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第20話 魔境の悪魔

『クルッ クルッ クルッ ドガッ! グヘッ  ドサッ』


『ビクン ビクン ピクピク』


ソフィアは泰時の言葉を遮り、身体を三回転させ、泰時の顔面左側に強烈なエルボーを放った。俗に言う『ローリングエルボー』である。いくら強靭の泰時といえども、ソフィアの強烈なエルボーの前では()の葉のように宙に舞い、大木へぶっ飛ばされて動かなくなったのである。



のちに泰時はこの時のことを赤裸々に語った。


「あの時の姫様のスピニング・エルボーを喰らった時は、正直、昇天する思いであった。首と体が離れていないのが奇跡としか思えなかった。一瞬で意識を失くすとは武士の恥であるが、如何なる者が姫様のローリングエルボーの前では、(それがし)のようになっていたであろう。いや、(それがし)だったからこそ生き残ったかもしれぬ。他の者であったなら確実に死んでいたのではないか…… そう思わざるを得ないくらいの破壊力を持った、凄まじいローリングエルボーであった。もう二度と姫様のエルボーを喰らいたくない。二度とこんな恐い思いはしたくない……」

――アオモリン書房館 エレオノーラ著『朝焼けに咲く一輪の花のように~ある日の彷徨の恋日記~』より抜粋



「泰時! 私、言ったわよね! 略奪行為はご法度だと! あんたが率先して略奪行為を命令したら、みんな喜んで略奪しまくるじゃないの!」


ソフィアは泰時に向かって吠えた。そこへソフィアの忠臣であるロゼが近寄り、


「お嬢様。今の泰時殿には、お嬢様の崇高に満ちたお言葉は届かないかと……」


「なんで?」


ロゼの言葉にソフィアは疑問を感じロゼに聞き返した。ロゼは静かにその場から離れ、泰時の元へ向かい、


「お嬢様。泰時殿はお嬢様の殺人技の一つ、ローリングエルボーの餌食となり、先程、身罷(みまか)れました」


「そう、仕方ないわね。自業自得ね。あなた達もこう成りたくなかったら略奪とか考えない事ね。誰か、そこの屍が邪魔だから魔物の餌として捨てて来て」


「「「ハッ!」」」


鎌倉武士団が泰時の死骸を運び出そうとした時、


「姫様! 執権殿がまだ微かに息をしております。まだ生きておりまするぅー!」


『チィッ』


「まだ生きてたかぁ、しょうがない面倒だから森の奥に捨てて来て」


ソフィアは泰時が生きていることに不快感を露わにし、舌打ちをした。


「「「姫様―! 執権殿のお命だけはお助け下さいませー!! 武士の情けだと思い、どうかこの通りにございまするぅー!!」」」


鎌倉武士団はソフィアに向かって、平伏し泰時の命乞いをしたのだった。


(あら? この人達、人の心が無いからあっさりさっぱり泰時を森の中に捨てて来るものだと思ってたわ)


「わかったわ。今回はあなた達に免じて許してあげるけど、次は絶対にないわよ」


いつものソフィアとは違いガチギレのソフィアは蛮族以上の超蛮族に変身するのだ。



「お嬢様。まずは屋敷を建てるところから始めなければなりません。そのための木材、工具、人手も足りない状態です。如何されますか?」


(ポンコツと思っていた、あのロゼが…… 実は出来る女だったのかしら)


ロゼに対して、失礼極まりないことを考えていると鎌倉武士団の一人が、では近くの村から人夫を雇うのはどうでしょうか?」


「あら、あなた賢いわね。それでは人夫を雇い、その村で材料や工具を買いましょう。その方向で行くわよ。ロゼ、ここから近い村ってわかる?」


「いえ、存じ上げません」


ロゼはキッパリハッキリと答えた。


(自分の住んでる国なのに知らないって…… やっぱりロゼはポンコツなのね。あなたを見直した私が馬鹿だったわ)


「命令。ここには10人ほど残って私の護衛。あとは泰時と一緒に近くの村か街を探して来て。良いわね。ちゃんと探してくるのよ。間違っても御成敗式目(ごせいばいしきもく)に反することないように。もし反した時は、その首を私のエルボーで狩るわ。そして門扉にその生首を飾ってあげるから安心しなさい(ニッコリ)」


「「「ハッ! 八幡大菩薩(はちまんだいぼさつ)の名に懸けて、お誓いいたしまつる」


ソフィアのニッコリが恐かったのか、鎌倉武士団はいそいそと目的の村を探しに行った。


「お嬢様、私はどちらに行けばいいですか?」


「ロゼは私と一緒に居なさい。あなたが行っても迷子になるだけだから」


「……………………」


ロゼからの返事は返って来なかった。


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