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旧車物語  作者: 3気筒
55/71

第55章 海岸線をぶっとばせ!

今回でようやく55話!

ノンビリペースですが、よろしくお願いします!

 波乱の初日を終えて、翌日早朝。

 まだ陽も昇りかけの午前5時、旭は部屋で身支度をし始めていた。

「〜♪〜♪」

 鼻歌交じりに自慢のリーゼントをセットするとブーツを履きタンクトップの上から赤いスイングトップを羽織り、族ヘルと呼ばれる類いのフルフェイスの中に愛車のキーを放り投げると、ヘルメットを手に部屋を出た。


 洋館の玄関の外に出て皆の愛車の並んでいる列の中から、自慢の愛機であるGT380を引っ張り出し、ヘルメットをかぶる。

「さってと…」

 エンジンを掛けようとして思いとどまる…

 自慢では無いが、チーム内では1、2を争う程の爆音が響き渡れば皆を起こしてしまう…

 旭は坂を下り、下道に出てからチョークひ引いて…キックを蹴飛ばした。


 ガシュッ…!


 ブァアァアアアアア‼‼バリバリバリバリバリバリバリバリバリ…‼‼



 サンパチのショットガンチャンバーから響き渡る排気音と、立ち込める白煙…

 暖気も程々に、チョークを降ろすと、サンパチは白煙を撒き散らしながら走り出した…

「さーって…!みんなにゃあ悪りぃが、一足先に走らせてもらうぜ⁉」

 海から登る朝日を見つめながらアクセルを全開に捻る。勢い良くぶっ飛んで行く。

「ガスはあんからなぁ…いい感じなワインディングだし往復して帰ぇるか」


 なぜ旭が1人早朝から走っているのか…


 それは、ただ単に無性に、かっ飛ばしたかったからである…

 圭太や由美達と一緒では飛ばせないし、洋介や真子達と走ると勝負に夢中で疲れる…

 そんなわけで、旭は1人気ままに山を走りたかったのだ。

 バンク角の浅く、車重も有り、さらにフロント19インチのGT380を物ともせずにコーナーを抜けてゆく。真子達の400SSマッハⅡほどでは無いが、高回転域からの暴力的な加速と甲高い爆音、さらに道路を埋める白煙に酔いしれていた時、朝靄と白煙に包まれた背後から迫る一台のバイクに気づいた。

「お…地元のヤツかぁ?」

 車重はわからないが、旭は一瞬で理解した。


 コイツは速い…!


「楽しませてくれんべなぁ?行くぜコラぁ!」


 カァァァァァァァァアァアアアア‼‼‼


 サンパチは全開加速で逃げ切りを図る。

 しかし、相手もビッタリ張り付いている。

「(マジか…⁉コイツ…)」

 知らない道とは言え、とっくに限界走りの旭にビッタリと張り付いている相手をミラー越しに見て、柄にも無く焦る。

 幾ら白煙が尋常では無いにしても、相手のライダーのヘルメットのバイザー越しにも表情が分からなければ、車種も分からない…姿形が常にボンヤリしている。

 後ろに気を取りつつ目の前の高速コーナーを抜けようとしたその時…


 ミラー越しに、相手のヘッドライトが…いや。



 姿が消えた…


「なっ…⁉」


 その刹那…


「⁉」


 自分のアウト側に、既に並んでいた。

「…⁉」

 そのマシンは、旭のアウトラインを被せるでもなく、まるで地球の周りを自転する衛生の様な動きでコーナー出口に並びかけると、次の瞬間…



 クァアァアアァアアアアァァ‼‼‼


 自分の愛機や、真子のマッハⅡと似た…まさしく咆哮を轟かせながらサンパチを引き離す。

 旭もすかさず撃墜すべくアクセルを開けたが、相手はそれをあざ笑うかの様に次のコーナーに飛び込む。次第に差が開き、旭は悔しそうに減速停止した。

「っ…!」

 蜃気楼の彼方に消えゆくテールを悔しげに見つめながら、旭は舌打ちした。







 完全に日が登りきった午前7時…

 昨日の疲れも残したまま、圭太が目を覚ました。

 着替えを終えたところで、ドアがノックされた。

「圭太ー?起きてるー?」

 聞き慣れた幼馴染の声…圭太はドアを開けると、声の主である由美が立っていた。

「おはよう由美…」

「おはよー圭太!…って、まだ回復しない?」

「んー、ちょっと身体が重たいかなぁって気もするけど…寝起きだしね」

 ぐぐっ…と伸びをする。

「 そうよねぇ…」

 由美が心配そうな表情を浮かべる。

 普段であればワガママな由美も、先日の熱中症事件の後なので幾分おとなしい。

 そんな由美を見て、圭太は心配させまいと笑って見せた。

「でも、今日はツーリングでしょ?大丈夫、熱も眩暈も頭痛も無いよ、由美」

「そうよね…!今日は私たち旧車物語の記念すべき遠征ツーリングなんだから!」

 すると、由美の背後から美春と千尋、そして玲花がやってきた。

「おっはよー♪けーちゃんにゆーちゃん♪」

「なんだか目覚めの気分がいつもと違ってスッキリだよ!」

 いつものようにハイテンションな美春と、元気いっぱいの千尋。そして…

「おはよ…」

「どうしたのよ玲花…?目の周り真っ黒よ?」

「あはは…」

 どんよりな空気を振りまく玲花に由美が声をかけるも、元気が無い…

「玲花ちゃん、大丈夫…?」

 圭太が声をかけると、玲花は力無く笑った。

「なんだか昨日寝付けなくて、さ…」

 それもその筈、美春達と寝た玲花は姐様と慕う美春の寝顔、乳、吐息を至近距離で炸裂され、心臓バクバクの状況の中で過ごしたのだ。

 結局、寝付けたのは朝方4時過ぎ…が、しかし、7時には美春に叩き起こされてしまい、さらに前日の筋肉痛が発生…カキンコキンな身体に寝不足なのである…

「まぁ、今日は集会…じゃなくてツーリング?だから、全然ヘッチャラだけど」

「そういえば玲花のバイクって、みんな呼び名が違うけど、結局どの呼び名が正しいの?」

 皆で階段に向かいながら由美がたずねる。

「あー、っと…CB400TホークⅡってのが正しい名前みたいなんだけどさ…アタイはバブⅡって呼んでるよ?」

「ばぶ?」

 圭太が首を傾げる。

「直管にすると音がバブバブ言うから、バブらしい…」

「へぇ…なんかかわいいあだ名だね!」

 千尋がニコニコしながら言った。

 一階に降りて食堂に向かう途中、一同は翔子と紗耶香、そして凛と合流した。

「おはようございます!」

「おはよう翔子ちゃん!」

 由美と翔子が嬉しそうにはしゃぐ。その脇で、紗耶香が不安げな顔をしながら頭を下げた。

「おはようございます…美春さん、なんか旭さんの様子が…」

「あっくんが?」

「今朝なにかあったみたいで…」

 そう言うと、美春は「ふむぅ」と考え込む。

「真子姉さんも洋介さんももう集まってますから、とりあえず食堂に行きましょう?」

「そのために私たち、皆さんを起こしに行く途中だったんですよ」

 紗耶香と翔子が事情説明をした。

「よーしっ!おにーちゃんを元気付けに行こうおねーちゃん!」

「そだね♪れっつごー♪」

「ま、待ってくださいよ姐様ぁ…!」

 千尋と美春は急ぎ足で食堂に、筋肉痛な玲花もしんどそうに後を追って行った。

「走ることもないのに…まぁいいわ、私たちも早く行きましょう?」

 由美の合図に皆が頷きゆっくりと食堂に向かう。そんな中…

「………」

「どうしたの凛お姉ちゃん?」

 朝から黙りこくっているのは、チームの元気印、赤城凛だ。

 先ほどからどこか上の空…というより、どこか遠くを眺めるような彼女に、由美がニヤリと笑いながら言った。

「きっとまた真子さんにシバかれてたんじゃないかしら?」

「それか、また夜更かし?」

 紗耶香も心配そうに言った。しかし凛は由美のからかいにも紗耶香の心配そうな言葉にも首を振った。

「いやな、ちょっと考え事をな…?」

「ていうと、やっぱりマッハのこと?」

 圭太がたずねると、凛は少し慌てながら頷いた。

「あははは…ま、まぁそんな所だよ、あぁ、うん…!」

「?」

 なんだか様子がおかしい凛に圭太達が首を傾げる中、ただ1人翔子だけは違っていた…

 皆に見えない位置で某新世界の神(笑)のような邪悪な笑みを浮かべると、すぐにいつもの表情で言った。

「さすがですね凛さん!」

「ま、まぁな!オレくらいになるともうバイクの事しか頭にないぜ!」

「そうですね…なんだか恋してる人みたいですよ…?」

 その瞬間…

「こ、恋ぃぃい⁉ばばばば馬鹿いうなよな翔子、そそそそんな、こ、こここ恋だなんて、ばば馬鹿じゃねーか⁉」

 明らかに動揺しながら凛が否定した。

 が、皆一様にその不自然な様子に気づいた。

「お、お姉ちゃん?」

「なに焦ってるのよ、なんだか変よ?」

 紗耶香と由美が心配そうに除き込む。

「な、なんでもねーよ⁉そ、そう!オレはいつだってマッハに恋してるからな‼あははは…!」

「まぁそれはわかるけど…」

「だろ⁉全く、由美も紗耶香もそれくらい気づけよなぁ!」

「そう思うならもうちょっとマッハのメカニズムくらい把握して欲しいよ…」

 なんとか2人を丸め込み一歩先を歩く三人を見ながら、翔子がまた「計画通り…!」スマイルを向けた。ダーティである…そんな中

「みんな朝から元気だなぁ…ふぁあ…あ」

 ただ1人…圭太だけは平常運行であった。



 食堂に着くと、真子と洋介、そして旭の周りに美春達がいた。

「おはよう圭太君」

「おはようございます真子さん」

「昨日はグッスリ眠れたかしら?」

「おかげさまでバッチリですよ」

 第一声、真子が圭太に擦り寄るように接近してきた。

「私も…圭太君の隣部屋でグッスリ…もうこれは一緒に寝たと言っても過言では…痛っ!」

 しかし言葉は足元からの激痛に遮られた。

「おはよう真子さん、今日も良い天気ね…⁉」

 由美がにっこにこしながら足を踏んでいた。

「全く、少し油断したらすぐにこれよ…」

「むぅ…しかし!わ、私と圭太君の愛の深さの前では…」

 言って、圭太の方向を見ると…

「旭さん、何があったんですか?」

 すでに他の仲間たちの所に合流していた。

「 」

「愛の深さ…(笑)」

 無言になる真子の隣で由美がにたにたする。

「まぁその点、私と圭太は相性バッチリよ?今朝だって私が起こしに行って…」

 しかしその脇で翔子が由美に言った。

「でも…由美さんも置いてかれてますよ?」

「 」

「相性バッチリ…(笑)」

 真子がにたにたした。


 そんなやり取りをしている後ろの由美達を「相変わらず仕方ねぇなぁ…」と苦笑いで眺めている洋介の脇で、旭がムスっとしていた。

「朝方に目の前の海岸線ぶっ飛ばしてたらよ?ぶち抜かれたんだよ…」

「え、旭さんがですか⁉」

 それを聞いた圭太が思わず驚いた。真子と洋介、そして美春達以外のメンバーも同じだ。

「緩い左の高速コーナーだ…相手ぇアウトラインをインのオレと同じ速度でクリアした後、ストレートでちぎられた」

 淡々と語る旭だが、拳は固く握られていた。

「マジかよ…だって霧島センパイ、まるでサーカスみたいにあのサンパチを転がせるのに…」

 玲花が思わず口にする。

「サーカス?」

 圭太が聞くと、玲花がやはり信じられないといった感じで頷いた。

「姐様ケツに乗せて鬼ローリングかました後、ニケツウィリーで全開くれちまうんだよ…」

「そんなに⁉」

「でも旭さんが負けるなんて…」

 由美がどこか悔しそうに呟いた。

「で?あのサンパチを負かした相手って何に乗ってたんだよ?」

 先ほどまでどこか上の空だった凛がたずねる。その瞳にはいつもの負けず嫌いな炎が元気良く燃えていた。

「あのサンパチがちぎられるなんて、ハヤブサみたいなスポーツか?」

「そうだぜ旭、何を相手にして負けたんか教えてくれよー」

 洋介が旭に迫る。すると旭はため息をつきながら答えた。

「はぁ…『ナナハンキラー』だよ…」

「なははん?なによそれ…」

「由美、なははんじゃなくてナナハンね?」

 圭太がツッコミを入れる。その隣で千尋も説明した。

「ナナハンっていうのは750ccの呼び名だよ?」

「なるほど…ナナハンねぇ…でもキラーって事は」

「ナナハンじゃないって事だね…」

 由美と圭太が頷きあった。

 真子や洋介達は旭の言った俗称『ナナハンキラー』に覚えがあるらしい。

「ある意味下手くそなレーレプより全然速い相手ね」

「へっ…お前らのマッハとかサンパチならともかく、オレのフォアなら負けねーぜ?」

「ばーか、オメーもちぎられてオシマイだよ!」

「ちょっと待てよ!オレのマッハだったら峠じゃあ誰にも負け知らずだぜ⁈」

 洋介の発言に旭と凛が負けじと声を上げた。

「でも今日の目的は楽しくツーリングすることなんだから競争はメっ!だよぉ?」

「おぉ、おねーちゃんにしてはマトモな意見!」

  美春の意見に千尋が賛同する。

「ま…それもそーだな」

 旭も美春の意見を聞いてとりあえずは落ち着いた。

「まぁその話はともかく…今日のツーリングのルートを決めよう」

 真子が話を元に戻した。今日はいよいよ旧車物語の県外散策ツーリングなのだ。

「まずルートだけれど…海沿いを走ってから途中にある港で休憩。その後少し峠に出て遠回りして、峠を抜けたらまた海沿いの道に出るから、それをまたしばらく進むと灯台のある公園があるから、そこが終点。どうかしら?」

 地図を見ながらルートを再確認する。言葉で言うと簡単なルートだが、距離はかなり走りそうである。

「ちなみに、ガソリンの補給のタイミングとかってどうするんですか?」

 翔子が気になる所を質問した。旧車乗りの泣き所の燃費の悪さを心配しての質問である。

「その辺りは抜かり無い。燃費で言えば私達姉妹のマッハが最悪だもの…」

「本当、毎日悲しくなるぜ?」

 凛も涙ながらに頷いた。

「ガソリンスタンドならポチボチ点在してますから、怪しいなぁって思ったら各自給油になります。さすがにこの台数で一気にスタンドに入るのは気が引けますし」

 最もな意見を紗耶香が言った。10台にもなればさすがに常に団体行動は難しくなってくる。そのためのルート確認である。

「まず港が第一休憩ポイント…ここで必ず全員集合して昼食を摂る。で、次は峠の入口が集合ポイント…一本道だから峠を抜けるまでは団体走りになるけど、くれぐれも飛ばさないように」

「姉貴が一番飛ばしそうなのに…」

「凛、何か言ったか?」

「いいえ、何も…?本当ほんと」

「ならいいわ…で、峠を抜けたらそこからはまたそれぞれ灯台公園を目指して、そこで終わり。帰りは海岸線を真っ直ぐでここに辿り着くから各自迷わないように。質問は?」


 一切質問は無く…いよいよ旧車物語のツーリングが始まる…


 皆それぞれ支度をする中、由美と圭太は一足先にそれぞれの愛車の側で待機していた。

「いよいよ私達の初の県外散策ツーリングね!」

 ゼファーに跨り嬉々と笑う由美は、良くも悪くも上機嫌であり、幸せそうでいて落ち着きの無いその雰囲気を圭太が心配しながら、しかし同じく楽しそうに頷いた。が、しかし一つ気掛かりな事が…

「それにしても、朝の話…ナナハンキラーって気になるよね」

 そう、あのサンパチを駆る旭を負かしたナナハンキラーである。

「でも変な名前よね、バイクの名前にナナハンキラーなんて…」

「由美、多分間違いなくナナハンキラーは俗称とかだと思うよ?」

 圭太がツッコミを入れた。

「まぁ気になるけど、今日のツーリングが終わるまでは口にしないでおこう?多分真子さんや洋介さんも気にしてるし、それで競争になったりしたら嫌だし」

「ん、それもそうね…でも」

 圭太を見つめるその瞳は、未だ見ぬナナハンキラーへの興味と、その謎の多さに輝いている。

「よーっし!それなら私はナナハンキラーキラーになってやるわよ‼」

「無理だってば…」


 

 それからしばらくして、ほかのメンバーも続々と集まり始めた。

 4スト乗り達はアクセルの吹け上がりや荷物の積載、2スト乗り達は、プラグの確認、オイル缶の携行.補充に励む。

 翔子は自身の宝物であるCB350Fourのハンドル部分にカメラをセットし、洋介はその隣で翔子にちょっかいをかけている。真子達赤城三姉妹はプラグの予備の確認し、フレーム前に専用ホルダーを装着し、オイル缶を携行したり…

 旭や美春も同じ作業である。

 そして昨日空になったタンクに、携行缶からガソリンを流し込む玲香…


 準備は整った




「それじゃ、行こう!」

「美春〜、途中迷うんじゃね〜ぞぉ⁉」

「とりあえず俺は2ストの後ろは嫌だなぁ…」

「しっかり撮れればいいんですが…いや、撮りますよ!」

「あたいのバブⅡ復活だぁ!」

 皆がそれぞれ言いながら、エンジンに火が入る。

 仕様の違う計10台のバイク達…その爆音と姿は圧巻であり、まさにこの場は70s〜80sだ。

 先頭は真子。爆竹チャンバーから渇いた爆発音を響かせながら海岸線に飛び込んで行く。

 その後ろを美春と千尋の唯一タンデム組のRG250Eが続き、そのすぐ隣には玲花のホークⅡが続く。

 さらに旭のサンパチが辺りを煙だらけにしながら快音をあげて走って行き、それを凛のマッハⅡと紗耶香のマッハⅠが追いかける。

「2スト組はすげぇなぁ相変わらず…」

 ヨンフォアに乗る洋介が呆れながら言った。

 しかし、ボアアップされた彼の愛機から吐き出される爆音も大概である。

 渇いた高回転音はフォア独特…唯一無二のサウンドで海岸線に飛び込んで行った。

「それじゃあ私達も行きましょう!」

 翔子が由美と圭太に合図をする。

「由美、安全運転でね?」

「わかってるわよ!それじゃあ行きましょ!」


 フォン!クォアアアアア‼‼

 由美がまず飛び出した。メーカー不明のショート管から吐き出される高音…

 それに続き圭太のFXが、そして殿は翔子になった。


 ついに走り始めた旧車物語のツーリング…

 圭太は思わず驚きの声をあげてしまう。

「まるで隊列みたいだ…」

 ある程度の間隔で海岸線を走り抜ける10台の列はまるで映画のような、高揚感がある。

 すると背後から翔子のCBが圭太のFXに並びかけた。見ればカメラが回っているらしく、圭太が手を振ると満足気に前に出て行き、由美にも同じように並びかける。

 すると由美は何を思ったかギヤダウン…


 クォアアアアアア…‼


 FXルックのゼファーは洋介のフォアを抜いていった…

「やっぱり旭さん達に触発されてるよ…」

 すると抜かれた洋介も由美のゼファーを追いかけるが、その姿勢はランデブー状態で、べらぼうなスピードでは無い。翔子も後に続いて行き、圭太もギヤダウン、由美やまえの2スト組を追いかけた。

 カワサキ初の400クラスのツインカムは、今日も快調に回っている。このチーム内のバイクのノーマルスペックで言えば由美のゼファー、真子達のマッハⅡに次ぐ性能のFXは、カワサキのZに相応しい快音を響かす。

 青い角タンクに陽の光…仲間の轟音の向こうでは、遠くで海の波音と漁船の警笛…

 海岸線の道路や周りの樹々のざわめきが圭太達を祝福しているようで…

 タコメーターを見れば、5000回転…レッドは9500回転以上…珍しく気分が高揚する。圭太がアクセルを開けると、タコはみるみる上昇した…

 そしてついにレッドゾーンに近づき始めたその時、すぐ真横にいた白いバイクを抜いた時、ふと我に帰った…

 隊列の先頭を走る真子を抜き去っていた。

 圭太が減速し始めた途端、逆に真子が圭太に並んできた。

「どうしたの?珍しく後ろから前に出てくるなんて…あ、わかったわ」

 真子が理解した。

「私の側に居たかったのね…?うふ、うふふふふふ…」

 理解していなかった。

 そして圭太は、そんな真子にはほとんど意識を向けずに、今の一瞬の出来事を思い出していた。

 何時だったか、一度だけ今のように3速で引っ張った事があった。あの時…周りの車や歩行者、街並み…全てが真後ろに流れて行くあの感覚…

 スピードの中の景色と感覚に、恐怖と興奮とが入り混じったような…




 あの時間違いなく自分は、スピードに支配されていた…?




「あら…?圭太君…?」

 真子が横を見ると、圭太のFXが徐々にスピードを落として行き、それをまた皆が抜いて行き、またグループ集団の後ろに移った。

「おぉ、どうしたんだ?」

 凛が不思議そうに圭太にたずねた。

「あはは…ちょっとテンションが上がっちゃったみたいで…」

「意外と速いのな、FXってさ。まぁオレのマッハには勝てねーけどなぁ」

 凛がニヤニヤしながら言った。

 先頭グループでは、圭太に触発された洋介や旭達がガツンと加速して行き、凛も気付けばフル加速…!さらには翔子も圭太を抜いて行った。

「けーちゃん速かったねぇ♪」

 気付けば美春と千尋が並んできた。

「ナナハンキラーに影響されたのかにゃ?」

「いえ…タコメーターの針をずっと見ていたら…気付いたら前に出てました」

 困ったように言うと、美春は「あははははは♪」と笑いながら前に出た。

「けーちゃん、もしかしたら…♪」

「どしたのおねーちゃん?」

「なんでも無いよー♪よーっし、あっくんに追いつくぞー♪」

 RGが集団前の旭を目指して加速して行く…



 その後、圭太も集団の前に出たり順序を入れ替えながら走り抜ける。

 途中で旭と洋介がウィリー走行をし始めて反対車線の車を驚かせたり、それを真似しようとした由美と凛が圭太と紗耶香に怒られたり、風に靡いてちらつく美春の胸元を見て玲花が鼻血を吹き出したり…

 そんな楽しい道程で、旭と真子を初めとする数人が左ウィンカーを出した。

 見れば向こうにガソリンスタンドの看板がある。吸い込まれるように入って行ったのは、旭と赤城姉妹、美春と洋介だ。

 圭太と由美、そして玲花と翔子はひと足先に海岸線を走って行った。

「圭太ーっ、みんなスタンドに入っちゃったわよ?」

 由美が圭太に並ぶ。翔子と玲花も同じく近づいてきた。

「真子さんはこの先の港で待ち合わせって言ってたけど…なんだか気が引けると言うか…」

「私も、やはりみんなで走ったほうがいいかなぁ、と…」

「姐様を待ちたい」

 1人だけ欲望に駆られたのがいるが、3人の意見を聞いて、圭太は少し考えていると、少し先にコンビニの看板…

 圭太はウィンカーを出して、広い駐車場に入った。


「いやぁ、やっぱりあたいのバブⅡってば最高!」

 駐車場について開口一発、玲花がヤンキー座りで愛車を、見つめながら笑顔で言った。

「マッハとかサンパチみたいな2ストもイイけど、やっぱりバブⅡが一番!重低音じゃ誰にも負けてないし…くうぅーっ!」

「それにしてもこの中では一番派手ですよね…」

 同じホンダのCB乗りで、全く違う路線の翔子が隣に止まるホークⅡを見る。

 唯一の3段シート装着車両に加えて、マフラーはハス切りのマービング管…新幹線風防にアップハンもさることながら、一番ど派手なのはなんと言っても富士日章の角タンクと、同色塗装を施したコルク半であろう。


 もともとこのCB400T ホークⅡ…今でこそ族車の王様のようなイメージであるが、CB400Fourが生産停止になり、その後継に天下のホンダが「400は二気筒で十分」と、バランサー内臓の超ショートストローク3バルブのエンジンは40馬力を9500回転で絞り出す、文字通りマルチのヨンフォアを2気筒で凌駕した傑作機であった。

 さらに軽量で扱い易い特性が受けて若者から年配者、さらには女性白バイ隊員もが使用したバイクである。

 そんなおとなしい味付け、外見を備えたこのバイクがなぜ暴走族に愛用されるのか…

 ノーマルではおとなしい排気音だったが、直管にした時の音や値段の安さ、乗りやすさから族車にも多数が使用され、世間ではカワサキから、語るまでも無い名車であるZ400FXが世に出てから…マルチの開発が活発になり、ホンダも対抗馬にCBX400Fを発売…2気筒は潰えたかに思われたが、暴走族の間では現代まで活躍する程の根強い人気を博すのであった…


「全く速く無いけど…音だけは霧島センパイや姐様みたいに音速を超えてんだ!」

「音と言えば…圭太はあのマフラー、いつ付けるのよ?」

 由美が思い出したように言ったのは、誕生日に洋介から貰ったあのモナカの着いた集合管の事である。

 由美はFXの2本出しのメッキ純正マフラーを見ながら言った。

「せっかく貰ったんだから付けたら良いのに…」

「で、でも無理に付けなくても…」

 ほぼ全てのパーツが純正品の翔子が言う。

「うん…せっかくだからいつかは付けるよ。時期はまだ決めてないけれどね」

 純正には無い明るいブルーの外装が日差しを反射する。

 ちなみに由美のゼファーはFX外装に、FX純正のファイアクラッカーレッドで、まるで由美の性格を反映したような名前と色合いである。

 そうこう話しているうちに、遠くから聞き覚えのある甲高い2サイクル音が響いてきた。

「あ、来たわよ!」

 急いでエンジンを掛けて駐車場出口にそれぞれが愛車を向けた丁度その時、美春のRGを先頭にみんなが海岸線を突っ込んできた。

 美春と千尋が手を振りながら、RG250Eは由美達の前を通り越し、後続の真紅のヨンフォア、青いマッハⅠ、白と赤のマッハⅡが並んで、そしてGT380とマニアならヨダレ物の団体を、由美達が続いて追いかけ始めた。

「行くわよゼファーちゃん!」

「のんびりのんびり、自分のペースで走りましょうね!」

「姐様ぁぁぁぁあ!!」

 それぞれの愛車に語りかけるように走り出す者2名、欲望に駆られている変態が1名。そして…



「あれ…?え…?」




 エンジンの掛からないのが1名…圭太とZ400FXである…

 焦りながらも、以前由美がやったガス欠を疑うがガソリンはまだまだある…プラグのコードも全て刺さっている…

 そもそも、電装の類が一切動かない。

 あたふたとしているうちに遠ざかる排気音…由美は走るのに夢中だし、翔子はカメラを回していて気付かないし、玲花は美春目掛けて猛追体制…


 ようするに、誰も圭太に気づかずに走り出してしまっていた…


「え…嘘だよね…?」

 暑さとは別の次元の汗が垂れる…

 どこが悪いのか、何がダメなのか…しゃがみ込みながら考えたが旭や洋介のようにはいかない。

「どうしよう…」

 由美や真子が見たら思わず抱きしめてしまうほどにすでに泣き顔状態の圭太…愛車を壊してしまったと深く落ち込み、やがて涙が堪えきれずに地面に零れた。

 その時…


 クァァアアアアアアン…‼


「…2ストの音!…⁈」

 涙を拭い、立ち上がり振り返る。2ストの過激なチャンバーサウンド…旭か真子かと思い海岸線を見る。が、どうやら排気音は自分達が来た方向から聞こえて来ていた。

 旭や真子では無い…

 音は次第に大きくなり、やがて姿を現した。

 コンビニの駐車場に入り、自分の真横に付けたのは、真白いカラーリングに赤いペイントエンブレムの小振りな2ストマシンと、白いツナギを着た…これまた小柄な少女だった…

旧車物語’s愛車紹介!


榛名玲花

CB400T ホークⅡ

年式 不明 (角タンク仕様)

エンジン ノーマル

吸排気 マービング管ハス切り仕様!他ノーマル…

足回り 当時モノマルゾッキリアサス (自慢)

外装 ど派手富士日章ペイント フレーム赤塗装 ケツ上げ サンパチテール&ウィンカー 40センチ3段シート (白) 新幹線風防 30センチアップハン…etc

自慢点 爆音ど派手な所 壊れない所



霧島千尋

RG250E

年式 1979年式

エンジン ノーマル (載せ換え済)

吸排気 クロスチャンバー (実は伊勢俊一作)

足回り ノーマル

外装 キャンディレッドタンクに純正ラインに金色をあしらったオリジナルカラー (義理兄の旭を意識)他車純正ハンドル (低め)黒タックロール

自慢点

全て!宝物! (千尋)

愛情満載な所(美春)

パタパタ寝るところ(旭)


次回より、登場人物達の愛車を復習がてらに紹介していこうと思います!

今回は今迄詳しく書いてなかった玲花のホークⅡと、リニューアルした千尋のRG250Eを紹介しました!



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