第8章 高尾ツーリング!新たな出会い!
今回から新キャラ登場です。宜しくお願いします。
あれから1週間。
旭の背中の傷は縫うこともなく、かさぶたが小さくなり完治も近くなってきた頃、由美の頼んでいたフロントフェンダーも塗装が終わった為、今日は旭の家にてフロントフェンダーを付け替えた。
「か・・・カッコいい・・・!」
そう言って、由美は自分の愛車、ゼファー400改FXを見て感動していた。たかだかフロントフェンダー一つで、バイクの見た目も全然違う風に見えた。
「まぁ、アクセントには良い効果だろ?」
旭もその塗装の出来映えを見て満足する。ソリッドの赤は、シワも垂れもムラも無く光り輝いている。
「もう最高!旭さんありがとう!!」
由美が抱きつかんばかりに喜ぶ。
「落ち着けよ、オレは付けただけだべ?礼なら塗ってくれたオレんダチに言えよな?」
旭が由美をなだめながら続けた。
「板金屋の息子でよ、塗装と溶接の腕はピカイチなんだよなぁ」
そう言って改めてフロントフェンダーを見る。やはり色は全くズレはない神業的な調合だ。
「まぁ、アイツは最近仕事忙しいみたいだからな・・・今度俺から礼言っとくわ」
「ありがとうございます!」
由美が元気良く頭を下げた。
「じゃあ俺はこれからちょいと寝るわ。昨日全然寝てなくてな、夕方になったら起きるから、なんかあったら夕方連絡くれ」
「ハイ!!」
旭が自室に戻り、由美はもう一度フロントフェンダーを見つめてから、張り切りながらゼファー改に跨がる。
「乗ったら見えないけど、最高の気分ね!よし、今から走りにいこう!!」
1人張り切ってキーを差してエンジンを始動させようとした時。
「ねぇ、由美〜」
「うわっ!?圭太!いたの!?」
「そっちが呼んだんじゃんかぁ、酷いなぁ・・・」
圭太がFXの前でイジけていたので、由美が急いで機嫌を取り直す。
実は今日の朝、まだまだ夢の中にいた圭太を朝からケータイに鬼電して叩き起こし、「今日フロントフェンダー出来たって!付けてもらいついでに走りにいこう!!」と言って、半ば強制的に拉致してここまで付き合わせたのに、どうやらすっかり忘れていたらしい。
「ご、ゴメン!テンション上がったら、すっかり忘れちゃってた・・・!」
「まぁ、別にいいけどさぁ・・・」
なんとか機嫌を直した圭太も、バイクに跨がる。
「で?どこまで行くのさ?」
今日は土曜日月末、来月に入ればゴールデンウィークでどこに行っても渋滞が起こりはじめる。その前に道の空いているウチにどこかに行こうと言うらしい。
「2人で行くなら、また宮瀬ダム?」
圭太が聞くと、由美が「ノンノン」と言いながら指を振った。
「せっかくなんだから、今日は高尾の山まで行きましょう?麓にある蕎麦屋に行ってお蕎麦食べに行きましょう!!」
由美の提案に、圭太は考えた。
(まぁ、高尾なら街道一本道だし、そんなに距離も無いし・・・まぁ、安全かな・・・?)
「まぁ、高尾位ならいいんじゃない?」
「よし!決まり!!」
由美がエンジンを掛けた。
消音器を抜いた手曲げタイプのマフラーから低い爆音が轟く。エンジンを軽く吹かすとちゃんとタコメーターに反応してツキがいい。
「よぉし!出っぱつだ!!」
由美が旭の掛け声を真似して、バイクを半クラッチで発進させて駐車場を後にした。
街道に出てしばらく直進、すれ違うライダーがこちらを物珍しく見ていく。それは初めて圭太がFXに乗った時のあの威嚇するような目では無く、憧れのような眼差しだ。
少しいい気分で神奈川と東京の境に差し掛かったところで、なんの前触れも無しに絶好調だった由美のゼファーのエンジンが急に止まった。
圭太も驚いて一度バイクを歩道に寄せて、通行の邪魔にならないようにして停めて由美の元に走った。
「どーしたの?まさか壊れた・・・?」
圭太が聞くと、混乱した由美が愛車の前でおろおろしていた。
「急にプスンッて言って止まっちゃって・・・!あんなに調子よかったのに・・・!」
かなり狼狽している。確かに絶好調だった愛車がいきなり止まったら、そりゃ慌てもするだろう。素人だったらなおさらだ。
「とりあえず旭さんに連絡取ってみよう?そうすればなんとかなるかも!」
圭太の提案に、由美は「そ、そうね!け、ケータイ!!」と言ってポケットからケータイを取り出した。2人は、『バイクで何かあっても旭ならなんとかしてくれる』と本気で思っている。旭からしたらはた迷惑な話である。
『よぉ・・・どーした?』
旭が電話に出た。スピーカーモードにしているので、旭の声は圭太にも届く。
「あ、もしもし!寝ているところ申し訳ないです!!私のゼファーちゃんがいきなり止まっちゃったんです!!」
由美が早口で捲りたてると、
『マジか、今どこだ?』
旭は冷静に返してきた。やはりバイクの味方だと2人は思った。
「街道にいます!橋中の駅の入り口近くです!」
由美がそう言うと、スピーカーからガサゴソ音が聞こえた。どうやら布団に潜っていたらしい。
「わかった。今から行くから動くなよ?」
「すみません!ありがとうございます!!」
旭の言葉に、由美は電話なのに頭まで下げて言った。
それから20分くらいしてから、旭が到着した。いつものグラサンを胸ポケットにしまって緑色のツナギを着ている旭と、リアシートに工具箱を括り付けたサンパチが、由美には神様と天使に見えた。
「で?どーやって止まったんだ?」
目の下にクマのある神様が聞く。
「走ってたらいきなりプスンッて!そしたら止まっちゃって・・・!」
由美が言うと、旭が静かに「そうか・・・」と言ってバイクを揺らした。
「まさか・・・?もう治らないですか!?」
由美が泣きそうな顔で旭に聞くと、旭がまたまた静かな声で言った。
「いいか由美ちゃん・・・?落ち着いて聞けよ?」
“ごくり”と生唾を飲み込み、神様の次の言葉を待つ。由美はかなり長い時間のように感じていたが、時間にしたら数秒である。そして・・・
「こりゃガス欠だ!!」
「へ・・・?」
旭が怒鳴ると、由美はひどくアホな子供みたいな声を出した。
「タンクん中見てみろ!ガス入ってんか!?」
言われた通り、タンクの中をのぞくと、ガスは一滴も無かった。振ってもなんにも音はしない。
「由美ちゃん!バイクが止まったら最低限のコトは自分で確認しろ!!ガス欠なんかすぐにわかることだろーが!?あ!?」
神様が悪魔になった。
「す、すみません〜!!」
由美が深々と頭を下げて謝るが、旭の怒りはとどまることを知らない。
「だいたいなぁ・・・?こっちは仕事で昨日、今日と一睡もしてなくて眠いんだよ!!それがなんだ!?単車止まったっつーから来てみたらガス欠!?ナメんのも大概にしとけよコラァ!!ツナギ着て工具まで積んできた俺がバカみてぇじゃねぇか!!」
あまりの眠さに怒り爆発の旭に、怒られていないのに圭太までもが通行人の目も気にせず見事な土下座をした。
この後、5分くらい延々と説教されて、旭は目が覚めたのか冷静になって辺りを見回すと、2人が土下座して、行き交う通行人がみんな見て見ぬ振りをして歩いていくコトに気付いた。
「あ、スマン・・・つい怒鳴っちまった・・・」
今度は旭が頭を下げると、由美が「と、とんでもないです・・・!」と若干ビビリながら旭に言った。
「どうもオレって眠いと機嫌が悪くなるみたいで・・・もう怒ってねーからさ、許しくれや」
旭が言うと、由美も、
「こっちこそすみませんでした・・・」
と言ってお互いに握手して、旭は去っていった。
残された2人は・・・
「ねぇ圭太・・・?」
「何?」
「この辺り・・・ガソリンスタンドあったっけ・・・?」
「あと2キロはあるんじゃない?」
圭太の言葉に、由美が愕然とした。
「に、2キロ・・・!」
「ま、僕も付き合うから一緒にバイク押していこう」
そうして2人は、2キロ先までそれぞれのバイクを押して歩いた。もちろん、歩道の通行人には邪魔臭そうな目で見られたが、これは仕方のないコトだと諦めた。蕎麦屋への道はまだまだ遠い・・・
「いらっしゃいませ〜!!」
「はぁはぁ・・・が、ガソリン・・・レギュラー・・・2台とも満タンで・・・」
30分間、バイクを引きずりながら歩き続けた由美は、もうめちゃくちゃ疲れ切っていた。
「はい、満タンですね!?レギュラー満タン入りま〜す!!」
元気良く叫んだ後、カラになったタンクをガソリンで潤しながら、若い店員が由美と圭太のバイクを興味津々に見ていた。
「お客さん、珍しいバイク乗ってますね?」
「でしょ?なかなかカッコいいでしょ?」
由美は歩きながら買ったカルピスを飲んで一息ついてから答えた。
「FXが2台なんて珍しいしカッコいいし、憧れますね〜」
店員は、どうやら由美のバイクをFXだと思っているらしい。ガソリンを入れ終わり、給油ノズルから垂れるガソリンをタンクに落とさないようにしてタンクから引き抜いてから店員がまじまじと見つめている。
由美はガソリン代を渡して、お釣りをもらってから満足気にうなずいてガソリンスタンドを後にした。
「やっぱりゼファーとは分からないみたいね!!」
そう言って走りながら圭太に叫ぶ。
「まぁ、やっぱり分かりにくいよ」
圭太も同意した。
改めて見ると、パッと見は全然分からない。フレームさえ見なければ「足周りを徹底的に強化したFX」にしか見えない。
「よーし!!満タンになったコトだし!急いで高尾山行くわよ〜!!」
2人は、少しスピードを上げ、しばらくして東京に入った。
東京と言えば都会なイメージだが、ここは神奈川と山梨に近いので、辺りはこざっぱりしていて、空気も良い。このまま真っ直ぐ進み甲州街道に入ると、本当に東京なのかと思ってしまうほどに何もない。
そうこうして、街道の終点である高尾に着いた。ここからまた高尾山を目指す。2台のバイクは軽快に道を行き、途中何事も無く高尾山にたどり着いた。
「あ〜!疲れた〜!!」
山の麓の駐輪場にゼファーを停めて、由美が大きく伸びをした。山の空気も新鮮で透き通っている。
「いや〜、良い汗かいたわ〜・・・」
そう言って辺りを見回す。休日と言うこともあってか、高尾山口駅や麓のケーブルカー乗り場は人が多いが、駐輪場や駐車場にはそれほどの台数はいない。やはり山に行くときは電車で来たほうが楽なのだ。
「僕ここに来たの小学校の遠足以来だなぁ・・・全然変わってないね」
圭太は小学校の遠足の時のコトを思い出す。駅も山の麓の賑わいも、あの時のままだ。ここにはまだ自然が残されている。
「私もそうだなぁ〜・・・そう言えば・・・あの時圭太、登ってる途中に転んで泣いたわよね?」
ケラケラ笑いながら由美が言うと、圭太も反撃した。
「そういう由美だって!お弁当忘れて僕のお弁当半分食べてたじゃないか!」
圭太が言うと由美は、ギクッ、となった。
「あ、あれは・・・!そう!ワザとよ!ワザと!!」
アハハハとごまかし笑いをする由美を見て圭太はため息を付いた。なんて嘘が苦手なんだろうか。
それからすぐ、2人はバイクにハンドルロックとU字ロックを掛けてから駐輪場を後にした。U字ロックは、旭に「余所に行ってパクられたら洒落にもなんねーから、絶対買っといた方がいいぞ」と言われて最近買った物だ。因みに2人で同じ物で、圭太が青、由美は赤だ。
ケーブルカー乗り場の目の前にあるお土産屋などの並ぶ場所に、某ドラマでも使われたそば屋がある。
昼食がてら、2人はそこに入ってからこの後どうするかを相談するコトにした。「とりあえず、まだ結構時間には余裕があるし山に登ってみる?」
圭太が山菜そばを食べながら由美に聞くと、月見そばを食べながら、月見そばの卵をいつ割るかのタイミングを見極めていた由美がうなりながら答えた。
「そうねぇ、まだ時間あるしケーブルカー使って途中まで行って、時間があればその後で一番上まで行くのもアリね・・・それにしても美味しいわね!」
そう言って待ちに待った卵を割った。
「あと、ここらなら相模湖が近いよ?」
店に置いてあったこの辺りの観光名所マップを見ながら圭太の提案したのは、山を2つ越えた場所にある相模湖である。
信号も少なく景色も良く、ツーリングするには絶好の場所である。
「相模湖かぁ・・・それいいわね、行きましょう!」
こうして、由美と圭太はそれぞれ蕎麦を食べおわり、店を後にして、2人はそのまま真っ直ぐケーブルカー乗り場に向かった。
ケーブルカーは開けた森の中を芋虫みたいに登っていく。床は坂にあわせて斜めになっており、ケーブルカー車内の高低差はかなりある。
ケーブルカーは山の中腹が終点でそこから先は徒歩になる。2人は終点で降りてそこから周りの山々を見渡せる場所から遠くを見た。
「うーん・・・私達のバイク、ここからじゃ見えないわね・・・」
由美が下を覗きながらうなる。もしここから見えたら、それは多分焼け野原で周りが何もないか、標高50メートルくらいしかない丘である。
「そういえばまだ1時だし、上行く?」
圭太が腕時計を確認して、まだ十分すぎるくらい時間に余裕があるコトを由美に告げる。
「そうねぇ・・・ここからなら40分くらいで着くはずよね・・・?」
由美がケーブルカー乗り場の地図で頂上までの距離を見て唸る。なかなかしんどい距離だ。
「あ、でもここと頂上の間になんか寺があるみたいだよ?」
圭太の言葉に由美が地図を見直す。なるほど、確かになにかあるみたいだ。
「本当だ!よし!とりあえずここまで行きましょう!」
こうして、由美達は少し登るコトにした。途中、2人は土産屋でソフトクリームを買って食べながら歩いた。暖かい日射しを受け、山を登りながら食べるソフトクリームはもの凄く美味しかった。
しばらく歩くと、地面が砂利道から石畳になってきた。そして、結構急な階段を登り、大きな木製の門をくぐり抜け、高尾山『薬王院』にたどり着いた。
薬王院は、聖武天皇が744年に勅命して開山した歴史のある寺院で、薬師如来が安直されたことから薬王院と呼ばれ、東京都指定有形文化財に指定されている。
ここからは坂道と言うより階段がメインになってくる。2人はこの薬王院の見所でもある本尊、飯縄権現でひと休みしながら、その社を見て遥か昔の時代から残るこの建物を見ていた。
「やっぱり、こういう和の文化ってすごいよね。昔遠足で来た時はわからなかったけど、今ならわかる気がする」
圭太が赤い社を見ながら言うと、由美もケータイで写真を取りながら頷く。
「やっぱり日本人でよかったなぁ、って思える数少ない機会よね」
遠くで外国の旅行客達が社や周りの自然をカメラに収めていた。高尾山は東京駅から電車で一本で行ける為、こういった外国から来た人も気軽に来れる観光スポットとしても知られている。
すると、白人のおじさん観光客がこちらにポラロイドカメラを由美達に向けた。
「あ、撮ってくれるって!」
由美が言うと、圭太も恥ずかしがりながらもカメラの方を向いた。
そして二回シャッターが押されて、フラッシュが光った。しばらく待つと、写真が出来上がった。由美が圭太の肩に手を回してピースサインを向けていた。圭太は少し顔を赤くしていた。
「コレ、イチマイドウゾ」
外国人観光客が片言ながら、日本語で話した。
「え!?良いんですか!?ありがとうございます!!」
由美がはしゃぎながら言う。
「アナタ達ハ、アー・・・最高ノカップルです!」
片言混じりだが十分上手な日本語でこう言った。
「サンキュー!この写真、大事にするわ!」
由美が返すと、男性も
「ワタシも、オーストラリア帰ッたら、家に飾ルヨ!アリガトウゴザイマス!!」
そう言って圭太と由美と固く握手をして、彼は家族だろうか、またグループの輪に戻っていった。
由美も、彼らをケータイでだが写真に収めてメモリーカードに記録した。
「よし!休憩おしまい!!頂上まで行きましょう!?」
由美達は、結局頂上まで行くことにした。時間はまだあるし、やはりこのまま帰るのは少し惜しい気がした。
石畳からまた砂利道になり、周りの景色を見ながら、高校での話やバイクの話などをしているうちに、あっという間に頂上にたどり着いた。
「高いわねぇ・・・」
「高いねぇ・・・」
2人は頂上から山々を見渡した。遠くにはどこかの街の高いビルが見えた。が、由美が後ろを見て叫んだ。
「あ!あの建物覚えてる!!」
由美の目線の先には、おみくじの販売所があった。
「よし、とりあえずあそこでおみくじ引きましょう!」
由美が走っていって、圭太は後からのんびり歩いてついていった。
おみくじを買って、開けてみると、圭太のおみくじは「吉」だった。勉学は好調で人間関係も良好とあるが、もしかしたら金銭面と行事で苦労すると書いてある。ラッキーカラーは黄緑色だった。
おみくじを結ぶと、由美を見た。由美はなにやらニヤニヤしながらおみくじを見つめている。
「なにしてるのさ?おみくじ結ばないの?」
圭太が言うと、由美はニヤニヤしながら圭太を見た。
「大吉だったんだけど・・・私はここには結ばないわ。他に結ぶ場所があるから」
そう言って、大事におみくじをポケットにしまった。
「よし!それじゃあ駐輪場戻りますか!相模湖まで行くわよ!?」
ハイテンションで山を下りはじめる由美を見て、圭太はなんのこっちゃと思ったが、さして気にせずに下山した。
帰り道はケーブルカーでは無く、もう少し下った場所にあるリフトで山を降りた。
2人は駐輪場について、バイクにまたがる前に圭太が飲み物を買ってくると言うので、駐輪場で待つことにした。
その間に、由美はさっきのおみくじをポケットから取出し、バイクのミラーに結んだ。
「大吉 特に恋愛運が絶好調。ラッキーカラーは赤。」
由美は小さく笑った後、急に恥ずかしくなり圭太の後を追った。
「あれ?どうしたの?」
自販機の前で、由美の分のコーラを買おうとしていた圭太が、待ってるハズの由美がこちらに来たので不思議に思って聞くと、「なんでもないよ!えへへ」と、笑いながら圭太からコーラを受け取った。
「そういえば・・・2人だけでツーリングって初めてよねぇ」
由美はコーラのプルタップを開けながら言った。その顔はものすごく嬉しそうだ。
「そういえば、ここのところいろいろあったし・・・」
圭太が呟く。確かにここ1週間、旭と美春との出来事や学校でぜんぜんバイクに乗っていなかった。
「まぁ、みんなで走るのも楽しいんだけどねぇ・・・」
コーラの空き缶をゴミ箱に投げ捨てて由美が言った。
2人が駐輪場に歩いて行くと、圭太達のバイクの前に同い年位の少女が立っていた。
「あの人・・・なにやってるのかな?」
「まさか・・・バイク泥棒じゃないでしょうね!?」
「いや、白昼堂々人の多いところじゃやらないでしょ。それに女の子だし」
圭太が言うと由美も「それもそうねぇ」と納得した。もし少女がバイク泥棒なら、あんなにのんびりバイクを眺めている余裕など無いだろう。
少女は、回り込んだり下から覗いたりしてバイクを見ている。ついにはしゃがんでまでして見ていると、少し離れて写真を撮ったりしている。
そしてまた近づいては、惚けた顔をしながらバイクを見始める。
「あのぉ〜・・・?」
びくっ!!
圭太が呼び掛けると、少女は飛び上がらんばかりに驚いた。
「す、すみません・・・!わ、私、そ、その・・・!!」
なにかすごく取り乱している。髪型は少し外に跳ねているセミロング、小さな顔は整っていて、どこか小動物系な感じの可愛い顔をしているが、その顔は今では焦燥しきっていて、「あの、その・・・」と繰り返すだけで言葉が出てこないでいる。
「いや、別に僕たち怒ってる訳じゃ無いんだけど・・・?」
圭太が言うと、少女はやっと落ち着いたのか、「よ・・・よかったぁ・・・」ととりあえず安堵した。
「あなた、もしかしてバイク好きなの?」
由美が質問すると、少女は「は、はい・・・」と緊張しながら続けた。
「す、すみませんでした・・・人のバイク勝手にじろじろ見てしまって・・・」
少女が頭を下げた。
「気にしてないわよ?むしろもっと見てほしいわ!」
由美が胸を張って言うと、少女は「い、いいんですか?」と聞いた。
「かまわないわよ?私のゼファーちゃんはカッコいいから、もっと見ていって頂戴!」
その言葉に、少女は目を輝かせながら由美に「ありがとうございます!」と言って由美のゼファーと圭太のFXを見た。
「あ〜・・・やっぱりカワサキもカッコいいですよね・・・」
惚けた顔で少女が言う。
「君もバイクに乗ってるの?」
圭太が聞くと、少女は「は、はい・・・」と静かに言った。
「昔のホンダのバイクに乗っています・・・ちょっとボロですけど、外装は毎日磨いているから綺麗です・・・」
「じゃあ今日はバイクで来たの?」
由美の質問に「はい・・・」と答えて、駅の方を指差した。
「あっちに停めてて・・・」
「あ、じゃあ見せてよ!?私達の周りにホンダに乗ってる人いないのよ!」
由美が言うと、すこし困ったような顔で少女が続けた。
「あの、その・・・あなた達のバイクみたいに綺麗じゃないんですけど・・・いいですか?」
「問題無いわよ!待ってるから早く早く!!」
由美の言葉に、急かされるように少女は走っていった。
そして数分後、駐輪場に赤い小さなバイクが入ってきた。
「お、お待たせしました・・・」
少女のバイクを見て、2人は本当に古いバイクなんだと思った。フロントフォークからライトボディまで赤く、エンジンのオイル滲みはそのバイクの古さを際立たせる。
「なんて言うバイクなの?」
由美が聞くと、少女がバイクから降りて答えた。
「CB350FОur、通称『サンゴーフォア』って言うバイクで・・・1974年に1年間しか作られなかった不人気車種なんですけど、私はこの子が大好きなんです」
初めて笑った少女の顔は、今までと違い明るく見えた。
「可愛いバイクね!あ、自己紹介が遅れたわね、私は三笠由美!由美って呼んでね?高校3年よ」
由美が自己紹介を終えると、次は圭太の番だ。
「あ、僕は中山圭太って言います。歳は由美と同い年。よろしくお願いします」
自己紹介された少女は、凄く嬉しそうにして(しかし、表情変化が貧しいためわかりにくいが)自分も答えた。
「わ、私は衣笠翔子って言います・・・た、高尾の近くに住んでいて、学校も高尾にあります・・・あと・・・私も3年生です」
少女、衣笠翔子はなんとか自己紹介を終えた。ものすごく緊張したのか、表情が硬い。
「あ、同い年じゃない!よろしくね!?」
由美が握手して、腕をブンブン振る。翔子は振られるままになっている。
「あ、あの・・・・!」
翔子が大きな声で(それでも普通の大きさ)言って、由美を見る。翔子は下を向いて、なにか小さな声で「・・・大丈夫・・・」とか「・・・言わなきゃ・・・」とか呟いて、拳をギュッと握りしめる。
そして、意を決したのかこちらを見て言葉を紡いだ。
「今日初めて会って・・・厚かましいかも知れないですけど・・・私、去年いろいろあってこっちに引っ越してきて・・・人見知りで、暗くて、すぐに上がっちゃうし・・・だから・・・高校でも友達がいなくて・・・だからバイク好きな友達が前から欲しくて・・・だから、その・・・」
顔を真っ赤にさせながら由美と圭太達に言う。顔は火を吹かんばかりに真っ赤だ。
「その・・・よかったら、お友達になってください!」
翔子は思い切り頭を下げた。由美達の答えを、まるで裁判の判決を待つ被告人のように緊張しきった顔をして待っている。
「え?なに言ってるのよ?」
由美があっけからんとした態度で言った。
(あぁ・・・やっぱり私みたいなネクラが友達なんて・・・図々しかったんだ・・・)
翔子はどんどん悪い方向に向かって考えてしまい、泣きそうになった。
「そんなコト言われなくても!私達はもう友達よ!?翔子ちゃん!!」
由美の言葉に、半泣きだった翔子は「ふぇ・・・?」と言ったあと、由美の言葉を脳内で再生し直した。
『ともだち』・・・。
そして・・・
「ふぇ・・・ぐすっ・・・あ・・・ありがとう・・・ござい・・・ましゅ・・・ひっく・・・!」
嬉しさのあまり翔子は泣き出してしまった。
急に泣き出してしまった翔子に最初こそ驚いて慌てていた由美も、すぐに笑顔になって翔子を抱き締めた。
衣笠翔子
職業 高校3年生
誕生日 10月24日(現17歳)
髪型 セミロング(少し外跳ね)
身長 157㎝
愛車 CB350Four
家族構成 父・母・兄
好きなもの CB350Four・写真・由美・母(他界)
嫌いなもの 現在の家族(母と兄)・いじめ・脂っこいもの
今回から登場する新キャラ。そのおとなしすぎる性格のせいでなかなか友達ができないでいるが、昔はもう少し明るかった。今の家族は、中学3年のころ父が再婚してできた新しい家族なのだが・・・。ここがこの章のカギになってくる。趣味はバイクと風景の写真を撮ること。