病室で
ようやく涼しくなってきた10月。ちらほら葉っぱが紅葉し始めてきていた。この前まで暑かったのが嘘みたいだ。
職場のみんなには悪いが俺はこの頃定時で帰るようになっていた。それと同時に俺に一つの習慣ができた。それは毎日病院へ行くことだった。もちろん空に会いに行くためだ。
「よっ」
空の病室は相変わらず個室だ。
「いらっしゃい」
空は俺を見るなり笑顔になる。この笑顔を見れるなら毎日来るのも苦痛にならんよ。
救急搬送されたあの日から一度も退院していない。どうやら脳の腫瘍がよくないらしい。医者の話は聞いたのだが難しすぎてよくわからなかった。バカにもわかるぐらい簡単に教えてほしいものだ。
空自身も今までの記憶があったり無かったりしている。記憶があるときは今みたいにニコニコしているが、無い時は表情が驚くほど暗くなる。見てるこっちも暗くなるぐらいにだ。今日は記憶があるみたいだ。
「お土産ないの?」
「ねえよ」
「ケチ」
毎日毎日お土産買ってこれるわけないだろ。たまに買って来るだけでもありがたいと思いなさい。
ふくれたように頬を膨らませるが、いつものことだ。気にすることでもあるまい。俺もいつもの対応通りその膨らんだ頬をつつく。
「どうだなんか具合悪いとかないか?」
「んー、たぶん大丈夫」
「たぶんってなんだよ」
「ちょっと頭痛いし、咳も出てた。たぶん風邪だと思う。遼来たから治ったけど」
「それはよろしゅうございましたな」
何の変哲もない会話をする。だが、こんな会話が楽しく思える。というか、空と二人でいる時間が楽しい。俺は空の事が好きなんだろうな。
会話が無くなり、しばらく沈黙が続くと空が外を見始めた。
「どうした?」
「うん、星みたいなって思ったんだけど、出てないね」
こんな所でも一応東京だ。夜は明るくて星なんてほとんど見えない。俺も星なんて久しく見てないかもしれん。
「今度プラネタリウムでも行ってみるか?」
「うん!デートで行こうね!」
「ああ、そうだな」
微笑みかけると、空の顔が赤くなってきた。今の何に恥ずかしがる要素があったんだ。
空は何やら一人でブツブツ言っている。よく聞いてみると
「デ、デート?私が、遼と?」
と言っていた。
まさか自分で言ったデートと言う単語に恥ずかしがっているのか? よくわからん奴だ。
時計を見てみるとそろそろ面会時間終了時刻に近づいていた。今日は来るのが遅くなったからな。ここに少ししかいれなかった。
ここにいたいという気持ちを押し殺して、立ち上がる。
「んじゃ、そろそろ帰るよ」
「うん、わかった。明日も来てくれるよね?」
「もちろんだ」
頭をやさしく撫でてやり、空の病室を後にした。




