第67章 バイクの魂⁉︎
「………はぁ」
「ゆーちゃんどしたのかなぁ…?」はむっ
「さぁ…?」パクパク…
喫茶店『yesterday』の窓際の席で本日何度目かわからないため息を吐いた。
その様子を隣で眺めていた美春と千尋はその様子を見て心配…するでもなく、yesterday自慢のスイーツを味わっていた。
「んまぁ〜いっ♪やっぱり甘いものは正義だねぇ〜♪」
呑気にチーズケーキなぞを食べながら頰を落とす美春を横目でジトっと見つめると、由美はテーブルに突っ伏した。
「はぁ…」
昨日のツーリング…圭太と二人きり、誰にも邪魔されない…距離を縮める最大のチャンス…のハズだった…。
昨日…
「砂浜も綺麗だし、波も穏やかで良い海岸だね」
照りつく夏の日差しを浴びながら、しかし爽やかな海風が吹く浜辺で圭太が言った。
「もう夏も終わりだね…」
「そ、そうね…」
「今年の夏は忘れられないくらい…千葉のツーリング先の事件もだけど、なんだか目一杯の思い出が作れたかなって気がするよ」
「そ、そうね…!」
まだよ!まだ何も成していないわよ私っ!ここで言わなきゃ…!い、今!こっ…この気持ちをっ!す、素直に…!
「け、圭太…!」
「なに?」
「えっと…その、あのっ…!」
「…うん?」
「その…っ!わ、わたたたっ、わたしっ!」
噛んだ…死ぬほど恥ずかしい…っ!
「け、圭太が!そ、そのっ…!」
「………⁉︎」
「だから、そのっ…あのね!私…!」
バァァァアヴゥゥゥヴ!バゥッ!!
クゥァァアアアアアン…‼︎パリンパリン…!
「だぁぁぁぁぁぁぁっ!何よ今良いところなのよ何なのようっさいわよばかっ!」
「あれ…この音って…」
極度の緊張をぶち壊す直管の吐き出すガラの悪いエキゾーストサウンドと、相対的にレーシーなパラツインの2ストロークサウンドが、背後の道路で喧しく響き渡っている。
「アレっ!やっぱ由美だ!おーいっ!」
「れ、玲香⁉︎」
「まさかと思ったがそのまさか、か…」
「あ…綾さん!」
なんと榛名玲香と日向綾の凸凹コンビが、人気の無いこの三浦半島南端に突如として現れたのだ。
「由美ったら水臭いじゃ〜ん!このあたいを誘わないなんてさ〜?うりうり」
なんかハイテンションで由美に絡む玲香であるが、由美の笑顔は引きつっていた。
(ちょ…い、今…!この…!タイミングで…!)
「やめなよ全く…」
「あ…綾さん…」
無駄に暑苦しく絡む玲香を由美から引き剥がすと、綾は由美にアイコンタクトで全て把握したというようなウインクをした。
流石綾さんだわ…!やっぱり大恋愛をした女性は、一味違うわっ!
「…夏の終わりに浜辺で二人きりよ?告白の途中だったに決まってるじゃない」
「おぉ、なるへそ!」
ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎
何ヒソヒソ勝手にネタバレしてんのよ!ばか!あんぽんたん!
「え?どうしたの?なんでそんな小声でヒソヒソ…?」
よかった…!さすが圭太だわ…、聞こえてなかったみたい…けど、だけど…!
「ばぁかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!もうしらない!」
「あ」
「ゆ、由美!ち、ちょっと⁉︎」
気がつけば浜辺をダッシュで走り、ゼファーちゃんに跨って、走り出していたわ…なんか後ろで圭太がなんか叫んでいたけど…
「はぁ…」
そして、今日…私は何度目かのため息をついているのよ…
「あ、あの…?」
「なんか回想っぽくまとめてるけどぜーんぶ口からダダ漏れてるよー?」
「はぅあ⁉︎」
間抜けな驚声をあげた。ようやく現実世界に意識を引っ張られた由美は頬についていた手が抜けて危うくコーヒーをこぼしかけた。
「まぁ、例の如くゆーちゃんはけーちゃんへの告白が失敗した、と…」
とっくに飲みきったアイスコーヒーの氷が溶けた冷たい水をすすりながら美春が言うと、由美は赤面しソファにぶっ倒れた。
「今更そんな新鮮な反応しなくても…」
千尋がトドメの一言を放つとなんか震えだした。
「ち、中学生にすら雑な扱いされるなんてぇ…」
「それで、昨日はその後どうなったのぉ?」
いつもの間の抜けた美春の声に、もぞもぞと体を起こすと、やはりとっくに飲みきったアイスコーヒーの氷が溶けた水をすすりながら由美が少し息を吹き返した。
「うぅっ…なんか横横道から16号までずっと追いかけてきていたみたいだけど…途中からぶっちぎっちゃって気づいたら家に着いていたわ…」ずぞぞっ…
「あらぁ…」
「その後は連絡は…?」
「圭太から電話が2回あったけど…あと綾と玲香からメール…」
「まだ連絡していないんだね…」
「ゆーちゃんの気持ちはわかるよ、うんうん」
「おねーちゃんノリ軽いよ…」
「あぁぁぁぁあ…もうやだっ…」
机に突っ伏し項垂れる由美に対して、態度にこそ出さないか玲香達の間の悪さに同情しつつ、しかしまた苦笑するしかなかった。
時同じ頃。
由美達の話題の張本人である圭太は…
「うーん…はぁ」
FXを眺めながら、ため息をついていた。
昨日、浜辺で由美が何を言いかけたのか…
「そんな事…」
…わからないのですか?
わからない…あの由美の瞳…あんな表情する由美は長年の付き合いの中でも見たことがなかった。
…その瞳に感じたものはどんな感情?
それは…その…
「ん…?」
なんだろう…誰かに語りかけられているような。
そしてその声に、何を丁寧に受け答えしているんだ?
「ふぅ…しっかりしろ…」
頭を振って、自分に言い聞かせる。
FXを洗車するために出てきたはいいが、眺めているうちにこの暑さにやられたのか?
「はぁ…キミはどう思う?」
FXのシートを撫でてみた。シートの表皮は太陽光に当てられているせいでそこそこの熱を帯びているだけだ。
「なんてね…バイクに語りかけるなんて、美春さんでもしないだろうな…」
地味に美春をどう思っているかを吐露しながら、乾いた笑いを浮かべた。
…では、私の率直な気持ちをお伝えします
「え?」
たしかに聞こえたその声に圭太が驚き周囲を確認しようとしたその時…圭太は己の視覚、聴覚、意識を疑った。
一瞬…瞬きでもしたその間に、あたりは真っ白な空間になっていた。
そして、夏の終わりにけたたましく鳴いていた蝉の声や、風の音、太陽の熱…先程まであったものこと全てが消えていた。
「は…?え、あれ…」
無限に続く奥行きの掴めない白い空間の中、…いったいここは?
「ねーねー、この間テレビで見たんだけどね」
場所は変わり、イエスタデイ。
とっくの昔に無くなったアイスコーヒーの微かな味と痕跡の残った氷の溶けたモノだけで30分以上繋いでいた美春が唐突に語り始めた。
「なんかねー?モノには全てに魂が宿るって話をしてたんだけど…バイクにももしかしたらあったりするのかなぁ♪」
「あ、わかるわ!私のゼファーちゃん、洗車してあげるといつもよりエンジンの掛かりがよくなるわ!」
「だよねだよねぇ♪ゆーちゃんのゼファーは素直なんだねぇ〜♪」
「そういえば私、真子さんがマッハのシートに手を置いて何か言ってるの見た気がするわ!」
「あ、千葉のツーリングの時なら私も見たのだ♪やっぱりみんなバイクに魂とかあるって考えてるのかなぁ?」
「もう自分の手足みたいなモノだし、きっとそうよ!」
「ふーん…」
美春と由美の会話を側で聞きながら、中学生の千尋は思った。
「…遅めの厨二病?」
そして、また場所は変わって
「なんだろう…ここは…」
この不可思議な空間は一体なんだ?
「考えられる理由としては…夢?だよね…いきなり周りの景色が変わるわけも無いし…だとすると…熱中症で倒れて…今僕は夢の中でここまでの思考をしてるのか…なんだか不気味な夢だな…」
せっかくの貴重な体験を、この何もない白い不気味な世界で…いや、不気味じゃないな…でもここはいったい…
「…夢ではありませんよ?」
「⁉︎」
突然…背後から声が響いた。静かに通る女の声…
「あ、貴女は…?」
「ふふっ…貴方もよぉく知ってる筈ですよ …」
現れたのは、長髪の女だ。派手さは無いが見たことのない青と黒を基調とした服を身に纏っている。
女は、静かに…しかしどこか嬉しそうに笑う。
「私の名前は、KZ400E-*****
*…の、打刻を受けた…貴方の…ご主人様のZ400FXです」
「は?」
思考が完全に止まった…何を言ってるんだろうこの人は…
「信じられませんか?」
信じるも何も…いや…でも…
「ま、無理もありませんよね。いきなり出てきた女が、貴方のバイクの魂です〜って言ったところで普通信じるハズありませんよね」
女は…自称FXの魂がため息を吐く。
「ご主人様にわかりやすく言うならば九十九神…年月を経て古くなりながらも長く生きたモノに霊魂が宿った…その具現化が私といえば…わかりますかね?」
「いや、わからない。言ってる事は理解出来たけど意味は理解出来ていないというか…君は本当に?」
「ハイ!私はZ400FXの魂…いえ、Z400FXそのものなのです!」
えへん!と胸を張る仕草が説得力に欠けるが…この真っ白い空間やその他の現象を見て、いよいよ信じないわけにはいかなくなってきた…
「で、例のお話ですけど…」
「え?」
当たり前のように話し始める愛車の魂に、圭太が疑問符を浮かべる。
「さっきの話しっていったい…?」
「いやですねご主人様…さっきまであんなに思い悩んでらっしゃいましたのに…由美さんの事で」
「由美の?あっ…」
思い出した…
「私のシートに手を触れて、問いかけたじゃないですか。だから、お答えするためにこうして具現化してるのです」
さも当たり前のように答えた…それまで頭の中で問いかけていた声が夢や幻覚の類でない事が証明されてしまった。
「まずご主人様…失礼を承知で言いますが、ご主人様は由美さんをどうお思いですか?」
「え…?それはまぁ、幼馴染で…元気でおっちょこちょいで…わがままで…でも、ずっと一緒にいて楽しいし…うーん…」
「ずばり言います…由美さんはご主人様をお慕いしてます」
「はい???」
「つまり由美さんはご主人様にゾッコンなのです、LOVEです、好き好きビームが撃てるくらいにはご主人様を好きなんですよえぇ…」
「な、何を言って…⁉︎」
「ご主人様だって、思い当たる節がないわけじゃあないですよね?昨日の浜辺で…ゼファーちゃんと私がついに!ってスタンばっていたら…ゼファーちゃんがおバブちゃんとRZさんに怒っていましたよ、空気を読め!って、まぁあれは偶然の生んだ事故みたいなものですけど…」
「ちょ…君意外にもその、バイクに魂が?」
「その話は後でいいのですっ!それより、ご主人様?」
ずいっ!と圭太に歩み寄る。
「実は…真子さんと凛さんも、ご主人様をお慕いしているのですよ」
「…ゑ?」
「この反応…本当に唐変木の鈍チンですね、はぁ…」
圭太の思考が停止した。何を言っているんだ?この人は…
「何を言ってるんだ?ってお顔をされてますけど…逆にお聞きしますが…心あたりは無いのですか?」
「心あたり…?」
そこでふと、思い出した…いや、頭に映像が流れてきた…千葉ツーリングの道中…
「あの2人は仲良しだよ?悪いのは圭太くんだよ?」
海ほたるPAで殺気立った由美と真子から逃げている道中で、千尋から言われた言葉…
「・・・由美ちゃんはかわいいよね。彼女のこと、そろそろ幼なじみって関係を無視して見ないといけないんじゃない?圭太君」
浜辺で遊ぶ皆を眺めながら、いつになく真面目な表情で静かに呟いた美春の声、直後に自身が景品にされた理不尽に思われたビーチバレー大会のシーン…
「こ・・・!この際だから真正面から聞いてやる・・・っ!お前はその・・・2人を・・・!!れ、れ・・・れ・・・あーっ!もう!恋愛の対象として見てんのか・・・!?」
やけに緊張した面持ちではっきりと問うてきた凛の言葉…
「…見えないのは不安かな?私は少し助かっている、嬉しすぎて、どんな顔をしているかわからないから…」
「今だけは…‼︎今だけは…このままでいて欲しい…」
旅の最終夜…月明かりの下、真子に抱きしめられた時の光景…
そして昨日…夏の日差しが煌めく海を背になにかを伝えかけていた由美の姿…
「ま、まさか…」
「そのまさかです。ご主人様の記憶を呼び出しました…ご主人様、これでお分かりですか?」
愛機の魂がこれまた自慢気に胸を張る…勘弁してくれ…
「そんな…」
「周りの皆さんは何も言いませんが、無理もありません。何かを言えば3人の関係性…ひいてはチームの不和を招くかもしれないのですから…」
「で、でも…!僕のいったいどこが…僕には何もない…好かれる理由が…」
「それは本人達に直接聞いてください。まぁご自身自ら魅力を語れるファッキンタラシチャラ男ご主人様でなくて安心いたしましたが…」
「まぁ、早めに答えを出した方がご主人様の身のためです!そのうち由美様のゼファーちゃんに祟られるかもしれませんよ?」
「え…ゼファーってあの…君の他にもいるの?」
「えぇ、私達バイクには、遊園地の50ccからリッターバイクまで…造られた時から魂が宿られます。ゼファーちゃんは怒ってましたよ?『我が主人に対してこの仕打ちはもう我慢出来ん!』ってな具合です」
「はぁ…」
「でもご主人様はすごいんですよ?私達、バイクの魂…所謂『九十九神』…いや、厳密には違いますが…まぁ似たようなモノの私達の魂に接触出来る人間は希なのです」
なんかわからないけど褒められた…のか?
「とは言っても、常に姿を表せらるワケではありません。色々な条件が揃わなければ普通はまず無理なんですけど、今回は位置や気候、磁場がうまく噛み合ったのかな?というところです」
「すごい確率だという事はよくわかったよ…だけど僕はこれからどうしたら…」
頭を抱えたくなる…まさかあの3人から、その…好意を抱かれていたなんて…
「…いきなりすぎてどうしたらいいのか全くわからない…」
「ご主人様はお優しい方ですから、どなたかお一人をお選びになるのは難しいかとは思いますが…あ!」
閃いた!とばかりに手を打った。
「三人召し取れば全て解けt」
「無理な事言わないでくれるかな…?」
「えー…あ、言い忘れていましたが…」
「こ、今度は何…?」
まさかまだ衝撃の事実が残っているのか?勘弁してほし…
「今交わしているこのやり取りや、私の存在はご主人様が目を覚ますと同時に綺麗さっぱりと忘れてしまいます」
「え…?」
そんな…そしたら…!
「非常に残念ではありますが…こればかりは私にもどうにも出来ないのです…ですが、件のお話は、ご主人様の深層心理に多少は根付くはずです。ご主人様は、きっと心のどこかで彼女達を意識せざるを得ないでしょう」
「なんか未だに信じ難いのだけど…」
「ふふ…でも、素直に申し上げますと…私は少し優越感を感じてます」
そういうと彼女は圭太の手を握った。
「そろそろお目覚めの時間のようですね…それでは最後に…」
「ご主人様は…貴方は…私を手放しません。貴方はきっと…私が鉄屑のスクラップのゴミに成り果てても…きっと捨てません」
「…なんでそう言い切れるの?」
圭太が問うと、彼女は嬉しそうに笑った。
「ナイショです!」
視界が…いや、世界が暗転した。
「うー…ん…あれ?」
寝てた…のか?
視界が開けてくると、もう夕方じゃないか。
「いっ…たたたた…なんで眠っちゃったんだ…?」
身体を起こしてあたりを見回す。車体の横で力尽きたのか…右のステップに何故か手を掛けたまま寝ていたようだ。
「なんか…不思議な夢を見た気がする…」
確か…ダメだ、思い出せない…
女の人が出てきた気がする、けど…
その時、ケータイのバイブが鳴った。
「ん…由美からだ」
昨日、電話をしても出なかった由美からのメール。その内容を確認すると…
「『美春ちゃんと話してて盛り上がってるんだけど、バイクには魂があると思う⁉︎あるわよね⁉︎』…だって?」
…ご主人様はお忘れかも知れませんが、私は覚えています。
「バイクの魂…九十九神的な話かな?」
…ご主人様がまだ小さく幼かった頃、ご主人様はおっしゃいました。
「非科学的な話だとは思うけど…」
…バイクのおねえちゃん!おおきくなったらボクが運転して、色んなところにいこうね!ボク、バイクのおねえちゃんとずっと一緒がいい!古くたってこわれてたっていいよ!おねえちゃんキレイでかっこよくてだいすきだもんっ!
「ふふっ…そうだなぁ」
…由美様、申し訳ありませんが…ご主人様の初恋の相手は私ですのであしからず♪
「『多分、あると思うよ』っと…送信。ま、根拠はないけどね」
少年のため息と同時に、今度は電話が鳴った。
昨日の事も話さなきゃ…圭太が電話に出る横で、物言わぬ鉄の塊の魂は笑っていた。
夕日が沈みかけた、ある夏の終わりに差し掛かったある日のお話…
また大変お待たせしました…
今回はめずらしくファンタジーなお話し?でした。
FXを始めとした、バイク達の魂の擬人化安心は連載初期から登場させようと案もまとめていましたが、某艦隊なこれくしょんや、刀剣が乱舞したり、近年ではバイクの擬人化漫画などが出てきたため永らくお蔵入りしていました。
うちのバイクの魂達は、カウルやウインカーなど、バイクを象ったようなイメージではありません。。。が、文章だけでは説明が難しいですね、画力がないのは辛いものです。
また次回、よろしくお願い致します!




