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旧車物語  作者: 3気筒
9/71

第9章 ブロー!?

少し間が空いてしまいました汗

それでは第9章!至らぬところ多々ありですが、宜しくお願いします!

 あれから翔子の嬉し泣きが止むまで10分はかかった。

 なんとか泣き止んだ翔子は、次は顔を真っ青にして謝りだした。

「す・・・!すみませんでした!!私、迷惑を掛けてしまって・・・!!」

 ものすごい勢いで謝りだす翔子を見て、土下座&切腹も時間の問題だと2人は思った。

「もう大丈夫だから、別になんとも思って無いわよ?」

 由美が言うと、泣き顔の翔子が顔を上げた。

「す、すみません・・・私、人見知りで・・・こんな性格だから学校にも友達いなくて・・・」

 翔子は、その場にしゃがんでうつむく。涙を堪えながら、ため息をついた。

「せっかく親切にしてもらったのに・・・今も凄く怖くて・・・ごめんなさい・・・!」

「なぁに言ってんのよ?私達は何にも思ってないんだから、気にしなくていいわよ?それに・・・」

 由美は翔子の目の高さまでしゃがんで、翔子の顔を見て最後の言葉を紡いだ。

「私達・・・もう友達じゃん!?」

 ニカっと笑い翔子に話し掛ける。翔子の頬にそっと両手を当てて、優しい笑みで翔子に言った。

「あ・・・」

 翔子は、自分の頬に伝わる由美の温かさを感じた。

「私達と同い年で、それでバイクに乗っていて、しかもそれが旧車なんて・・・こんな素敵な出会いがある?」

 由美がニコニコしながら問うた。翔子もすでにさっきまでの悲しい顔では無い。

「私達を会わせてくれた、このバイク達に感謝しなきやね?あなたのサンゴちゃんもきっとそう思ってるわよ?」

 由美はそう言って視線をCB350Fourに向けた。毎日磨かれたタンクにサイドカバー、メッキパーツは年相応のキズや色褪せはあるものの、キラキラと太陽に輝いている。

「サンゴちゃんってなんですか・・・?」

 翔子はCB350Four、通称サンゴーフォアをサンゴちゃんというあだ名に可笑しくなって笑ってしまった。

「サンゴーより、サンゴちゃんの方が可愛いでしょ?」

 由美が少し顔を赤くして言う。やはり自分で言って恥ずかしかったみたいだ。

「ありがとうございます・・・私、もう大丈夫です」

 そう言って翔子は、自分の愛車にして、パートナーのサンゴーフォアのハンドルに手を掛けた。

「えへへ、サンゴちゃんだって?よかったね、可愛いあだ名もらって」

 すっかり元気になった翔子は、最初に会った頃より自然な笑顔で、愛車に触れた。

「そのバイク、翔子ちゃんに凄く似合ってるよ?」

 圭太が翔子に笑顔で言う。小さなサンゴーフォアに、翔子が跨がる姿はこれ以上無いくらいにピッタリだ。

「ありがとうございます、圭太さん!」

「僕達に変な気を使わなくていいよ。同い年だし、友達なんだから!」

 圭太の言葉に、翔子は「はい!」と、この日一番大きな声で元気良く頷いた。

「あ・・・翔子ちゃん、今日これから時間ある!?」

由美がなにかを考えてから翔子に聞いた。

「え?ありますけど・・・なんで?」

 キョトンとした感じで話した翔子に、由美はしめしめと笑いながら翔子を見た。

「今日、これから相模湖に行くけど、翔子ちゃんも一緒に行きましょう!?」

 由美の提案に、圭太が「いいね、それ!」と賛成した。しかし・・・

「え・・・?でも、その・・・」

 困った顔で、翔子がモジモジし始めた。

「お・・・お二人の邪魔じゃ無いですか・・・?」

 翔子は、どうやら2人が付き合ってる同士だと思っているらしい。恥ずかしくなっているのか、顔が赤い。

「いや、全っ然気にしなくていいよ?僕達別にそう言うのじゃ・・・って痛っ!!!」

 圭太の言葉を、由美が脛を蹴って阻止した。そしつ翔子に向かって代わりに答えた。

「私達は気にしないから!ね!?圭太!?」

「なんで蹴られるんだ・・・?」

 なんとか阻止した由美と、蹴られた理由が分からない圭太を見て、翔子は「由美ちゃんがんばれ!」と心の中でエールを贈った。

「で?どうする?行きましょう!?」

 由美の提案に、翔子は少し考えてから、由美達を見て言った。

「はい!・・・行きます!」

 その顔には、もう迷いも不安も何もなかった。勇気なんて、いらない。もう自然体で話せてしまう。さっきまではあんなに怖かったのに、今ではそんな恐怖は全く無い。翔子は心の中で改めて由美にお礼を言った。

「よし!それじゃあ行くわよ!!準備はいい!?」

 由美が圭太と翔子を見た。

「僕は行けるよ?」

「私も大丈夫、よろしくお願いします」

 2人とも、すでに準備は出来ていた。

 それを確認して、由美は頷いた後、エンジンを掛けた。


 きゅるる・・・ボァアアン!!!


 手曲げショート直管から吐き出されるゼファー改FXのエキゾーストが辺りに響き渡る。

「わぁ・・・カッコいい・・・」

 翔子は、欲しいオモチャを見る子供のような目で由美とゼファーを見た。

「じゃあ僕も・・・」


 きゅるるるる・・・ファアアン・・・


「ははは・・・やっぱり僕のはノーマルだから・・・」

 由美の音の後に続いてしまった圭太は、ノーマルマフラーの排気音を聞いて少し苦笑いだ。

「やっぱりカワサキもカッコいい・・・」

「じゃ、次は翔子ちゃんよ?」

「あ、はい・・・!」

 由美の言葉に頷き、翔子もセルに指を伸ばす。


 きゅるるるるるるるる・・・ダァン・・・!


 今までで一番長いセルの後、エンジンが掛かった。

「音が僕達より重いね、4ストだよね?」

 圭太が聞くと、「うん」と言いながら答えた。

「やっぱりこの子はシングルカムだから・・・ツインカムのあなた達より音が重いんです」

「なんか今まで一度も聞いたこと無い音よね!私達もバイク乗ってる友達が後2人いるんだけど、あの人達のは2台とも2ストだしね!」

 由美が、旭と美春の音を思い出しながら言う。あの2台は、由美や圭太、翔子とも違う甲高いカミナリのような音と真っ白な白煙、オイルを撒き散らす。

「いいなぁ・・・私も会ってみたい・・・」

 翔子が心底羨ましそうな目で2人を見る。

「じゃあ、今度一緒にツーリング行きましょう!?見た目は怖いけど、やさしくて便りになる人と、どこかのんびりした可愛い人よ!」

 由美の説明に、ますます嬉しそうな顔で由美を見る翔子は、本当に夢のような気分だった。

「あ、でも・・・最初に言った人・・・眠い時は物凄く怖いから、それは注意してね?」

 由美が脅すように言うと、翔子は「わ・・・わかりました・・・」と言って固くなった。

「話だけで相手を固まらせるなんて・・・旭さん恐るべし・・・」

「なに言ってんのさ?由美が脅すように言うからじゃないか」

 圭太がツッコミを入れた。

「とりあえず、相模湖へ行きましょう!?今日は天気も良いし・・・!最高よ!?」

「安全運転でね?」

「よ・・・よろしくお願いします・・・!」

 3人、それぞれの顔を見てからギアを1速に入れた。そして3人は高尾の山々にエキゾースト音を響かせながら高尾山を後にした。

 3人の出発を、周りの山々が見守っていた。




 走り始めて数分、3台のバイクは軽快に走っていた。

「空気がいいわよ!空気が!!」

 アップダウンの続く峠道を進む3台の先頭を走る由美は高らかに叫んだ。山の冷たい空気と、春の太陽の日射しが心地いい。

「わ・・・私・・・」

 翔子は、なにやら嬉しさに震えた声で呟いている。

「どう?翔子ちゃん!?みんなで走るのは!?」

 由美が叫ぶと、翔子が隣に並んで聞こえるように精一杯叫んだ。

「すごく楽しい・・・!1人で走るより何倍も何倍も・・・楽しい!」

 ジェッペルをかぶる由美と圭太に叫ぶ翔子は、本当に楽しそうだ。因みに、翔子はツバの無いハーフタイプのヘルメットに、ゴーグルを掛けている。

「本当に・・・楽しいな・・・!」

 翔子、今までずっと1人で走っていた為、3台とは言え、皆で走るコトに憧れていたのだ。

「圭太〜!ついてきてる〜!?」

 由美が叫ぶと、しんがりにいる圭太は手を振って返してきた。

 途中、3台は交代交代で前後を入れ替えたりしながら相模湖へ向かっていった。そして、相模湖まで後1キロを切った辺りで小さな橋が出てきた。走りながら下を見ると、下は綺麗に透き通った川があった。圭太は「綺麗だなぁ」と思い、川を見続けた。

 そして、ダムのある近くの道路に出た。きれいに舗装されていて、3台は気持ちよさそうに走った。

 そして、道に沿って走ると、ダム近くの公園と言うか、広場についた。

 3台は、近くの駐輪場にバイクを並べて、そこから歩いて公園まで行った。

「きれいな広場ねぇ〜!!」

 由美が思い切り伸びをして言った。

 辺りには他にも人がちらほら居て、賑わっている。

「なんかお弁当とか持ってピクニックしたいわね!」

「あぁ、いいね〜それ」

 由美の言葉に圭太が賛同した。辺りには何もなく、民家も少ない。タイル貼りの道の脇には芝生が続いていて、こんな日は昼寝したくなるほど気持ちよさそうだ。

「あ、2人とも!こっち向いてください!」

 翔子が、カバンからカメラ(なんか高そうなモノ)を取り出して、2人に向けた。

「はい・・・撮りますよ〜・・・?」

「あ、圭太!撮ってくれるって!!」

 2人は仲良く並んでこちらを見る。表情はごく自然な笑顔だ。

「はい、チーズ!」


 カシャッ・・・!


 シャッターは無事に押されて、由美達を写したハズだ。

「ありがとうございます・・・!私、あまり人の写真は撮らないから・・・変に写ってたらだったらすみません・・・」

 翔子が不安そうな顔で言う。

「大丈夫よ!上手く撮れてるハズよ!?ていうか、いつもどんな写真撮ってるの?」

 由美の質問に、翔子は少し恥ずかしがりながらこちらを見て言った。

「普段は・・・風景とか、バイクとかを撮ってて・・・将来は写真家になりたいなーって・・・!」

 モジモジしながら言う翔子に、由美は笑いながら翔子の肩を叩いた。

「いいじゃない!将来の夢があって!!大丈夫、あなたならきっといいカメラマンになれるわ!!」

 由美の言葉に、翔子は嬉しくなった。本当、こんなに嬉しくなったのは何年振。りだろうか・・・

 そして、翔子は2人の姿を取り続けた。ダムをバックに1枚、芝生の上で転げ回る由美の笑顔や、圭太の困り顔をたくさん撮った。今日この日のコトを忘れないよう、夢中でシャッターを切った。

「あ・・・!」

 突然、由美が何かを思い出した。そして、翔子に駆け寄った。

「翔子ちゃん!私達ばかり撮らないで、あなたも写んなよ!?」

「え・・・そう、ですか・・・?」

 由美の提案に、圭太も「そうだね、」と頷いた。

「うんうん!翔子ちゃんも入らなきゃダメよね!セルフタイマーとか無いの?」

 由美の言葉に、翔子がセルフタイマーを10秒間に合わせた。

「じ・・・じゃあ私も、入りますね?」

 カメラを岩の壁の上に置いて、ピントを合わせてからタイマーをセットして小走りで由美と圭太の方向に走った。

「あ、翔子ちゃん・・・真ん中おいでよ?」

 右端にいた翔子に圭太が言うと、由美も一緒に賛同して、翔子の右を圭太が、左に翔子がくっ付くようにして(圭太は、最初離れていたが由美に強制的にくっ付かされた)カメラを見た。

「ハイ!チーズ!!」

 由美の掛け声の後、タイミング良くシャッターが降りた。


 パシャ・・・!


 3人は、しばらく同じような感じで写真を撮っていたが、フィルムが切れてしまうと遊び疲れて一休みした。

「ありがとう・・・今日はたくさん良い思い出が出来ました・・・」

 翔子がコンビニで買ったアイスを食べながらお礼を言った。その顔はもの凄く嬉しそうで、見ていた2人もそれだけで大満足だ。

「こちらこそ!私たちもたくさん遊べて楽しかったし!!写真も、出来たら見せてね?」

「うん!!」

 楽しそうに話す由美と翔子を見て、圭太も良かったと思った。本当に心からバイクに乗っていて良かったと思った。バイクに乗っていなければ、旭と美春に会うことも、榊さんに会うことも、そして今日高尾に来て翔子と会うことも無かっただろう。2人もきっと、そんなコトを考えているんだろうなぁ・・・と思う。

「もう5時かぁ・・・早いなぁ」

 由美がケータイの時間を見て呟いた。真っ赤に燃えた夕日が3人を照らしていた。

「時間が過ぎるのがこんなに早く感じるなんて・・・久しぶりです・・・」

 翔子が呟いた。それは本当の本当に楽しい時間を過ごしたコトを実感出来る言葉だ。手を前に組んで思い切り伸びをした。

「あ、そうだ・・・ケータイのアドレスと番号教えてよ?また一緒に走りに行きましょう!?」

 由美が言うと、翔子は「あ・・・」と言って少し困った顔をした。

「私・・・ケータイって持ってないんです・・・」

 そう言って、俯いてしまった。

「だから、家の番号じゃダメですか・・・?」

「いいわよ?全然オッケーよ!」

 3人は、それぞれの番号を渡しあった。アドレスは使えないので番号だけにした。

「ありがとうございます・・・!また連絡しますね!」

 翔子が2人の番号を書いた紙を持って喜んで言った。「じゃあ・・・もうそろそろ帰りますか!」

 由美が言う。名残惜しいが、やはり時間が遅くなれば帰りが危なくなる。この辺りは街灯も少ないし道も狭いのだ。

「帰り道は、高尾までは僕達も一緒に帰れるよ?」

 圭太が言うと、翔子は嬉しそうに頷いた。

 そして、3人はあれこれ話ながら駐輪場に向かった。やはり別れたくない、もっとこの時間が続けばと思っているから、自然と足は遅くなるが、着実に駐輪場に向かっていた。

 そして、駐輪場に着いた。3台のバイクは、主の帰りを仲良く待っていた。

「よし!じゃあ安全運転で帰るわよ!!」

 そう言ってゼファーに飛び乗った由美だったが、なにかおかしいことに気付いた。圭太と翔子も異変を感じた。

「なんか・・・この匂いは・・・」

「が・・・ガソリン・・・?」

 圭太と翔子が続けた。辺りにはガソリンの匂いが漂っていた。そして・・・

「あ!サンゴちゃんの下!!」

 由美が指指す先は、翔子のCB350Fourだった。その下の地面には・・・

「な・・・なんか漏れてる・・・」

 地面にはガソリンがダダ漏れしていた。辺りにはガソリンの染みがあちこちに広がっていた。

「あぁ!!」

 翔子が見ると、キャブレターとガソリンコックからガソリンが漏れていた。それはもう大量に・・・。

「どどど、どうしよう・・・!?」

 翔子が泣きそうな顔でキャブレターを見る。しかし、原因は全くわからなかった。

「サンゴちゃんを買ったバイク屋さんに連絡出来ないかな?」

 圭太が言うと、フルフルと首を横に振った。

「これ・・・お母さんからもらったバイクで・・・よくわからないですぅ・・・」

 さっきまでの笑顔から一変、泣きそうな翔子を見て、由美が圭太に聞いた。

「・・・ねぇ、圭太?」

「・・・何?」

「・・・今何時?」

「・・・5時半だね」

 由美の問に、腕時計を確認して圭太が答えた。

「・・・5時って夕方よね?」

「・・・うん、世間一般的に、間違いなく夕方だね」

「・・・そうよね」

 2人は互いになにを考えているのか、すでに理解した。わからないのは翔子だけだ。

「・・・呼ぶわよ!」

「え・・・?誰を・・・?」

 由美の言葉に質問した翔子に、圭太が答えた。

「バイクの神様だよ・・・!」






 由美が電話で旭に連絡を取った。朝の二の舞にならぬように事情、車種、症状、場所を伝え、ガソリンが漏れているキャブレターの写真をケータイメールで送り、旭の返事を待つこと5分。軽トラで向かうとの連絡が来た。

「旭さん・・・!来てくれるって!!」

 由美の言葉に圭太もホッと一安心だ。

「だ、誰ですか・・・?旭さんって・・・?」

 自分のコトなのに、イマイチ状況がわからない翔子が聞くと、由美が笑いながら言った。

「さっき話した、バイク乗ってる友達!!ひとつ年上の人よ!!」

 言われて、翔子は思い出した。

「さっき高尾山で言ってた人・・・?」

「そう・・・!眠い時は機嫌が悪いけど、普段は凄く優しい人!」

 3人は、とりあえず駐輪場で待つことにした。最初は相模湖駅が近いので、3人はバイクを押して行こうと考えたが、坂道が多いのと、旭に「なるべく動かすな」と言われていた。バイクを置いて行こうかとも思ったが、夜になるとこの辺りの田舎は変な輩が多いため、駐輪場にとどまった。

「ごめんなさい・・・私のせいで、あなた達まで待たせてしまって、人まで呼んでもらって・・・」

 翔子が頭を下げて言うが、先程のような泣きそうな顔では無く、迷惑を掛けてしまったと言う申し訳なさそうな顔をしている。

「まぁ、お礼は旭さんに言って!私達は呼んだだけだしね、あなたが気にするコトじゃないわよ!」

「そうだよ、旧車にトラブルは付き物だし・・・しょうがないよ」

 由美と圭太が、落ち込む翔子に言った。

 圭太が言うように、旧車にトラブルは付き物で、それこそトラブルを起こさないコトの方が難しいのだ。

「あと1時間半は待つわね〜、なにする?」

 由美の提案に、2人は悩んだ。1時間以上もの間、何もせずただつっ立っているのも厳しい。

「そう言えば、もし旭さんが来ても、この場で修理出来なかったらどうするの?旭さんに預けて、翔子ちゃん大丈夫?」

 圭太が翔子に訊ねた。もしこの場で修理出来なかったら・・・可能性は十分にある。

「そしたら、今日はウチに泊まりなさい!今日せっかく会ったんだから、やっぱりこのまま帰るのは勿体ないわ!後圭太も!!」

「え・・・でも・・・」

 由美の提案に、翔子はあたふたとする。仮にバイクが治らず、旭が軽トラで持って帰って修理することになったとしても、相模湖駅から高尾駅までは電車一本。そのまま帰った方が早いし、なにより、今日知り合ったばかりの由美に迷惑を掛けたくないという気持ちが大きいのだ。

「め・・・迷惑じゃ、ないですか・・・?」

 翔子が言うと、由美は得意の(?)「ナニをバカなコトを」という顔をして、翔子の肩に抱きついた。

「気にしなくてもいいわよ?私は全然迷惑じゃないからね!」

 そう言って由美は翔子のほっぺたをプニプニと突いた。

「あ、じゃあ一応家の確認してみるわ!」

 由美はケータイを取り出して家に電話した。

「あ、もしもしお母さん?今日友達が泊まるかも知れないんだけど・・・。え!?タカの友達が来てる!?うん・・・うんうん・・・そっかぁ・・・わかったぁ」

 ケータイの通話を切って、由美が残念そうに翔子を見た。

「ゴメンね・・・弟の友達が泊まってるみたいで・・・家狭いからダメみたい。圭太の家は・・・?」

 ダメだったらしい。そしていきなり話を圭太に振った。

「難しいかなぁ・・・お姉ちゃんがいるし・・・」

 圭太が難色を示す。

「あぁ、茶子姉ぇかぁ・・・今は何にハマってるの?」

「雑誌やテレビの懸賞。はぁ・・・」

 圭太がため息をついた。茶子は最近、学校に行く以外はほとんど懸賞ハガキを書いている。近い将来、『リアルなすび』としてテレビにインタビューされる日も近いかもしれない。そんな勢いに、圭太は少し呆れてしまっているが、茶子の意味不明な行動は昔からで慣れているし、またすぐに飽きるだろうと思っている。

「じゃあ・・・ダメだったら旭さん家に泊めてもらおう!もちろん、私達もね!」

 由美が図々しすぎる提案をする。確かに旭は1人暮らしだ。しかし、旭にももちろん用事がある。旭が由美達3人を泊めるのがOKかは、本人が来ないかぎりわからない。

「あ、あのぉ〜・・・すみません・・・迷惑掛けてしまって・・・」

 自分のコトなのに、すっかり置いてけぼりにされていた翔子がポツリと口を開いた。




 先のコトは先になってみなければわからない。そんなわけで3人は雑談に華を咲かせることにした。

「じゃあ、由美ちゃんと圭太君は幼なじみなんですね?」

 翔子が心底羨ましいといった顔で圭太を見る。それはもう、欲しいおもちゃを友達が持っているのを見る子供のような目だ。

「えぇ、圭太が幼稚園の時からの付き合いよ!それから小学校も中学校も、高校までずーっと一緒なのよ!」

 由美が胸を張って言う。そんな由美を見て、翔子は「いいなぁ・・・」と呟いた。

「私、小学校の時に横浜から高尾に来たから・・・幼なじみや友達はみんな横浜にいるんです・・・いいなぁ・・・」

 翔子が昔を思い出すように遠くを見る。昔遊んだ友達達は今なにをしているのだろうか・・・?そんなことを考えていた。

「じゃあ、今度横浜までツーリング行こうよ!国道から行けばすぐに着く距離だし!」

 圭太の提案に、由美と翔子は首を縦に振った。今まで山の方にしか行っていなかったこともあり、3人は翔子のバイクが治ったら、次旭達も誘って横浜まで行こうと約束した。


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