満月
先日市民病院に行き余命宣告を受けた。
余命一年だそうだ。
ため息が出た。
時間的に言えば深夜。
「寒いな~~」
「本当に寒い」
「心身が凍り付くように寒い」
トレンチコートを握りしめ僕は心身の寒さに震える。
見渡す限りの満天の夜空に息をつく。
季節は秋。
空には満月が輝いていた。
四十代後半。
出会いもなく気が付けば此の年だ。
両親は既に他界。
兄弟は居ない。
残りの家族と言えば猫ぐらいだろう。
真面目に生きて此の年まで生きて来た。
揚げ句の果てが余命宣告だ。
仕事は既に辞めた。
一年しか生きられないからだ。
残り一年悔いのないように生きたい。
美しい満月が良く見える夜。
近くの学校迄徒歩で移動した。
「部活キツイね~~」
「インターハイもうすぐだし仕方ないよ」
「帰りコンビニ寄ってかない?」
「良いね~~」
部活帰りの学生が歩いていた。
数人の女子高生達だ。
ああ。
いいな。
僕も青春を謳歌していた時が有ったな~~。
くだらない。
こいつらの人生に悍ましいトラウマを植え付けてやる。
ガバッとトレンチコートを開く。
「「「「きゃあああああああああっ!」」」」
僕の姿。
トレンチコートで覆い隠した体。
僕の裸を見て悲鳴を上げる女子高生。
「残り一年思うがまま生きるぞおおおおおおっ!」
この日余命宣告一年を受けた変態が誕生した。
一年以上全国を騒がせる変態が。