一時帰宅
俺たちはすでにショッピングモールを離れ、電車に乗り、帰宅途中だ。
「いやー、今日はいろいろ買っちゃったね」
「俺はほとんどが荷物持ちだったけどな」
「まあまあ、そういうこと言わないで」
「……この荷物ほとんどお前のなんだが」
電車は意外と空いていた。俺と空はイスの端に並んで座っている。
「遼との買い物楽しかったなー」
「俺はクタクタだよ」
「そんな年寄りくさいこと言わないで」
「年寄りで悪かったな」
荷物を持ち長く歩いたからか、人混みにいたからなのかは知らないが異様に疲れていた。
「……まさかとは思うが明日もどっかに行くとか言わないよな?」
「さあ、それは明日の私に聞いてみて」
俺の予想、完璧明日もどっかに行く。てか、もしかしたらGWの日全部どっかに行くかもしれない。
「やれやれ」
俺は隣にいる空にも聞こえないほどの声で呟いたのであった。
目的の駅に着き、いざ家に行こうとしたら、
「あっ!」
と、何かを思い出したかのように声を上げた。
「なんだ、忘れ物でもしたか」
「いや、そういうわけではないけれど」
なんだよ、紛らわしい。
「じゃあ、どういうわけだ」
「晩飯の食材無いや」
「…………」
「てへぺろっ☆」
「…………」
まあ、買いに行くしかないよな。
「何無いかわかるのか?」
「ほとんどないってことはわかるけど……」
「なら、一回帰って確認した方がいいな」
俺もこの荷物から早く解放されたい。
「じゃあ、急いで帰ろう。おー」
空は一人で何やら言った後、走っていった。
「俺のことも考えてくれ……」
俺も仕方なく、早歩き以上走り未満の速さで空を追いかけた。
「…………」
荷物を置き、冷蔵庫を開けた俺は愕然とした。
「何にもないんだな」
「うん、そうだね」
まさかこれほどとは。
「俺が悪い場面もあるが、これからはこういうことはなるべく俺に言ってくれ」
「うん、わかった」
空は手帳に『何かあったらすぐにリョウに報告!!』と書いた。
「行くぞ」
「うん」
俺はソファーを視界に入れないようにして、玄関に向かった。
俺はスニーカーを履き、外で空を待っていることにした。しかし、なかなか来ない。
「遅いな」
靴を履くのに5分もいるか、普通。
「空、何してる」
俺は閉まっていた玄関を開け、中に入って行こうとすると、
「うおっ!」
空は玄関に靴を履く体勢で俯き、座っていた。靴はすでに履いている。
俺はまだリビングの辺りでうろついていると思っていたため、玄関にいた空を見てつい驚いてしまった。
「行くぞ」
「あ、う、うん」
なんかこいつ、冷蔵庫を開けてから急に元気なくしたな。冷蔵庫の中に元気でも入れてきたのか?
「……俺が怒っているとでも思ったか?」
「…………」
空は肯定もしなければ否定もしなかった。その代わり俺を上目使いで見る。恐らくYESと思っているだろう。
「別にこんなんで怒ったりしねえよ」
まず、冷蔵庫の中身が無いぐらいで怒るやつっているのか?
「……でも」
恐らく空は自分が不甲斐ないとか思っているのだろう。責任感が強いこいつのことだ。何か失敗をしてしまうとまず、自分を責めてしまう。
「大丈夫だから。それに俺が悪いのもある。だから、自分を責めたりするのはやめろ」
しばらくの間俺も空に家事をまかせっきりにしていた。空の病気のことも忘れて。
「うん」
「そのかわり、これからは俺にしっかり報告しろよ」
「うん!」
こんなこと言っても空は明日にはきれいさっぱり忘れてしまっている。しかし、これを無駄とは思わない。
「よし、じゃあ、行くぞ。ほら、カバン持って」
「わかってるよ!」
空は元気よく立ち上がった。
「遼、ありがとっ!」
「なんだよ、急に。気味悪い」
「なんでもないよっ!」
そして、空は玄関を飛び出し、
「早く行くよっ!!」
と言い、走って行ってしまった。
「やれやれ」
俺はこんなことを言いながらも走って追いかけていくのだった。