



 小さな亀になっちゃったんだ。



――亀子ちゃん。悲しんでる暇はないよ! 今、亀子ちゃんと私は二人でひとつ。アルビノピンクスキンキャラメルの中に二つの精神が入っているの。日が沈むまでに戻らなきゃ。一生このままになっちゃう……!



 このまま亀になる……?

 嘘!

 日暮れまで、あと三時間くらいしかない!!



「戻るって言っても、どうしたらいいの!?」

 困惑した震える声でモモ次郎に尋ねる。


――蛇礼様に頼もう! あの方は神様だから!


 蛇礼さんって、八神先輩……?

 よくわからなかったけれど、とにかく今はモモ次郎の言うことを信じて、先輩を探そう!



 かけまわって必死に先輩を探し……たかったけれど、今の私は小さな亀。もちろんスピードだって上がらない。


 普段なら五秒もかからないのに、十分近くかかって、ようやく部屋を出ることができた。


「早く……早くしなきゃ」

 気持ちばかりが焦っていく。


 だが、無情にも廊下に出ると、驚愕の光景が広がっていった。


 階段……。

 いつも何気なく登り降りしている階段。

 この体での階段の存在は、恐ろしく深い地獄の谷のようだった。



 ――・――・――



「ぜぇっぜぇっ、モモ次郎……大丈夫?」



――ごめんね、亀子ちゃん。私が神様の力を乱用したからだ……。あのまま死んじゃえばよかったのに、力が暴走して亀子ちゃんを取り込んで生きちゃったんだ……


「死んじゃえばよかったなんて悲しいこと言わないで! 諦めちゃダメ! モモ次郎、ほら、もうすぐ家の前の道路だよ。きっと大丈夫だよ」


 長い長い時間をかけて、ようやく外に出ることができた。



 道路の方から、どすどすと地面が揺れる音がする。


「人が来るみたい!」


――よかった! 手伝ってもらえるかもしれないね!



 助けてくれるような優しい人であってくれと祈りを込めて、人が来る方に近づいていく。



 聞こえてきたのは聞き覚えのある声。



「あっれ、ここノロ子の家じゃなかったっけ? なんでアルビノピンクスキンキャラメルがいんの?」



 いじめっこの蛇陀萌恵さん……だった。


 蛇陀さんは私をすくいあげ、じっと見つめていく。


「しかも、こいつ弱ってる。うちで飼ってやろうかな」


「…………。」



――亀子ちゃん、どうしたの? 蛇陀さんに声をかけて助けてもらおうよ!!



 蛇陀さんが助けてくれるとはあんまり思えなくて、口を閉ざす。



 だって、ずっとこの人にバカにされて、使いっぱしりにされて、上履きを隠されて……この人が私を助けてくれるはずなんて……

 

 『好きだけど』


 今日のことを思い出してはっとする。

 爬虫類について話した時の蛇陀さんの優しい笑顔。


 もしかしたら……


 蛇陀さんともわかりあえるかもしれない。


 だって、蛇陀さんもアルビノピンクスキンキャラメルが好きな、爬虫類系女子なんだから!



「蛇陀さん! お願い、助けて!」

 小さな体の大きな声で、助けを求めた。


「は!? トロ子、どこだ? どこにいんの。姿も見せないで話すなんて、ホント根暗!」


 いつものように、ピラミッド並みに鋭い三角の目で睨む彼女。


 怯まずに私は声をかけ続ける。


「蛇陀さんの手の上だよ。私、亀になっちゃったの……助けて」



 ニホンイシガメ【Mauremys japonica】

 河川、湖沼、池、湿原、水田などに生息し、やや流れのある流水域を好む。

 半水棲で水生傾向が強いが、夏季に陸づたいに一定の地域内にある複数の水場を移動することもある。

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