第8話 御成敗式目
ソフィアこと市川晴美は今現在、最悪の状況にいた。
「フグー! フゴフゴ! フングフング グヌヌー!」
いつか来る追撃隊から逃れる為、ソフィアとロゼは牛車に乗せられていた。舌を噛まないように猿轡までさせられている。さらに最悪な事に、牛車なのに牛ではなく、ポーニサイズの馬だった。速度は牛に比べれば確かに早いが、その対価として揺れが酷い。
「姫様。とりあえず、食い物の確保と物資調達の為、近くの村を襲撃したしましょう」
「――!? フギー!(襲撃はやめろー!)」
さらりと物騒な事を言う鎌倉武士団の素行の悪さに目眩をするソフィアであった。
「ふむふむ。姫様から徴発の許可が下りた。次の村に襲撃をかける。奪える物は全て奪い尽くせ! 久々の血祭りじゃぁあー!! 生首絶やすなっーー!!」
「「「おぉぉッ!!!!」」」
「ブヒブヒフグフグ!(やめろって言ってるだろうがっ!)」
北条泰時はソフィアの思いとは真逆の勘違い略奪許可を頂いたと喜ぶ鎌倉武士団の姿に、ソフィアは猿轡をギリギリと噛みしめた。そして、ついには……
『ブチッ』
「やめろー!」
ソフィアは猿轡を噛みちぎり、無理やり駕籠から降りて北条泰時の前に進んだ。
「泰時ーー! てめぇーは何をほざきやがる! 誰が略奪しろと言ったよぉ!」
ソフィアは北条泰時の首を掴み、流石の平和な時代に生きてきた晴美ことソフィアも略奪の言葉にブチキレた。
「姫様!? 急に如何されましたか?」
泰時は目を丸くし、ソフィアに答えた。
「あなた、確か御成敗式目という小学校レベルの猿でも分る法律を作ってたわよね!」
「御成敗式目は某が話の通じない蛮族を少しでもまともな蛮族にしたいと考えた決まりごとでござる」
「村を襲撃して略奪するとか、まともな蛮族がすることじゃないでしょ! 山賊や海賊、チンピラじゃあるまいし!」
「確かに…… 我らにとって当たり前の事だった故…… 申し訳ありませぬ」
泰時はしれっと自分達の正当化しようとしていた。ソフィアな泰時の姿を見て、ある歴史を思い出した。
(北条泰時って、確か後鳥羽上皇に朝敵の汚名を着せられ、ぶちギレて後鳥羽上皇をぶっ殺しに30騎でカチコミかけて、最終的には10万騎で京都に乗り込んだ狂った人だったわよね? そう言えば、御成敗式目ってどんなものだったかしら?)
ソフィアは御成敗式目のは名前と泰時が武士に向けて法律を定めたのは知っていたが、詳しい内容までは忘れてしまっていたようだ。御成敗式目を簡単にいえば、
『神社仏閣を大切にしましょう』
『人の悪口を言ってはいけません』
『浮気、不倫は許されないことです』
『女性を拉致監禁して性的暴行の末、殺すのはやめましょう』
『人に暴力を振るって怪我をさせるのはやめましょう』
『人の物を自分の物にしてはいけません』
『畑から作物を盗んだらダメです』
『人を殺したら犯罪です』
『行商人からの品物は金銭を支払ってから奪いましょう』
『旅女や歩き巫女に性的暴行をしてはいけません。ちゃんと対価を払ってから性的行為をしましょう(旅女、歩き巫女=遊女)』
などなど蛮族達にも分かりやすくした法律が、御成敗式目なのだ。
「あの、人の心を持たぬ者を人間に戻そうとしたことは評価するけど、むやみやたら人を殺してはダメ。分かった?」
「「「チッ」」」
ソフィアは泰時を褒めながらも注意を促したが、鎌倉武士団は舌打ちで返したのだ。
(舌打ちだと!? 小生意気な……)
「誰よ。今、舌打ちをした誰よ?(怒)」
ソフィアは、小生意気な北条泰時と鎌倉武士団を『ギロリ』と睨むと、
「「「ピュ~~ヒララ」」」
北条泰時達はメンチを切るソフィアに対して目をそらし、口笛を吹くのだった。
「もぉー! あなた達に任せてられないわ。私が交渉するから大人しくしているのよ」
「「「お、おうー!!」」」
(コイツら…… 本当にクズ人間の集まりだわぁ……)
ソフィアの恫喝に鎌倉武士団は不満げに同意し、クズ人間の集まりである蛮族達にソフィアは目眩に襲われるのだった。
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