首都地下型大地震
学校からの帰り道
それは多くの人にとって授業から解放される軽快な一歩なのだと思う
でも、僕にとっての帰り道は全然違う
帰り道は地獄そのものだ
帰れば、両親は必ず喧嘩している
そして決まって喧嘩の後はストレスの溜まったパパが僕に無言で近づいてきて無言で僕を殴る
一月はまだまだ冬で寒いから、
きっとクラスのみんなは防寒のために厚着をするんだろう
でも、僕は体中のあざ、かさぶたを見せないために今日も黒い肌着を着る
もちろん、そんな親だからご飯だって貧しいものだ
多分、田園調布のペットの犬の方がいいもの食べてる
だから、僕はみんな別れたらすぐに、公園に行って花の蜜を吸う
じゃないと、次の日の給食まで甘いものは食べられないから
今日は友達とも遊べないからこうやって蜜を吸うことしかやることがない
でも、公園もまた、地獄の場所だ
だって親子が仲良く遊んでいるから
僕の方に近づいてきたら、僕はすぐに隠れる
遊んでいる親子は花の蜜を吸う少年のことなんて気にも留めないだろう
それもわかってる
でも、その楽しそうな姿を、見ると、
パパとの思い出が頭の中で勝手に再生されてしまうんだ
パパは僕にとってヒーローだった
土日なるといつも近くの釣り堀に連れて行ってくれた
二人で一本の竿を持ち、日が暮れるまで魚を待った
ダメダメの日は二人肩を落として
良かった日はスキップして
そんな毎日が楽しかった
でも、パパは変わってしまった
信用していた社員の人に会社のお金を根こそぎ取られて、パパと一緒に働いてた人たちもお金がないって分かったらすぐに離れていってパパは全てを失った
それからだ、パパが人を信じなくなったのは
でもね、僕は知ってるんだ
パパは本当はすごく優しい人なんだって
僕は信じてるんだ
きっといつかの日か、パパの仕事が良くなって
パパも良くなって、またあの釣り堀に行けるって
だから、その日まで、
僕がパパに迷惑かけるわけにはいかない
パパの邪魔するわけにはいかない
だから、僕はね、僕はどうなっちゃってもいい
頬がほんの少し赤くなるだけ、だけ、、、
なんでだろう、なんも悲しくないのに涙が…
でも、周りに人がいる
こんなところで泣いてちゃ、変な子だって思われる
心配されちゃう、家に電話いっちゃう
それはいやだ
上を向いて帽子をクッと深く被る
僕は普通の子だよ
普通な親の下に生まれた普通な子だよ
しっかり行動で伝えなきゃ
そのときだった
地面から凄まじい唸り声が響いた。
と思った次の瞬間、
激しい縦揺れが起こった
僕はただ、這いつくばって、揺れが収まるのを願うことしかできなかった
周りを見ると、いつもは巨人のように見える大人がみんなうずくまっている
こんな光景見たことがない
それだけ大きな地震なんだと分かった
緊急時でも、周りを見れる程、冷静でいられたのはきっと似たような状況を幾度も経験してきたからだと思う
一分くらい経ったのか、僕は周りを見渡した
大きな揺れは収まったらみたい、でもまた余波が来るかわからない、揺れが止んだ瞬間に建物の中にいた人々が同じ方向にかけていった
走っていった人の考えてることはみんな同じ
安全な場所に行きたい、そんな生への渇望なんだと思う
でも、僕にそんなことどうでもよかった
なぜかって
そんなの簡単さ、
なんてたって、目の前に誰もいないコンビニがあるから
それは僕にとって天国にも等しい場面だった
自由に、誰にも言われず、好きなものを、好きなだけ食べたい
その願いが強かったせいか、夢に何回も出てきた
その度、起きた時に何もなかった虚無感が身体中を襲った
でも、今は違う、ほんとうに、ほんとうに、
コンビニがある
店内は暗い、きっと地震で停電したんだ
だから防犯カメラも動いてないだろう
まさに自由
まさに天国
僕はスキップをして、頭の中で音楽を流して
自動ドアを手でこじ開けて店内に入った
何から食べようか
高揚感が抑えられない
思わず口からワクワクと言ってしまいそうだ
別に食べたことがない商品が並んでいるわけじゃない、公園で分けてもらったことがあるお菓子ばかりだ。でもそのときは一個だったものが今は無限それは僕にとって天と地ほど差がある
まずは甘いグミから
そうやってグレープ味のグミに手を伸ばす
そして開けようとしたとき、なぜか手が止まり
変なことを考えてしまった
なぜ、パパは僕に暴力を振るうのだろう
きっと誰にでも手をあげるわけじゃないよな
上司とか偉い人にはパパだって何もしないよな
偉い人と僕の違いってなんだろ
それは立場だ
多分偉い人を殴ったら、パパは殴り返されるし、
給料とかも減る、殴ることがパパの不利益になる
でも、僕はパパに給料を上げてないし、殴り返す力も、誰かに言うこともない
そうか、パパは弱いものいじめをしてたのか
そう思うと釣り掘から帰る時に見た大きなパパの背中がだんだん小さく見えてきた
そして、目を開ける、目の前にはグミを開けようとしている自分の手がある
はっとした
僕も弱いものいじめしようとしてるじゃないか
グミは、コンビニは、僕を殴ることも、
この人盗み食いしてますと伝えることもできない
僕は人でグミはものだけど、同じ弱きモノだ
そんなグミに僕は、今の自分の環境とか生活を理由に頭の中で勝手にしょうがないって都合よく解釈して食べようとした
そう思った瞬間、自分がなんだか小さくなっていくように感じた。プレス機で押されているように後頭部に乗る空気がとても重かった
僕はとても悩んだ、悩んだ、悩んだ
その末に、グミを宝の山にそっと戻した
お腹もぐーと鳴りそうな程空いている
グミは宝に見えるくらいキラキラ輝いている
でも、これを一口食べてしまったらパパの行動は間違ってる言う権利が無くなったしまうと思った
そして出口へ歩け出す
その瞬間、電気が復旧して、店内が明るくなる
僕は自動ドアから颯爽と外へ出る
みんなが逃げていった方に行こうとしたとき思った
結局またあんなやつのところに行くのか
もう、パパの手に握られているグミは嫌だ
誰もいないことを確認して大きく息を吸う
あのクソジジイが!!!
僕はみんなが逃げた方とは逆の児童相談所へとかけて行った。空腹からその足取りは妙に軽かった




