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旧車物語  作者: 3気筒
65/71

第65章 凸凹コンビ誕生?

ほんっとにおまたせ致しました。

環境や、自身のバイク生活…色々思う事あり、久々の更新になります。

「忘れ物は…うん、ない」


がらんとした実家の一室を確認するように眺める。10数年来過ごしてきた勝手知ったる我が城の筈なのに、そこが空になっただけでなんとも言えない悲しさがこみ上げて来るが、彼女の場合…少しちがうようだ。


「神奈川かぁ…」


ちょっぴりの不安…しかし彼女の心はそれ以上に、希望とも言える期待に満ちていた。


「30分前に出て行ったヤマネコヤマトのトラック…どのあたりでブチ抜けるか…」


革のツナギを身に纏い、ヘルメットを被る。使い込まれた革のグローブを填めて、愛機に跨る。


「…!」


パパっ!ブァパァァァァァ…‼︎パランパラン…!


キック一発で目覚めた流線型ボディの白いマシンは、パラツインの軽やかな水冷2ストサウンドを奏で始める。


「行って来る」


空を見上げて、彼にそう告げる。吐き出される白煙は立ち込め、彼女はギヤを入れると走り出した。


「…♪」


行先は横浜…










数刻後…ここは横浜、本牧埠頭。


CB400T特有の爆音プラス玲香の怒りの叫びが産業道路に響き渡る。


「ったくさぁ!せっかくあたいが助けてやったのになんだってのさ!」


無意味にアクセルを吹かしまくる…今の世の中には合致しないバイクとその改造ではあるが、これも本牧に似合ってしまうのがなんとも言えないものである。


登場からいきなりイライラしているのは昨日の事。由美達と立ち寄った美春の店で、長良との運命的 (?)な再開のせいである。


結果から言えば…互いに無言のまま、しかし睨み合いながら…要するに、周囲は全く気まずい雰囲気で昨日はお開きとなったのであった。


「姐様の前だから喧嘩もできねぇし…ぁあもう…!」


途中でタバコが切れた事に気付いた。そもそも走りながら吸うのはマナー的にもご法度なのだが、玲香には関係無いようだ。途中コンビニに立ち寄り年齢確認もザルな店員からタバコを買った。


「ふぁあ…全く…一服一服…っと?」


マナーモードにしていたケータイがプルプル震えているのに気付き、画面を開くと…


「もしもし〜‼︎」


電話に出るなり不必要なくらい大きな声で相手に返した。


『…っ!ちょっと…もう少し静かに出なよ』


「あぁ…わるいね…」


相手の咎める声に、玲香も気を使い声のボリュームを落とした。


「で?着いた…?『爆弾』綾ちゃん…!」


玲香が嬉々としながら電話に出た相手…ナナハンキラーの異名を取るヤマハの名機、RZ350を駆る爆弾娘…日向 綾はため息を吐いた。


『そのあだ名は止めてと言った筈よ?』


「えー…だってカッコイイじゃん!あたいもそーいうあだ名欲しいのよね!」


『はぁ…』


またため息ひとつ。


『…着いたわよ、本牧』


「え…?本当…⁉︎」


玲香の落としたボリュームがまた上がった。しかしそれは越してくることに対する喜びから来たものかと言えばそうではない。


「だって…あれ?私出口で15分くらいずーっと待ってんだけど?」


『…いないわよ?私今来たばかりだけど…』


「目の前になにがある?」


『少し先に、橋がある…』


「…綾、そこ…間違ってんじゃん!そこ南本牧埠頭じゃない⁉︎」


『は?そんなわけ…あ、あれ?』


わかりにくいか?間違えるか普通?


玲香は頭を悩ませる…が、木更津と木更津金田の出口を間違えるようなものか?いや、間違えねーよ、と…なんとか頭を整理する。


「今からそっち行くからさ、ちょっと待ってな!」


それだけ言うと綾の返事を待たずにケータイを閉じて、ホークⅡに火を入れる。


コカカカ…ブバァァア…!


三段シートを揺らしながら荒いクラッチ捌きで走り出す。




今日、日向綾は…横浜に引っ越してきたのだ。






「遅かったわね」


「あぁん⁉︎」


南本牧埠頭に着いて玲香に開口一番、綾がボソッと言った。


「私だったら3分で来れるわ」


「高速出口間違えてたら世話ねーだろ!」


もっとも過ぎる反論をしてみるが、綾は相変わらずツーンとした態度で愛機に跨ったまま言った。


「それにしても…空気悪いわね、ここ」


「千葉の16号もこんなモンだろ、ったく…」


この凸凹コンビが何故…それは数週間前に遡る。




『実は…千葉を出てそっちに行こうと思うんだ』


綾からの電話…当初は互いのマシンの作り方やライディングに関する話題であった。互いに全くちがうスタイル…しかし、真正面からぶつかり合った事でその事で蟠りは無かった。

そんな会話の折に、不意に…且つ狙いすまして本題をぶち込んできた綾に、玲香が驚くのは無理もない。


「マジ⁉︎」


『あの一件以来…ずっと考えてた事なんだ』


「…そか」


2人は、つい数日前の事を思い出した。暗闇の中、真っ赤に燃える道路に佇む復讐者…そしてその復讐者を救う為に殴り込みを掛けた自分達の姿。


『でさ…私もそろそろしっかりしなきゃあいけない。じゃなきゃ、アイツは安心して休めないでしょ?天国なら、きっとどこにいたって私を見てるだろうしね』


その声には何か決意染みた…癒える事の無い悲しみを背負いながらも、それを乗り越えようという気持ちが込められていた。


『それでね…家探しをしたいんだけど…玲香の住んでるあたりで』


「んぁ?あたいの所来るの?」


『何か問題が?』


玲香の間の抜けた声に綾が問う。

玲香はてっきり綾の『そっちに引っ越す』というのはてっきり相模の事だと思っていたのだ。所が彼女は横浜に来ようとしているのだ。

横浜と相模では、遠くは無いが旧車物語のメンバーと遊ぶには少しだけ距離もある…


『家族の顔だって見たいし…横浜なら道一本だし、そっちの方が仕事もあるだろうしね』


なるほど、たしかに相模からでは多少時間は掛かる。さらに、ここは横浜…日雇いから大企業まで働き口は相模よりはありそうだ。


「そかそか!んならアタイも協力してやる!」


『助かるよ』


そんな会話から数週間…ついな綾が横浜に上陸した次第であった。


「しっかし、本気で綾がこっちに来るとはネ…早速綾のアパートに行こうか」


「えぇ…と…住所はわかってるんだけど、道はあやふやだから…」


「引っ越し屋と一緒にくれば良かったのに」


「トラックと並走してもね」


「そりゃそうか…で、どこ?」


「横浜市磯子区…」


「東町…ん?あ?????」


綾が新居の住所を伝える…玲香の表情が驚きに変わる。


「マジで言ってる???」


「嘘ついてどうするのよ」


「ウチの2件隣…」


「は⁉︎」


「だから!ウチの2件隣だよ!!」


「うそ⁉︎」




偶然とはかく恐ろしい…二人は驚きのあまり変な笑顔で新居に向かって愛機を走らせた…。




新居に到着し、先に待っていた業者と搬入…荷物を全て入れ終え…1時間程で作業は終わった。


「荷物少ないね」


「まぁね…大切なモノだけ運んだ感じ」


言いながら、まずダンボールから取り出したのは小さな写真立てだ。


「さ、ついたよ」


「…」


写真には、笑顔で愛機…RD400に跨る青年がいた。


「…しっかり見ててよね」


「へっ…目の前でいちゃつくなよな…」


いたたまれなくなった玲香が皮肉っぽく言う。仕方ないなぁ、といった表情で綾が返した。


「アンタは好きな人いないの?」


「姐様」


「あぁ、あのホンワカさんか…て、即答してるけど…アンタ、レズなの?」


「バカ言え!姐様だけは性別を超えるんだよ!」


「でもサンパチさんの彼女よね?」


「最悪姐様の二番目でも…ぶつぶつ…」


「うわ…」






「なるほどな…」


数分後、二人はバイクコンテナの前にいた。


「コイツのある側に来たかったからあの場所に越してきたのね」


「用心に越したことはないし…ね」


重たいチェーンをフロントフォークから三又に器用に回して、コンテナ内にあるアンカーに固定する。


さらに、セ○ムとアラームをセットし、さらにリアにはトドメのロボットアームをスイングアームに回す厳重な盗難防止対策だ。


「私たち旧車乗りの敵は、人様の物を掻っ払って平気な顔してる人間のクズだからね…これでも…不安、よ!と…」


コンテナを締めて一息。


「確かに…ま、アタイはさいきょーだから関係ないけどさ」


「何をバカな事を…」


そんな時、ふと先日、長良のGSを盗難から守った際の事を思い出し、またイラっときた。


「なぁ、ちょっと聞いてほしんだけど…」









「何それ、バカじゃないの?ソイツ」


先日の経緯を聞いて開口一番、綾が言い放った。


「だろー⁉︎アタイ悪くないよな⁉︎」


「全面的に玲香が正しいわよ、何様?ソイツ…そんなだから族車乗りは…」


「いや、個人の問題だと思うけどさ…」


「本当に大切なモノを失った時、もう取り返しはつかないのよ?ソイツにあったらガツンと私も言ってやるわ」


「綾が言うと説得力半端じゃないね!」


「だからまず、玲香もバカ言ってないでコンテナにしまっときなさい?」


「え?あ、いや…アタイはほら、さいきょーだから…」


「24時間365日見張れるの?私の隣のコンテナ空いてるじゃない、直ぐに借りなさい」


「あ、いや…その…そろそろアタイのバブⅡのカスタムとかガス代とか…その…」


「失くしてからじゃ何にもなんないわよ、ほら、わかったら電話する、ほら」


「薮蛇だったかぁぁぁ…」


あまりの迫力に、玲香は観念したらしい。翌日…カスタム代に貯めた貯金を頭金に、玲香もコンテナに愛機を入れることになるのだった。





一方…


「ねえ圭太?すっごい久々の筈なのに、私たち全く出番ない気がするんだけど…」


「何いってるの???」


二人は今日も地味に夏の余暇を過ごしていた…


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