電車
お互い出掛ける格好(と、言ってもしっかり着替えたのは空だけだが)になって、水族館へと向かった。
俺たちの家から水族館へは電車を何本か乗り継げば着く、近いと言えば近い、遠いと言えば遠いというとても微妙な位置にある。
「楽しみだね」
「そうだな」
電車はある程度空いていたが、俺たち二人がそろって座る場所は無いため、空だけ座らせて俺は空の前に立っている。
「それにしても遼も急だね」
「ん?」
「だって、急に水族館に行くぞとか言いだして」
「お前が行きたいって言ったんだぞ」
「でも、今すぐとは言ってないじゃん」
こいつ……。
「……んじゃ、帰るか」
「え?」
「だって、今度でいいんだろ。じゃあ、帰ろう」
「冗談だって。なんで、そんなに真に受けるの?」
「……本気で帰るか?」
「ごめんごめん」
ったく。面倒だな。
しばらく空と話していると、
「あれ、遼?」
と、声が聞こえてきた。
俺が振り向くとそこには高校の時同級生だった男女のカップルがいた。名前は……別いいだろ。特に支障もないしな。
「おう、お前らまだ付き合ってるのか。バカップル共が」
「うるせーな」
「そういう遼くんも、空と一緒じゃん」
「うるせっ」
俺とバカップルは普通に話しているが、空は話についてこれない。まあ、当たり前だろう。目の前に知らないやつがいるんだからな。
バカップルの男が俺に小声で話しかけてくる。
「空のあの障害はやっぱり直ってないのか?」
「ああ。てか、恐らく直らんだろう」
「大変だな」
「本人はそんなこと思っていないだろう」
「いや、お前だよ」
俺?
「だって、当たり前のようなことを毎回聞いてくるんだろ?面倒だろ?」
面倒ねぇ。そんなことは考えたことなかったな。
「まあ、がんばってくれよ。バカップル」
「うるせえな。バカップルにバカップル言われたら俺の立場が無くなるじゃねえか」
バカップル認定のバカップルとか嫌だぞ。てか、付き合ってないし。
「ねえ、遼くんってさ」
今度は女の方が話しかけてきた。
「ん?」
「空のこととかどう思ってるの?」
「どう思ってるとは?」
「好きか嫌いか」
「…………どうだろうな」
「遼くんって、毎回ごまかすよね」
そんなつもりは無いのだが。ただ返答に困るだけだ。
「早く付き合った方がいいよ。そうじゃないと高校の時遼くんにフラれた女の子たちがかわいそうだよ」
「誰もフッた覚えなんてないのだが」
「へーー」
女は俺を意味深な目で見る。
「なんだその眼は」
「別にーー」
「……本当か?」
「あ、私たちこの駅で降りるから。じゃあね」
急に話を切り上げて、電車を降りて行ってしまった。
「なんだ、あいつら」
嵐のようだったな。
「ねえ、遼」
「ん、どうした?」
「さっきの人たち、私の知ってる人?」
「一応な。高校の時の同級生だ」
「へ~~。ところでさ」
「ん?」
「遼ってモテてたの?」
「どうした急に」
「だって、さっきの女の人言ってたじゃん。フラれた女の子たちが可哀想って」
「別にモテてないさ」
たぶん。なんかバレタインデーとかにチョコをもらったりしていたが、全部施設のガキどもにあげていたからな。
「ふーーん」
そういうと空は黙ってしまった。なんだこいつ。
そうこうしているうちに俺たちの目的の駅に着いたため、俺と空は電車から降りた。




