青雲を紬ぐ
男性0, 女性0, 不問3。声劇台本として5-10分相当。
青緯:多弁
経華:無口
ナレーション :音
ナレ 「トントンカラリ トンカラリ」
青緯 「ねぇ経華、今日は何作ってるの?」
経華 「雨雲」
青緯 「雨雲? そんなのも作れるんだ」
経華 「そう」
青緯 「どうやるか教えてよ」
経華 「いや」
ナレ 「ジョキン ジョキン
「チク チク
「スイ スイ」
青緯 「うーん……紅茶淹れてあげるから」
ナレ 「スイ スイ――」
経華 「……イヤ」
青緯 「クッキーもつけちゃう」
経華 「……どうしてそんなに知りたい?」
青緯 「どうしてって、好きだから」
ナレ 「チク チク
「スイ スイ」
青緯 「いや、無視はひどくない?」
経華 「青緯、仕事の邪魔。出てって」
青緯 「えーひどいなぁ」
ナレ 「チク チク
「チク タク
「チク チク」
青緯 「わかったよぉー。また明日!」
ナレ 「ガラガラ ガシャン」
経華 「……またあした」
ナレ 「ステン ステン」
ナレ 「次の日」
ナレ 「ザー ザー
「ガラガラ
「ピシャン!!!!!!」
青緯 「お邪魔します」
経華 「開け閉めは静かに」
青緯 「だってひどい雨なんだもん」
経華 「そう?」
青緯 「雷まで落ちてきた」
経華 「そう」
ナレ 「キーカラ キーカラ」
青緯 「それは、何しているの?」
経華 「つむいでる」
青緯 「つむいでる?」
経華 「つむいでる」
ナレ 「トク トク
コポ コポ」
ナレ 「カチャン」
経華 「……ありがとう」
青緯 「クッキーもどうぞ」
ナレ 「ゴク ゴク
「サク サク」
青緯 「おいしい?」
経華 「おいしい」
青緯 「つむいでるって?」
経華 「これ、糸車。回してる」
青緯 「回してる? 回すと何がいいの?」
経華 「水蒸気を引いてきて、それを縒り合わせる」
ナレ 「キーカラ キーカラ」
経華 「互いに回って絡まって一本の太い糸になる」
青緯 「それが雲になるの?」
経華 「太い糸を作ったら、縦糸をかける。それに横糸を通していく」
ナレ 「ギッタン バッタン」
青緯 「じゃあそれが雲なのか!」
経華 「それを切る」
ナレ 「ジョキ ジョキ」
経華 「それを縫い合わせる」
ナレ 「チク チク
「スイ スイ」
経華 「形を整えて、それで雲ができる」
青緯 「経華はこのお仕事が本当に好きなんだね」
経華 「どうして?」
青緯 「どうしてって、いつもは無口なのに、いっぱい喋るから」
経華 「青緯が喋りすぎ」
青緯 「そんなことは……うーん。あるかもね!」
経華 「言葉は大切に」
青緯 「大切にしているよ? だからいっぱい使うんだよ」
経華 「言葉を使うのは……きらい」
青緯 「どうして? 経華の声は惚れ惚れするし、文字だって整っているよ?」
経華 「……」
ナレ 「チク チク
「スイ スイ」
青緯 「いや、作業に戻らないで!」
ナレ 「チク チク
「チク タク
「チク チク」
青緯 「……まぁイイけど。今日はいっぱい話聞けたし」
ナレ 「ガラガラ
「ピシャン!!!!!!」
経華 「開け閉めは静かに」
経華 「雲をつむぐのは、言葉をつむぐのと同じくらい、きらい」
ナレ 「ある日」
ナレ 「ピチョン ピチョン
「キラ キラ
「ピチョン チュンチュン」
ナレ 「カラカラカラー ピシリ」
青緯 「経華、今日はいい天気なんだね」
経華 「うん」
青緯 「雨どいから水が落ちて、太陽光に反射していた。水たまりに落ちて、スズメが鳴いていたよ」
経華 「うるさい」
青緯 「えぇっ!?」
経華 「つむがれれば、無形ではいられない」
青緯 「ごめん、ぜんぜんわからない」
経華 「雲の話」
青緯 「え、今日は自分から話してくれるんだ! うれしい」
経華 「じゃあやめる」
青緯 「ごめんってぇ~~~」
経華 「……原材料は分かる?」
青緯 「えーっと、学校で勉強したよ! 水蒸気、だっけ」
経華 「っていう名前だね」
青緯 「水蒸気をつむいで、雲にしてるんでしょ?」
経華 「もともと形がないものを圧縮して、境界線にする。それが『いと』」
青緯 「糸」
経華 「それを織って、あるいは編んで、仕立てて、添えて削って、推して敲いて――」
青緯 「それでできるのが雲?」
経華 「そうだね」
青緯 「……どうして嫌いなの?」
経華 「きいてたの?」
青緯 「ばれちゃったかー」
経華 「……もともとの水蒸気とは別物だから」
青緯 「そうなの?」
経華 「きっと、そう」
青緯 「ふーん」
ナレ 「カラカラカラー」
青緯 「でも、僕は好きだよ」
「経華がつむいだあの雲」
ナレ 「青雲をつむぐ」




