第11話 スッポンモドキ
どうにも、可笑しなことになってるみたい。
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朝起きた時からなんだか変な気分がした。
チリチリと鱗が逆立って全部の鱗が逆鱗になりそうなくらい……変な気分がした。
とにかく確認してみよう。亀子ちゃんが危ないかもしれないし。
学校は……別に遅れたって良いし、最悪行かなくったって構わないわ。先生に怒られることもきっとないでしょう、これが今まで積み上げてきた八神蛇礼あたしの信頼と実績だ。
とりあえず、姉様に確認してみよう。姉様なら何か、知ってるかもしれないから。
ーー・ーー・ーー
結果。収穫はなかった。
姉様も、何か違和感を感じたらしいけれどあたし程ではないらしいし。
この違いは……なんだろう?
姉様曰く、
『お前は何か知っていて、だからこんなに気持ち悪いのではなくって?』
とのこと。
なるほど、と思った。
あたしが何か知っている。それは姉様は知らないこと。
でもこの辺一帯で知らないことなんてないと思われる姉様が知らないこと……?
あたしにはわからなかった。
けど、あたしには最終兵器がある。感度最強逃足最速の最終兵器が‼︎
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「……で、僕ですか」
「えぇ。だからなんか変な感じのとこまで連れてって、くれる、わよ、ね?」
ちょっぴり威圧感をのせて、あたしはそう言った。
目の前にいるのはいつかのイモリ。
こいつは案外変なもの見つけるのがうまかったりする。逃げ足も早い。
……まぁ、そのせいでうちの眷属の見回りはズタボロになったり愛しの亀子ちゃんはよくわからない亀に掻っ攫われるし。
おっと、威圧ではなく恨みを込めてしまったようだ。
イモリはガタガタ震えて可哀想な程。
イモリは、あたしの『お願い』に涙目で頷いてくれた。
あたし自身蛇に戻ってイモリな彼の後を足音も立てずに這って追う。
時折、空気を吐き出す音をわざわざ立ててやれば面白いくらいにびくりと震えた。
「……こ、こ……ですけど……」
ビクビクとしながらあたしの返事を待つイモリ。
あたしは返事ができなかった。
だって……ここは……亀子ちゃんの家だ。
それにここは……異常・・だ。
ビリビリとする。
決して強いわけじゃあないけれど、けれど確かに存在感を主張してくる、力。あたしたち八神とは確かに違うのに、どこかで似た……間違いなく現実を歪めることのできる力。
これは……神様の、力。
「……イモリ」
イモリがこちらに目を向けたり
「あんた、帰りなさい。あんたがここにいてももうできることなんてないわ」
不服そうな目をしつつも文句を言わないのは恐らくこいつも、ここの可笑しさに気付いてるんだ。
音も立てずにあたしの視界から消えるイモリ。あたしはその家に向き直った。そして意識も向け直してみる。
探るように、洗うように。
そしてあたしは
「見つけた」
ーー・ーー・ーー
「やっぱり、あんただったのね」
神様の力職権乱用して、家に侵入。そしてあたしは元凶の前に今、人の姿になってたっている。
その元凶とは……亀。
淡い色合いを身に纏った、亀。
アルビノピンクスキンキャラメルと呼ばれる、生まれつき白に近い色彩を持ったモノ。
少し前に亀子ちゃんがあのオカマなペットショップの主人のところで手に入れた奴だ。
奴は返事をしない。返事もできないほどに衰弱してるの?
「白に近い色まで持ってるのにそんなに貧相なの?」
古来より、白は穢れを退ける色として神に通じるものがあると信じられてきた。その概念が定着して出来たのがあたし達のような白を身に纏ったモノ。
ゆえに、白に近い色を生まれつき持っているものは普通よりも神に近かったりするんだ。
恐らく、今回の出来事も白に近い色を持っていたこの亀だから、叶ったこと。
その亀が、返事もしないで疲れ切った様子でこちらに淀んだ目を向けてくるのは同じ白を持つものとして、どうしても耐えられない。
「返事をなさい、亀」
そう、あたしが言うと、その亀は目に光を取り戻して甲高い声で喚いた。
「亀じゃないっ!私にはモモ次郎っていう立派な名前があるのッ!亀子ちゃんにつけてもらったの!」
零れたのは幼い声。
高ぶった感情に引きずられたように神様の力がブワリと溢れ出した。
あたしは少し顔をしかめる。
やっぱり……このこの使う力はあたしのものとよく似ている。
……でも、何故?
とりあえず、
「なんだって構わないわ。……ねぇあんた、わかってる?年齢と力と器が釣り合ってないわよ」
一番、伝えたかったこと。
言葉を聞いてわかった。
あまりにも幼い精神。
白に近い色と言っても、白ではない色。
そして器を壊してしまいそうなほどに溢れた力。
何もかも釣り合っていない。
無論、ただの亀として生きるならばその幼い精神も白に近い色も。何の問題なんてない。
けれど、そこに力、が加わるのなら話は別。
力を律する精神と力を収めて抑え込めるだけの器。それが必要になるんだ。
今のこのこの状態は……強いて言うなら風船に限界まで空気をいれて、それなのにまだいれようとしている感じ。つまり、割れそう。
「……そんなこと、わかってる。でも、でも恩返ししたかったんだよ!」
泣きそうな目をして声をあげる亀。
……そんなこと言われても、困る。
だって
「あんた今のまんま、力の使い方もわからないまま、なんとなく・・・・・で使ってたら……」
言いかけて、あたしはちょっと続きを口に出すのを躊躇う。
「いつかあんたは……喋れなくなって、動けなくなって……最後には……」
死んじゃうかも、しれないのよ。
それを聞いた亀は、ほんの少し微笑んだ。
……そんな気がした。
スッポンモドキ【Carettochelys insculpta】
底質が泥や砂礫で水深が浅く水の澄んだ流れの緩やかな河川、湖沼、湿原などに生息し、ニューギニア島の個体群は汽水域に生息することもある。
完全水棲種で、産卵を除いて陸に上がらない。




