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宇宙船墓場で古代エイリアンのアンドロイドとして転生した件  作者: 謎村ノン


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第一章 宇宙で目覚めたら、少女型アンドロイドだった

 猫がいた。

 放課後の道路脇で、夕方の光に茶色い毛並みを光らせながら、のんきに尻尾を立てている猫なんて、どこの街にもいる。僕――天河 弓良(あまが ゆら)にとっても、ほんの一瞬、そう認識されただけのことだった。

 しかし、次の瞬間、同じ制服の女の子が、駆け出していた。

 あ、危ない。

 そう思ったときには、もう僕も走っていた。

 顔までは、よく覚えていない。同じ学校の、多分、下の学年の子だったと思う。

 小柄で、焦ったみたいに肩をすくめて、車道に出た猫のほうへ手を伸ばしていた。ブレーキの悲鳴みたいな音がして、何かが眩しく光って、僕は、反射的にその子の腕を掴んだ。

 そこで、記憶は途切れている。

 少なくとも、人間としての記憶は。


***


 何かに呼ばれたような気がして、ふと、意識が戻った。

 そうしたら、僕は、空を見ていた。

 いや、空では、なかった。

 上下も前後もない、黒い広がりだった。星空みたいでいて、夜空よりずっと深く、もっと底知れない風景だった。遠くに散った星はやけに鋭く、瞬かず、冷たく、じっとこちらを見返してくるようだった。

 最初に思ったのは、夢だ、ということだった。

 次に思ったのは、違う、死んだんだ、ということだった。

 でも、それも、どこか変だった。死んだというには、意識が妙にはっきりしている。

 頬に風が当たる感覚も、肺が呼吸を求める苦しさもないのに、僕は、妙に冷静に自分が置かれた状況を認識していた。

 それに――

「……浮いている?」

 声に出したつもりだったけれど、耳で聞いた感じがしなかった。

 代わりに、自分の内側で振動が起きて、それが意味として把握されたような、妙な感じがした。

 僕の身体は、本当に宇宙空間みたいな場所に投げ出されていた。

 足元と呼べる方向の遠くには、砕けた金属片や岩塊みたいなものが、ゆっくりと漂っているのが見えた。どうも、視力が異様に良くなっているような気がした。星の光だけで暗すぎる宇宙空間の先に、キラキラ光る点のように見えるそれが――目の前にあるかのように、はっきり見えたのだ。

 遠くにも、もっと遠くにも、人工物の残骸らしきものが浮かんでいた。壊れた金属の柱の一部みたいなもの、骨組みだけになった円筒、見たこともない形のパネル、割れた鏡のように光を返す薄板……。

 まるで、宇宙船の墓場だ。

 そう認識した瞬間、自分でも驚いた。どうしてそんな言葉が自然に浮かんだのかわからない。けれど、それが、いちばんしっくりきた。

 僕は、慌てて、自分の身体を見下ろした。

 そして、しばらく何も考えられなくなった。

 細い腕。白い指。制服ではない、見たことのない服――いや、服に見えるけれど、たぶん身体の一部でもある何か。関節のラインは人間に似ているのに、肘の内側や手首のまわりに、銀色の細い意匠が走っていた。表面は、生身の肌みたいに滑らかなのに、人工物めいた均整がありすぎる。胸元は――見た瞬間に反射的に目をそらした。

「は……?」

 今度こそ、ちゃんと声が出た気がした。

 けれど、その声も、前の僕のものではなかった。

 少し高い。少年というより、少女に近い声だった。澄んでいるのに、どこか無機質な響きが混じっている。

「えっ、ちょっと待って。何これ。何これ、何これ、何これ?」

 声が出ているように思ったけれど、空気を震わせる感覚がない。

 そもそも、息をしていなかった。

 そう気づいて――心臓が跳ね上がる――はずだった。

 でも、跳ね上がる感覚がない。

 胸に手を当てても、鼓動はわからなかった。熱もない。息も苦しくない。むしろ、息を止めているとか、吸っているとか、そういう感覚自体がなかった。

 僕は、そこでようやく、本気で怖くなった。

 呼吸していない。

 なのに、苦しくない。

 寒くもない。痛くもない。身体の輪郭は分かるのに、筋肉や皮膚の実感が薄い。

 その代わり、変な情報が勝手に頭へ流れ込んでくる。自分の身体の姿が、外から眺めたように感じられる。薄青いショートカットの髪をした、十四~十六歳くらいの大きさの少女だ。何か、銀色のバイクスーツをぴったりさせたような服を着ているように見える。しかし、ヘルメットはしていない――ほぼ、真空なのに。

 そして、近くの破片までの距離。自分の回転速度。周囲の微弱な電磁ノイズ。遠方の熱源の分布。視界に映ってもいないものの存在感が、薄く、しかし確かに感じられる。

 見えていないものを、見ている。

 聞こえていないものを、感じている。

 人間の身体じゃない。

 その結論だけが、いやに鮮明だった。

『パニック状態を確認』

 不意に、声がした。

 今度は、僕の声ではない。落ち着いた、若い女の人だった。

 耳から聞いたわけではないのに、意味ははっきり届く。

『安心してください。現時点で、あなたの機体は、致命的損傷を負っていません』

「……きたい?」

『はい』

「君、誰?」

『支援人工知性です。便宜上、補助AIと認識してください』

 補助AI?

 意味がわかるようで、わからない単語ばかりだった。

「ちょ、ちょっと待って。落ち着いて。いや、落ち着けないけど。僕……僕は、天河 弓良で、えっと、日本の、地球の……高校生で」

 言いながら、自分でも変な感じがした。高校生。日本。そういう言葉ははっきり覚えている。でも、それを口にしている自分の姿が、どうしても一致しない。

『記憶照合。天河 弓良、男性、十七歳。日本語 話者。該当データと整合性あり』

「整合性って……」

『あなたの自己認識情報は、ほぼ正しいようです』

「ほぼ、って何?」

 思わず語気が強くなった。

「だったら説明して! ここはどこさ? なんで、僕、こんな……」

 こんな姿に。

 その先がうまく言えなかった。

 言ってしまうと、本当に認めることになる気がしたからだ……。

 細い手を握る。指は思ったより滑らかに動いた。爪もある。けれど、力を込めたときの筋肉の張りみたいなものがない。あるのは、サーボか何かのごく微細な応答と、自分の命令に対して正確すぎるほど正確に動く感覚だけだった。

『順に説明します』

 声は相変わらず落ち着いていた。少し腹が立つくらいに。

『ここは、人類の航路図からは外れた宙域に存在する大規模デブリフィールドです。古代の大規模戦場跡で、“宇宙船墓場”と呼ばれる場所です。あの点のように見える主星の周囲を回る、太陽系のカイパーベルトの密度を非常に濃くしたような、広大なリング状の領域です』

「宇宙船墓場……」

 さっき自分で浮かべた言葉を、AIもそのまま使った。

 ぞくりとした。僕の感覚が完全なでたらめではなかったことに、むしろ現実味が増してしまった。

『そして、あなたは人間ではありません』

 あまりにもあっさり言われて、逆に、反応が遅れた。

『あなたは、機怪人形です』

「……きかい、にんぎょう?」

『古代の異星人〈先住者〉が製造した、高度機械生命体(アンドロイド)の一種です』

 頭が真っ白になる、という感覚は、こういう時にも起こるらしい。

 ただ、今の僕の“真っ白”は、人間の時とは少し違っていた。思考が止まるのではなく、処理しきれない情報が高速で空回りして、結論が出ないまま積み上がっていく感じだ。

「いや、意味わかんない。何それ。異星人? 機械生命体? なんで僕が?」

『それは、不明です』

「不明?」

『少なくとも、あなたの意識パターンは人類由来であり、現在の機体も人類を模しています。それ自体が普通ではありません』

「普通では、ない?」

『機怪人形は、通常、人類とは異なる異星人であるグラブール人の身体の形に形成されています。本機は、新たに製造された、人類の女性型の機怪人形なのかもしれません』

「女性型って言うなよ!」

 叫んでから、僕は余計に混乱した。

 怒っているのか、恥ずかしいのか、悲しいのか、自分でもわからない。

 ただ、認めたくなかった。見た目がどう見ても女の子に近いことを。声もそうだし、腕も脚も、体の線だってそうだ。

 でも、否定したところで現実は変わらない。

 宇宙空間に、僕は少女型の機械の身体で漂っている。

 どれだけ最悪な悪夢でも、もう少し手心があると思う。

「僕、死んだのか?」

 気づくと、そう呟いていた。

『人類としての生体機能は、停止した可能性が高いです』

「可能性が高いって」

『断定できるだけの直接記録はありません。ですが、現在のあなたは生身の人間ではありません』

 すごく丁寧に、容赦のないことを言う。

 僕は、少し黙った。

 遠くの星は相変わらず綺麗だった。綺麗すぎて、現実感がない。色々なスペクトルで光っていることが分析、できる。

 地球で見ていた星空と違って、ここには空気の揺らぎも、街の光も、生活の匂いもない。ただ無限に近い沈黙があるだけだ。

 生きている実感もないのに、意識だけはある。

 泣きたかった。でも、涙が出る仕組みが、この身体にあるのかどうかもわからなかった。

「……あの子は?」

『はい?』

「猫を庇おうとした子、無事だったのかな?」

 自分でも、なんで最初にそれを聞いたのかわからなかった。

 でも、聞かずにはいられなかった。

 僕が最後にやったことが、誰かを助けようとしたことなら、その結果くらい知りたかった。

『その情報はありません』

「そっか」

 短く返して、僕は視線を落とした。

 何もわからない。地球がどこにあるのかも、時間がどれだけ経ったのかも、僕がどうしてこうなったのかも。

 人間として死んで、異星文明の機械に入れられたなんて、意味がわからなすぎる。

 けれど――

 意味がわからないからといって、ここで止まっていられるわけでもなかった。

 不思議なことに、その考えはすっと出てきた。元の僕がそういう性格だったからかもしれない。混乱しても、とにかく次にやることを探してしまう。テスト前でも、部活でも、面倒な問題が出た時でも、まず「で、何すればいい?」と考える癖があった。

 今は、その癖にすがるしかない。

「……僕、動けるんだよね?」

『はい』

「ちゃんと?」

『基本運動機能は正常です。外部推進なしでも、機怪人形特有の能力を使用すれば移動できます』

「特有の能力?」

『シャドーマター制御による、いわゆる“魔法”です』

 今度こそ、僕は何とも言えない表情をしたと思う。

「さっきからさらっと言ってるけど、魔法って何?」

『人類の表現で近いものを選択しています。厳密には、特殊なエキゾチック物質であるシャドーマターを介した局所物理現象制御です』

「全然わからない……」

『端的に言えば、あなたは念じることで物を動かしたり、自分を推進したりできます』

「それ、ますます魔法じゃん!」

『そうとも言えます』

 ちょっとだけ、声に機嫌のようなものが混じった気がした。気のせいかもしれないけれど。

「じゃあ……それを使えば、どこかに行けるの?」

『短距離なら可能です。ただし、最初は練習が必要です』

「練習」

『あなたは、起動したばかりですから』

 起動。

 人間なら、絶対に使われない言葉だ。

 その単語が胸に引っかかった。けれど、いちいち傷ついていても仕方ない。

 僕は、再び自分の手を見た。白くて細くて、どうしても自分のものに思えない手だったが、少なくとも今この場で、僕が使える唯一の身体だ。

「……やる」

『確認します。機体制御訓練を開始しますか』

「うん」

 少しだけ迷ってから、僕は言い直した。

「お願いします」

『了解しました』

 次の瞬間、視界の隅に、半透明のラインがいくつも走った。青い光のガイドみたいなものだ。近くのデブリ、重力井戸の弱い方向、自分の現在の回転軸。説明されなくても、なんとなく意味がわかる。

『まず、自身の周囲にあるヒッグス場、空間のごく僅かな歪みを認識してください』

「認識って……どうやって」

『感覚としては、呼吸に近いものを探してください』

「僕、呼吸してないんだけど」

『では、呼吸していた頃を思い出してください』

 むちゃくちゃなことを言われている気がした。

 でも、やるしかない。

 僕は、目を閉じようとして、閉じる必要がないことに気づいた。視覚を遮断するのに、瞼を使う必要がない。意識の焦点を内側へ向けるだけで、外界の情報量を少し絞れる。

 呼吸。肺が膨らんで、縮んで、空気が入って、出る。そんな感覚を思い出す。

 すると、何かが見えた。

 いや、見えたというより、感じた。周囲に薄く満ちている、冷たい霧みたいなもの。空間の隙間にしみこんでいる、黒く透き通った流体のようなもの。それが僕の内部にも繋がっていて、手を伸ばせば触れられそうな気がした。

「……これ?」

『はい。そこに、干渉してください』

「干渉って、念じればいいの?」

『大枠では』

 大枠。

 嫌な予感しかしない。

 僕は、相対的に近く――数km先を漂う、拳大の金属片に意識を向けた。動け、と思う。こっちへ来い、と強く思う。

 最初は、何も起きなかった。次に、金属片がぴくっと震えた。おっと、と思った瞬間、それはものすごい勢いでこちらへ飛んできた。

「うわっ!」

 反射的に腕を上げる。

 金属片は、僕の頬のすぐ横をすり抜けて、どこかに消えた。

『出力過多です』

「先に言って!」

『今のは、実地学習が必要と判断しました』

「絶対それ、いま思いついたでしょ!」

 思わず言い返すと、またほんの少し、相手が黙った。

『……出力を十六パーセントまで制限します』

「できるなら最初からそうしてよ!」

 でも、そのやり取りのおかげで、少しだけ緊張がほぐれた。

 次は、慎重にやった。金属片を“掴む”というより、周囲の見えない流れにそっと指をかけるような感じで。動け、と命じるのではなく、滑ってくる道筋をつくるみたいに意識する。

 今度は、金属片がゆっくりとこちらへ寄ってきた。

「……できた」

『成功です』

 たったそれだけのことなのに、少し嬉しかった。

 嬉しい、という感情がちゃんと湧いたことにも、少し驚いた。人間の身体じゃなくても、僕は、まだ僕なんだろうか。

 少なくとも、完全に別の何かになってしまったわけではないのかもしれない。

『次は、自己推進に移ります』

「もう?」

『はい。ここで停止していても、状況は改善しません』

「それは……そうだけど」

 僕は、ため息をつくように、胸を動かした。

 指定された方向へ意識を向ける。進みたい方向ではなく、その反対側の空間を押す。理屈はわからない。けれど、シャドーマターで空間の歪みを大きくして、その中で質量移動をすれば、自分の身体を進めることができるらしい、と本能的に分かっていた。

 空間を泳ぐ、ような感じだろうか?

 やってみる。

 次の瞬間、僕は、思っていた方向の後ろ向きにすっ飛んだ。

「うわああああっ!?」

 周囲の星が流れ、デブリが回り、宇宙がぐるんとひっくり返る。回転。加速。停止できない。地面がないから踏ん張れない。

 絶叫しながら、僕は、わけのわからない方向に手足をばたつかせた。

『落ち着いてください』

「無理!」

『現在の速度なら、破片と衝突しても致命傷にはなりません』

「そういう問題じゃない!」

 すぐ目の前を、巨大な梁みたいな残骸が横切った。たぶん、距離的には数kmもなかった。もし人間なら失神していたかもしれない。

 でも今の僕は、恐怖で頭が真っ白になりつつも、同時に距離と角度と衝突予測を冷静に計算している自分にも気づいていた。

 どうやら、この“宇宙線墓場”には、ごく薄い気体があるものの、自然に減速できるほどではないようだ。

 同時に、自分の身体に当たる粒子の風、宇宙線、光の波長まで分析できていた。

 この身体、変だ。

 怖いのに、処理だけは妙に正確だ。

「止まれ……止まれ……!」

『進行方向の逆へ場を形成してください』

「逆ってどっち!」

『あなたがいま見ている回転ベクトルの――』

「専門用語やめて!」

 半泣きで叫びながら、僕はとにかくさっきと逆向きに“押す”イメージを作った。

 どん、と身体が揺れる。

 揺れる、というのも妙な話だけれど、慣性の変化としてはっきり感じた。ぐるぐる回っていた視界が少し落ち着き、速度が落ちる。さらにもう一度。もう一度。ようやく僕は、大きな残骸の陰で、情けない格好のまま停止した。

「……し、死ぬかと思った」

『あなたは、既に』

「その続きは禁止!」

 即座に遮る。

 AIは素直に黙った。

 僕は、しばらく、その場で動かなかった。いや、動けなかったというべきかもしれない。呼吸はしていないのに息切れみたいな状態で、頭の中だけが熱を持っている感じがした。たぶん処理負荷とか、そういうものなんだろう。

 けれど、少ししてから、僕は、くすっと笑ってしまった。

 変な状況だ。

 死んだかもしれなくて、宇宙にいて、女の子みたいなアンドロイドになっていて、異星文明の魔法を習っている。まともじゃない。わけがわからない。普通なら泣き喚いて終わりでもおかしくない。

 でも、金属片は動かせたし、自分も少し動けた。

 つまり、完全に詰んだわけではない。

「……ねえ」

『はい』

「君、名前ないの?」

 なんとなく聞いた。

 この声を、いつまでも“AI”とだけ呼ぶのが嫌だったのかもしれない。こんなわけのわからない場所で、唯一会話できる相手だ。冷たいようでいて、見捨ててもこない。

『当AIに、固有呼称は必要ありません』

「僕には必要だよ。呼びにくいし」

『では、識別名を設定してください』

 そんな簡単に任せるんだ。

 僕は、少し考えた。

 ――そういえば、AIの口調が、昔、遊んでくれた近所のお姉さんと、沈着冷静なところが似ているような気がした。そのお姉さんの名は、確か、青葉と言ったはず。

「……青葉」

『確認します。識別名、青葉』

「うん。君は、青葉」

 返事は、少しだけ間があった。

『了承しました。以後、私は青葉として応答します』

 その瞬間、たった今できたばかりの名前なのに、不思議なくらいしっくりきた。

「よろしく、青葉」

『よろしくお願いします、弓良』

 自分の名前を呼ばれて、胸のあたりがわずかに熱を持った気がした。気のせいかもしれない。でも、たぶん悪い気分ではない。

 僕は、もう一度、周囲を見渡した。

 黒い宇宙。無数の残骸。遠くの星――人間の世界からどれだけ離れているのかもわからない場所。

 あの小さく一際明るく見えるのが、この“宇宙船墓場”の主星なのだろうか。とても、遠いということが本能的に分かった。

 怖い。

 不安だ。

 自分が何者になってしまったのかも、これからどうなるのかも、何一つわからない。

 それでも、僕はここにいる。

 だったら、とりあえず動くしかない。

「青葉。次は?」

『近傍に、大規模人工構造物の反応があります』

「人工構造物?」

『はい。高確率で艦艇級残骸です。もし稼働可能なユニットが残っていれば、今後の生存率を大きく上げられます』

「つまり」

『宇宙船が必要です』

 青葉は、静かにはっきりと言った。

『あなたが恒星間を移動し、この状況から脱するためには、自力推進だけでは不十分です。船を確保してください』

 船。

 その単語は、妙に現実的だった。

 家よりも、避難所よりも、今の僕にはしっくりくる。ここが宇宙なら、必要なのはまず船だ。たぶんそれは、ものすごく当たり前の理屈なんだろう。

 僕は、頷いた。青葉には見えているのかどうかわからないけれど。

「わかった。行こう」

『はい』

 見えない流れに意識を伸ばす。

 さっきより少しだけ上手く、自分の身体を押し出す。まだぎこちない。たぶん傍から見たら初心者丸出しだ。でも、今度はひっくり返らなかった。

 砕けた金属の森の向こうに、何かが眠っている。

 船かもしれない。

 僕のこれからを変えるものかもしれない。

 そう思った瞬間、怖さとは別の感情が、胸の奥で小さく灯った。

 たぶん、それは、期待だ。

後書き:実は、機怪人形は、『宇宙船墓場』に、もう一体あったのです……。弓良を主人公としてリブートした本シリーズは、現在、16章分書き終えており、毎日投稿予定です→追加12章、用意中です。続けられるだけ毎日投稿致します。

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