第63章 星空の下
お久しぶりです…
しばらくいろいろと立て込み、またまた更新できませんでした…
今年こそガンガン更新していきますので、よろしくお願い申し上げます。
ま
旧車物語の夏休みツーリングの最終日。
綾と再開を約束して、闇夜に消えていくRZ350を見送った後…
最終日の夜ということもあり綾との別れの後もみんなで屋敷の中で簡単なゲームやらバイク談義でワイワイ盛り上がりを見せた。
「しかしなんとまぁ…強烈な1日だったなぁ」
場所は変わり、ここは離れにある露天風呂…
旭が髪の毛を石鹸で洗いながら
呟いた。
「おぉ、でもよ?あんだけのモン担いで一人、頼れる奴も居ない中でさ、綾ちゃんはどんな気持ちだったんだろうな…」
湯船に浸かりながら洋介が空を見上げた。
さすがに山と海に囲まれた、よく言えば大自然、悪く言えば田舎の夜空は相模の夜空とは比べものにならない程澄んでいて、星々が辺りを照らし出す…。
「どうだろうな…そりゃあよ、俺等がどんだけ考えたって想像つかネェくれぇの重圧だったろーヨ?」
言ってから、シャワーで髪の毛を洗い流す。
リーゼントから普通の髪型に戻った。
「なぁ?圭太よ」
今迄湯船の中で洋介の向かいにいた圭太に、旭が話しかけた。
「…最初、海岸通の灯台公園で会った時…嫌な予感がしたんです。とてつも無いくらいの執念というか、今にも人を殺しちゃうんじゃないかってくらいの表情もですけど、それだけじゃなくて…」
湯面に映る月を眺めつつ、あの時を思い出して圭太は胸が辛くなった。
海岸通の灯台公園で、玲香が綾に一撃お見舞いした時のキレた時の表情は、旭や洋介のような直情系の怒りでも、以前の美春のような人が変わるような絶対零度な怒りでも無く…例えるならば常に人を殺したがっているような…
「灯台公園で会う前の…ヒューズが死んじゃった時に助けてくれた綾さんとは、似てもにつかなくて…でも」
「あん?」
「去り際の綾さんの表情は…やっぱり寂しそうで…」
『最期に思い出の場所で…私にもあったかもしれない未来が見れたような気がするよ…』
そう言って公園から走り去った綾を思い返す…。
「綾さん…これからどうするんでしょうかね…」
「心配か?」
旭が湯船に入りながら聞いてきた。
「そんな…!心配に決まってるじゃないですか!」
なにを当たり前な事を聞くんだと思い、珍しくちょっとだけ強い口調で言った。
対して旭は不敵にニヤリと笑うと圭太の顔に指鉄砲でお湯を掛けた。
「ぷあっ⁉︎」
「しーんぱいすんな、アイツなら全く問題ねーよ」
「で、でも…」
「あのRZと指輪がありゃあ、あの女なら何にも負けねーよ」
「そ、そうですよね…わぷっ…あの、うぁ…ちょ、お湯掛けるのやめっ…ぷあっ…」
旭には確信があった。日向 綾という女は手段こそ誤り復讐という形を取ってしまっていたが、もう二度と彼女がああなってしまうことはないだろうと。
「あの女の事だ、『2人で』これからも生きていくだろーよ?」
「ふぇ…」
「旭よぉ、いい話しながら圭太イジメんなよなぁ?半泣きじゃねーか…つーか2人ともさぁ?」
顔面への集中砲火によりちょっと涙ぐんでいる圭太と、なんだかさっぱりしている旭に洋介が言った。
「おまえら、なんで湯船でまで前隠してんだよ?」
言って指をさした。
「いやね?湯船の外ならまだ分かるよ?でもさぁ、お湯の中で前隠すって、銭湯だったら禁止だよ?レッドカードだよ、うん?」
「いや、ここは銭湯じゃねーし…」
旭が洋介に反論するが洋介は湯面をぱぁんっ!と叩いた。
「そーいう話じゃあねーよ!その歳になってまで前隠してんじゃあねー‼︎」
「えーっ…だって、その」
「恥ずかしいじゃん?」
「…2人揃ってあかくなってんじゃねぇよ⁉︎男らしく前剥がせや!」
洋介がバシャバシャとお湯を叩く。
「え…まさか洋介さん…」
「あ?」
圭太が顔を引きつらせながら後ずさる。旭も一緒に後ずさり。
「…まさか、女と縁がなさ過ぎて男に走っちまうとは…」
「………はぁ⁉︎ざっけんなテメー!オリャあ至ってノーマルだよ‼︎」
「…そんな必死になんなくったって…」
「洋介さん…本当に、まさか…そんなっ…」
「やめろ圭太、お前だけは勘違いすんじゃねぇ…」
洋介が頭を抱えながら言った。このままではホモのレッテルを貼られてしまう…自分は翔子ちゃん一筋なのに…!
「ハッ⁉︎……そーだよ、テメーらよく聞きやがれ⁉︎」
「ま、まさか、ここでカミングアウトするんですか⁉︎」
「やめろ…まじやめろ…ほんと、やめてください」
「聞けっつーんだよ泣くぞこの馬鹿共が…っ‼︎…いいかぁ⁉︎俺は今朝なぁ、翔子ちゃんといい雰囲気になっちまったんだぞ‼︎」
「え…本当ですか⁉︎」
圭太の表情がパアッと明るくなった。それを見て洋介はこれで誤解は解けたと確信しかけたのだが…
「いや…騙されんなよ?コイツのことだ、もしかしたら女に縁がなさ過ぎて架空の朝をひとり迎えちまったって可能性も…」
「ひいっ⁉︎」
いやに疑う旭の言葉に圭太の安心しきった顔が再び凍りつく…そのやり取りと光景を見た洋介はといえば…
「………おれ、泣いていいかなぁ…?」
と言いつつ、すでに泣いていた…。
「ふぁあ…」
「くぁあ…」
「んぁあ…」
「そろって間抜けなあくびだなぁ…」
一方、こちらはすでに風呂を終えた女子組だ。由美、凛、美春の三馬鹿が大きくあくびをしながらソファーベットでくっ付いているのを見て真子が言った。
「だぁあって…ふぁあああ…眠くて…」
由美が心底眠たそうに言う。由美の背中にくっ付いている美春も目をこすりながら言った。
「それにねぇ…なんかみんなとくっ付いて寝ると気持ちぃのだぁ♪」
「んー…」
凛に至ってはまるで猫みたいに丸まっている。喉をゴロゴロ言わせるのも時間の問題かも知れない。
そんな三馬鹿をみていると、確かに気持ちが良さそうだ…。すると、今迄我慢していたのか、千尋と紗弥香がソファーベットにいる美春と凛の横にそれぞれ寝転んだ。
「あ、ほんとだぁ…」
「うー…今日の凛お姉ちゃんは可愛いです…」
「んなぁ」
美春に抱きつきながらうつらうつらとする千尋と、眠気で普段の性格げ和らいでいる凛の頭を撫でながら紗弥香がつぶやく。
「姐さまと妹さまのいちゃいちゃツーショット…⁉︎はぁはぁ…あ、あたいもご一緒致します!」
がばっ!…玲香も美春と千尋の上に重なるようにルパンダイブしていった。
「あははぁ♪れいにゃんも猫ちゃんみたいだねぇ♪」
「よしよし〜♪」
「にゃにゃあん♪」
美春と千尋に頭や背中を撫でられて、本当の猫になりきっている玲香。それを見て、凛猫の飼い主が負けじと凛を撫でた。
「凛お姉ちゃんも負けてませんよ〜ねー?」
「んなぁぁあ…にゃむい…」
「………パネェ、なんだこれ?なんだこれ⁉︎」
「ちょ、紗弥香さん⁉︎なんかいろいろ崩壊してますよ⁉︎」
凛猫の魅力は、普段のキャラクターを崩壊させる程の威力らしく、紗弥香が屈したようだ。翔子がツッコミを入れるが次の瞬間…
「それなら翔子さんも一緒に寝るのですよ、えぇ!」
「うぁっ⁉︎」
紗弥香に引っ張られて翔子も倒れこむ。
「んん…あ、ほんとだ、きもちいいです…」
「ですよねですよね」
どうやら翔子も寝っ転がるのを受け入れたようだ。
「むぅ…あとは私だけじゃないか…」
「真子さんも一緒に寝ましょうよー?」
由美がのっそりと起き上がりながら手招きする。
「お呼びとあれば、仕方ないわね」
恥ずかしさを誤魔化すような発言をしながら、ゆっくりと翔子の背後に寝転がる。
「ん…みんな一緒です」
嬉しそうに翔子が言うと、真子も嬉しそうに笑った。
「あ、おねーちゃん寝ちゃったみたい」
「くかぁ〜」
呑気にいびきをする美春のほっぺたを指で突きながら千尋が言う。
「いもうとさま…あたいも…なんか、ねむっ…」
「れいにゃん、よちよち」
「んあ…くー…」
「全く、すぐに寝てしまったな」
その様子を見ていた真子が困ったように言うと、少し離れたところにあった薄手の毛布を手に取り千尋に投げ渡した。
「夏といえど風邪を引かれても困るからな…寝るならみんなでお腹に掛けなさい」
「おぉ〜…ありがと!まこりん優しいね」
ニコニコと満面の笑みを浮かべて千尋がお礼を言った。
「由美さんも凛さんも夢の中ですね〜…紗弥香さんも…あ、寝ちゃった」
こっくりこっくりしていた紗弥香がパタリと寝てしまったのを見送った翔子も、目が細くなっていく…
「私ももう寝るね…まこりん、しーちゃん、おやすみなさい…」
「ふぁああ…私も寝ちゃいます…おやすみなさい…zzz」
千尋と翔子も眠ってしまったようだ。
ひとり残された真子だったが、「仕方がないな」とつぶやくと、みんなにきちんと毛布を掛けてやった。
「さて、眠りたいのは山々なのだが…」
と、そこで廊下の方から扉が開く音がした。
「だっから俺はホモじゃねーってば‼︎」
「いや、無理、ほんと、だめ」
「あの…どんな羽黒さんでも、友達としてなら…友達であれば、はい」
「旭…!マジでドン引きしてんじゃねーよ…⁉︎あと圭太…急に苗字で呼ぶのと友達をやたら強調するのはやめよ?なんか一番精神的にクる…」
「…ちょっと」
「あ、真子さん」
「助けてくれ、コイツ友達だと思ってたらホモダチだった」
「テメー、そろそろ殴っちゃうぞ…?」
廊下をペタペタ歩いてきた3人が真子に気付いて、揃って洋介イジリに加担させようと旭ぐ声を掛けると、真子は人差し指を口元で一本立ててから居間を指差した。
「みんな寝てしまったんだ…ちょっとだけトーンを下げてほしい」
「あ、本当だ」
3人は居間を除くと、ソファーベットにぎゅうぎゅう詰めになりながら寝ている由美達を見て、圭太が控えめなトーンで言った。
「ったく、夜はこれからってーのに…」
旭が言う。
「まっ…俺も眠てぇしな。ちょっくらタバコ吸って寝るわ」
しかし彼もまた少し疲れていた。昨夜の騒ぎもそうだが、普段の睡眠時間より短めに美春に叩き起こされるわ美春や真子に説教するわ玲香を海の藻屑にするわ、あの後千尋に頼まれて千尋や美春を代わる代わる海に投げ込んだりする遊びのカタパルト役に指名されたりと、かなり疲れているのだ。
「そんなら俺も部屋帰って寝ようかな…ふぁぁああああ…」
旭に続き洋介も大きなあくびとセットで言った。
「圭太は?寝んの?」
「そうですね、部屋でのんびりしようかなって思います」
洋介の問いかけに即答した。
「んなら、今日はここで解散だな…明日ぁ昼までにきっちり荷造りして…はぁ、帰りたくねぇなぁ」
「また来年来たらいい…次回はもっといろいろな催しなんかもしたいな」
真子が頷きながら言った。ふと、圭太は来年の自分達がどうなっているのかを想像してみる…きっと楽しく、ずっとFXに乗っているんだろうなと思った。
「ま、イベントは夏以外にもあるからな!」
「違ぇねぇやな…よっしゃ、んじゃあ、また明日な」
「はい、旭さんも洋介さんも、おやすみなさい!」
「おやすみなさい」
階段を上っていく旭と洋介に圭太が手を振りながら、真子も片手を上げて見送った。
「さて、私は少しやり残したことがあるからな…また明日」
「わかりました。明日もよろしくお願いします」
こうして圭太と真子も解散した。
圭太は部屋に戻ると目覚ましをセットしてから布団に潜った。
……………
「んん〜…?」
疲れていたし確かに物凄く眠かったハズだったのだが、何故かハッキリと冴えてしまう。
この度のツーリング旅行の思い出や出来事を振り返りながら寝ていたのだがそれが逆効果だったのか、全く眠れる気がしない。
「…ちょっとだけ」
誰に聞かれることもない独り言を呟いてから布団を抜け出すと、圭太は部屋を出た。
豪華な装飾が施された階段を下ると、居間の明かりは消えていた。
しかし相変わらずソファーベットのある居間からは由美達の寝息が聞こえる…音を立てぬように気を使いながら玄関まで歩いて外に出た。
「…綺麗だなぁ」
夜空を見上げて、その星の数に思わずため息をつく。相模も田舎といえば田舎だが、夏はやはり雲も厚くこんなに綺麗な星は見れない。
「…」
そのまましばらく夜空を見上げていたその時だ。
かちっ…かちり…
「ん…?」
何か機械音が聞こえて振り向いた先はバイク置き場だった。
「旭さんかな…」
気になって音のなる方へ歩いていき、覗き込む。
「あ…」
愛機の前で胡座をかいてヘッド周りに手を突っ込んでいる…美しい黒髪を揺らしながら真剣な眼差しで作業を終えたのか、手をヘッドから引き抜くと腕で汗を拭う。
「これで…明日どうかな」
LEDの手元ライトに照らされた真白い車体に一筋の虹…そして、そのマシンに似合わぬ美貌を持った少女…。
「やり残したことってこれだったんてすね」
「?…あ、圭太くん」
圭太の問いに振り向いたのは、赤城真子であった。
「眠れなかったのか?」
「えぇ…目が冴えちゃって。真子さんは?」
「私は少し用事があってな。それが終わったので、昨日気になっていたんだ、これが」
そう言うと、真子は立ち上がって背伸びをした。
「んっ…!…っと。紗弥香が触ってくれたセットだったんだけど保険の為かセットが濃すぎてカブリ気味でね。紗弥香には内緒だが、今朝到着した時に3番のプラグが終わってしまったんだ」
右手にあるプラグを見せる。よく見ると確かにオイル気が強く、ガソリンと混ざった匂いが強い。
「こうなってしまったら、帰ったらサイレンサーを外してチャンバー部は焚き火の中に放り投げてオイルとガソリンを飛ばすしかないな」
「え?そんな、火にかけていいんですか?」
圭太が意外そうに聞いた。
「なかなか荒技だが…2スト乗りなら良くやるわ。まぁ、旭や美春のメッキチャンバーじゃあ、燃やしたら変色しちゃうからダメだけれど…」
「へぇ…」
関心しながらも、やはりちょっと想像が付かないらしい。圭太は頭の中で焼き芋とか栗と一緒にチャンバーを焚き火に燃やす真子や凛達の姿を浮かべてしまった。
ちなみにメッキチャンバーや純正マフラーの場合は、パイ○ユニッシュ等をつかうと面白いようにカーボンが取れて綺麗にはなるが、内部が良く乾かないとサビの原因にもなったりする。ちなみにチャンバーを焼くと乾いた音になり、バリバリ感がさらに増すのでオススメであるので、敷地に余裕がある方は是非試してみて欲しい。
「これで明日はちょっとは速く走れるかな…」
「今でも十分すぎる気がするんですけどね…」
真面目に悩む真子に圭太がツッコミを入れる。
真子は夜空を見上げると、少し笑った
「…今日は星が綺麗だな…」
「本当に…普段ならこんなに澄んでいませんからね」
圭太も頷くと、真子は夜空を見上げたまま言った。
「私は今、物凄く幸せだ…」
またしゃがみ込みLEDのライトを消した。街頭など無い辺りは真っ暗になった。目も慣れず、星明かりは見えるが丁度月も雲に隠れている。
「…遠くから海の音がするな」
「ええ…あの、真子さん?」
海のささやかな波音が微かに聞こえる…すぐ側に真子の声が聞こえたが、暗くて何処だかわからない。
「…見えないのは不安かな?私は少し助かっている、嬉しすぎて、どんな顔をしているかわからないから」
「え…?」
すっ…と両肩に真子の手が伸びる。耳を澄ませば呼吸音も微かに聞こえる。
そして、雲が明けて月の光が辺りを照らし出す…
「…あっ」
徐々に真子の姿が月明かりに映し出される…すぐ目の前にいた真子は…
「…普段より、恥ずかしいものだな…」
顔を赤くして、うつむき気味に言った。普段クールで大人た表情の真子のこんな表情、圭太は見たことがなかった。
「圭太くん…」
ぎゅっ…
真子は圭太を包み込むように抱き締めた。
「あっ…!ま、真子さんっ…⁉︎」
「今だけは…‼︎今だけは…このままでいて欲しい…」
流石の圭太もこの行動には驚いたようであったが、真子がそれを遮る。そして…抱き締めていた腕を緩め真子は真面目から圭太を見つめた。
「あ、あの…真子さん?」
事態が飲み込めない圭太があたふたしている。
一方真子はといえば
「…」
外面は、圭太から見れば普段よりも若干赤らめている程度のクールさなのだが、内面…真子の心の中は只今絶賛混乱中である。
『ど、どうしよう…⁉︎なんか物凄く大胆な行動を取ってしまったぞ⁉︎ちょっと月が綺麗で調子に乗って普段の由美とのノリで接近を試みた所上手いこといってしまった…いやいやちょっと待て…これって、この状況てもう、目を瞑ってあ、あついキスを⁉︎、もしくはたったひとこと好きだ!といって押し倒すしか⁉︎……いやいやいや無理無理むーりーっ‼︎今はまだ表情を抑えられているだろうが…なんの準備もせずに愛の告白など無理!凛、紗弥香、お姉ちゃんは本当はチキンなんだ許して…‼︎』
…と、内心パニックに陥っていた。
この状況を打開するために、とりあえず何か言ってみようと表情を気にしながら顔を圭太に向ける。
「顔が赤いですし、震えてますけど…大丈夫ですか?」
そこには、いつも通りの…思考が常に180度栗田ターンしている圭太が居た…
セリフだけ聞けば、恥ずかしがる女性に余裕を持ったキザなセリフにも聞こえなくもないが…期待を裏切ること無く、彼は文字通り真子の体調を気遣っただけである。
しかしこのセリフが、アタマがグルグル堂々めぐりしていた真子の意識を覚醒させたのだ。
「…すまない、取り乱してしまったようだ」
そう言って、真子は圭太から手を離した。
「…っ」
彼の体温が、香が、名残惜しい。
今、たったひとこと、好きと言えたら…
「あの…真子さん?」
「圭太くん」
心配する圭太の問いかけを真子が遮る。
好きだ…
「明日は早い…午後には出なくてはならないからな」
好きだ…!
「明日も楽しくツーリングを終わらせるためにも、万全な状態でなければならない」
好きなんだ…
「…今日は、もう、寝よう」
そのひとことは発せられること無く、真子の心の奥底に沈んでいった。
たったひとこと、好きだ。
それを言う勇気が、真子には無かった。
「…わかりました、それなら、一緒に戻りましょう」
真子の提案に素直に頷く圭太。
「私はまだ片付けがあるからな、先に戻っていてくれないか?」
「え、でもそれなら明日でも…」
「いくら夏とは言え、夜露に濡れてしまえば錆びついてしまうからな」
工具を手にして真子が言う。
「わかりました…じゃあ、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
踵を返して戻って行く圭太。
そんな圭太の背後から、真子は聞かれないように声を掛けた。
「次の機会までに、私はもっと強くなってみせる…その時には覚悟しておいてほしい」
月を見上げてみた。
なんだ、夜露に濡れているのは自分じゃあないか。
思わず自嘲してしまう。
零れ出た涙を拭うと、赤城真子は簡単に工具をしまい込んだ。
「あぁ…そうか」
私は怖かったのだ。
この想いを…この気持ちを伝えるのが…。
もし拒否されてしまえば、この関係も、仲間も、全て失ってしまうのでは、と…。
「全く、月の光とは恐ろしいな」
妖艶な月の光に当てられたとは言え、想定外の行動をしてしまった。
いつか、キッチリと覚悟を決めて、ハッキリと思いをぶつけてみせる!
そう心に誓うと、真子も洋館に戻っていった。
月の光に照らされたマッハⅡだけが真子の背中を見送っていた。
久々にたくさんの方々から感想などを頂きました。
どれも励みになるものばかりで、しっかりと噛み締めながら活動して行きたいと思います。
そして、コメントを頂きました847様…
誤ってコメントを削除してしまいましたので、こちらにて返信をさせて頂きます。
まず、このような小説を寝る間を惜しんでまで読んでくださったとの事で、大変嬉しく思います。
また、バイク事故でご家族から反対を受けていらっしゃると拝見しまして…胸が痛くなりました。
確かにバイクは大変危険な乗り物で、家族の理解が得られ難い代物です。
しかしそれで諦めてしまうには惜しすぎる程の乗り物であり、相棒でもあります。
このメチャクチャな小説を、大切な物語と仰って頂けて、大変嬉しく思うとともに、いつか一緒に走りたいと切に願います。
追記
僕もGPが大好きです。




