表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧車物語  作者: 3気筒
69/71

題69章 夏の風が運ぶ恋

「よっ、そんなわけであたい参上!」


「…邪魔しないで」


「あんまりじゃねー?」


横浜のとある街の貸しコンテナで自分の愛機を引っ張り出していた日向 綾は声を掛けてきた主であり、隣のコンテナに同じく愛機を停めている榛名 玲香に対して冷たくあしらう。


「なんで私が走り出そうとすると同じタイミングで玲香も出てくるのかしら」


愛機のRZ350に掛けてある無数のセキュリティロックを解除しながらボヤく。


「いんや〜さ、最近誰かにあたいのバブを褒められた気がしてね〜!ちょっと走ろっかなあってネ」


言いながら旭日章旗カラーのCB400Tをコンテナから引き摺り出した。今日もそびえる墓石三段が揺れている。


「どーせ行くあてなんか無いんでしょ?あたいと八景の方まで走りに行こう!な!」


「な、行くあてくらい…!あ、あるわよ…あの、あそこ…えっと…」


「まーまー綾ちゃあん、この辺よくわかんねーでしょ?変な奴も居るし、あたいに付いておけば問題なしっ!」


「…はあ」


族車乗りなんて…と突っぱねていた以前を思うとため息が出る。





そんな (尺を埋めるためだけにご登場頂いた)綾と玲香が居る横浜から約90キロ北西にある奥多摩の駐車場で、翔子と洋介がお互いに固まってしまっていた。


「…!」


洋介の手を握る翔子の表情は、真っ赤になってはいるが、いつものような弱々しさはない。


ただ固唾を飲んで、洋介の表情を真っ直ぐに見ている。


洋介もそんな翔子の表情を見て、これがシャレでも無ければその場の勢いだけでない事やを確信した。


「…俺もだよ」


声もひっくり返るかと思ったが、すっと自然に出た。その事に驚きつつ、言葉を続けた。


「俺も、翔子ちゃんが好きだ。一目見た時から、翔子ちゃんが好きだった」


「洋介、さん…」


「でも、心のどこかで俺は!君に相応しくないと思ってた…翔子ちゃんは綺麗すぎるって、高嶺の花だって」



立ち上がり、ヨンフォアに向かって、翔子に背を向けて。


「…知っての通り俺には単車コイツしかない、おまけに短気だ…そんな男が…」


翔子はただ黙って、彼の背を見つめていた。


「…必ず君を幸せにする、そういう男に俺はなる!今はまだ道程半ばだけど、こんな俺で良ければ‼︎」


「俺と!付き合ってください‼︎」


振り返った洋介の表情は、真摯に向き合い覚悟を決めた男の顔だった。


そんな顔、あぁ、やっぱり…



この人で、良かった…!


「こ、こちらこそ…!よ、よろじゔ…うっ、お願いしまじゅうぅぅっ‼︎」


感極まって、泣き出す翔子を抱き寄せて頭を撫でる。


二台のフォアに挟まれたこの告白劇を、奥多摩の自然が祝福した。






それから数分後、2人は場所を奥にあるテーブルに移していた。


たった1分にも満たない時間、抱き寄せていたのだが場所がちょっと悪かった。


駐輪場には多数のライダーが休んでおり、一部始終を見ていたライダー達が拍手やらなんやらし始めてしまい、我に返ってそそくさと駐輪場から脱出したのであった。


「ふーっ!い、一回落ち着こう…はぁ」


向かい合って飲み物を持つ手がまだ少し震えている事と、思わず笑顔になってしまっている事に気づいた洋介が一呼吸置いた。


「ご、ごめんなさい…その、場所…あの…」


一方で翔子は涙の跡はないが、後から恥ずかしさが追いついてきたようで顔が真っ赤になってしまっている。


「大丈夫大丈夫!いやぁでも、夢じゃないよな…?」


「夢だったら困ります!」


翔子が食い気味に身を乗り出してきた。


「あー…俺、まだ顔赤い…ていうか、熱い!」


「わ、わたしもです…」


「こんな可愛い子が彼女だなんて…ウチの家族はぶっ飛ぶぞ」


「そ、そんなこと…逆に洋介さんみたいな人とその、こ…恋人にな、あ、あぁ…!」


「待って、やっぱり夢かもわからんからちょっとつねってみるわ…いっったぁい!」


テンパって口が回らない翔子や、自身の腕をつねって自爆する洋介…恐ろしく初々しくもグダグダである。


「…あ、あの!わ、私達!お、お付き合い!して!してるんですよね⁉︎」


「あぁ、うん…そうだけどちょっと落ち着こうぜ?声が大きい…」


「あ、あの!この、む、向かい合ってるのより、と、とと隣!隣どうし!私、あの!!!」


「ちょっと落ち着こ、翔子ちゃんさくらんぼ歌い出しそうになってるから、もう一回!って言いそうだから、ね?」


翔子を見ていたら少し冷静になって来た。翔子はもうなんか目が大変なことになってる。


「と、となり!い、行ってもいいですか⁉︎」グイッ


「いや、もう来ちゃってるじゃない…」


鼻息荒く隣に座って来た。何この子ちょっとヤバいやん?可愛すぎやん?あかんやん?


「ご、ごめんなさい…!な、なんか今まで我慢していたなにかがその…あの…あ、あふぅ…」パタリ


「え?嘘でしょ?ちょ、翔子ちゃん⁉︎」


極度の緊張からかまさかのオーバーヒート…急に素に戻ったのか、机に突っ伏してしまった。


「ま、舞い上がっちゃいました…ご、ごめんなさ、あの…えっと…嫌わないで…えっと…」



…この幸せを噛みしめるだけで大変なのに、こんなに可愛すぎるのも困りもんだなあ



などと内心思いながらとりあえず頭をまた撫でてあげると、翔子はいつもの笑顔になっていた。





「ふぅ…遂に言ってしまいました…」


駐輪場に戻って自身の愛機と、寄り添うように停まるヨンフォアを撫でる。


「ヨンフォアさんには悪いですが、負けませんからね」


今まで彼を虜にしてきた赤いマシンに呟く。


すると、ちょうど心地よい風が吹いた…




あぁ、あなたは…『風』でしたね。




「ありがとうございますっ」


なんだか嬉しくなってしまった。


洋介がトイレに寄っているため、一人で待っていると、駐輪場に2台のマシンが滑るように入ってきた。


SS系大排気量マシン…先程追い越して行った人達だ!と翔子はすぐにピンときた。


「いやぁ!速ぇ速え!やっぱリッタースポーツは次元が違うわ!」


「だな!見ろよ、タイヤもう溶けちゃってさぁ!」


ヘルメットを脱いだ2人の男達が大きい声で騒ぎたてている。


そこまで聞いて、興味を失くした翔子はまたぼんやりと車両から離れて洋介を待つ事にしようと思ったのだが…


「あっれ、これヨンフォアじゃん!」


「⁉︎」


例の二人組が、ヨンフォアを見つけて近寄ってきた。


「コレ、ネットで見たぜー?お前は風だ!とかいう御大層なキャッチフレーズだけど全然走んねーらしいよ」


「なっ…⁉︎」


思わず振り返る…今にもヨンフォアに触れそうな距離に近づいていた。


「当時でザコかったらしいし?そんなんが今だに高値ってわかんねーよな?」


「値段で言ったら俺らの新車より高い奴あるしな、意味わかんねー!ドンガメのくせによ」


「むむっ…」


流石に頭にきた…のだが、そこは引っ込み思案の翔子である。言う資格があってもズカズカと文句を言いには行けない…。


しかしそれ以上に、もし今、洋介が帰ってきたら!


「ち、血の海に…⁉︎は、はわわ…ど、どうすれば…⁉︎」


とたんにパニックに陥る…。


「隣に停まってん奴、なんかボテってしてるし古くさいな…350?半端だな…400にすりゃよかったのにさ」


「こんなロートル、乗る奴の気がわからんね?きっとじじぃだな」


ついには自分の愛機にも謂れのない品評会が行われはじめた。


「…洋介さん、ど、どうしよ…来たら事件に…あぁ…!」








「…なぁそこのにぃちゃんら」



「は?…え?」


好き勝手言い続ける2人が振り向くと…







駐輪場にいたライダーのほぼ全員が、二人組に詰め寄っていた。



先程の告白時に、周りに居た人達だった。






「な、なんすか…?」


「にぃちゃんらの話聞いとったらな」


「僕らも不愉快な気持ちになるんだよ」


ハーレーの帽子を被った初老の男と、ハンターカブの脇に居た中年の男が鋭い視線を向ける。


「人のバイクを好き勝手言うなんてそんな権利、貴方達にはないでしょう⁉︎」


「ぐ…」


気の強そうな女性も食って掛かる。周りのライダーもぐっと視線を強めると、二人組は逃げるようにして足早にその場から離れて行った。


「え、あ…あれ?」


当事者の翔子はただ狼狽るばかりである。


「ほれ嬢ちゃん!鬱陶しぃ馬鹿は今懲らしめたからな!」


初老の男が笑って言う。


「さっき良いもん見せてもらったしの!いやぁ、若い頃を思い出してなぁ〜」


「ま、彼らの声のボリュームにうんざりもしていたしね…」


「恋する乙女の邪魔は私も許さないよ!」


中年の男と、女性ライダーも交互に頷く。


「せっかくの記念日邪魔されちゃあ台無しじゃい!ま、奥多摩ライダー一同から花を添えられたと思ってな、彼と楽しみなさいね」


初老の男がにっこり笑う。周りも同じである。


「あ、ありがとうございます!」


ぞろぞろとまた引き上げていくライダー達に頭を下げていると、ようやく洋介が戻ってきた。


「ごめん!混んでてさ…待ったかな?」


今目の前に立つこの人に逢えて良かった。


「いいえ…?」


もう、私は簡単には泣きません。



「グッドタイミングですよ!」



あ、今日の奇跡を、あとでフィルムに収めよう。



「ふふっ…」


あれ…

一月の休みで…この体たらく…

自粛期間をいい事に自分のバイクの整備に夢中になっていました。

いやぁ、頭ではわかっていてもやらかしますね、スタッドボルトも無事にへし折りました…

バイクの知識は、旭のモデルになった人(現バイク屋さんで相変わらずサンパチ乗り)からの知識で出来ています。ああいう風に弄れるようになりたいですね…(汗)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 第68部をもう一度読み返そうと思ったら… ♪ヽ(´▽`)/新しいのがでてる~! 地元 横浜のシーンで程よく焦らされ(笑) 気になっていた二人のその後が100点の結果になり、とても幸せな気…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ