第30話 朝焼けに咲く一輪の花のように
ソフィアたち人質救出隊は山賊達を討伐し、村長たちが待っている拠点まで凱旋した。凱旋と言っても華々しい凱旋ではない。これからの生活の不安や疲労が溜まっているであろう村長をはじめ生き残った村人たち。そして、親族を殺され、心に大きな傷を負ったマリー達。何より、これから生活面で必要とされる奴隷兼護衛と重宝されていただろう蛮族達の犠牲。ソフィアにとって蛮族の犠牲が一番痛かった。
何故なら、建築やその他の作業を泰時達鎌倉武士団に押し付け、ソフィア自身はマリーちゃん達をはじめ、子供たちのお世話という名の至福タイムを楽しみにしていた。その思惑が蛮族達の犠牲によって、頓挫してしまったのである。
ソフィアは今後の事もあり、泰時を呼び出した。
「姫様。某に用とは何事でございますか?」
「悪いけど聞きたいことがあって。今回の戦いで、こちらの戦死者は何人くらいだったかしら?」
「17人が討死。残ったのは13人となっておりまする」
(17人死んで、13人しかいないのかぁ~ 季長はとりあえず極刑するから残りは12人。村の人達をあまり扱き使うのも可哀想だし、どうしようかな……)
「17人かぁ~ 結構死んだわね。これからあなた達、鎌倉武士団に頑張って貰わなきゃと思ってたんだけどね」
ソフィアは目の前のご褒美を取り上げられた子供のように拗ねた顔で泰時に話しかけた。
「姫様。今回の合戦、山賊どもを討伐したとはいえ、こちらも多大な犠牲が出ましたこと大変申し訳ございませぬ」
「別に泰時を責めてる訳じゃないわ。私がもっと毅然とした態度で空前絶後の刑罰を強化しておけば、竹崎季長のような命令違反者も出なかったと思うの。やはり子供でもわかるような軍法と刑罰を作らなきゃダメね」
「えっ! 軍法と刑罰の強化でございますか?」
泰時は梟首(打ち首)の上、獄門(晒し首)のほかに更なる刑罰が追加になることに恐怖を覚えるのである。自分達が殺る側ならいざ知れず、殺られる側から見れば堪ったものでない。
「そうよ。刑罰は磔も良いけど、鋸挽きもね」
「姫様、正月はおせちも良いけどカレーもね。みたいなこと言わんで下さいまし……」
「まあ、今更どうのこうのと言っても始まらないし。泰時、とりあえず竹崎季長は問答無用で梟首の上、獄門のセットでお願いね。この辺に首級を晒すのは気持ち悪いから山賊達の首と一緒に離れた所に野ざらしにして頂戴♡」
「姫様、竹崎季長殿の言い訳を聞かないのですか?」
「要らないわよ。もののふが言い訳なんてみっともない。スパッとやっちゃって」
「竹崎季長殿をスパッとでございますか?」
「そうスパッとね。ああ、忘れていたわ。イザナミに今度また竹崎季長を召喚させたら可愛いリボンでも付けて送り返すから、二度とアイツを召喚させないでね。って、伝えてくれる?」
「――わかり申した。イザナミ様には、その様に伝えておきまする」
「あっ! そうだ。あと百姓も100人位送ってもらえるか。聞いてくれる?」
「百姓でございますか?」
真顔で聞き返す泰時に、ソフィアは
「ええ、百姓よ。お米や農作物を作ってもらわないと。あと、あなた達と一緒に住居とかも建ててもらわないといけないわね。勿論、あなた達鎌倉武士団が率先して作業を進めて頂戴ね。もし百姓達だけに仕事を押し付けたりでもしたら…… どうなるか、わかってるわよね?(にっこり)」
「……………………」
泰時は後年、この時の事を
『あの時の姫様は、まるで天女のような光輝く笑顔で、殺伐としたことサラっと言いのけたのには、さすがの某もなんと豪胆なお方だとドン引き致しました。それはまるで源頼義が前九年の役終結後、奥州藤原氏の祖、藤原経清を捕縛し、源頼義の面前に引出され、苦痛を長引かせる為に錆びた刀で鋸挽きによって斬首されたことを思い出さずにはいられなかった。まさか、姫様の口から次々と放たれる恐ろしく、おぞましい呪いの言葉に、我を忘れ恐怖したのでありました』
――アオモリン書房館 エレオノーラ著『朝焼けに咲く一輪の花のように~在りし日の彷徨恋日記~』より抜粋
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