第7章 2人の出会い、結ばれる絆
今回で旭&美春編は終了です。
あとがきはあのコーナーです(笑)
現場は凄まじかった。
1人の男が、全身血まみれで倒れていて、残り2人の男が血まみれの男をかついで走って駐車場から逃げて行った。
そして去り際、こちらをさぞバケモノを見たかのような目で見ていった。
「圭太達・・・こんなコトの後で申し訳ないが・・・、コイツ運ぶの手伝ってくんねーか・・・?」
傷だらけの旭が気絶した美春を抱き締めて静かに言った。
「はい、わかりました」
圭太がうなずくと、由美も従った。
部屋の中に入り旭の布団の上に美春を寝かせる。由美は美春についた返り血を拭き、服を着替えさせた。圭太と旭は男達が落としていったスパナやナイフなど、拾って来てゴミ箱に捨てた。砂利に溜まっていた血は旭が砂を掛けて消した。
それらの作業を終えてから旭は自らの傷に包帯を巻き始めた。
背中の傷は刺されたのでは無く切り裂かれたもので、さらに傷は浅かった為、今日1日は包帯で巻いておいて明日病院に行って何針か縫えば大丈夫そうな傷であった。そして・・・
「本当にすまない・・・!」
旭は先ほどから10分以上圭太と由美に土下座をしたまま顔を上げない。
「旭さん、僕は全然大丈夫ですかから顔を上げてくださいよ!」
「そうですよ!もともと悪いのはあっちなんだから!」
圭太と由美が旭に言うが、しかし2人共なにか怯えたような顔をしていた。
「あんなもん見せちまったら、お前達がオレを嫌ってもなにも言えない。それにオレはお前達まで危険な目に合わせちまった・・・!」
旭がずっと土下座し続ける。そして、
「だからオレのコトは許さなくてもいい・・・ただ、美春だけは許してやってくれ!!頼む!!」
旭の言葉に2人は驚いた。
2人共、あの時の旭の行動にはなにも落ち度はなかったと思う。
バイクを盗みに来た奴を、出血させさないで最低限の攻撃で追い払ったのだから。
しかし、その後、旭がやられた後の美春の行動には2人共に恐怖した。
あの時、取ってきた凶器で旭を切り付けた男を横から倒して、あの残酷な笑顔で包丁を何回も何回も突き刺していた、あの血まみれの笑顔が2人の脳裏から離れないでいた。
そして、最後は包丁の先を圭太に向けていた。
これが2人を恐怖させた美春の行動である。
「なぜ、美春さんはあんなことを?」
圭太が聞くとやっと頭を上げた旭が座りながら話した。
「今日1日あいつを見ていてわかったと思うけれどあいつはオレになにかあったりするとすぐ慌てたりパニックになるだろ?後、美春は自分やオレ、仲間がヤバくなると、ああいう目をして相手を襲う時があるんだ。特にオレの時にな・・・」
「うん・・・」
由美が相づちを入れた。
「なんでああいう風になっちまったか・・・これはオレの考えだが・・・話せば長いが、聞くか?」
旭が真面目な顔で聞いてきた。もちろん2人は聞くつもりなので肯定した。
「わかった。じゃあ話すな」
そして旭が姿勢を正して話始めた。
「オレとアイツが出会ったのが1年前でよ、この先の街道を八王子方面に進んだあたりの周り山ばっかりで民家も警察もコンビニも無いような場所でな・・・オレが走ってたら夜あいつがフラッと道路に出てきたんだ。」
旭が目を細目ながら話す。その瞳は、2年前の出来事を思い出すかのような、遠くを見るような目をしていた。
「で、オレはなんとか避けて怒ったんだ・・・『お前危ねぇーぞ!死んじまうぞ』ってよ・・・そしたらアイツ、表情の無い、光の無い目をしながら無表情で涙を流してな、こう言ったんだ」
「なんで・・・なんで殺してくれなかったの?」
少女は確かにそう言った。
しかも服はあちこちが破れてボロボロで身体も傷だらけで、ただ事では無い状態だった。
フラフラした足取りで、道路を旭が来た道に歩いていく。
「おい、ちょっと待てよ!」
旭が愛車のサンパチを路肩に停めて駆け出した。この深夜になら車はこないだろうし、それどころでも無いと思った。
「なんだってそんな格好してんだお前・・・?家はどこだよ!?」
辺りを見回して周りに民家が無いことを確認した。
ここから近くの民家までは歩いて30分はかかる。しかもこんな格好で出歩いているのだから間違いなくこの辺りの人間では無いだろう。そしてなにより・・・ 「なぜ車道に飛び出した?さっきの言葉はオレに挽かれたかったってのか?」
旭が立て続けに質問する。が、少女は旭の存在など気付いていないかのように歩いていた。
「おい、ちょっと・・・」
旭が少女の肩を掴むと、少女が叫んだ。
「いやぁ!もう止めて!!これ以上私をいじめないで!もうこれ以上犯さないで!!お願いだからぁ!!」少女が叫んで旭を振り切ろうとするが、旭は離そうとしなかった。
「お願いだから!もう許して!もう許してぇ!!」
泣きながら叫ぶ少女は旭の腕に噛み付いた。
「・・・!!」
痛さに旭は手を離してしまい、少女はその隙に街灯のほとんどない暗闇の車道をひたすらに走って行った。
それを見て旭が噛まれた腕をさすりながら呟いた。
「あいつ、まさか・・・?」
思い当たる節が旭にはあった。そして、皮肉にも旭の考えは当たっていた。
この時、性的暴行事件がこの地域で多発していた。少女がその被害者であることはもう見てすぐにわかった。
「追っかけるっかねーべか」
このまま放っておくわけにもいかないし、旭はそんな冷めた性格では無い。サンパチに火を入れ、少女の後を追うために走り始めた。
「そろそろ追い付くころだべ・・・?」
時速30キロくらいで辺りを注意しながら見ていた旭はそろそろこの辺りで会えると思っていたが、まだ会えていない。ここはしばらく一本道だから曲がる場所は無いはずだ。
「ん?ありゃあ・・・」
走っていると、やっと少女を見つけた。
少女は死んだような顔をして、ガードレールに座っていた。
「おい、あんた」
旭が再び少女に話し掛けた。
「・・・」
しかし少女はなにも言わない。
「その・・・さっきはすまん、驚かせたみたいで・・・」
「・・・」
「べ、別に怪しいもんじゃないんだ、ただ少し心配でな・・・」
旭は逃げ出さない少女に安堵して隣に腰掛けた。
「オレは霧島旭ってんだ!あんたは?」
旭が努めて明るく言う。あまり女と話すことは無い。後輩のター坊なんかはナンパばかりしているが・・・
「・・・」
少女はその質問にも沈黙したままだ。
困った旭はなにか無いかと思考を巡らすと、目の前になぜか自販機があるのを見つけた。
「ちっと待ってな?」
そう言って旭は自販機に駆けていった。
ポケットから小銭を数枚取出し、小銭を入れた。
(あの娘、なに飲めんのかな?)
迷った末、春とはいえ夜は寒いと思いホットカフェオレと自分のコーヒーを買って戻る。
「お待たせ」
そう言って少女にホットカフェオレを渡す。
少女はこちらを光の無い目で見ているが、なかなか受け取らなかったので旭は缶のプルタップを開けて無理やり掴ませた。
「・・・あったかい」
少女が久しぶりに言葉を発してくれた。どうやらさっきとは違い、会話が出来そうだ。
「甘くて美味いから飲んでみな?」
少女は缶を両手で持ちながら少しずつ少しずつ飲んでいった。
「・・・美味しい」
無表情だが、そう言ってくれたことに旭が安堵する。
「腹、減ってないか?」
旭が聞くが、少女は黙ってしまった。その変わり・・・
ぐーっ・・・
少女のお腹からそんな音が鳴って、旭は笑ってしまった。
「はっはっは、素直でよろしい!」
そういって頭を撫でた。
さっきみたいに拒否反応を起こされたらどうしようかとも思ったが、少女はカフェオレに夢中らしい。
「確かここに・・・あった!」
旭がジャケットからどこにしまっていたのか、カレーパンを一つ取り出した。
「これ、半分つしようぜ?」
そう言ってカレーパンを半分にして少女に渡すと、少女は受け取って小さな口でかじった。すると・・・
「・・・!」
すごい勢いで食べ始めた。旭が唖然となって見ていて、気付いたら全て平らげてしまっていた。
そして
「な、なんか狙われてるー!?」
旭の持つカレーパンを、ものすごく欲しそうな目で見ている少女はまるで子犬の様だった。
「うぅ、わかったよあげるからそんな目で見るなよ」
そう言って渡すとまた食べ始め、あっと言う間に完食した。
「美味しかった・・・ありがと・・・」
珍しく向こうから話し掛けてくれた。
「別にいいよ」
「・・・私、カレーパンがこんなに美味しい物だったなんて知らなかった。」
少女は気のせいか、少し笑顔を取り戻したような気がした。
「おう!カレーパンは最高だぜ!?カレーバンザイ!!」
嬉しくなって旭がはしゃいだ。周りからは『カレー星人』と呼ばれるほどのカレー好きの旭が、これを言われて喜ばないハズが無い。
「ありがと・・・やさしくしてくれて・・・」
少女はまた下を向いてしまった。
「はは、ところで名前と歳は?」
旭が聞くと少女は答えた。
「みはる・・・真田美春・・・歳は16・・・高校2年です・・・」
「お、なんだよ!タメ歳じゃんか!!」
旭がはしゃぐが、少女、美春は頭が?になった。
「タメ歳・・・?」
「あぁ、同い年ってことさ!」
そして、旭は本題に入る前に美春に話しを聞いた。
「なあ、なぜさっきは急に逃げ出したんだ?」
少し温くなったコーヒーを飲みながら旭が聞いた。
「逃げる・・・?」
しかし美春は全然知らないみたいなコトを言っている。さっき逃げ出したことも含めていろいろ質問していくと、由美が話始めた。
「私・・・ここ数日の記憶が曖昧なの。さっきも・・・気付いたら、なぜかココにいて、服を見たらボロボロで身体はあちこち痛くて・・・」
そう言って美春は、うつむいたままで続けた。
「だから・・・あなたから逃げ出したっていうのも・・・私、全然覚えていない・・・ごめんなさい・・・私、どうしちゃったのかな・・・・」
話を聞いて旭は、怒りに任せて固いスチール缶をクシャクシャに握り潰した。
彼女の状態とさっきの叫びからして彼女が性的暴行事件の被害者であることは確定した。
恐らく、あまりの恐怖に記憶が失われているのだろう。
しかし、さっきまでは事件の時のコトをはっきり覚えていた。ということはさっきまで犯人と居たのだろうか・・・
あまり出来の良くない頭でしばらく考えていると、一台の車が旭が戻ってきた道から走ってきた。
一瞬警察だったら面倒だと思ったが、音を聞いて違うと思った。多分、小排気量の車に砲弾型のマフラーかなにかを付けた感じの音だ。
ゴボゴボゴボっ!
車が近くまで来ると、読みどおり、マフラーを変えただけの普通のミニバンだった。
しかし、その音と車を見て、美春の様子が明らかに変わった。
カンっ!コロコロ・・・
缶を取り落とした美春を見て旭が反応した。
(様子が変わった・・・!?)
車が目の前に止まった。
「美春ちゃん、こんなところに居たのかい?探しちゃったよ〜」
出てきたのは太った、いかにも鈍そうで陰湿そうな男だった。年齢は多分若くても30代くらいで、髪はすでに薄く、黒い縁のメガネを掛けている。
「あんた・・・美春の家族かなんかか?」
旭が容赦なく睨み付けて聞く。
(コイツぁ怪しすぎんぜ?)
「はい、美春が世話になってます」
男が頭を下げた。
「あんたはコイツのなんなんだ?まさか兄貴・・・ってわけじゃあ無いよな?」
「は、はい、美春ちゃんは僕の従妹なんですよ」
そう言う男を見て旭がフンっと鼻をならした。
美春を見ると、まるでこの世の終わりのような顔をして震えている。
男は後ろのドアを開けて美春に言った。
「さぁ・・・早く乗りなよ?家に帰らないとみんな心配するよ?」
男が美春を引っ張るが、美春は動かない。それどころか、後ろに下がっている。
「おい、あんた。この娘の従兄なんだろ?なんか証明できるもん出せ」
旭が美春の肩を掴む腕を放して、挑発するように言う。
「・・・なんでですか?」
男が聞き返す。しかし、旭に譲る気は毛頭無い。
「いやぁ、最近物騒じゃん?この辺も暴行事件やらなんやら起きてるから確認しねーとよ?・・・出来ないならこの娘はオレが交番まで連れていく。あんたは後ろから付いてくればいいさ」
こうすれば、仮にコイツが従兄ならここでなにか証明出来る物を出すだろうし、なければこのまま殴って警察にしょっ引くことができる。
「あぁ、わかりました。少し待ってください。」
そう言って運転席のドアを開けてなにやら探し始めた。
本当の従兄なのかも知れない・・・と油断していた旭に男が話し掛けてきた。
「こんな物しかありませんが・・・」
そういって出したのは、あろうことか・・・美春の服の破れた切れ端と一枚の写真だった。写真には、死んだ目で犯されている・・・美春の姿が映されていた。
旭は一気に頭がカァッとなった。自分の血管がブチ切れる音を聞いた気がした。
(今すぐぶち殺す!!)
本能でそう思い、相手の顔面目がけて鉄拳を加えようと接近した。
しかし、男は左手から隠し持っていたスプレーを出してこちらに向けた。
旭が気付いた時にはすでにスプレーは噴射されていた。
「ぐあっ!!?」
目を潰され、一気に周りが見えなくなる。
かろうじて生きていた右目をうっすら開けると、男が美春を後部座席に押し込んでいた。
「やだぁ!助けて・・・!ひっく・・・!いやぁ!」
美春を押し込めると、男は急いで車に乗り込み車を走らせた。
「逃がしゃしねーぞ!この野郎!!」
旭は復活した目を見開きサンパチに火を入れ、猛スピードで追い掛けた。
車にはすぐに追い付いた。後ろからバンバン煽る。もちろん、スピードは上げなかった。事故を起こしたら美春にもケガが及ぶからだ。
「ここからでもよくわかる、美春のヤツ暴れてやがるなぁ」
車の後部座席で暴れている美春の影を見て少し安堵する。しかしその後、男が美春を殴った。 美春の影は倒れて、起き上がって来ない。
「ンの野郎!!!!」
スピードを上げて車に並ぶ。
助手席方向に並び、ドアを蹴りまくる。
幅を寄せられたら次は回り込んで反対車線から蹴りを入れた。
「止まりやがれコラ!!」
旭が叫ぶが車は一向に止まらない。 さらに2台は山に突入した。
峠道に入りしばらくして、突然車からエンジン音が消え、車が止まった。
とりあえず油断せずに、車から少し距離を置いた場所で単車を停める。
運転席を見るとどうやらガス欠になったみたいだ。
「あれ!?くそ!!なんでかからないんだ!?」
ハァハァいいながら男が運転席で焦っている。
確かに車のセルは回っているがかかる気配は無い。
しかし、さっきのスプレーがあるため油断せずにヘルメットにサングラスを被ったまま旭は車に近づき、運転席のドアを開けようと手を掛けたが、開かなかった。
「無駄な抵抗しやがって」
そう言って次に穿いている安全靴で窓ガラスに蹴りを入れた。
ガラスは簡単に割れて、男が悲鳴をあげながら顔をふさいでいた。
「おい」
割れたガラスに手を突っ込み、男の少ない髪の毛を掴めるだけ掴んで外に引っ張りだす。残っていたガラスがいくつか割れて男の顔に突き刺さり血が出ている。
「わ、わ、わ、す、すみませんでした!!美春ちゃんは返すから許してください!!」
泣きながら謝る男を見て旭は男に唾を吐いた。
「なにやってんだオメー・・・?今すぐ死ぬか・・・?」
と脅した。その顔はヘルメットとサングラスのせいでわかりにくいが、鬼のような顔をしていた。
「す、すみません!もうこれからはなにもしませんから許してください!!」
「そーか、なら早く美春を解放しろ」
そう言うと、男は「は、ハイ!」といいながら車のドアを開けた、その瞬間。
「ぎゃあああああああ!!」
男が断末魔の叫びを上げた。
見ると旭が男の右腕を踏み潰していた。そして先ほどのスプレーが手からこぼれ落ちる。
男はドアを開けてすぐに反撃しようとしていたのだ。
「バカかテメー?んなセコいワザがいつまでも通じると思ってんのか?あ?」
そう言って、旭は男を車から引きずりだした。
数発殴り、男が泣き始めたあたりで、男を捨てて美春のコトを見た。
「けっ、まだ寝てやがる」
口に薄らと笑みを浮かべながら旭が呟いた。
美春は泣きながら気絶か、あるいは寝てしまっていた。
「まぁ、こいつぶっ殺したら起こすからよ、それまでの辛抱な」
そう言いながら男に向き帰ると、男が手にジッポライターを持っていた。
「テメー・・・?なにする気だ・・・?」
旭がヘルメットを脱いだ。向こうがなにか変なコトをしたらコイツをぶん投げるためだ。
「くそっ!なんでだ!なんでおまえみたいな不良に僕の楽しみを邪魔されなければならないんだ!!?」
男が咆哮した。目は血走り、車を蹴とばしながら叫ぶ。
「くそっ!くそっ!くそっ!なんでだ!?なんで停まったんだ!?」
そういいながら車を蹴り続けている。
旭はしばらく見ていたが、そろそろ処刑の時間だと思い、男に近づこうとした。その時、
「ほ、本当にガス欠なのか!?まだガソリンあるんじゃないのか!?えぇ!?」
言いながら男はガソリン給油口を蹴り続け、蓋を壊した。
「そーだ・・・!本当にガソリンがないのか確かめればいいじゃないか・・・!」
そう言って男はキャップを外し始めた。
そして、細いジッポに火を付けた瞬間、旭はナニをするのかがわかった。そして恐怖した。
「や、止めろテメー!!!」
男にタックルを仕掛けたが、時すでに遅く、ジッポは火が付いたままガソリンタンクに吸い込まれた。
瞬間・・・
ばぁぁぁん!!!
車が炎上しはじめた。ガスが少なかったため、激しく爆発したわけではないが、これでは全焼は免れない。
「て、テメー!!!」
旭が急いで後部座席にいる美春を助けるためドアノブに手を掛ける。
「っ・・・!?」
しかし、ドアはカギが閉まっている上にものすごく熱くなっていた。
「なんだ!?まだガソリンあるじゃないか!?」
男が狂ったように・・・いや、すでに狂いながら燃え盛る車に向かって蹴りを入れていた。
「このヤロッ!!!」
旭は燃える車のガラスを安全靴で蹴破り、中に侵入した。しかし狭い窓から侵入したために顔や手を切り、出血してしまった。サングラスも、燃える車内で落としてしまった。
前のガラスが割れていたおかげで車内で炎が爆発することはなかったが、かなり火の回りが早い。
「美春!おい!!」
狭い後部座席で横たわる美春に旭が叫ぶ。
「・・・あなたは?」
美春が目を覚ました。
目の前には血を流している旭が居た。
しかし、今の美春は旭のことを覚えていない。恐らく、男に犯されていた時の拒否反応から生まれた“自分を守るため”に作られたもう1人の自分だ。最初旭を拒否したのも、記憶が無いのもこのせいだ。
「美春!今は時間が無い!逃げるぞ!!」
旭が抱き起こそうとする。しかし、美春は暴れだした。
「いや!やめて!!もういじめないでぇ!!」
暴れる美春に旭が叫んだ。
「バカ!もうお前をいじめるヤツはここにはいない!!これからはなにかあったらオレが守る!!だからオレを信じろ!!」
そう言って美春を抱き抱えた。
すでに車内温度は60度を超えていた。
もうろうとする意識の中、美春は最後の言葉を聞いて、意識の途絶える瞬間に思った。
『この人なら、私を守ってくれる。だから、私はこの人に何かあったら全力でそれを助けよう。』
これは旭も知らない話。
そして、もう1人の自分の中に隠された、本人も知らない記憶。
『この人が誰かにケガさせられたり苦しむことがあったら・・・』
途絶えゆく意識の中で、美春は視界も霞む炎の中、自分を抱いてくれている彼の熱くなってきた体温を感じながら
『私はその誰かを必ず壊す・・・』
そこで美春は意識が途絶えた。
これが後に出てくる美春の中の『もう1人の自分』である。
旭は狭い車内で炎と煙から美春を守ったが、自らも窮地に立っている状況に変わりは無い。
「ちくしょう!どっちから出るんだ!?」
炎と煙が視界を遮る世界で、旭はなんとか脱出の方法を考えた。そして、
「こっちか!!!」
ドアを蹴破り、一気に外に飛び出た。
美春を地面において、自分も燃えている服を脱ぎ捨てた。
「あ〜、ちくしょう・・・無茶しすぎたか・・・」
火傷したところを見て旭が呟いた。腕や背中は特に酷く、水ぶくれになっていた。しかし、腹は美春を抱えていたので火傷はなかった。美春を守っていた腕や背中、その他の部分はかなりひどい火傷を負っている。
「美春は・・・火傷しなかったかな・・・?」
そこまで考えて意識が途絶えた。
その後、燃え上がる炎を見て地元の消防が消し止めに来て、旭と美春は保護された。
そして、あの男は燃え続ける車をひたすら蹴っていて、消防と一緒に来た警察に取り押さえられた。
後に過去の被害者などの取り調べや旭の証言で逮捕された。ちなみに美春は記憶が綺麗に無くなっているのか覚えていなかった。
数日後・・・
「入院生活は暇じゃあ〜!!」 、
旭はベッドの上で1人叫んだ。自慢のリーゼントは下ろされている。ちなみにこの頃の旭はまだパーマが掛かっていなかった為、真っ直ぐな髪の毛を下ろし、サングラスを掛けていない旭の姿は年相応の、可愛げのある少年に見えた。
旭は背中と腕、その他に多数火傷を負い全治3週間入院、今日でまだ3日目だ。
「あ〜、ちくしょう・・・動くとヒリヒリして痛い・・・」
1人個室の部屋で愚痴る。なぜ旭が病院の個室という料金の高い部屋に居るかというと、事件の後で美春の両親が感謝して入院費を少し負担してくれているお陰でこの個室を使わせてもらっているのだ。
そして・・・・
コンコン
ドアがノックされ、旭は「どーぞー」と言った。
すると・・・
「き、霧島・・・君・・・?入ってもいいかな・・・?」
そこには、点滴を付けて、所々包帯を巻いた痛々し姿の美春が立っていた。
彼女は車の中で旭に助けられたことは覚えてなく、旭の証言でわかったのだ。
ちなみに彼女は全治1週間程度の背中や腕の火傷で済んだが、それでも旭と同じく入院していて、今は旭の隣の個室にて療養中だ。
「おう、入ってよ。毎日来てくれてありがとな?」
旭が首だけ動かして言った。
「私はまだ歩けるし、き、霧島君のお陰で助かったんだもん!それは毎日だって来ちゃうよ!」
美春は、あの忌まわしい出来事の前の性格に戻っていた。
旭は美春のあまりの明るさと、可愛い笑顔に驚いたものだった。
「よぅ、まだあの時のことは思い出せないのか・・・?」
旭が聞いたら美春は「んー・・・」と唸った。
「全く覚えてないの・・・でも最近一つ思い出したよ!!」
美春の言葉に旭が勢い良く食い付いた。
「ほ、本当か!?」
火傷で痛む身体を起こしながら食い付く旭に、美春は右腕人差し指を旭に向けて笑顔で答えた。
「カレーパン!美味しかったよ!」
美春は事件の事や、あの時燃える車での事を今もまだ思い出せないでいる。
しかし、なにか旭の身に起きれば、いつでも旭の為に考えて、行動して、そして・・・
「そういうわけだ」
旭が話し終えるのに一時間かかった。
由美は泣いていたし、圭太も感動していた。
「じゃあ、美春さんは結局その記憶が無いんですか?」
圭太が聞くと、
「あぁ、だが今日のあれは、あの時の記憶が一時的に戻ってあーいう風な防衛というかなんというか・・・まぁ反応を起こしたんじゃないかと思ってんだ・・・」
そういう旭に、由美がなにやら考えていた。
(でも、美春ちゃんやけに旭さんのことを言っていたなぁ。どーなんだろ?)
考えていたら、なにか引っ掛かった。
しかし・・・
「すまん!だから美春を許してやってくれ!!頼む!!!」
旭が全力で土下座を始めたため、由美の「引っ掛かり」はどこかに行ってしまい、旭に顔を上げるように言う。
「もぅ、心配しなくて大丈夫ですよ!私は美春ちゃんの友達だから!これからもよろしくしたいわ!!もちろん!旭さんともね!」
美春が元気良く言うと、圭太も続けて、
「そうですよ、そんな過去の話関係無いです!美春さんは良い人なんだし!!」
そう言って笑顔で答えた。
「ありがとう・・・」
旭は改めて2人にお礼を言った。そして・・・
「まだ美春寝てっから・・・オレと美春しか知らない秘密を教えてやるよ」
いいながら、旭は上半身を脱いだ。
体にはあちこちに古い火傷の後が残っている。
「さっき巻いた背中の包帯越しにでかい火傷の跡があるだろう?実は、美春も全く同じ場所に全く同じ形の火傷の跡があるんだ」
2人は“おぉ”と唸った。
確かに、背中には先ほど巻いた包帯の後ろに、大きな火傷の傷痕が残されている。それはすごいなぁと圭太達が思っていると、突然背後から怖い視線を感じた。
怖くなって後ろを振りかえる。そこには・・・
「ア〜キ〜ラ〜く〜ん?なに話してるのかな〜?」
美春が起きていた。
「ぎゃあああああああ!!美春!?おめ、いつから!?」
「あっくんが火傷の秘密を話した辺りからだよ〜?」
旭に向かって貞子のように這ってくる美春に3人は恐怖する。
「み、美春さん・・・なにか覚えてないですか?」
圭太が聞くと美春が
「あっくんが窃盗団やっつけて、多分私が気絶したんでしょう?」
這いずりながら質問に答えた。
それを聞いて3人は「あぁ、やっぱり覚えてないんだな」と思った。そして同時に「いつかあの人格も無くなるだろう」とも思った。
「それよりあっく〜ん・・・?なんで2人だけの秘密をバラしてるのかな?かな?」
「なんかキャラクター違うし!それ危ないし!!」
旭が後退る。
「わかんないな〜、なんのことかなぁ〜?」
とうとう目の前まで来た。
「お、お前気絶したんだからもう少し寝ておけ・・・!な・・・!?」
旭が言うと美春の目が“きゅぴーん”と光った。
「あっくんも背中ケガしてるんだから早く寝なきゃダメでしょう!?」
「ぎゃあああああああ!爪を傷に立てるなぁぁぁぁぁあ!背中はヤバイぃぃぃぃぃぃ!」
そんな2人を見て、圭太と由美は思った。
「あの背中の傷はすぐに治るわね」
「うん」
2人の夫婦喧嘩(?)を見て妙に納得してしまった。
背中の同じ形の痛々しい火傷跡は、同時に同じ形の絆でもあるのだ。
その上に出来た傷など、あっという間に治るだろう。
バイク紹介&自慢広場!
作者「このコーナーでは、登場人物に自分の愛車をを紹介してもらいます!4人目は今回本編が終了した真田美春ちゃんです!」
美春「よくわかんないけどこんばんは~美春です」
作者「おぉ、今まで3人来たけどここまで落ち着きのある人は初めてだ・・・」
美春「だってここ夢の中でしょう?まわりは背景真っ白だし、あなたの足透けてるし・・・」
作者「透けてないよ!誤解を招くようなこと言うな!」
美春「冗談だけど・・・で、ここで私は何をすればいいのかな?」
作者「いや、ここではあなたの愛車のことを思う存分語ったり自慢してもらおうと・・・」
美春「私のサンパチちゃんのこと・・・?」
作者「左様でございます・・・」
美春「いいよ!あっくんが組んでくれたサンパチちゃんの事ならみんなに自慢しちゃうよ!!」
SUZUKI GT380改(B3型) 美春仕様
スペック
エンジン 本体ノーマル(腰上、腰下オーバーホール済み) 吸排気系はミズノモータースのゼス管3本チャンバー
足回り GT750後期フロントフォーク移植、フロントダブルディスク、リアドラムワイヤー→ロッドに変更。
外装 ノーマルハンドル、左ミラー無、純正シートアンコ抜き
カラー キャンディーブルー(B5カラーアレンジ 塗り替え)
作者「おぉ・・・旭君のサンパチより足回りがすごい・・・」
美春「GT750のフロント周りでよく止まるよ!」
作者「美春ちゃんの安全を考えてのチューンだね。旭君もよく考えてるなぁ」
美春「おかげでいつも調子いいです!それに・・・いつもあっくんは私のサンパチちゃんをメンテナンスしてくれるし・・・なにか困ってもすぐに解決してくれるし・・・いつも優しいし、カッコイイし、頼りになるし・・・それに・・・」
作者「おーい、ここはバイク自慢の場所だぞ~」
美春「あ・・・そうだっけ・・・」
作者「ところで、美春ちゃん、いつからこのサンパチに乗ってるの?」
美春「知りたい・・・?」
作者「そりゃあもう」
美春「ひ・み・つ♪」
作者「なんでよ~」
美春「それは、あなたががんばればみなさんわかることよ?」
作者「え・・・?それどういう・・・」
美春「さーて!そろそろ帰りますか!じゃあ、ばいばい!!」
作者「あ、ちょっ・・・行っちゃったよ・・・」
がばっ←起きた
美春「今日もいい天気ねぇ・・・ふふっ♪」
というわけで、第2章完です!
もっと文章力が上がったら、旭と美春のサンパチの話を短編にしてみたいと思います。
次回からは第3章です!70年代のホンダのアノバイクが出てきます!お楽しみに!!
ご意見ご感想、厳しい指摘、いつまでも待っております!!




